【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
658 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

しおりを挟む
 みーんみんみん、と窓の外で蝉が鳴いている。私はだらりと自分の部屋の椅子にしなだれかかっていた。

(あー、敦子さんに見られたらだらしがないってめっちゃ怒られるやつー……)

 キャミソールにショートパンツ。
 でもまぁ、いま、ひとりだし。えへへ。

(ていうか、あんま話せなかったなぁ)

 色々と、それどころじゃなかったから。子育て(?)大変すぎて……。
 窓の外を見ながら、アイスキャンデーをぺろりぺろりと舐める。

「……美味しっ」

 思わず呟く。暑い日に食べるアイスは格別ですよ。一枚、窓ガラスを隔てた外側は灼熱の暑さだけれど……。
 8月の眩しい日差しに、目を細める。
 その時、ドアがばあんと開いた。

「こら華、何その格好。はしたない」
「そっちの方でしたか」

 だらしない、じゃないんだ……っていうか!

「あ、敦子さん、なんで!?」

 ヒマリちゃんがママのとこに帰ってすぐ、アメリカに帰国したはずじゃ!
 慌てて起き上がる。

「今度は普通に仕事。あなたにも来てもらうわよ」
「へっ」
「樹くんにも付き合ってもらうつもりなんだけれど」

 敦子さんの背後には、思い切り目を逸らして私を見ないようにしてくれてる樹くん。

「……その、服を着てくれないか」
「ごごごごごめんなさい」

 謝りながら思う。でもでも、いきなりドア開けちゃう敦子さんが悪いと思わない!?

 結局、そのまま敦子さんに振袖を着つけられた。黒地に、大きな白い鶴と赤い牡丹、菊が散らしてある。ところどころに金の縁取り。ちょっとオトナっぽくて、気に入った。……けど、これわざわざ買ってきたのかな……。おいくら万円……?
 スーツに着替えてる樹くんは黙って拍手していた。なにそれなんの反応なの……? いや、褒められて悪い気はしないけれど!

「すまない、語彙がない」
「なんの?」
「華の素晴らしさを言い表す語彙力が……俺に……ない……」
「そんなに悔しそうに言わなくたって」

 というか、そんな素晴らしさないと思うんですけどね。いやお着物は素晴らしいけれど!
 ありがと、とちょっと甘えたい気分で樹くんのスーツの袖を掴んで首をかしげると、樹くんの眉間のシワが深くなった。何やら照れてしまったらしい。

「てか、樹くんも和服が良かったよ!」

 単に見たかった。似合うんだもの。

「今日はビジネスだからな」

 私は首を傾げた。お仕事モードってことでしょうか? こころなしか、いつもよりキリッとしてる気もするよ。ちょっとドキドキ。

「はーい、いちゃついてないで、出発出発~」
「待って敦子さん、なんなの今日?」
「今日はね~、クソジジイが会長してるグループ会社のひとつ、重工の会社創立130年記念パーティーなのよ」
「へぇん」

 私は話半分に頷く。

「この際に、あなたと樹くんをキッチリ、きぃぃっちり皆様にご紹介しておこうと思って」
「はあ」

 ゆるゆると頷く。要はついて行ってご挨拶すればいいってことかな?

 なんてかるーく考えてたら、パーティー始まる前から色んなオトナたちに囲まれて閉口してまった。場所は都内の大きなホテル。日本庭園が立派で有名なとこだ。

「いやいやいや実にお似合いでらして、まるで女雛と男雛のような」
「はぁ」
「イヤねぇあの方は例えが古くて。ところでお式はいつなのかしら、披露宴はなさるのよね? ご招待客はお決めに?」
「おいおい検討していこうとしているところです」

 私の気の抜けた「はぁ」と違ってキビキビとオトナ、というか社会人らしい回答をしてくれてるのは、もちろん樹くん。
 ……いや私、しっかりせねばだね? 中身オトナだもんね? けれどもブランクが私の邪魔をする、と言い訳させてください。
 目を白黒させていると、ふと樹くんは私の手を取って歩き出した。パーティー会場から出て、ホテルのお庭まで連れ出された。

「大丈夫か?」
「なにが?」
「不慣れだろうから」

 じっ、と見つめられた。心配してくれたらしい。私は笑う。

「大丈夫だよー」
「……俺と結婚したら、こういう場に付き合ってもらう機会も増えると思うのだが」
「おっけー」

 気楽な感じで返事をすると、樹くんは私の髪をさらりさらりと撫でながらほんの少し、笑った。
 優しいその表情に、思い切り甘えたい気分になって一歩近づく。樹くんはそっと抱き寄せてくれた。

「いや仲が良くて羨ましいな」

 突然聞こえた声に、慌ててばっと離れる。だ、誰かいたの!?
 立っていたのは今回のパーティーの主役、……なんだろう、クソジジイこと御前ゴゼンの大伯父様。

「あ、」
「この度はお招きいただきまして」

 樹くんはもう一度私を抱き寄せた。

「?」
「ふん、招いてなどおらんわ。急に来よったんだ敦子が」

 そう言いながら、御前は私を見た。私はその視線に、少しだけ身じろぐ。なんか、あまり良い感情じゃない視線な気がして。……元々、好かれてるとは思ってなかったけれど。

「……こんな風に育つのが分かっていたら」

 御前は笑った。

「ワシが引き取っておくべきだったなぁ」
「御前」

 樹くんが少し硬い声で言う。硬い声っていうか……ちょっと怒ってる?
 思わず見上げた。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...