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【高校編】分岐・相良仁
向日葵(side仁)
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「あのさ」
華が振り返って言った。
「仁が刺されたとき、ヒマワリ、一緒に見れないかなーって思った」
何百万本という向日葵。どこまでもこの太陽のような花が続いていきそうな、そんな錯覚に陥る。
周りに人の気配はない。ここ連日が暑すぎるから、昼日中の向日葵畑なんかに来たくないのかもしれない。
俺の数歩前には華が歩いていて、蝉の声が鼓膜にうるさくて、太陽は眩しくて金色で、入道雲がやたらとでかい。
「縁起でもねーこというなよ」
笑って答えると、ぽろりと華の目から涙がこぼれた。
「死んじゃうかと思った」
「華」
「おいて、いかれるかと」
ひぐっ、なんて音を出してしやくり上げる華。
「ごめんね、仁、ごめんね」
「お前のせいじゃ、」
「違うの、前世」
華の瞳から溢れる涙を手で拭うけれど全然無理だ。あったかい涙が、次から次から溢れてきて、止まらない。
「先に死んじゃって、ごめんねぇ……」
なにも言えず、抱きしめた。
(ごめんな、)
こんな顔させたくないのに、っていつも思う。笑ってて欲しいのに。気がついたら泣かせてるし、……ほんとなんでなんだろうなぁ。
「華」
少し身体を離して、その頬を両手で包み込む。まだ涙は止まらない。その熱い涙にキスをして、もう一度抱きしめた。
しばらく泣かせて、それから落ち着いた華は「暑い」と真っ赤にした目で笑って俺の身体を押す。俺はゆっくりと離れた。
「ていうか、大丈夫なの。身体」
「だから軽傷だって~」
「何針も縫ったじゃん」
華は眉をひそめる。
「大丈夫、お前抱くまでは死んでも死にきれねーから」
俺の冗談めかした台詞に、華はむくれて「じゃあもう一生、そーゆーことしない」なんて言うから俺は華の手を取って笑う。
「ひでー。ヤらせろよー」
「もー、なんかチャラいなぁ」
くすくす華が笑うから、俺は安心するし幸せになる。華の笑顔はめちゃくちゃ凄い。俺を最高に幸せにするから。メイクスミーハッピーだよほんと。
「チャラくねーよ、めっちゃ一途じゃん俺」
「……だねぇ」
華は俺を見上げて、少し眩しそうに目を細めた。
暑くて、華の頬は少し上気してて赤くて、少し汗かいてて、その表情は「あの日」にとても似てて俺の心臓はぎゅっと痛む。あの日、俺が華の前世、"彼女"への恋心に気がついた「あの日」、彼女は今の華と同じようなカオで俺を見ていたーー。
(あれ?)
唐突に気がつく。あれ?
「あ、のさ」
「なに?」
「もしかして、もしかしてだけどさ」
「うん」
「お前、前世で、もしかして俺のこと好きになりかけてた?」
"前世"で俺が"彼女"の元カレの荷物捨てたとき、「ちょっといいな」って思ってくれてたらしいのは知ってるけど。
……まぁそのあと、俺の不用意な一言でそれがおじゃんになったのも、知ってるけれどーーそのあと。その後も、もしかして、俺にチャンスはあったんだろうか?
