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【高校編】分岐・鹿王院樹
夏の始まり(side樹)
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耳を疑った。
「私とおっぱい、どっちが好きなの?」
思わずぽかん、として華を見つめる。唐突になんなんだ? なんというか、どう答えたらいいんだ!?
だがすぐに思い出す。
(今朝のアレか……)
俺が言い淀んだせいか? 思わず胸部に目をやりそうになって、慌てて目線をそらすけれど、華は見逃さなかった。
「や、やっぱり!?」
「違う、華、違う」
俺は少し慌てて言い募るーー慌てる必要性は全くないのだが! ないのだが、なぜか焦ってしまう。
「違うんだ華、誤解だ」
「お、男の子なんかみんなそうなんだっ」
「だから華、」
「触らせないっ、死ぬまで触らせないっ」
華は怒った口調で言う。
「ぜええったいに触らせない」
「……それは困る」
「な、なんで!? やっぱり」
「違う、華」
俺は苦笑して(やっと落ち着いてきた)華の頬に触れた。
「別に身体のどの部位だとか、関係ない。俺は華の全てに触れてみたいから、」
言いながら、首筋に唇を軽く寄せた。華のかおり。なめらかな肌。びくりと震える華が愛おしい。
「だから、困る」
「でもっ」
「忘れたのか、華」
俺は華を抱き寄せた。腕の中から俺を見上げる華。
「言っただろう。初めて会った時から、華が好きなんだと」
「? うん」
「あの時、まだ華は小学生だぞ。それも、振袖を着ていた。胸部なんか何もないも同然だぞ?」
「……あ」
華は口元に手をやる。それからすぐに真っ赤になった。
「……ごめんね?」
「いや、不安にさせた」
「違うの、勝手になんか、……拗ねただけだから」
華は真っ赤なまま、苦笑いをする。
「馬鹿だなぁ」
「む、バカっていうほうがバカなんだよ」
「知っている」
俺は許婚バカだからな、と心の中で思った。華はもぞりと動いて俺の腕の中から抜け出すと、俺を少し上目遣いに見つめる。
「触っちゃダメ、なんて言ってごめんね?」
「うむ」
まあいずれ、そのうち、近い未来に、などと思っているとら華が口を開く。
「……いいよ、触って」
俺は今度こそ本当に言葉を失った。華は自らの胸部に手を当てて、少し持ち上げるようになんかして、頬は相変わらず赤いままで俺を見つめるからーー俺は自分の両頬を思い切り張った。
ばちん、なんて大きな音に華はびくりと目を見開いた。
「樹くんっ!?」
「すまん、理性がどっかいこうとしたからな」
「いいのにね!?」
クスクス、と華は笑う。俺は苦笑して、華の髪をさらりと梳いた。
(まったく、不安がらせて)
華はどちらかというと、色々と動じないタイプではあるがーー俺のこととなると不安定になったり、変な方向に考えが行ったりする。それは俺のことを好きでいてくれているゆえだとは知っているが、……それにしたって、ここしばらくの華の不安定は桜澤のせいだ。
「そんな訳ではやめの対応をお願いします」
「働きかけはこっちからもしてるんだよ?」
相良さんは社会科準備室(なんだか根城のようにしている)でコーヒーを飲みながら言った。
「あー、飲む?」
「いえ」
「遠慮しなくていいのに」
相良さんに勧められたコーヒーは辞退。見たところ砂糖もミルクもない。子供のころと変わらず、ブラックコーヒーなんか飲めない。
「……それより、桜澤の件ですが」
「そっちの言う通りだったねー。なんのバックもない。御前のジジイの差し金ってわけでは、ない。ただ」
「ただ?」
俺は軽く眉を上げた。
「今回のこと、華……サマに対する桜澤のイヤガラセ。積極的に動かないのは、この学園のトップが常盤でも"御前側"だからかも」
