380 / 702
【高校編】分岐・山ノ内瑛
手を繋いで
しおりを挟む
仄暗い学園内のレンガの道を、さくさくとアキラくんは歩く。
すっかり体育館から遠ざかったあたりで、アキラくんはふと立ち止まった。
「迎え、どこまで来とるん?」
「え?」
「クルマ」
来とおんやんな? とアキラくんは尋ねてくる。
私は頷いた。
お迎えの車はいつも待機してくれている。なんだかちょうどいい時間にーー護衛だか、監視だか(まぁ仁のことなんだけど)の人たちが上手いことやりくりしてくれてるんだろうな、と思ってはいるんだけれど。
アキラくんは笑って、私の腕から手を離して手を繋ぎ直す。指を絡めて、恋人繋ぎで。
「アキラくん?」
「暗いから分からへんやろ」
校舎から漏れる明かりで、近くにいてもなんとなく顔がわかる程度の明るさだ。もし人が通りかかっても、誰だか分からないと思う。
私はふと力を抜いて眉を下げた。
「ごめんね、……付き合わせて」
もう婚約が解消されたというのに、家同士の都合で当面は「許婚」がいる状態のまま、なのだ。……他の男の子とお付き合いしてます、とはとても言える状況じゃない。
「ええんや。しゃーない。引き離されんかっただけ御の字やで」
アキラくんは私の頬を指でつつく。
「せやから笑って?」
「アキラくん」
「ひっさびさやん、屋外で手なんかつなぐん」
「あは、そうだね」
私は笑う。へんな笑い方かもだけど、アキラくんは笑い返してくれた。きゅう、と繋ぐ手に力が入る。
「高等部のほうでええんかな?」
「あ、迎え。うん、そっちのエントランス」
「りょーかい。ほな高等部校舎まで送るわ」
「ありがと」
「その代わり」
アキラくんはにやりと笑った。
「ちゅーさせて」
返事をする前に、唇が塞がれた。ほんの一瞬、だけれど。
「お駄賃や」
「私ばっかり得してない?」
「華はいつも得してばっかりでちょーどいいんや」
「なにそれ」
くすくす、と笑うとアキラくんに抱き寄せられた。
「好き」
「へっ」
「めっちゃ好き。大好き。……なぁ、キスマーク、消えてしもうた?」
「えっと、」
「足の」
「う、ん」
小さく頷くと、「付け直してもええ?」とアキラくんは相変わらずの耳元で言う。
「あの、えっと」
「嫌や言うてもつけるけど?」
「い、いいよ? でもその、どこに?」
さすがにもう太ももは恥ずかしいよ!
少しモジモジとアキラくんを見上げると、アキラくんは笑った。
「だいじょーぶや、足なんかようせん、こんなとこで」
「そ、そう?」
ホッとして笑ったのもつかの間で、私のシャツのボタンは2つだけ、外された。
「アキラくん、」
「華の鎖骨ってな、おいしそーよな?」
「ひゃっ!?」
アキラくんは鎖骨を甘噛みしてくる。私は甘い痛みで立っていられなくて、アキラくんにしがみついた。
「……華はえっちぃな? 鎖骨ってヤラシーとこやっけか?」
「ち、違うけど」
ぺろり、と鎖骨を舐められて、その下に吸い付かれた。じくりとした痛み。
「そのうちちゃんとオシオキしたるからな」
「お、お仕置き?」
「ん」
にこり、と笑いながらアキラくんはボタンを留めてくれる。
「だって華、期待しとるやん? お仕置き」
「し、してないよう」
なんとなく、声が弱々しくなっちゃった気がする。うう。
啄ばまれるように唇にキスもされて、手を繋ぎ直される。
「よし大満足や」
「大満足なの……?」
「おう!」
アキラくんは元気に私に笑いかけてくれる。
「明日からの活力ゲットって感じやで」
「えへへ、嬉しい」
好きな人の力になれるって、なんか嬉しい。
「私も頑張れるー、勉強とか」
「特進やもんなー、すごいよな」
「委員会とか」
「……」
「髪を」
「その話はナシやっ」
私はじとりとアキラくんを見た。
「ていうか、染めたの、私のためだよね?」
なんか上からな言い方になっちゃうけれど。
「駆け落ちしなくても良さげになってきたけど!?」
