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【高校編】分岐・相良仁
ちょっと待って
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「だから華、マジで」
「ねぇなんでダメなの」
車に戻ってーー。
私は運転席で眉を下げてる仁の膝に乗っかっていた。腕を彼の首の後ろにからめて、わざと小さく首を傾げた。
(こんなあざとい)
普段だったら絶対できないなぁ、なんて心のどこかで苦笑する。
「人来るから、」
「じゃあ来ないとこ、いこ?」
唇を重ねると仁の身体が面白いくらいにびくりとして、私は笑ってしまう。
「なぁ、なんで急にそんななっちゃったの」
「えー、なんでだろうね?」
うふふと笑って、仁の耳を撫でる。
「なにがスイッチだった?」
「わかんない」
「あのな、華」
仁が私の頬に触れる。それすら気持ちよくて、うっとりと仁を見つめてしまう。仁は困ったように、親指で頬を撫でた。
「前も言ったけどさ、大事にさせてよ」
「えっちしたら大事にされてないの?」
「そうは言ってないけど」
「ぎりぎりなとこまでやってるじゃん」
「いや、一線越えると越えないではだいぶ違う気がするよ俺は」
「えーなんでー、ねー」
私は気づいてる。このよく分かんない、情欲……? その正体に。
(好き)
もちろんそれも、あるけれど。
(なーに、子供扱いしてんの)
そんな気持ちもある。だって、だって、私たち、前世では同級生だったんだよ?
「子供扱いしないで」
「華」
仁は困ったように笑う。
「あのなー、言いたかないけどさ、」
「うん」
「そのセリフはな、子供が言うセリフ」
仁の唇が重なる。乱暴、といってもいいくらいに入ってきたその舌に、口の中を蹂躙されてしまう。
「んう、」
苦しくて気持ちよくて、私は仁の腕に触れるけれど、逆に後頭部を支えられて、角度を変えられた。
(え、あれ!?)
いつもだったら引いてくれるラインで、仁は引かない。
頭がぽうっとしてくる。口の中がぐちゃぐちゃで、脳味噌まで蕩けたみたいになってくる。
身体から力が抜けて、本当にどうにかなりそうになった瞬間に、仁は私から離れた。つう、と私の口から垂れた液体ーーもはやどっちのか分からない、を仁が舐めとる。
ぽけっとしたまま、力が入らない私を仁は抱き上げて器用に助手席に乗せて、そのままシートベルトをかちりと嵌めた。
「ちゅーだけでそんななっちゃう子は、お子様だよ、華」
「……ん」
色々言いたいのに、私はくたりとシートに身体を預けてただ仁を見た。
「……オトナなはずだったのにぃ」
私がなんとか漏らした一言に、仁はケタケタ笑って車を走らせ始めた。
あーもう、なんていうか、私、まだまだお子様なんだなぁ……。身体も、まさかの内面までも。
「大丈夫大丈夫、華」
「んー?」
ものすごい眠気が襲ってきてて、私がそれと戦ってると仁が軽い口調で言葉をかけてくる。
「嫌でも高校卒業したらしますから」
「なにその言い方~」
「あのね、俺だって我慢してるの! とっても!」
「知ってるけど」
カラダの方はきっちり反応してらしたですもんねー。
「大事にしたいの! けじめなの! ……まぁ色々グダグタではあるけども」
私は小さく頷いた。
そのまま、夢を見た。前世の夢。
仁、かつての彼と、かつての私は、いつもの居酒屋にいた。大学を出てからも、何かにつけて私は彼に呼び出されていた。
「このままセカンド扱いされ続けてしんじゃうのかな!」
「その時は」
彼が言う。
(あれ?)