「ん? ああ」
華は笑う。
「今、思うとね……そうだったかも」
「……マジかよ」
「私も今気がついたよ」
びっくりだよね、なんていう華の両手を握りしめたまま、俺はしゃがみこむ。
「じ、仁? 大丈夫? どしたの?」
熱中症? そう聞いてくる華の手を、俺はぎゅうぎゅうと握りしめて離せそうにない。
(まるであの日のやり直しだ)
そう思う。きっと、あの日、俺にほんの少しの勇気が足りなかったせいで失って喪った彼女を、取り戻すための「やり直し」ーーなんて言ったら、大げさか。
(それでも、)
俺にとっては、なんだか酷く重要なことな気がするんだ。
俺は華を見上げる。心配そうな目線と目が合う。今度はーー「友達」に対する視線じゃない。ちゃんと俺を「男」として見てくれてる華の目。
「……好きです」
「え、」
「好きです。大好きです。付き合ってください」
ぽかん、と華は俺を見つめる。それから少し、笑った。
「ほんとに告白しなおされるとは」
「いーだろ。で、返事は」
「決まってるじゃん」
照れ臭そうに「分かってるでしょ?」なんて言う華に、俺はねだる。
「言って」
「……ん」
華も膝を折って屈む。俺と目線が合う。熱い視線。
「あの、……不束者ですが?」
「うん」
「え、まだ?」
「足りない」
俺は言う。足りない足りない足りない。そんなんじゃ足りない。
「ええと、……私も好きです」
「うん」
「……その、大好き」
「で?」
「えー、まだー?」
知ってるでしょ分かってるでしょ? って顔で華は言う。俺は黙って華を見る。華は観念したかのように、ほんの少し空を見上げた。
どこまでも青い空を。
「愛して、ます」
「うん」
「ずっと一緒にいてほしい」
切ない声で言われて、俺は華をかきいだく。
甘い匂いと、ほんの少しの汗のかおり。
「いるよ」
「……ん」
華の手も俺の背中にまわる。
すっげえ熱いし、汗べとべとだし、ほんとに何やってんのとは思うけれど、でも俺はほんとに幸せすぎて、……多分泣いてる。
「泣かないで」
そう言う華もやっぱり泣いてて、俺たちは思わず笑いあう。泣きながら。
空を見上げる。向日葵の濃い黄色の先に広がる青い空。どこまでも青い空。
華に目線を戻す。
(ああ、)
泣き笑いで、微笑んでくれたから……やっぱり俺は、コイツは向日葵みたいなヤツだなと思う。
感情は色々ごちゃごちゃしてまとまりがない。うまく言語化できない。
ただ、愛してるって感情だけが、血液みたいに身体じゅうをぐるぐる回って止まる術を知らない。
華が振り返って言った。
「仁が刺されたとき、ヒマワリ、一緒に見れないかなーって思った」
何百万本という向日葵。どこまでもこの太陽のような花が続いていきそうな、そんな錯覚に陥る。
周りに人の気配はない。ここ連日が暑すぎるから、昼日中の向日葵畑なんかに来たくないのかもしれない。
俺の数歩前には華が歩いていて、蝉の声が鼓膜にうるさくて、太陽は眩しくて金色で、入道雲がやたらとでかい。
「縁起でもねーこというなよ」
笑って答えると、ぽろりと華の目から涙がこぼれた。
「死んじゃうかと思った」
「華」
「おいて、いかれるかと」
ひぐっ、なんて音を出してしやくり上げる華。
「ごめんね、仁、ごめんね」
「お前のせいじゃ、」
「違うの、前世」
華の瞳から溢れる涙を手で拭うけれど全然無理だ。あったかい涙が、次から次から溢れてきて、止まらない。
「先に死んじゃって、ごめんねぇ……」
なにも言えず、抱きしめた。
(ごめんな、)
こんな顔させたくないのに、っていつも思う。笑ってて欲しいのに。気がついたら泣かせてるし、……ほんとなんでなんだろうなぁ。
「華」
少し身体を離して、その頬を両手で包み込む。まだ涙は止まらない。その熱い涙にキスをして、もう一度抱きしめた。
しばらく泣かせて、それから落ち着いた華は「暑い」と真っ赤にした目で笑って俺の身体を押す。俺はゆっくりと離れた。
「ていうか、大丈夫なの。身体」
「だから軽傷だって~」
「何針も縫ったじゃん」
華は眉をひそめる。
「大丈夫、お前抱くまでは死んでも死にきれねーから」
俺の冗談めかした台詞に、華はむくれて「じゃあもう一生、そーゆーことしない」なんて言うから俺は華の手を取って笑う。
「ひでー。ヤらせろよー」
「もー、なんかチャラいなぁ」
くすくす華が笑うから、俺は安心するし幸せになる。華の笑顔はめちゃくちゃ凄い。俺を最高に幸せにするから。メイクスミーハッピーだよほんと。
「チャラくねーよ、めっちゃ一途じゃん俺」
「……だねぇ」
華は俺を見上げて、少し眩しそうに目を細めた。
暑くて、華の頬は少し上気してて赤くて、少し汗かいてて、その表情は「あの日」にとても似てて俺の心臓はぎゅっと痛む。あの日、俺が華の前世、"彼女"への恋心に気がついた「あの日」、彼女は今の華と同じようなカオで俺を見ていたーー。
(あれ?)