「……華を、この学園から引き離したい?」
「だってその方がいいもん。華サマにもキミにも」
相良さんはびしりと指を指す。
「ほかに好きな人ができて、なんならお付き合いなんかしちゃって、キミたちの婚約が解消になっちゃった方が?」
「……なるほど」
敦子さんが常盤内で力があるのは、御前の妹であるからだけじゃない。むしろそれは逆で、"御前"派からは敵視されている。
(ウチのバックアップがあるから」
こんな言い方は面映ゆいが、鹿王院のバックアップがあるということ。それは敦子さんの常盤内での立場を助ける大きな力になっているはずだ。
「同じ学園にいたんじゃ、出会いもクソもないからねー?」
なぜか揶揄っぽく相良さんは言う。
「……なにか?」
「なにもー?」
へん、って顔で相良さんは返事をして、それから少し真剣な顔になる。
「まぁとにかく、要注意だよ。あの子、トリッキーすぎて昔のあの子たちみたいなことしない、とは言い切れない」
俺は頷く。あの子たち。松影ルナと、石宮瑠璃。
「俺の方でも、留意しておきます」
「ヨロシクねっ」
相良さんがなんだか軽い感じで(しかしこれでかなり優秀な人だ)笑ったのを契機に、俺は社会科準備室から出た。
部活に向かうべく廊下を歩いていると、ふと蝉の声が聞こえた。
「……そうか、もう夏か」
あっという間だ。もっとも、梅雨明けはまだ先かもしれないが。
俺は軽く目を閉じる。やることはたくさんある。けれど。
「あ、樹くん」
「華」
話しかけられて目を開ける。なにやら書類を抱えた華がにこにこと笑っている。
「どうしたの? 部活は?」
「今から向かうところだ。委員会か」
「そーなの」
華は肩をすくめた。
「色々やることあってね~」
「根をつめるなよ」
「樹くんもねっ」
華は軽い足取りで歩き出す。
「華」
「なに?」
振り向いた華に、俺は笑う。
「なんでもない」
「? へんなの」
そう言いながら、楽しげに笑う華が愛しい。
また蝉が鳴いた。
「私とおっぱい、どっちが好きなの?」
思わずぽかん、として華を見つめる。唐突になんなんだ? なんというか、どう答えたらいいんだ!?
だがすぐに思い出す。
(今朝のアレか……)
俺が言い淀んだせいか? 思わず胸部に目をやりそうになって、慌てて目線をそらすけれど、華は見逃さなかった。
「や、やっぱり!?」
「違う、華、違う」
俺は少し慌てて言い募るーー慌てる必要性は全くないのだが! ないのだが、なぜか焦ってしまう。
「違うんだ華、誤解だ」
「お、男の子なんかみんなそうなんだっ」
「だから華、」
「触らせないっ、死ぬまで触らせないっ」
華は怒った口調で言う。
「ぜええったいに触らせない」
「……それは困る」
「な、なんで!? やっぱり」
「違う、華」
俺は苦笑して(やっと落ち着いてきた)華の頬に触れた。
「別に身体のどの部位だとか、関係ない。俺は華の全てに触れてみたいから、」
言いながら、首筋に唇を軽く寄せた。華のかおり。なめらかな肌。びくりと震える華が愛おしい。
「だから、困る」
「でもっ」
「忘れたのか、華」
俺は華を抱き寄せた。腕の中から俺を見上げる華。
「言っただろう。初めて会った時から、華が好きなんだと」
「? うん」
「あの時、まだ華は小学生だぞ。それも、振袖を着ていた。胸部なんか何もないも同然だぞ?」
「……あ」
華は口元に手をやる。それからすぐに真っ赤になった。
「……ごめんね?」
「いや、不安にさせた」
「違うの、勝手になんか、……拗ねただけだから」
華は真っ赤なまま、苦笑いをする。
「馬鹿だなぁ」
「む、バカっていうほうがバカなんだよ」
「知っている」
俺は許婚バカだからな、と心の中で思った。華はもぞりと動いて俺の腕の中から抜け出すと、俺を少し上目遣いに見つめる。
