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【高校編】分岐・相良仁
バナナはおやつに入りますか?(side仁)
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外で手を繋いでこんなふうに歩くのは、初めてかもしれない。
向日葵と向日葵の間を歩く。手を繋いで。ほんとにもう、クソあっついのに、手を繋いで。
(バカだよなー)
バカらしいと思う。華以外となら、絶対に繋いでない。それくらい暑いんだ。でも今は、この手を離したくない。
「あのさぁかき氷食べに行こうよ」
華は楽しそうに言う。
「あっつい日に食べるかき氷ってさ、めっちゃ美味しいじゃん」
「あー、わかる」
「頭キーンてなるけど」
「俺なったことないんだよな」
「うっそ」
華は信じられない、って顔で俺を見る。
「丈夫だね!?」
「俺ってタフなのよ」
「えー、羨ましい」
なんて華は笑うけど、ほんとに俺ってタフな男だからあんまり心配しなくていいんだよって伝えたい。お前が想像してる何倍も俺は丈夫にできてる。
今日のデート、……。
俺は唐突に胸がじんわりする。いや、嬉しくて叫び出しそう。
(デートっていい響きだな!?)
マジでそう思う。好きな子とのデート。年甲斐もなくはしゃぎそうなのをグッと我慢。
……なんてことはさておいて、まぁ、とにかく今日のデートに際して、華は少し大人っぽい格好をしてる。
マキシワンピにサングラス、つばの大きな帽子。
顔立ちが整ってるし元々年上に見られやすい顔つきだからか、こうしてるとギリ20歳は超えてるように見えなくもない。多分俺と歩くから気を使ったんだろうと思う。
ひまわり畑を出ると受付に瓶のラムネが売ってて、二本買う。木陰にある駐車場のベンチに、2人並んで座った。
「お前、開けんの下手くそだな」
「うー、昔からこうなるんだよね」
しゅわしゅわ、と瓶から溢れ出すラムネ。緑の瓶が涼しげで、華は困ったみたいに笑ってて、手は多分ベトベトだ。服も少し濡れていた。
「あーあ、もう」
華のラムネまみれの手を舐める。
「ちょ、仁」
「あっまー、手ぇ洗ったほうがいいぜ」
「わ、分かった、分かったから指そんな風にするのやめて……」
やめて、って言う華の赤い頬とか潤んだ瞳とか軽く寄せられた眉とか、なのに満更でもなさそうな声とか、……いちいち扇情的。
「誘ってる?」
「てないっ! 手、洗ってくるっ」
「付いてく」
華のぶんもラムネの瓶を持って、付いて歩く。手洗い場で手を洗う華を見ながら思う。そっか、これ開けんの苦手なのか。瓶の中のビー玉が、日光を反射して光った。
(知らなかった)
知らないこと、まだたくさんあるんだろう。
(付き合い長いつもりなのに)
知らないことだらけだ。
「ありがと」
華は笑って、俺から瓶を受け取ろうとするけどなんだか俺は動けない。
「仁?」
「いや、あー。なんか、まだお前のことなんも知らねーなと思って」
「そんなの、」
華は明るく笑った。
「当たり前じゃん! 別の人間なんだから」
「別の人間」
「そでしょ?」
「……そーだな」
笑う華に口付ける。なんだかとても愛おしくて。
「あ、ここにしよー、ここに」
車の中でラムネを飲みながら、俺のスマホをすいすい使って、華はかき氷屋を見つけてはしゃぐ。
「美味しそうだよー、フルーツめっちゃ乗ってる~」
「りょーかい」
華はカーナビにお店の電話番号を入力する。すごく楽しそうで何よりだ。
