【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

秘密(side健)

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 恋人、あるいは大切な人に秘密にしてることはあるか? そう聞かれたら、俺は「ある」と答えざるを得ないんだろう。
 一番大きな秘密は「上田さん」の件だ。設楽の母親を殺したヤツの、息子。本人に罪はない。けれど、設楽の動揺を考えるとどうすればいいのか分からなくなる。

「どしたの?」

 不思議そうに言う設楽。俺のチャリに座って、俺は歩いてそれを押していた。
 今日、設楽のカンヅメ生活はやっと終わりを告げた。
 帰宅した、って連絡を受けるやいなや、俺は部活帰りに設楽の家に駅からチャリで直行する。だって会いたかったから。ほかに理由なんかいるのか。
 夏の夕方の風は少し冷たくなってきている。蝉の声はヒグラシに変わっていた。

「きれいだねぇ」

 夕陽を見て、のんびりと設楽は言った。それから俺を見上げて「何か話すことある感じ?」と小さく笑う。

「んー」
「別れ話以外ならなんでも聞くよ」
「んな話するかよ」

 冗談でもムリだ。軽く睨むと設楽は「良かった」と眉を下げる。胸が痛んだ。そんなカオさせてんのか、俺は。

「……俺、なんか、不安にさせてることあるか?」
「ううん」

 設楽は首を振る。薄く笑った。

「ちがうの」
「そか」

 設楽の過去については何も知らない。と言っても、小5以降はずっと一緒だ。けれど、設楽の恋愛観とか、なんかそーいうとこで何かしらの経験……? わかんねーけど、そういうのが時々ひっかかる。俺にじゃなくて、設楽の気持ちに。

(多分、設楽は結婚も本気にしてない)

 したくない、とかじゃない。「きっとしないだろうな」みたいな諦めのような感覚が、どこかにある。本気で俺のこと好きなのは知ってるけど。

(それはまー、就職して金貯めて)

 指輪買ってプロポーズして、って行動に移していけば現実味を帯びてくれるだろう。だからいい。いいけど、不安にはならないで欲しい。

(ワガママなんだろうか)

 幸せだけを感じていて欲しいって思うのは。
 また無言になった俺を見て、設楽はほんの少し不安そうにする。

(言うべきか)

 俺が何か隠してんのは、薄々勘付いてたんだろう。
 設楽はそのへん、少し敏感だ。自分に関してはエライ鈍感なのに。
 てきとーな公園にチャリを止めて、手を繋いで歩く。暗くても、こうしてれば設楽は大丈夫だから。
 といっても、まだまだ陽は沈みそうにないけれど、でも。

(俺だって安心する)

 こうして安心してもらえるのは、俺だからだって、俺は設楽の特別なんだって、そう思えるから。
 手を引いて、ベンチに座った。

「あのな設楽、俺らの話じゃなくて」
「うん」
「……国会図書館行っただろ」
「? うん」
「あの時、すれ違った男のひと、覚えてるか」
「ええと?」

 設楽は考えて、それから「あの、」と小さく言った。

「犯人の人に、にてる、ひと……?」
「会いに行った」
「へ!?」

 びくり、と設楽は俺を見上げた。

「黙っててごめん」
「う、ううん」

 設楽は少し青い顔のまま下を向く。

「びっくり、しただけ……」
「あの人、犯人の息子だった」

 できるだけ淡々と告げる。

「設楽に謝りたいって」
「そんな、」

 設楽はきゅう、と眉を寄せた。

「急に言われても」
「ムリすんな。つーか、すまん、今日こんな話するつもりじゃ」
「ううん、それは……私が探ったから」

 ごめんね、と設楽は言う。

「そっかあ。それで、……似てたのか」
「アキラの親父が言ってただろ、再審請求がどうの」
「うん」
「あれ引き下げさせたの、あの人ーー上田さんって言うんだけど、あの人だった。せめてもの贖罪だって」
「そんなこと、されても、」

 設楽は下を向いていて、表情は見えない。夕方の風が、さらりと設楽のそんなに長くない髪を揺らした。

「お母さん、帰って来ん……」

 設楽の手を握る手に、つい力がこもった。

(また、関西弁)

 まぁ、結局。何話してようと設楽は設楽なんだけどな。

「もし、いつか会ってもいいと思ったら言ってくれ」
「……ん」
「設楽」

 ぎゅう、と抱きしめた。

「不安にさせてごめん」
「ううん、……私のために、ありがと」

 弱々しく設楽は言う。イントネーションはいつも通り。少し離れて、ちゃんと手を繋ぎ直す。きつく。

「設楽は、」

 ふと口からこぼれて、俺は迷う。少し聞きたかったこと。でもムリに聞き出す気はないけど。

「設楽の"おまじない"、誰から教えてもらったやつだ?」
「え、」
「母親だって言ってたよな。けど、"お母さん"のことじゃないだろ」

 設楽はぽかん、とした。それから笑う。

「あ、そっか。まさか小学生の頃は、黒田くんとこんな風になるなんて思ってなかったから」

 油断してたやー、と設楽は首を傾げた。

「あのね、引かない?」
「……ムリに話せとは」
「いいの。なんか、隠しておくのもなんだし。頭おかしいとしか、思われないのかも、だけど」

 設楽は言う。

「私ね、……前世の記憶あるの」
「前世?」

 少しぽかんとして聞き直すと、設楽は苦笑いして、俺の手をいじる。

「痛い?」
「手? いや」
「そーじゃなくて」

 設楽は俺をじっと見た。

「私」
「別に」

 言いながら、納得する。なるほどな。

「そう考えると疑問が解ける」

 母親、前住んでた家、おまじない。それらは"前世"での経験ってことか。

「……信じてるの?」

 いぶかしげに、設楽は言った。

「設楽の言うことならなんでも信じる」

 じっと目を見て言うと、設楽はヘニャリと笑う。

「あのねー、騙されないでね黒田くん」
「嘘じゃねーんだろ」

 正直、設楽以外のヤツから言われたら1ミクロンも信用できねー内容だけど、設楽だ。設楽が言うんなら、そうなんだろう。

「そ、だけど」

 信じてもらえるなんて思わなかったや、と設楽は呟いた。
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