「触っちゃダメ、なんて言ってごめんね?」
「うむ」
まあいずれ、そのうち、近い未来に、などと思っているとら華が口を開く。
「……いいよ、触って」
俺は今度こそ本当に言葉を失った。華は自らの胸部に手を当てて、少し持ち上げるようになんかして、頬は相変わらず赤いままで俺を見つめるからーー俺は自分の両頬を思い切り張った。
ばちん、なんて大きな音に華はびくりと目を見開いた。
「樹くんっ!?」
「すまん、理性がどっかいこうとしたからな」
「いいのにね!?」
クスクス、と華は笑う。俺は苦笑して、華の髪をさらりと梳いた。
(まったく、不安がらせて)
華はどちらかというと、色々と動じないタイプではあるがーー俺のこととなると不安定になったり、変な方向に考えが行ったりする。それは俺のことを好きでいてくれているゆえだとは知っているが、……それにしたって、ここしばらくの華の不安定は桜澤のせいだ。
「そんな訳ではやめの対応をお願いします」
「働きかけはこっちからもしてるんだよ?」
相良さんは社会科準備室(なんだか根城のようにしている)でコーヒーを飲みながら言った。
「あー、飲む?」
「いえ」
「遠慮しなくていいのに」
相良さんに勧められたコーヒーは辞退。見たところ砂糖もミルクもない。子供のころと変わらず、ブラックコーヒーなんか飲めない。
「……それより、桜澤の件ですが」
「そっちの言う通りだったねー。なんのバックもない。御前のジジイの差し金ってわけでは、ない。ただ」
「ただ?」
俺は軽く眉を上げた。
「今回のこと、華……サマに対する桜澤のイヤガラセ。積極的に動かないのは、この学園のトップが常盤でも"御前側"だからかも」
「……華を、この学園から引き離したい?」
「だってその方がいいもん。華サマにもキミにも」
相良さんはびしりと指を指す。
「ほかに好きな人ができて、なんならお付き合いなんかしちゃって、キミたちの婚約が解消になっちゃった方が?」
「……なるほど」
敦子さんが常盤内で力があるのは、御前の妹であるからだけじゃない。むしろそれは逆で、"御前"派からは敵視されている。
(ウチのバックアップがあるから」
こんな言い方は面映ゆいが、鹿王院のバックアップがあるということ。それは敦子さんの常盤内での立場を助ける大きな力になっているはずだ。
「同じ学園にいたんじゃ、出会いもクソもないからねー?」
なぜか揶揄っぽく相良さんは言う。
「……なにか?」
「なにもー?」
へん、って顔で相良さんは返事をして、それから少し真剣な顔になる。
「まぁとにかく、要注意だよ。あの子、トリッキーすぎて昔のあの子たちみたいなことしない、とは言い切れない」
俺は頷く。あの子たち。松影ルナと、石宮瑠璃。
「俺の方でも、留意しておきます」
「ヨロシクねっ」
相良さんがなんだか軽い感じで(しかしこれでかなり優秀な人だ)笑ったのを契機に、俺は社会科準備室から出た。
部活に向かうべく廊下を歩いていると、ふと蝉の声が聞こえた。
「……そうか、もう夏か」
あっという間だ。もっとも、梅雨明けはまだ先かもしれないが。
俺は軽く目を閉じる。やることはたくさんある。けれど。
「あ、樹くん」
「華」
話しかけられて目を開ける。なにやら書類を抱えた華がにこにこと笑っている。
「どうしたの? 部活は?」
「今から向かうところだ。委員会か」
「そーなの」
華は肩をすくめた。
「色々やることあってね~」
「根をつめるなよ」
「樹くんもねっ」
華は軽い足取りで歩き出す。
「華」
「なに?」
振り向いた華に、俺は笑う。
「なんでもない」
「? へんなの」
そう言いながら、楽しげに笑う華が愛しい。
また蝉が鳴いた。
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