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【高校編】分岐・黒田健

男子高の文化祭

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「えっもう休憩なの!? メイド服はっ!?」

 設楽が残念そうに言うから、俺はさっき撮った(正確には撮られた)写真を設楽に見せる。設楽は珍しく大爆笑して、「コレちょーだい!」とねだってくる。

「ヤダよ、お前さ、ひよりに送るつもりだろ」
「あは、バレた」

 いたずらっぽく笑う設楽はメチャクチャ可愛い。可愛いけどひよりに送るのだけは止めろ。親戚中に回るじゃねーかその画像。
 俺の学校の文化祭当日。設楽は本当に大村サンと松井サンとやってきて(それもやけに可愛らしいワンピースで! 丈が短い!)俺の教室に顔を出した。ざわつく室内。

「設楽さんたち遊んできなよー」

 大村サンが楽しげに言う。

「あたしたち、根岸くんたちと待ち合わせしてるから」

 くすくすと楽しそうなのは松井サン。……根岸と付き合い出したらしいのは聞いたけれど。

「あっおまたせぇ~~じゃないわ、いらっしゃいませぇっ」

 低い声を無理やりに高くしてシナ作って言ってるのは根岸。ゴリゴリにメイド服だ。全然似合ってない。ミニスカで、トランクスの端が見えてる。
 それを見て松井サンは爆笑してたから、まぁ2人がそれでいいならいいのかもしんない。

「いらっしゃいませじゃないでしょ、根岸くん」
「あ、そーだ。お帰りなさいませぇ」
「そっちそっち」

 やっぱり大爆笑。

「仲良いね」

 設楽は微笑ましそうに見ている。俺はそれより、クラスの奴の視線が気になって仕方ない。なんでこんな服なんだ。いや、可愛いけど、クソみたいな視線を設楽の足に送るな……。
 ぎろりと周りを見渡すと、次々に逸らされる視線。

「? どうしたの?」
「なんでもねー」

 設楽の手を引いて歩き出す。その手には俺からの(選んだのは実質、ひよりと秋月だけど)ブレスレットが揺れていて、なんていうか、ちょっと満たされた気分になる……。
 ぼけっと歩いてたら、部活棟の方にきていた。部室が並ぶ、いまの時間帯にはほぼ無人の、そこ。

「? お祭りから離れてない?」
「あー」

 設楽を人の目線に晒したくない一心で歩いていたら、こんなとこに出てしまった。

「いや、……そんな服持ってたっけ」
「これ? あー、シュリちゃんセレクト。着ていけって」
「……」

 常盤か。何考えてんだ。

「その、黒田くんには自分がいるんだって見せつけてこいとのお達しで」
「……あいつ、俺が男子高なの知らないんじゃねーの」
「あ」

 設楽は気がついたように笑った。

「そーかも」
「無防備だ」

 俺は少し、ぶすっとした顔になってることを自覚しつつ指摘する。

「普段女子見てねぇヤローばっかのとこにそんな服で」

 胸元もかなりあいてる。設楽は割と胸があるほうなので、角度によっては谷間も見える。これ、ほかのヤツも見てると思うとメチャクチャ腹が立った。

(あー、)

 自分で自分が情けなくなる。強い独占欲、嫉妬心、そんなもので設楽を縛りたくないのに。

「あのな」
「? うん」

 きょとんと俺を見上げる設楽。なんの疑いも、疑問も、抱いてない瞳。

「ごめんな」
「なにが?」

 色んな感情をこめた「ごめんな」を伝えたあと、俺は勝手知ったる空手部の部室に設楽を連れ込んだ。

「わぁ部室~」

 ちょっと感動してキョロキョロしてる設楽を、無言でベンチに押し倒す。

「?」

 不思議そうに俺を見つめる目。

「ごめんな」

 もう一度だけ謝って、その唇にキスを落とす。

「ん、」

 甘えるような設楽の声。

「なにがごめんなの?」
「色々」
「ふうん」

 ゆるゆる、と俺の頭を撫でる設楽の手。

「なにもないのに?」
「色々あんだよ」

 そう言いながら、俺は設楽の広くあいた襟ぐり、その鎖骨のほんの少し下に口づけた。

「や、」

 思った以上に設楽から甘い声が出て、俺は自制心を総動員する。できてない気もするけど。

「く、黒田くん?」
「誰のもんなんか、」

 じっと設楽の目を見る。

「印つけといたほうがいい」
「しるし、」

 ぽうっとした目で設楽は俺を見た。胸元に咲く赤い花。

「あのね黒田くん」

 呼ばれて、視線を合わせる。

「ごめんなことは一個もないよ」
「設楽」
「私、私は」

 設楽は俺に真摯なカオで言う。

「黒田くんになら、なにされたっていいのに」
「……あのな」

 俺はぐっと言葉に詰まって起き上がる。このままだと色々ダメだ。設楽は少し寂しそうな顔をする。

(……その顔は)

 反則だ。絶対に反則だ。
 俺は設楽を抱き上げて、自分の膝の間に挟んで座らせる。後ろから抱きしめる形で。目の前に設楽の後頭部、俺は耳元に口を寄せて、普段あんま言わないことを全部言う。
 どんだけ俺が設楽を好きか。独占欲の塊なのか、嫉妬してんのか。
 カオは見えないけど、その白い耳が少しずつ朱に染まる。

「あの、なんで、急に」

 戸惑ったように言う設楽に、俺は正直に答える。

「わかんねー」
「そ、そっか」

 もぞもぞ、と設楽は身体を動かして振り返り、俺を見上げる。

「あのね、……嬉しかったり、するの」

 軽く首をかしげると、設楽は甘えるように俺にしなだれかかって、ぎゅうと俺の服を握る。

「なんか、いっつも余裕っぽいから。その、なんていうか、感情見せてくれるの」

 嬉しいんだよ、と設楽が消え入りそうな声で言うから、俺は設楽をぎゅっと抱きしめる。ほんとに、いちいち可愛いから俺は毎日困ってる。
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