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【高校編】分岐・相良仁
混乱
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「なにがあったの?」
キス攻撃が落ち着いて、私は仁の頬に触れた。仁は少し甘えるように目を伏せる。
「あったっていうか……昔」
「うん」
「前世でさ、行ったじゃん。ひまわり畑」
「行った行った。暑かった」
何年か前もこの話、したような。
「その時になー、俺、お前のこと好きだって気づいて」
「え」
私はぽかんと仁を見上げた。
「言ってよ」
「言えるか! 完全に友だち扱いだったじゃねーか」
「そりゃ、そうだけど」
「でも今思えば言えばよかったなって……好きだって」
「んー」
「好き」
「ん?」
「大好き」
「ちょ、もう! こら!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめて、私の首筋に顔を埋めてくるから少しくすぐったい。私はくすくすと笑ってしまう。
「華」
耳元で、少し低い声で言われて、私は笑うのを止めた。
「愛してる」
「仁」
それから、軽く身体を離して、私の目を見る仁。私は赤くなって、ぽすりと仁の胸に身体を預けた。
(顔が見れません!)
仁は私の頭をゆるゆると撫でる。
「だから、今度は言うんだー」
「なにを?」
「ひまわり畑で、ちゃんと告白する」
「?」
私は仁の胸から顔を上げて、少し首を傾げた。
「いまさら?」
「そう。ちゃんと」
やりなおす、そう言って仁は私のおでこにキスをした。
「そんなことしなくたって、私、私だってちゃんと、」
頬に熱が集まる。恥ずかしいなぁもう。えーい。
「好きだよ? 愛してるよ?」
「……知ってるよ」
仁はそう言って、今度は優しくキスをしてくれた。ほんとに触れるだけみたいな、優しいキスを。
その後数日は何事もなくすぎて、夏休みに突入した。夏休みだろうが、塾はだいたい毎日あるし、蝉はうるさいし、でも友達と飲むタピオカミルクティーはとても美味しい。コンビニのだけど。
「はー、おいしー!」
「タピタピって感じ!」
「なにそれー」
コンビニ前のベンチ、並んで座っているユアちゃんを見ると、ユアちゃんはにこにこと笑ってくれる。けど、前よりもっとやつれてきてて、私は不安になる。
(ストレス? 夏バテ?)
それだけじゃ、ないような……。
ユアちゃんは寒がりなのか、すっかり暑いのに薄手のカーディガンを羽織っている。
「ねえユアちゃん」
「なに?」
「その……体調、悪い?」
「そんなことないよ?」
きょとん、とユアちゃんは首を振る。けれど、……涙?
「ユアちゃん、泣いてる?」
「え?」
ユアちゃんは不思議そうに自分の目に手をやる。
「? どうしたんだろ」
「ユアちゃん、」
私はユアちゃんに向き直る。
「知らず知らずのうちに、ストレスとか溜まってるんじゃないの?」
「そ、うなのかな?」
首をかしげる。
「でも、いま、ストレスに効くサプリ、もらってるし……」
その言葉にちょっと安心する。
(親御さんが病院とか連れてってくれてるのかな?)
さすがに心配になるよね。
「夏休み入ったらさ、何かして遊ぼ?」
少しでもストレス発散になれば! と微笑んで声をかけると、ユアちゃんはぼうっとした瞳で頷いた。
梅雨も明けてないのに、日差しが暑いその日、夏休みに入ってすぐの日曜日。
私はユアちゃんと約束をした、横浜のショッピングモールの前にいた。
とりあえずぶらぶらして、そのあとどこに行こうか決めようと言う話になったのた。
(……? 遅いなぁ)
私はなんとなく、耳につけたピアスをいじりながら周りを見回す。
人波の向こうにユアちゃんが見えて、ほっとする。
「ユアちゃ、」
私は手を挙げて、そして固まった。
「……、ユアちゃん?」
ふらふら、と歩くユアちゃんは明らかに「おかしく」て。
目線が定まってないし、ぼろぼろと涙を流しながら、なにかを言ってる。
思わず駆け寄ろうとした私の腕を、いつの間にか後ろにいた仁が掴んだ。
「ちょ、仁!? なに、離して!」
「華、落ち着け。あいつ、明らかにおかしい」
「見たらわかるわよ! だから離して!」
仁はじっとユアちゃんを見てる。厳しい目に、私は思わず身をすくめた。
(……仁?)
変だ。だって、単なる体調不良の女の子に向ける視線じゃない。
「俺が行く。お前は離れてろ」
「……う、うん」
仁がすっとユアちゃんに近づいて、声をかける。ユアちゃんは焦点が定まらない目で仁を見上げた。どろり、とした視線。
(ユアちゃん……?)
不安でいっぱいになって、駆け寄りそうになる。
(でも、仁が)
近づくな、って。……言いつけを聞かずに迷惑をかけたこともあるし、ぎゅっと手を握ってじっと2人を見つめた。
ふと、ユアちゃんがなにかを叫ぶ。そして、……手元にキラリと光るナイフ。
それを叫びながら振り回し出す。ざわり、と人波が割れて誰かが叫んだ。私も悲鳴のように名前を呼ぶ。フラッシュバックする、あの日の記憶。仁が刺されてーー。
「仁っ」
私の狼狽をよそに、仁は簡単にユアちゃんを取り押さえるけど、ハッとした表情で振り向いた仁が叫んだ。
「華! こっちに走れ!」
「へ!?」
来るなと言ったり来いと言ったり!?
とにかく足を進めた、けれど、私の腕は誰かに掴まれる。
(だ、れ!?)
振り向くと、知らない女の子。ユアちゃんみたいな「どろり」とした目をして、そしてーーおんなじように、手にはナイフを持っていた。
私は目を見開く。
(な、なにが起きてるのーー!?)
