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【高校編】分岐・相良仁
校則見逃し
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まぁこうなった原因ははっきりしてる。私が風紀委員として参加してる風紀チェック。
そこで水泳部の女の子の髪の色、それを注意しなかったからだ。
(と、いうか。見逃しちゃったんだよねー)
この学校は、男子と女子の校則の差が激しい。というのも、もともと別の学校だった男子校と女子校が、お互いの風紀に関する校則をそのままに合併したからだ。
割と緩めな男子校と、それいつの感覚? みたいな、良妻賢母を是とする女子校と。
「で、設楽さん、何か申し開きは?」
職員室。ほとんど全員の先生がこちらを見つめるような状況で、私はじっと立っていた。横にはその水泳部の女の子が、所在なさげに俯いている。一年生だ。ほんの少し赤くなったその髪は、染めてるんじゃなくて部活で……塩素で痛んだ赤茶けた髪。
夏休み直前の日差しは、梅雨時とはいえ結構強いもので、そのせいもあるだろうと思う。
生徒指導の先生は、私たちの前に立って腕を組んで見下ろしてきていた。
少し離れたところで、仁は私をじっと見ている。心配そうなような、ちょっと面白がっていそうなような。
私は微笑んで見せる。
「なに笑ってるんですか、設楽先輩っ!」
私が水泳部の女の子を見逃した、と教師たちに密告ったのは、誰であろう桜澤青花さんだった。うーん。
(確かに、特別扱いはダメかもだけど)
わざとじゃない、まじめに一生懸命に参加した部活でこうなって、これ以上髪を痛めつけろ髪を黒くしてこいと、私には言えなかったのだ。
(それを、勝手にこの子は……)
呆れてものも言えない。
青花は、この水泳部のコが私の「取り巻き」だと勝手に決めつけ、取り巻きだから髪色を許したんだろう、なんて難癖をつけてきているのだ。
「いえ? ……くだらないなと思って」
正直に答える。生徒指導の先生の眉が上がった。
「ご自分がなにを言っているのか分かっているの、設楽さん? あなたは校則違反の片棒を担いだのよ」
「部活を頑張って、その結果のことを非難するのは間違いでは?」
「たとえその髪色がわざとでなくとも、外の人からすれば染髪となんら変わりがないのです」
「人から見て」
私は復唱した。
「生徒の尊厳よりなにより、外聞が気になりますか、先生」
「そんな話ではありません、あなた方にはこの学校の」
「はいはいはい」
見かねた仁が席を立って、回収に来てくれた。
「担任の僕から、厳しく言っておきますんで先生~」
「あのね、相良先生。あなたがそんなにふわふわしているから」
「はい~もうごもっともでございまして~」
仁は全然応えてないし、「はいはいはいはい」ってすっかり聞き流しながら私と水泳部ちゃんを職員室から連れ出した。
「さて君は今から部活?」
「は、はい」
「とりあえず今日はもう行っていいよ」
僕はこいつと話あるから、と私を示す。水泳部ちゃんはみるみる泣きそうになった。
「せ、先生。違うんです、設楽先輩にわたしが頼んだんです。見逃してくれって」
「分かってるよ」
仁は水泳部ちゃんの頭をぽんぽん、と撫でた。水泳部ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げて、廊下の向こうに歩いていく。
「コーヒーでも飲むか?」
「甘いものの気分」
言いながら、私は仁の腰をつねった。
「いって、なに!? なに!?」
「じょしこーせーのアタマ、ぽんぽん」
「ちょ、違、いてっ」
半分冗談だけどね、ヤキモチはほんとですよー。
社会科準備室に移動して、仁は「ケーキないから」と甘めにしたカフェオレを出してくれた。
「ていうかさー! ほんと私間違ってないからっ」
「マジモンの高校生みたいなこと言うねー」
「ヒトを偽女子高生みたいに……」
じとりと睨むと、仁はくっくっと忍び笑いしようとして失敗してた。
「もー! あ、でも、まぁ。助けてくれてありがと」
「んー。なんかお前譲りそうになかったから?」
さらり、と髪を梳かされた。
「だってあの子の髪、部活頑張った結果なのに」
「まぁ言わんとすることは分かるよ」
「なにその先生目線!」
私が軽く睨むと、仁は笑って「おいでおいでー」と膝を叩く。
「……なに?」
「ぎゅーしたい」
「なにそれ!」
唐突だし、訳わかんない! とか思うけど、なんていうか……こういう時の仁の顔にとても弱い。机を回って、仁の膝に少し遠慮がちに座ると、「わーい」って本当に嬉しそうに後ろから抱きしめてくるから、なんていうか、もう!
