【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
464 / 702
【高校編】分岐・黒田健

誕生日と青い石

しおりを挟む
 私は鏡を見ながら、シュリちゃんがくれたバレッタを髪に留めた。真紅のグログランリボンと、中央に金色のプレート。……っていうかこれ、お高いやつでは……。

(い、いいのかな)

 ちらりとシュリちゃんを見ると、ふん! と鼻息荒く満足そうなカオで私を見ていた。

「さすがあたし」

 そんな風に目を細めて言われたので、私はありがたく頂戴することにした。ちゃんとお返ししなくっちゃ!

「じゃ、これはおれから」

 圭くんからは少し大きめのポーチ。

「ハナ、よく登校前バタバタしてるし、忘れ物したって引き返してくるから、必要なものまとめておくといいよ」
「……お気遣い感謝します」

 年下に面倒みさせてます。うう。なんて思ってたら、お腹がぐうと鳴った。

「あ」
「ケーキ、切るか」

 黒田くんが笑いながら言った。ちょっと赤面しつつ頷く。お腹空いちゃいましたよ!


「お、美味しい」
「……まぁまぁね」

 私は感動して、シュリちゃんはシュリちゃん的最大級の褒め言葉を口にしてた。ほんとにこれ初めて作ったケーキ!?
 圭くんはムッとした顔をして、けどもぐもぐと食べていた。そんなカオで食べなくても……。

「お、案外食えるな」
「食えるなってレベルじゃないよ~」

 とっても美味しい!

「……そーか」

 黒田くんはすっごい嬉しそうに私を見る。ほんの少しだけ、口元を緩ませて。

(うっ)

 こんな顔されると、キツイ。好きすぎてキツイ。胸がきゅううとなってしまう……!

「ちょっと、何なのよその締まりのないカオは」
「や、やめてよう」

 シュリちゃんに頬をものすごく突かれた。や、やめて……!
 そんな感じで、和やかなんだかなんなんだか分からない感じで私の誕生日パーティー(何年振りだろ)はお開きになった。

「ここまででいーよ」

 黒田くんは言う。玄関先、もう外は薄暗い。

「うん」

 私はお腹いっぱい幸せいっぱいで頷いた。

「気をつけてね」
「ん」

 黒田くんはそう返事をしながら、何か迷ってる顔をしてた。

「黒田くん?」
「あー、まぁ、いっか」

 吹っ切れたように黒田くんはカバンから包みを取り出した。小さい箱。

「?」
「誕生日プレゼント」
「えっ!?」

 私は受け取りながら変な声で返事してしまった。

「も、ももももうもらったよ!? ケーキっ」
「ケーキはケーキ」

 ぶっきらぼうに黒田くんは言う。

「じゃあな」
「え、あ、ありがとっ」

 中身を見る前に、さっさと出て行ってしまった。……珍しく照れてる?

(最近なんか、照れたりとか増えたかも)

 素直に感情出してきてくれてる、かんじ、とか……。
 それってなんか、ちょっと、嬉しい。私が甘えてばっかだったし。

(えへへ)

 ちょっとニマニマしながら、部屋に戻って箱を開ける。

「……わ」

 華奢なシルバーのブレスレット。3つだけ、空色の小さな石がついてて、正直可愛い!
 すぐにつけてまじまじと眺める。

(……この趣味はひよりちゃんと秋月くんかな)

 くすっと笑ってしまう。こんな言い方失礼かもだけど、黒田くんにこのブレスレットは選べないや。多分2人に相談してる。

(えー、いつからだろ)

 相談して選んだ、ってことは前々から探してくれてたってことだよね。

(どーーしよ)

 すっごい嬉しい。プレゼントが嬉しいのはもちろんだけれど、気持ちが嬉しくてはちきれそう!
 ベッドの上で飛び跳ねたい気持ちをぐっと抑えて、スマホを手に取る。メールじゃ伝わんない、言葉で伝えたい。

『……もしもし』
「黒田くんっ」

 意気込んだ私の声に、黒田くんが電話の向こうで笑ったのが分かった。多分、にやり、みたいな、楽しげな笑い方。

『あー、先に言っとくとそれ、ひよりと秋月に相談したわ』
「あは、そうかなって思った」
『バレてたか』

 やっぱり楽しそうな声、……ていうか、安心したような声。

「? 一仕事終えた感があるね」
『ん、こういうの初めてだったから』

 言われて考える。……確かに、そうかも。アクセサリーなんてもらうの、初めて。

『どんなんがいいか全っ然分かんねーし、迷いすぎてヤバかった』
「そ、そんなに」

 なんだって嬉しいのに!

『まあなんだ、とにかく誕生日おめでとう、設楽』
「ありがとうっ」

 お礼を言いながら、腕についたブレスレットを眺める。きらりと光るブレスレット。

「一生大事にする!」
『……就職したら、もっといーもんやるよ』
「これがいいの」

 私は静かにそう言った。これがいい。黒田くんが超悩んで、友達にもいっぱい相談してプレゼントしてくれた、これがいいんだ。
 お礼を何度も言いながら通話を切って、ふと思う。

(一生、か)

 そんなもの、あるのかな。そんな風に考えてしまう。

(どきどき思うんだよね)

 黒田くんと付き合ってどれくらいかな、って。
 それは前世での記録よりどんどん長くなってて、でもーー私は、それが永遠だなんて思えてない、のかもしれない。
 結婚しようって言ってくれてる。
 とてもとても大事にされてるのも、信じられないくらい大好きでいてくれてるのも、全部全部分かってて、その上で、いつか、……いつか来るかもしれないお別れに、私は怯えている。

(今が幸せだからこそ)

 痛いくらいに切なくて、だから、怖い。失うのが怖い。
 私はブレスレットを何度も撫でた。これが永遠だったらいいのに、そう願いを込めながら。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました

もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない

As-me.com
恋愛
完結しました。 自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。 そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。 ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。 そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。 周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。 ※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。 こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。 ゆっくり亀更新です。

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

処理中です...