唐突に気がつく。あれ?
「あ、のさ」
「なに?」
「もしかして、もしかしてだけどさ」
「うん」
「お前、前世で、もしかして俺のこと好きになりかけてた?」
"前世"で俺が"彼女"の元カレの荷物捨てたとき、「ちょっといいな」って思ってくれてたらしいのは知ってるけど。
……まぁそのあと、俺の不用意な一言でそれがおじゃんになったのも、知ってるけれどーーそのあと。その後も、もしかして、俺にチャンスはあったんだろうか?
「ん? ああ」
華は笑う。
「今、思うとね……そうだったかも」
「……マジかよ」
「私も今気がついたよ」
びっくりだよね、なんていう華の両手を握りしめたまま、俺はしゃがみこむ。
「じ、仁? 大丈夫? どしたの?」
熱中症? そう聞いてくる華の手を、俺はぎゅうぎゅうと握りしめて離せそうにない。
(まるであの日のやり直しだ)
そう思う。きっと、あの日、俺にほんの少しの勇気が足りなかったせいで失って喪った彼女を、取り戻すための「やり直し」ーーなんて言ったら、大げさか。
(それでも、)
俺にとっては、なんだか酷く重要なことな気がするんだ。
俺は華を見上げる。心配そうな目線と目が合う。今度はーー「友達」に対する視線じゃない。ちゃんと俺を「男」として見てくれてる華の目。
「……好きです」
「え、」
「好きです。大好きです。付き合ってください」
ぽかん、と華は俺を見つめる。それから少し、笑った。
「ほんとに告白しなおされるとは」
「いーだろ。で、返事は」
「決まってるじゃん」
照れ臭そうに「分かってるでしょ?」なんて言う華に、俺はねだる。
「言って」
「……ん」
華も膝を折って屈む。俺と目線が合う。熱い視線。
「あの、……不束者ですが?」
「うん」
「え、まだ?」
「足りない」
俺は言う。足りない足りない足りない。そんなんじゃ足りない。
「ええと、……私も好きです」
「うん」
「……その、大好き」
「で?」
「えー、まだー?」
知ってるでしょ分かってるでしょ? って顔で華は言う。俺は黙って華を見る。華は観念したかのように、ほんの少し空を見上げた。
どこまでも青い空を。
「愛して、ます」
「うん」
「ずっと一緒にいてほしい」
切ない声で言われて、俺は華をかきいだく。
甘い匂いと、ほんの少しの汗のかおり。
「いるよ」
「……ん」
華の手も俺の背中にまわる。
すっげえ熱いし、汗べとべとだし、ほんとに何やってんのとは思うけれど、でも俺はほんとに幸せすぎて、……多分泣いてる。
「泣かないで」
そう言う華もやっぱり泣いてて、俺たちは思わず笑いあう。泣きながら。
空を見上げる。向日葵の濃い黄色の先に広がる青い空。どこまでも青い空。
華に目線を戻す。
(ああ、)
泣き笑いで、微笑んでくれたから……やっぱり俺は、コイツは向日葵みたいなヤツだなと思う。
感情は色々ごちゃごちゃしてまとまりがない。うまく言語化できない。
ただ、愛してるって感情だけが、血液みたいに身体じゅうをぐるぐる回って止まる術を知らない。
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