「苦しい~」
「いやー、癒される」
「そうなの?」
「そーだよ。なぁ、」
仁は私の手を取っていじる。
「もう少し暑くなったらさ、向日葵見にいかねー?」
「ひまわり?」
私は少し振り向いて、仁を見る。ひまわりかぁ。前世でも見に行ったなぁ。
「行きたい! 楽しみだよ」
笑って答える。
「……ん」
仁は少し、なぜか切なそうな顔で私の頬を撫でた。
「仁?」
返事はなくて、結構深めにキスをされて私は少し態勢を変える。首痛いし、っていうか苦しい。
軽く肩を叩くとやっと離れてくれて、でもその目がすごく苦しそうで、私は不思議に思う。
「華」
狂おしいくらいに感情がこもった、私を呼ぶ声。
「どうしたの」
「華」
答えはなくて、名前を呼ばれて、再び口付けられる。また苦しいけど、今度は抵抗しなかった。
仁がそうしたいなら、そうしたらいいって思ったのだ。
そこで水泳部の女の子の髪の色、それを注意しなかったからだ。
(と、いうか。見逃しちゃったんだよねー)
この学校は、男子と女子の校則の差が激しい。というのも、もともと別の学校だった男子校と女子校が、お互いの風紀に関する校則をそのままに合併したからだ。
割と緩めな男子校と、それいつの感覚? みたいな、良妻賢母を是とする女子校と。
「で、設楽さん、何か申し開きは?」
職員室。ほとんど全員の先生がこちらを見つめるような状況で、私はじっと立っていた。横にはその水泳部の女の子が、所在なさげに俯いている。一年生だ。ほんの少し赤くなったその髪は、染めてるんじゃなくて部活で……塩素で痛んだ赤茶けた髪。
夏休み直前の日差しは、梅雨時とはいえ結構強いもので、そのせいもあるだろうと思う。
生徒指導の先生は、私たちの前に立って腕を組んで見下ろしてきていた。
少し離れたところで、仁は私をじっと見ている。心配そうなような、ちょっと面白がっていそうなような。
私は微笑んで見せる。
「なに笑ってるんですか、設楽先輩っ!」
私が水泳部の女の子を見逃した、と教師たちに密告ったのは、誰であろう桜澤青花さんだった。うーん。
(確かに、特別扱いはダメかもだけど)
わざとじゃない、まじめに一生懸命に参加した部活でこうなって、これ以上髪を痛めつけろ髪を黒くしてこいと、私には言えなかったのだ。
(それを、勝手にこの子は……)
呆れてものも言えない。
青花は、この水泳部のコが私の「取り巻き」だと勝手に決めつけ、取り巻きだから髪色を許したんだろう、なんて難癖をつけてきているのだ。
「いえ? ……くだらないなと思って」
正直に答える。生徒指導の先生の眉が上がった。
「ご自分がなにを言っているのか分かっているの、設楽さん? あなたは校則違反の片棒を担いだのよ」
「部活を頑張って、その結果のことを非難するのは間違いでは?」
「たとえその髪色がわざとでなくとも、外の人からすれば染髪となんら変わりがないのです」
「人から見て」
私は復唱した。
「生徒の尊厳よりなにより、外聞が気になりますか、先生」
「そんな話ではありません、あなた方にはこの学校の」
「はいはいはい」
見かねた仁が席を立って、回収に来てくれた。
「担任の僕から、厳しく言っておきますんで先生~」
「あのね、相良先生。あなたがそんなにふわふわしているから」
「はい~もうごもっともでございまして~」
仁は全然応えてないし、「はいはいはいはい」ってすっかり聞き流しながら私と水泳部ちゃんを職員室から連れ出した。
「さて君は今から部活?」
「は、はい」
「とりあえず今日はもう行っていいよ」
僕はこいつと話あるから、と私を示す。水泳部ちゃんはみるみる泣きそうになった。
「せ、先生。違うんです、設楽先輩にわたしが頼んだんです。見逃してくれって」
「分かってるよ」
仁は水泳部ちゃんの頭をぽんぽん、と撫でた。水泳部ちゃんは申し訳なさそうに頭を下げて、廊下の向こうに歩いていく。
「コーヒーでも飲むか?」
「甘いものの気分」
言いながら、私は仁の腰をつねった。
「いって、なに!? なに!?」
「じょしこーせーのアタマ、ぽんぽん」
「ちょ、違、いてっ」
半分冗談だけどね、ヤキモチはほんとですよー。
社会科準備室に移動して、仁は「ケーキないから」と甘めにしたカフェオレを出してくれた。
「ていうかさー! ほんと私間違ってないからっ」
「マジモンの高校生みたいなこと言うねー」
「ヒトを偽女子高生みたいに……」
じとりと睨むと、仁はくっくっと忍び笑いしようとして失敗してた。
「もー! あ、でも、まぁ。助けてくれてありがと」
「んー。なんかお前譲りそうになかったから?」
さらり、と髪を梳かされた。
「だってあの子の髪、部活頑張った結果なのに」
「まぁ言わんとすることは分かるよ」
「なにその先生目線!」
私が軽く睨むと、仁は笑って「おいでおいでー」と膝を叩く。
「……なに?」
「ぎゅーしたい」
「なにそれ!」
唐突だし、訳わかんない! とか思うけど、なんていうか……こういう時の仁の顔にとても弱い。机を回って、仁の膝に少し遠慮がちに座ると、「わーい」って本当に嬉しそうに後ろから抱きしめてくるから、なんていうか、もう!
「苦しい~」
「いやー、癒される」
「そうなの?」
「そーだよ。なぁ、」
仁は私の手を取っていじる。
「もう少し暑くなったらさ、向日葵見にいかねー?」
「ひまわり?」
私は少し振り向いて、仁を見る。ひまわりかぁ。前世でも見に行ったなぁ。
「行きたい! 楽しみだよ」
笑って答える。
「……ん」
仁は少し、なぜか切なそうな顔で私の頬を撫でた。
「仁?」
返事はなくて、結構深めにキスをされて私は少し態勢を変える。首痛いし、っていうか苦しい。
軽く肩を叩くとやっと離れてくれて、でもその目がすごく苦しそうで、私は不思議に思う。
「華」
狂おしいくらいに感情がこもった、私を呼ぶ声。
「どうしたの」
「華」
答えはなくて、名前を呼ばれて、再び口付けられる。また苦しいけど、今度は抵抗しなかった。
仁がそうしたいなら、そうしたらいいって思ったのだ。
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