道中、華はすごくすごく楽しみにしていたようで(なんなら今日のメインイベントの向日葵より、だ」自作の「かき氷の歌」(初耳だった)を歌ってまでいたのにーーお店は閉まっていた。
ちょっと山奥にある、カフェ兼レストランみたいなところ。近くの沢がキラキラさらさら流れて、こんな空気のいいとこで食べるメシはうまいんだろーな、と思った。
「り、臨時休業っ」
「ついてねーな」
お店の前でがっくりと肩を落とす華がなんだか面白くてケタケタ笑ってしまう。周りには人っ子一人いない。
「なに笑ってるのよ」
「やー、なんか落ち込んでんの面白くて」
「すっごく楽しみにしてたんだから……!」
頬を膨らます華は控えめに言って可愛い。片手で頬を潰した。フグ華め。
「む」
「アイス食おーぜアイス。コンビニで」
「……そうしよっか」
華は気が抜けたように笑って、俺の手を取る。
(わ、)
俺はなんていうか、赤面したのがバレないようにちょっとそっぽを向いた。なんだこれ、超恥ずかしいし嬉しいし……今更、手を繋いだくらいで。華から手を繋いでくれた、たったそれくらいで。
(やばい、幸せだ)
思わず手に力を入れそうになる。小さな華の手。大切な人の手。
「奢ってね~」
「死ぬほど食っていいよ」
「お腹壊しちゃうよ!」
華はケタケタ笑う、いつも通りっぽいカオだけど俺は見逃さない。
華の頬も赤くて、多分「自分から手を繋いだ」のがちょっと気恥ずかしかったんだろうと思う。
「あのさー」
「なに?」
「今更、手ぇくらいで照れるなよ」
自分を完璧に棚に上げて、俺は華をからかう。
「あんなことやこんなことまでしてるのに」
言いながら華の耳に口を寄せる。
「ぎゃーっ、だめ! 外では!」
「外では? 室内ならいいの?」
そんな軽口にも、華は更に赤くなって「……いいよ?」なんて頷くものだから、俺は額に手を当ててまだ高い太陽が坐します空を見上げる。くそ、眩しいな。
「おいこの俺の理性クラッシャー」
「なにその変な呼び方っ!?」
心外です、なんて顔をして俺を見上げる華の唇を軽く噛む。
「ん、」
「ねえねえそこのお嬢さん」
「……なによその言い方」
「絶対最後まではしないから、ちょっとおにーさんと遊びません?」
「……おじさんじゃなくて?」
「てめえ!」
「あはは!」
手を振りほどいて逃げようとする華を背後から抱きしめる。やだもー、なんてふざけて笑う華を抱き上げた。軽いなぁ。
「ちょ、仁?」
「おじさん耳が遠いから聞こえませーん」
「こら、降ろして!」
ジタバタしてる華に笑いかける。ああもうほんとに可愛いなぁ。
車に戻ってぽすりと華を座らせて、その耳元で囁く。
「……ここ、しばらくヒト来ないと思う?」
そう言って笑いかけると、華は弱々しい声で「車はお外に入ります……」と呟いたのだった。ちぇっ。
向日葵と向日葵の間を歩く。手を繋いで。ほんとにもう、クソあっついのに、手を繋いで。
(バカだよなー)
バカらしいと思う。華以外となら、絶対に繋いでない。それくらい暑いんだ。でも今は、この手を離したくない。
「あのさぁかき氷食べに行こうよ」
華は楽しそうに言う。
「あっつい日に食べるかき氷ってさ、めっちゃ美味しいじゃん」
「あー、わかる」
「頭キーンてなるけど」
「俺なったことないんだよな」
「うっそ」
華は信じられない、って顔で俺を見る。
「丈夫だね!?」
「俺ってタフなのよ」
「えー、羨ましい」
なんて華は笑うけど、ほんとに俺ってタフな男だからあんまり心配しなくていいんだよって伝えたい。お前が想像してる何倍も俺は丈夫にできてる。
今日のデート、……。
俺は唐突に胸がじんわりする。いや、嬉しくて叫び出しそう。
(デートっていい響きだな!?)