「それはそれでやな、やっぱスカウトに見られたいやん!?」
「アキラくんなら、プレーだけで見てもらえるって、目立つって、だって」
そこまで口走って、私は口ごもる。だって、うん、照れるじゃないですか……。
「だって?」
アキラくんは少し期待した目で私を見てる。
「だって、なんなん? 華、教えてーや」
「う、あの、その」
「オシオキ、今したろーか?」
「や、待って、その、言う! 言いますから」
「ちぇーっ」
すっごい残念そうな顔をされた。
「……その、カッコいい、から」
赤面しつつアキラくんを見上げると、アキラくんはにかり、と笑った。
「せやろ!?」
「うっ、うん」
「カッコええやろ」
「うん」
こうなりゃヤケだっ。
「カッコいい。普段のアキラくんもカッコイイけど、バスケしてる時のアキラくんその何倍もカッコイイんだよ! だから」
最後まで言えなかった。角度を変えて、なんども重なる唇。
「なんでそんな可愛らしーこと言うてくれるんやろ、俺の恋人は」
目を細めて、少し切なそうな顔で、でも嬉しそうにアキラくんは言う。
「ほんとのこと、だもん」
「華さえカッコイイ言うてくれたら、俺満足や」
「……じゃあ、髪」
「それとこれとはまた話が別なんやー! よっしゃ、ほなな、華。愛してるでっ」
アキラくんは、近くの渡り廊下から私を校舎に押し込む。いつのまにか、高等部まで来てたらしい。あんないちゃつきつつ!?
「か、髪染め直してね!?」
「ほんならなー、また明日っ、風紀委員サン!」
その呼び方に、はっと周りを見るとちょうど生徒が通りかかったところだった。私とアキラくんを見て、納得顔で通り過ぎていく。
(周り見てるなぁ)
相変わらず、私の恋人はしっかりした年下くんです。
すっかり体育館から遠ざかったあたりで、アキラくんはふと立ち止まった。
「迎え、どこまで来とるん?」
「え?」
「クルマ」
来とおんやんな? とアキラくんは尋ねてくる。
私は頷いた。
お迎えの車はいつも待機してくれている。なんだかちょうどいい時間にーー護衛だか、監視だか(まぁ仁のことなんだけど)の人たちが上手いことやりくりしてくれてるんだろうな、と思ってはいるんだけれど。
アキラくんは笑って、私の腕から手を離して手を繋ぎ直す。指を絡めて、恋人繋ぎで。
「アキラくん?」
「暗いから分からへんやろ」
校舎から漏れる明かりで、近くにいてもなんとなく顔がわかる程度の明るさだ。もし人が通りかかっても、誰だか分からないと思う。
私はふと力を抜いて眉を下げた。
「ごめんね、……付き合わせて」
もう婚約が解消されたというのに、家同士の都合で当面は「許婚」がいる状態のまま、なのだ。……他の男の子とお付き合いしてます、とはとても言える状況じゃない。
「ええんや。しゃーない。引き離されんかっただけ御の字やで」
アキラくんは私の頬を指でつつく。
「せやから笑って?」
「アキラくん」
「ひっさびさやん、屋外で手なんかつなぐん」
「あは、そうだね」
私は笑う。へんな笑い方かもだけど、アキラくんは笑い返してくれた。きゅう、と繋ぐ手に力が入る。
「高等部のほうでええんかな?」
「あ、迎え。うん、そっちのエントランス」
「りょーかい。ほな高等部校舎まで送るわ」
「ありがと」
「その代わり」
アキラくんはにやりと笑った。
「ちゅーさせて」
返事をする前に、唇が塞がれた。ほんの一瞬、だけれど。
「お駄賃や」
「私ばっかり得してない?」
「華はいつも得してばっかりでちょーどいいんや」
「なにそれ」
くすくす、と笑うとアキラくんに抱き寄せられた。
「好き」
「へっ」
「めっちゃ好き。大好き。……なぁ、キスマーク、消えてしもうた?」
「えっと、」
「足の」
「う、ん」
小さく頷くと、「付け直してもええ?」とアキラくんは相変わらずの耳元で言う。
「あの、えっと」
「嫌や言うてもつけるけど?」
「い、いいよ? でもその、どこに?」
さすがにもう太ももは恥ずかしいよ!
