【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

秋来ぬと

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 なんとなく、風の感じが秋っぽくなってきたなぁ、なんて思う。目の前を赤トンボがすうっと通り過ぎて、私は目を細めた。

「しーたーらーさーん、ノンビリしてないでこっち手伝ってっ」
「はーいっ」

 大村さんの声に、私ははっとして皆ーー実行委員会の皆んながいるほうに向かう。あっという間に、文化祭の季節です。
 私が所属してる「実行委員会」のメインの仕事は、5月の体育祭と、10月の文化祭。9月の半ばに入って、私たちはその文化祭の準備が佳境を迎えていた。

「ふたりはクラスの手伝いは大丈夫?」

 学校の中庭、その片隅でカンバンにアクリル絵の具で色を塗っていた鹿島さんが首を傾げた。

「大丈夫です!」
「家でできる作業にしてもらったんで」

 ふたりで頷く。

(先輩たちのためにも、成功させなきゃ)

 三年生の先輩たちは、この文化祭で引退だ。寂しくなるけど、受験もあるししかたない。というか、遅いくらいだ。

(まー、鹿島先輩は規格外だけれど)

 色々と忙しいはずなのに、常に全国でもトップクラスの成績を修めている。どんな頭してるんだろう……。分けて欲しい……。

「あ、先輩、私たちそのあたり塗ります」
「そう? お願いしますー」

 大村さんと「文化祭」の「祭」の字を塗ろう、と筆をとった時、ふと背後から声がした。

「ようお疲れ」
「……?」

 私はとっても不思議に思いながら振り向く。女子校でしないはずの、男子の声。ていうか、好きな声。好きな人の声。

「……黒田くん?」
「なにしてんだ? ああ、文化祭の看板か。お疲れ」
「あ、はい、お疲れさま……って、なんでここに!?」
「付き添い」

 黒田くんは、少し眉を寄せた。視線の先には、……なぜか木の陰でコソコソしてる、水戸さんの姿が。黒田くんの部活の先輩で、鹿島先輩の元カレ、のはずだ。
 鹿島先輩は、チラリと目線を水戸さんに向けて「何やってるの水戸くん」と割と普通の声で言った。

(あれ!?)

 体育祭の時は超絶塩対応だったのに、ちょっと柔らかくなってる、かも。

「あ、あのその、ぶ、文化祭の」
「あの人、ああ見えて生徒会も兼任してんだよ」

 しどろもどろな水戸さんの言葉を、黒田くんが引き取った。

「へー」

 私は水戸さんに目をやる。へぇ、生徒会。にへら、と笑われた。

「下っ端だけど」
「下っ端」

 生徒会に下っ端、とかあるんだろうか。

「そんで、これ俺たちのガッコの文化祭のパンフ」
「あー、そっか」

 私は黒田くんから封筒を受け取る。そこそこ分厚い封筒。
 黒田くんの通ってる男子高と、女子高である私の学校は提携校にあたる。こういう行事ごとで、お互い招待しあったりとかの交流があるのだ。
 私はそこから1冊抜き出して、ぱらりとめくる。

「黒田くんなにかするの」
「……」

 難しい顔をして、押し黙ってしまった。

「?」
「ふっふっふ、聞いてよ設楽チャン」

 水戸さんがなんだかフランクに話しかけてきた。鹿島先輩以外には、割と普通に喋れるんだよねこの人……。

「黒田たちさ、メイドカフェやんのメイドカフェ」
「……!?」

 メイドカフェ!?
 メイドカフェって、……あれだよね!? あのメイドカフェ!?

「水戸さん」

 黒田くんはとっても無表情に言った。

「なんだよ」
「水戸さん」
「……怒んなよう」

 ほんとのことじゃん、って拗ねたように言う水戸さんを一瞥して、黒田くんは言った。

「あのな設楽、来ない方がいいぞ」
「いや、行くけども」

 めっちゃ見たい。黒田くんのメイド姿。なにそれ絶対領域なの?
 黒田くんはむう、って顔をして黙った。

「来てもいいけど、俺の自由時間に来て欲しい。あんな男しかいねー巣窟みたいなとこ、設楽ひとりで歩かせらんねー」
「あ、自分のメイド姿見せたくないわけじゃないのな」

 水戸さんが「ほーん」って顔して言った。ちょっと詰まんなさそう。

「いや、そりゃ見せたくはないっすけど」

 黒田くんは淡々と言った。

「それより設楽があいつらの視線に晒されることのがストレスっす」

 あいつら女子見慣れてねーから、と黒田くんは今から不快ですって顔をして言った。

「あの、黒田くん?」

 私は苦笑いしながら黒田くんに話しかける。

「私、そんな大層なもんじゃないから、そんなに目立たないかと」
「目立つ」

 バッサリ言われた。

「すっげー目立つ。メイド姿なんざいくらでも見せてやるから来ないで欲しい」
「えぇ……」

 ちょっと想像してしまった。黒田くんの家で、黒田くんメイド姿で料理してくれるの……。ひよりちゃんが見たら腹を抱えて大笑いするんだろうな……。

「はいはいはーい」

 大村さんが手をあげる。

「ひとりじゃなきゃ、ちょっとは大丈夫でしょ? わたしと松井さんも行くし、それならいいでしょ」
「あー、久しぶり」
「お久しぶりだね黒田くん」

 大村さんは筆を片手に立ち上がる。あ、しまった、もう結構進んでる。

「ごめん、あと私塗るから」
「いーのいーの」

 大村さんはカラカラと笑った。

「それより、どう? わたしたちも行くなら大丈夫でしょ?」
「……まー、ひとりよりは」

 黒田くんは不承不承、って感じで頷いた。

「ところでね黒田くん」

 大村さんは、なぜか得意げに言う。

「ウチのクラスも、似たような出し物なんだけど、話聞いてた?」
「……や、」

 黒田くんはじっと私を見る。あれ、言ってなかったっけ?

「コスプレカフェするよー」

 さらりと伝えると、黒田くんは数秒固まったあと、眉間を指でもんで、思いっきり「困った」って顔をしていた。
 ……なぜにそんな表情ですの?
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