【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

未来

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「んっ!?」

 元々の前提を覆すようなことを言われてしまった。
 そもそもの、ゲームにおける"私"……っていうか、設楽華も破滅なんかしてない!?

「え、だって学園追放」
「転校したんだろ。実際お前も検討してるだろ実は」
「う」

 桜澤青花が怖すぎて、転校が視野に入ってるのは事実。シナリオに沿う感じなのがヤダ、と思ってたけれど。

(そっか、転校、だったのか……?)

 ゲームではその辺、ぼかされてた気がする。

「え、でも、勘当されて」
「お前が"常盤の家"のゴタゴタに巻き込まれそうになったから、先手を打ったんじゃねーの」
「ゴタゴタ?」
「"今"はもういねーけど、ゲームのその展開の時にはまだまだ"大伯父サマ"
ご健在だったんだろ」
「あ」

 仁が「なにか」して失脚してった大伯父様。ゲームの世界で仁が同じ動きをしていなかったならば、それはその通りで……。

「考えてみろよ。お前の知ってる常盤敦子は、ホイホイと人間を路頭に迷わすような人間かよ」
「……違う、と思う」

 私は答えた。敦子さんはそんなこと出来るヒトじゃない、と思う。

「てことで、そもそも設楽華に破滅なんかなかったってのが真相なんじゃねーの
、ってのが俺の雑感」
「はー」

 言われてみれば、そう、かもしれない。
 そんな話をしていたら、すぐに私たちのお参りの順番が来た。「お願いが叶う杉」かぁ。

「何お願いすんの?」
「えー? 秘密」
「むう」

 そっちがそうなら、私も秘密だ。
 でも真摯に祈る。

(このひとと、)

 ずっと一緒に生きていけますように。

(もう、私がこの人を悲しませませんように)

 お願いが終わって、すうっと顔を上げると仁と目が合う。

「何お願いした?」

 仁は少し笑って言った。

「秘密だよ」

 答えながら思う。多分、あなたと似たことをお願いしたよ。
 手を繋いで先に進むと、お守りが売られていた。可愛い鈴に、さっきの眠り猫のチャームっていうのかな、それがついていた。

「可愛い」
「何色がいい?」

 ふつうに仁に聞かれた。

「お守りは自分で買う」
「やだ今日は俺お前甘やかす日だから」
「えぇ……」

 毎日甘やかされてる気もするけれど、と思ってるうちにさっさと買われてしまった。
 私のは白で、仁のは青いの。

「色違い」

 仁が少し嬉しそうに言うから、私は少し照れてしまう。そんなことで喜んでくれるんだ。そんな顔をしてくれるんだ。

「あのね」
「うん」
「高校出て、……結婚したらさ」

 さくさくと境内の砂利道を歩きながら、そんな話をする。まだ先だけど、先なんだけれど、確実にくる未来の話。

「ん」

 嬉しそうに、私を見る仁はにっこにこな顔をしていた。返事をする声まで甘い感じ。

「お揃いのとか色違いとか、色々買おうね」

 マグカップとかお皿とか、バスタオルとか。あとなんだろう、と笑いかけると、仁は小さく答えた。

「……新婚さんじゃん」
「新婚さんだからいいんじゃないの!?」

 変なこと言うなぁ、って見上げたら仁は口を押さえて真っ赤になって明後日の方向を見ていた。

(え、なに)

 私はぽかんと見上げる。え、そこ照れるとこ!?

「いや、ごめん」
「うん」
「なんか、今更、」

 仁は砂利道にしゃがみこむ。

「今更、……すっげー照れた」
「……なんか色々、照れるようなことたくさんしてる癖に」

 けっこうベタなプロポーズまでされましたよ?

「そーなんだけど、でもさー」
「? うん」
「お前が」

 情けない顔して、仁は私を見上げた。へにゃりと下がる眉、弱々しく上がる口角。

(なんてカオ、してんのよ)

 私は胸がぎゅっとなる。普段の仁は強くて、ちゃんと大人の男の人、なのに。

「俺の奥さんになってくれるなんて、……夢みたいで、幸せすぎて」
「夢じゃないよ」

 私は笑って、しゃがみこんだ。それから仁のほっぺたをつねる。

「痛いでしょ?」
「もっと強くして」
「ドMなの!?」

 ケタケタ笑いながら、私は続ける。

「なんか逆に怖いなぁ」

 思わず、そう口に出してしまった。

「なにが」
「……愛されすぎてて?」

 軽く首をかしげると、仁は面白そうに笑う。

「まだ愛し方が足りないかな~」
「なにそれ?」

 仁はさっさと立ち上がって、私に手を差し伸べる。ありがたく甘えて、その手を取って立ち上がった。

「怖いなんて思うヒマないくらい、ベッタベタに愛してるの伝えた方がいいのかなと」
「いや、それはそれで」

 いいや、って伝えたかったのに、さっさと大きな木の影に引きずり込まれてキスをされた。

「ちょ、人に」
「あーあ、ほんと可愛いわ、お前」

 仁はふうう、とため息をつきながら言う。

「可愛すぎてキツイ」
「そ、そんなこと」
「あるある」

 仁は目を細める。私の頬に手をあてて、まじまじと私を見つめる、その目がとても甘くて熱くて、私は目が反らせない。
 もう一度唇が重なって、頭の奥がじんじんと痺れていく。

(あ、好き)

 それしかない。ほんとうに、もう、それしか。

(だから、)

 私は思う。
 このヒトに抱かれたい、このヒトのモノになりたい。
 唇が離れる。
 見つめあったその目が、私の微笑みを見て、少し戸惑うように揺れた。
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