少しモジモジとアキラくんを見上げると、アキラくんは笑った。
「だいじょーぶや、足なんかようせん、こんなとこで」
「そ、そう?」
ホッとして笑ったのもつかの間で、私のシャツのボタンは2つだけ、外された。
「アキラくん、」
「華の鎖骨ってな、おいしそーよな?」
「ひゃっ!?」
アキラくんは鎖骨を甘噛みしてくる。私は甘い痛みで立っていられなくて、アキラくんにしがみついた。
「……華はえっちぃな? 鎖骨ってヤラシーとこやっけか?」
「ち、違うけど」
ぺろり、と鎖骨を舐められて、その下に吸い付かれた。じくりとした痛み。
「そのうちちゃんとオシオキしたるからな」
「お、お仕置き?」
「ん」
にこり、と笑いながらアキラくんはボタンを留めてくれる。
「だって華、期待しとるやん? お仕置き」
「し、してないよう」
なんとなく、声が弱々しくなっちゃった気がする。うう。
啄ばまれるように唇にキスもされて、手を繋ぎ直される。
「よし大満足や」
「大満足なの……?」
「おう!」
アキラくんは元気に私に笑いかけてくれる。
「明日からの活力ゲットって感じやで」
「えへへ、嬉しい」
好きな人の力になれるって、なんか嬉しい。
「私も頑張れるー、勉強とか」
「特進やもんなー、すごいよな」
「委員会とか」
「……」
「髪を」
「その話はナシやっ」
私はじとりとアキラくんを見た。
「ていうか、染めたの、私のためだよね?」
なんか上からな言い方になっちゃうけれど。
「駆け落ちしなくても良さげになってきたけど!?」
「それはそれでやな、やっぱスカウトに見られたいやん!?」
「アキラくんなら、プレーだけで見てもらえるって、目立つって、だって」
そこまで口走って、私は口ごもる。だって、うん、照れるじゃないですか……。
「だって?」
アキラくんは少し期待した目で私を見てる。
「だって、なんなん? 華、教えてーや」
「う、あの、その」
「オシオキ、今したろーか?」
「や、待って、その、言う! 言いますから」
「ちぇーっ」
すっごい残念そうな顔をされた。
「……その、カッコいい、から」
赤面しつつアキラくんを見上げると、アキラくんはにかり、と笑った。
「せやろ!?」
「うっ、うん」
「カッコええやろ」
「うん」
こうなりゃヤケだっ。
「カッコいい。普段のアキラくんもカッコイイけど、バスケしてる時のアキラくんその何倍もカッコイイんだよ! だから」
最後まで言えなかった。角度を変えて、なんども重なる唇。
「なんでそんな可愛らしーこと言うてくれるんやろ、俺の恋人は」
目を細めて、少し切なそうな顔で、でも嬉しそうにアキラくんは言う。
「ほんとのこと、だもん」
「華さえカッコイイ言うてくれたら、俺満足や」
「……じゃあ、髪」
「それとこれとはまた話が別なんやー! よっしゃ、ほなな、華。愛してるでっ」
アキラくんは、近くの渡り廊下から私を校舎に押し込む。いつのまにか、高等部まで来てたらしい。あんないちゃつきつつ!?
「か、髪染め直してね!?」
「ほんならなー、また明日っ、風紀委員サン!」
その呼び方に、はっと周りを見るとちょうど生徒が通りかかったところだった。私とアキラくんを見て、納得顔で通り過ぎていく。
(周り見てるなぁ)
相変わらず、私の恋人はしっかりした年下くんです。
0
あなたにおすすめの小説
傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい
棗
恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。
しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。
そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。
ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する
ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。
皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。
ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。
なんとか成敗してみたい。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる