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【高校編】分岐・鍋島真
オセロー(side真)
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「なんでも何も」
僕はゆっくり微笑んで見せた。
「この子、僕の婚約者だもん」
「へ!? 華のイーナズケ、もう1人おったんか!?」
僕はアキラくんとやらの目をじっと見た。ふうん?
「いないよ。僕と華、ふつーに付き合ってるよ?」
「は、聞いとらん」
「まぁ付き合って1週間くらいだから」
まだそんなもの、なのか。自分でもびっくり。
「ていうか、そっか、華から聞いてたよ、君のこと」
僕は目を細めた。確か、華の大事な「お友達」。神戸から転校してきた、とかなんとか……。バスケ部だって言っていた。なるほどね。
「聞いてようと聞いてまいとどっちでもえーねん。付き合って1週間で婚約ってどーゆーことやねん」
「付き合った初日にプロポーズしたんだよ、……ていうか」
できるだけ、ヨユーたっぷりの微笑みを。
「なんなら僕ら、もうオトナの関係だよ、オトナの」
「は」
彼は絶句した。キレイな顔立ちなのに、そんなカオしちゃって。
(でもねぇ)
僕は思う。余計な虫は払っておくに限るじゃないか。
(何、僕の華に近づこうとしてんの?)
あの子は僕のだっての!
「あのー、鍋島君、あんまりウチの子いじめないでもらえる?」
山ノ内検事が苦笑して言った。
「初恋らしくて……」
「ざーんねーんでしたー。初恋は実らないんでえす」
僕も初恋のくせに、中学生に張り合ってそんなことを言ってしまう。僕、バカだよね? いいんだバカで。別に。精神年齢7歳くらいだもん。
そのあとは思いっきり敵意に満ち満ちているアキラくんの視線を全身に受けながら、美味しくケーキをいただくフリをした。
甘いものは苦手だ。けれど、僕をにこにこと見てくれてる山ノ内検事の奥さんをガッカリさせたくはないなぁ、と何となく思ったんだ。
ふと、目線をあげる。棚に置かれた写真が目に入った。
「……家族旅行ですか」
どこだろうか、海を背景に7人で写った写真。検事と、奥さんと、アキラくんとユーキくん、それから僕と同年代くらいの女性が3人。
「そうそう。5月ごろかな。ひっさびさの家族旅行で沖縄行ったんよ」
この人なかなか休み取られへんから、と奥さんは笑う。
「へえ」
僕はゆったりと微笑んだ。家族旅行、って響き、ちょっと憧れちゃう。
「いいですね、綺麗な海で」
「西表島までね」
今度は検事が答えた。
「西表島、ですか」
「南十字星、言うんかな。初めて見て」
僕は微笑みながら、とても羨ましくなった。いいなぁ、南十字星。見たことはあるけれど、ちょっと「大事な人たちと見る」ってのは素直にいいなと思う。
(華は付き合ってくれるかな)
まぁ連れて行くけど、無理やりにでも。
「イリオモテヤマネコ観察ツアーみたいなんも、ホテルについてたで」
言われて、僕は思わず笑った。華は猫が好きなんだ、ってこと思い出して。
(よし、行こう)
もうこれは決定項だ。今の時期は見られないから、来年になってからかな。
そのあとは他愛ない会話をして、それから検事の家を辞した。
送って行く、という検事の申し出を断って僕は玄関を出る。
「なぁ」
エレベーターホールで、声をかけられた。振り向かずとも、それが「アキラくん」の声だとは分かった。
「なあに」
「負けへんで」
きっ、と睨まれる。
「そんだけや」
「ふうん」
僕は軽く首を傾げた。ふうん。
「言ってろクソガキ」
微笑んでそう答えると、アキラくんは少し虚を突かれたような顔をしたあと、少しだけ楽しそうに笑った。
「アンタ、ほんま、性格悪そーやなぁ!」
「え? いい性格してるって良く言われるけど?」
「それ絶対褒め言葉ちゃうで!」
そんな失礼なクソガキ、アキラくんに見送られて僕はエレベーターに乗り込んだ。
華の家に帰宅すると、華はオトートなんだか何なんだかよく分からない弟分の圭くんと、千晶と、楽しげにゲームをしていた。正確には、華と圭クンがオセロをしてて、千晶がそれを見ていたんだけれどーー華ってオセロ苦手なのかな。四隅とられてウンウン言っていた。
「おかえりなさい」
僕に気がついた華が言う。圭クンはちらりと僕を見ただけ。
「おかえりなさいお兄様、どちらへ?」
「リスたちをジェノサイドするために一家団欒にお邪魔してきたんだ」
「へえ~」
千晶は興味なさそうに、視線をオセロに戻した。ひどいなぁ、お兄ちゃん泣いちゃうよ?