キス攻撃が落ち着いて、私は仁の頬に触れた。仁は少し甘えるように目を伏せる。
「あったっていうか……昔」
「うん」
「前世でさ、行ったじゃん。ひまわり畑」
「行った行った。暑かった」
何年か前もこの話、したような。
「その時になー、俺、お前のこと好きだって気づいて」
「え」
私はぽかんと仁を見上げた。
「言ってよ」
「言えるか! 完全に友だち扱いだったじゃねーか」
「そりゃ、そうだけど」
「でも今思えば言えばよかったなって……好きだって」
「んー」
「好き」
「ん?」
「大好き」
「ちょ、もう! こら!」
ぎゅうぎゅうと抱きしめて、私の首筋に顔を埋めてくるから少しくすぐったい。私はくすくすと笑ってしまう。
「華」
耳元で、少し低い声で言われて、私は笑うのを止めた。
「愛してる」
「仁」
それから、軽く身体を離して、私の目を見る仁。私は赤くなって、ぽすりと仁の胸に身体を預けた。
(顔が見れません!)
仁は私の頭をゆるゆると撫でる。
「だから、今度は言うんだー」
「なにを?」
「ひまわり畑で、ちゃんと告白する」
「?」
私は仁の胸から顔を上げて、少し首を傾げた。
「いまさら?」
「そう。ちゃんと」
やりなおす、そう言って仁は私のおでこにキスをした。
「そんなことしなくたって、私、私だってちゃんと、」
頬に熱が集まる。恥ずかしいなぁもう。えーい。
「好きだよ? 愛してるよ?」
「……知ってるよ」
仁はそう言って、今度は優しくキスをしてくれた。ほんとに触れるだけみたいな、優しいキスを。
その後数日は何事もなくすぎて、夏休みに突入した。夏休みだろうが、塾はだいたい毎日あるし、蝉はうるさいし、でも友達と飲むタピオカミルクティーはとても美味しい。コンビニのだけど。
「はー、おいしー!」
「タピタピって感じ!」
「なにそれー」
コンビニ前のベンチ、並んで座っているユアちゃんを見ると、ユアちゃんはにこにこと笑ってくれる。けど、前よりもっとやつれてきてて、私は不安になる。
(ストレス? 夏バテ?)
それだけじゃ、ないような……。
ユアちゃんは寒がりなのか、すっかり暑いのに薄手のカーディガンを羽織っている。
「ねえユアちゃん」
「なに?」
「その……体調、悪い?」
「そんなことないよ?」
きょとん、とユアちゃんは首を振る。けれど、……涙?
「ユアちゃん、泣いてる?」
「え?」
ユアちゃんは不思議そうに自分の目に手をやる。
「? どうしたんだろ」
「ユアちゃん、」
私はユアちゃんに向き直る。
「知らず知らずのうちに、ストレスとか溜まってるんじゃないの?」
「そ、うなのかな?」
首をかしげる。
「でも、いま、ストレスに効くサプリ、もらってるし……」
その言葉にちょっと安心する。
(親御さんが病院とか連れてってくれてるのかな?)
さすがに心配になるよね。
「夏休み入ったらさ、何かして遊ぼ?」
少しでもストレス発散になれば! と微笑んで声をかけると、ユアちゃんはぼうっとした瞳で頷いた。
梅雨も明けてないのに、日差しが暑いその日、夏休みに入ってすぐの日曜日。
私はユアちゃんと約束をした、横浜のショッピングモールの前にいた。
とりあえずぶらぶらして、そのあとどこに行こうか決めようと言う話になったのた。
(……? 遅いなぁ)
私はなんとなく、耳につけたピアスをいじりながら周りを見回す。
人波の向こうにユアちゃんが見えて、ほっとする。
「ユアちゃ、」
私は手を挙げて、そして固まった。
「……、ユアちゃん?」
ふらふら、と歩くユアちゃんは明らかに「おかしく」て。
目線が定まってないし、ぼろぼろと涙を流しながら、なにかを言ってる。
思わず駆け寄ろうとした私の腕を、いつの間にか後ろにいた仁が掴んだ。
「ちょ、仁!? なに、離して!」
「華、落ち着け。あいつ、明らかにおかしい」
「見たらわかるわよ! だから離して!」
仁はじっとユアちゃんを見てる。厳しい目に、私は思わず身をすくめた。
(……仁?)
変だ。だって、単なる体調不良の女の子に向ける視線じゃない。
「俺が行く。お前は離れてろ」
「……う、うん」
仁がすっとユアちゃんに近づいて、声をかける。ユアちゃんは焦点が定まらない目で仁を見上げた。どろり、とした視線。
(ユアちゃん……?)
不安でいっぱいになって、駆け寄りそうになる。
(でも、仁が)
近づくな、って。……言いつけを聞かずに迷惑をかけたこともあるし、ぎゅっと手を握ってじっと2人を見つめた。
ふと、ユアちゃんがなにかを叫ぶ。そして、……手元にキラリと光るナイフ。
それを叫びながら振り回し出す。ざわり、と人波が割れて誰かが叫んだ。私も悲鳴のように名前を呼ぶ。フラッシュバックする、あの日の記憶。仁が刺されてーー。
「仁っ」
私の狼狽をよそに、仁は簡単にユアちゃんを取り押さえるけど、ハッとした表情で振り向いた仁が叫んだ。
「華! こっちに走れ!」
「へ!?」
来るなと言ったり来いと言ったり!?
とにかく足を進めた、けれど、私の腕は誰かに掴まれる。
(だ、れ!?)
振り向くと、知らない女の子。ユアちゃんみたいな「どろり」とした目をして、そしてーーおんなじように、手にはナイフを持っていた。
私は目を見開く。
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