マジでそう思う。好きな子とのデート。年甲斐もなくはしゃぎそうなのをグッと我慢。
……なんてことはさておいて、まぁ、とにかく今日のデートに際して、華は少し大人っぽい格好をしてる。
マキシワンピにサングラス、つばの大きな帽子。
顔立ちが整ってるし元々年上に見られやすい顔つきだからか、こうしてるとギリ20歳は超えてるように見えなくもない。多分俺と歩くから気を使ったんだろうと思う。
ひまわり畑を出ると受付に瓶のラムネが売ってて、二本買う。木陰にある駐車場のベンチに、2人並んで座った。
「お前、開けんの下手くそだな」
「うー、昔からこうなるんだよね」
しゅわしゅわ、と瓶から溢れ出すラムネ。緑の瓶が涼しげで、華は困ったみたいに笑ってて、手は多分ベトベトだ。服も少し濡れていた。
「あーあ、もう」
華のラムネまみれの手を舐める。
「ちょ、仁」
「あっまー、手ぇ洗ったほうがいいぜ」
「わ、分かった、分かったから指そんな風にするのやめて……」
やめて、って言う華の赤い頬とか潤んだ瞳とか軽く寄せられた眉とか、なのに満更でもなさそうな声とか、……いちいち扇情的。
「誘ってる?」
「てないっ! 手、洗ってくるっ」
「付いてく」
華のぶんもラムネの瓶を持って、付いて歩く。手洗い場で手を洗う華を見ながら思う。そっか、これ開けんの苦手なのか。瓶の中のビー玉が、日光を反射して光った。
(知らなかった)
知らないこと、まだたくさんあるんだろう。
(付き合い長いつもりなのに)
知らないことだらけだ。
「ありがと」
華は笑って、俺から瓶を受け取ろうとするけどなんだか俺は動けない。
「仁?」
「いや、あー。なんか、まだお前のことなんも知らねーなと思って」
「そんなの、」
華は明るく笑った。
「当たり前じゃん! 別の人間なんだから」
「別の人間」
「そでしょ?」
「……そーだな」
笑う華に口付ける。なんだかとても愛おしくて。
「あ、ここにしよー、ここに」
車の中でラムネを飲みながら、俺のスマホをすいすい使って、華はかき氷屋を見つけてはしゃぐ。
「美味しそうだよー、フルーツめっちゃ乗ってる~」
「りょーかい」
華はカーナビにお店の電話番号を入力する。すごく楽しそうで何よりだ。
道中、華はすごくすごく楽しみにしていたようで(なんなら今日のメインイベントの向日葵より、だ」自作の「かき氷の歌」(初耳だった)を歌ってまでいたのにーーお店は閉まっていた。
ちょっと山奥にある、カフェ兼レストランみたいなところ。近くの沢がキラキラさらさら流れて、こんな空気のいいとこで食べるメシはうまいんだろーな、と思った。
「り、臨時休業っ」
「ついてねーな」
お店の前でがっくりと肩を落とす華がなんだか面白くてケタケタ笑ってしまう。周りには人っ子一人いない。
「なに笑ってるのよ」
「やー、なんか落ち込んでんの面白くて」
「すっごく楽しみにしてたんだから……!」
頬を膨らます華は控えめに言って可愛い。片手で頬を潰した。フグ華め。
「む」
「アイス食おーぜアイス。コンビニで」
「……そうしよっか」
華は気が抜けたように笑って、俺の手を取る。
(わ、)
俺はなんていうか、赤面したのがバレないようにちょっとそっぽを向いた。なんだこれ、超恥ずかしいし嬉しいし……今更、手を繋いだくらいで。華から手を繋いでくれた、たったそれくらいで。
(やばい、幸せだ)
思わず手に力を入れそうになる。小さな華の手。大切な人の手。
「奢ってね~」
「死ぬほど食っていいよ」
「お腹壊しちゃうよ!」
華はケタケタ笑う、いつも通りっぽいカオだけど俺は見逃さない。
華の頬も赤くて、多分「自分から手を繋いだ」のがちょっと気恥ずかしかったんだろうと思う。
「あのさー」
「なに?」
「今更、手ぇくらいで照れるなよ」
自分を完璧に棚に上げて、俺は華をからかう。
「あんなことやこんなことまでしてるのに」
言いながら華の耳に口を寄せる。
「ぎゃーっ、だめ! 外では!」
「外では? 室内ならいいの?」
そんな軽口にも、華は更に赤くなって「……いいよ?」なんて頷くものだから、俺は額に手を当ててまだ高い太陽が坐します空を見上げる。くそ、眩しいな。
「おいこの俺の理性クラッシャー」
「なにその変な呼び方っ!?」
心外です、なんて顔をして俺を見上げる華の唇を軽く噛む。
「ん、」
「ねえねえそこのお嬢さん」
「……なによその言い方」
「絶対最後まではしないから、ちょっとおにーさんと遊びません?」
「……おじさんじゃなくて?」
「てめえ!」
「あはは!」
手を振りほどいて逃げようとする華を背後から抱きしめる。やだもー、なんてふざけて笑う華を抱き上げた。軽いなぁ。
「ちょ、仁?」
「おじさん耳が遠いから聞こえませーん」
「こら、降ろして!」
ジタバタしてる華に笑いかける。ああもうほんとに可愛いなぁ。
車に戻ってぽすりと華を座らせて、その耳元で囁く。
「……ここ、しばらくヒト来ないと思う?」
そう言って笑いかけると、華は弱々しい声で「車はお外に入ります……」と呟いたのだった。ちぇっ。
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