「うーん、これどうやっても負けるかなぁ」
華は思い切り眉を顰めて言う。
「久々にやると、結構盛り上がるもんたねぇ」
でもこれは負けじゃない、なんて千晶が華に言う。ふうん?
「代わってあげようか、華」
「へ?」
僕は微笑む。華はきょとんと僕を見上げた。
「え、お兄様。お兄様、オセロ苦手では」
千晶が首を傾げた。
「小さい頃何度もお相手しましたが、わたし、負けたこと無かったですよ」
「そうだね」
でも今回は勝つよ、と僕は笑った。だって相手は可愛い妹じゃないからね。
圭クンはむっとした顔で僕を見上げる。
「最初からにしますか?」
「ウウン、こっからでいいよ」
華が不思議そうな顔をしながら、ソファの場所を譲ってくれた。僕は微笑む。
「くだらん男も恋をすれば、少なくとも今より立派になる」
「よりによってオセロー?」
圭クンは軽く眉をひそめて、千晶が軽く華を抱きしめた。
「あは、殺さない殺さない。いちいち大げさなんだよなぁ」
単に連想しただけなのにさ。
「お兄様が言うと、なんか!」
「え、なになに?」
ぽかんとしてる華。
「僕が殺すとしたら相手の男かな。ま、そもそもデズデモーナは無実なわけで」
言いながら、僕は黒い石をぱちりと置いた。
シェイクスピアのオセロー、僕の嫌いな話。
「浮気してる」なんて嘘に騙されたオセローは、最愛の妻デズデモーナを殺しちゃう。最後までデズデモーナは、オセローへの愛を貫いたのに。
「自分のオンナ信じらんない男なんか、ひとりで死ねばいいと思うよ」
目を細める僕を、圭クンは静かに見ていた。
僕はゆっくり微笑んで見せた。
「この子、僕の婚約者だもん」
「へ!? 華のイーナズケ、もう1人おったんか!?」
僕はアキラくんとやらの目をじっと見た。ふうん?
「いないよ。僕と華、ふつーに付き合ってるよ?」
「は、聞いとらん」
「まぁ付き合って1週間くらいだから」
まだそんなもの、なのか。自分でもびっくり。
「ていうか、そっか、華から聞いてたよ、君のこと」
僕は目を細めた。確か、華の大事な「お友達」。神戸から転校してきた、とかなんとか……。バスケ部だって言っていた。なるほどね。
「聞いてようと聞いてまいとどっちでもえーねん。付き合って1週間で婚約ってどーゆーことやねん」
「付き合った初日にプロポーズしたんだよ、……ていうか」
できるだけ、ヨユーたっぷりの微笑みを。
「なんなら僕ら、もうオトナの関係だよ、オトナの」
「は」
彼は絶句した。キレイな顔立ちなのに、そんなカオしちゃって。
(でもねぇ)
僕は思う。余計な虫は払っておくに限るじゃないか。
(何、僕の華に近づこうとしてんの?)
あの子は僕のだっての!
「あのー、鍋島君、あんまりウチの子いじめないでもらえる?」
山ノ内検事が苦笑して言った。
「初恋らしくて……」
「ざーんねーんでしたー。初恋は実らないんでえす」
僕も初恋のくせに、中学生に張り合ってそんなことを言ってしまう。僕、バカだよね? いいんだバカで。別に。精神年齢7歳くらいだもん。
そのあとは思いっきり敵意に満ち満ちているアキラくんの視線を全身に受けながら、美味しくケーキをいただくフリをした。
甘いものは苦手だ。けれど、僕をにこにこと見てくれてる山ノ内検事の奥さんをガッカリさせたくはないなぁ、と何となく思ったんだ。
ふと、目線をあげる。棚に置かれた写真が目に入った。
「……家族旅行ですか」
どこだろうか、海を背景に7人で写った写真。検事と、奥さんと、アキラくんとユーキくん、それから僕と同年代くらいの女性が3人。
「そうそう。5月ごろかな。ひっさびさの家族旅行で沖縄行ったんよ」
この人なかなか休み取られへんから、と奥さんは笑う。
「へえ」
僕はゆったりと微笑んだ。家族旅行、って響き、ちょっと憧れちゃう。
「いいですね、綺麗な海で」
「西表島までね」
今度は検事が答えた。
「西表島、ですか」
「南十字星、言うんかな。初めて見て」
僕は微笑みながら、とても羨ましくなった。いいなぁ、南十字星。見たことはあるけれど、ちょっと「大事な人たちと見る」ってのは素直にいいなと思う。
(華は付き合ってくれるかな)
まぁ連れて行くけど、無理やりにでも。
「イリオモテヤマネコ観察ツアーみたいなんも、ホテルについてたで」
言われて、僕は思わず笑った。華は猫が好きなんだ、ってこと思い出して。
(よし、行こう)
もうこれは決定項だ。今の時期は見られないから、来年になってからかな。
そのあとは他愛ない会話をして、それから検事の家を辞した。
送って行く、という検事の申し出を断って僕は玄関を出る。
「なぁ」
エレベーターホールで、声をかけられた。振り向かずとも、それが「アキラくん」の声だとは分かった。
「なあに」
「負けへんで」
きっ、と睨まれる。
「そんだけや」
「ふうん」
僕は軽く首を傾げた。ふうん。
「言ってろクソガキ」
微笑んでそう答えると、アキラくんは少し虚を突かれたような顔をしたあと、少しだけ楽しそうに笑った。
「アンタ、ほんま、性格悪そーやなぁ!」
「え? いい性格してるって良く言われるけど?」
「それ絶対褒め言葉ちゃうで!」
そんな失礼なクソガキ、アキラくんに見送られて僕はエレベーターに乗り込んだ。
華の家に帰宅すると、華はオトートなんだか何なんだかよく分からない弟分の圭くんと、千晶と、楽しげにゲームをしていた。正確には、華と圭クンがオセロをしてて、千晶がそれを見ていたんだけれどーー華ってオセロ苦手なのかな。四隅とられてウンウン言っていた。
「おかえりなさい」
僕に気がついた華が言う。圭クンはちらりと僕を見ただけ。
「おかえりなさいお兄様、どちらへ?」
「リスたちをジェノサイドするために一家団欒にお邪魔してきたんだ」
「へえ~」
千晶は興味なさそうに、視線をオセロに戻した。ひどいなぁ、お兄ちゃん泣いちゃうよ?
「うーん、これどうやっても負けるかなぁ」
華は思い切り眉を顰めて言う。
「久々にやると、結構盛り上がるもんたねぇ」
でもこれは負けじゃない、なんて千晶が華に言う。ふうん?
「代わってあげようか、華」
「へ?」
僕は微笑む。華はきょとんと僕を見上げた。
「え、お兄様。お兄様、オセロ苦手では」
千晶が首を傾げた。
「小さい頃何度もお相手しましたが、わたし、負けたこと無かったですよ」
「そうだね」
でも今回は勝つよ、と僕は笑った。だって相手は可愛い妹じゃないからね。
圭クンはむっとした顔で僕を見上げる。
「最初からにしますか?」
「ウウン、こっからでいいよ」
華が不思議そうな顔をしながら、ソファの場所を譲ってくれた。僕は微笑む。
「くだらん男も恋をすれば、少なくとも今より立派になる」
「よりによってオセロー?」
圭クンは軽く眉をひそめて、千晶が軽く華を抱きしめた。
「あは、殺さない殺さない。いちいち大げさなんだよなぁ」
単に連想しただけなのにさ。
「お兄様が言うと、なんか!」
「え、なになに?」
ぽかんとしてる華。
「僕が殺すとしたら相手の男かな。ま、そもそもデズデモーナは無実なわけで」
言いながら、僕は黒い石をぱちりと置いた。
シェイクスピアのオセロー、僕の嫌いな話。
「浮気してる」なんて嘘に騙されたオセローは、最愛の妻デズデモーナを殺しちゃう。最後までデズデモーナは、オセローへの愛を貫いたのに。
「自分のオンナ信じらんない男なんか、ひとりで死ねばいいと思うよ」
目を細める僕を、圭クンは静かに見ていた。
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