違和感を覚えた。だって、あの時彼はいつものように軽く笑って「その時は骨を拾ってやるよ」なんてことを言っていた、はずなのに。
「その時は、っていうか、その前に俺がもらってやるから心配すんな」
私はどきりとする。ほんとに? なんて聞きたくなる。冗談に、決まってるのにーー。
「……もらってやる、ってヒトを物みたいに」
「え、あ、や、違ってだな」
しどろもどろになる彼を見て、私は笑った。
ただ、それだけの、夢。
「華?」
ぱちり、と目を覚ますと辺りは見慣れた風景。もうほとんど夕闇の中だけれど。
フロントガラスの向こうには、続く車列と赤信号。
「どうした?」
「え? なにが」
「泣いてる」
仁は、そっと私の頬に、目元に触れた。薄暗い車内で、仁の気遣わしげな視線を、私はとても甘く感じた。
(もしかしたら、あったかもしれない"かつての未来")
でも、もうそれは失われた時間だ。時間はどこまでも不可逆で、遡ることはできない。
(だけれど、今度は)
今度は、間違わなかった。そう確信できる。
私は暖かな仁の手を取った。
「華?」
「ほんとに、なんでもないの」
この手に、全てを委ねてしまいたい気持ちはあるけれどーーでも、慌てる必要はない。私たちは、また、ちゃんと出会えた。ちゃんと「やり直し」ーーやり直し、でいいのかな、できているのだから。
「仁」
「うん?」
「愛してる」
私の言葉に、仁は固まった。私の顔を、それこそ穴が開くほどに見つめながら。
我に帰ったのは、後ろの車からのクラクション。仁はハッとしてアクセルを踏む。
「な、なになに急に? 何なの俺、死ぬの? 死ぬ前の幻覚? 華からそんな、」
「幻覚でも幻聴でもないし、そんな急に死ぬのやめてよ」
「死なないけどさ!」
仁は路肩に車を停めてハンドルを抱えた。
「ヤバイ幸せで死にそう」
「なにそれ」
私のたった一言で、こんな風になっちゃう仁が愛おしい。
(誰かの特別であることが、こんなに甘くて幸せなことだなんて)
前世で、ずうっと「特別」「いちばん」になれなかったせいで、なんていうか、そんな風に扱われることがくすぐったくて仕方ない。
(仁にも、伝わってるといいな)
仁もまた、甘くてくすぐったくて、幸せな気持ちでいてくれたらいい。
「ねぇなんでダメなの」
車に戻ってーー。
私は運転席で眉を下げてる仁の膝に乗っかっていた。腕を彼の首の後ろにからめて、わざと小さく首を傾げた。
(こんなあざとい)
普段だったら絶対できないなぁ、なんて心のどこかで苦笑する。
「人来るから、」
「じゃあ来ないとこ、いこ?」
唇を重ねると仁の身体が面白いくらいにびくりとして、私は笑ってしまう。
「なぁ、なんで急にそんななっちゃったの」
「えー、なんでだろうね?」
うふふと笑って、仁の耳を撫でる。
「なにがスイッチだった?」
「わかんない」
「あのな、華」
仁が私の頬に触れる。それすら気持ちよくて、うっとりと仁を見つめてしまう。仁は困ったように、親指で頬を撫でた。
「前も言ったけどさ、大事にさせてよ」
「えっちしたら大事にされてないの?」
「そうは言ってないけど」
「ぎりぎりなとこまでやってるじゃん」
「いや、一線越えると越えないではだいぶ違う気がするよ俺は」
「えーなんでー、ねー」
私は気づいてる。このよく分かんない、情欲……? その正体に。
(好き)
もちろんそれも、あるけれど。
(なーに、子供扱いしてんの)
そんな気持ちもある。だって、だって、私たち、前世では同級生だったんだよ?
「子供扱いしないで」
「華」
仁は困ったように笑う。
「あのなー、言いたかないけどさ、」
「うん」
「そのセリフはな、子供が言うセリフ」
仁の唇が重なる。乱暴、といってもいいくらいに入ってきたその舌に、口の中を蹂躙されてしまう。
「んう、」
苦しくて気持ちよくて、私は仁の腕に触れるけれど、逆に後頭部を支えられて、角度を変えられた。
(え、あれ!?)
いつもだったら引いてくれるラインで、仁は引かない。
頭がぽうっとしてくる。口の中がぐちゃぐちゃで、脳味噌まで蕩けたみたいになってくる。
身体から力が抜けて、本当にどうにかなりそうになった瞬間に、仁は私から離れた。つう、と私の口から垂れた液体ーーもはやどっちのか分からない、を仁が舐めとる。
ぽけっとしたまま、力が入らない私を仁は抱き上げて器用に助手席に乗せて、そのままシートベルトをかちりと嵌めた。
「ちゅーだけでそんななっちゃう子は、お子様だよ、華」
「……ん」
色々言いたいのに、私はくたりとシートに身体を預けてただ仁を見た。
「……オトナなはずだったのにぃ」
私がなんとか漏らした一言に、仁はケタケタ笑って車を走らせ始めた。
あーもう、なんていうか、私、まだまだお子様なんだなぁ……。身体も、まさかの内面までも。
「大丈夫大丈夫、華」
「んー?」
ものすごい眠気が襲ってきてて、私がそれと戦ってると仁が軽い口調で言葉をかけてくる。
「嫌でも高校卒業したらしますから」
「なにその言い方~」
「あのね、俺だって我慢してるの! とっても!」
「知ってるけど」
カラダの方はきっちり反応してらしたですもんねー。
「大事にしたいの! けじめなの! ……まぁ色々グダグタではあるけども」
私は小さく頷いた。
そのまま、夢を見た。前世の夢。
仁、かつての彼と、かつての私は、いつもの居酒屋にいた。大学を出てからも、何かにつけて私は彼に呼び出されていた。
「このままセカンド扱いされ続けてしんじゃうのかな!」
「その時は」
彼が言う。
(あれ?)
違和感を覚えた。だって、あの時彼はいつものように軽く笑って「その時は骨を拾ってやるよ」なんてことを言っていた、はずなのに。
「その時は、っていうか、その前に俺がもらってやるから心配すんな」
私はどきりとする。ほんとに? なんて聞きたくなる。冗談に、決まってるのにーー。
「……もらってやる、ってヒトを物みたいに」
「え、あ、や、違ってだな」
しどろもどろになる彼を見て、私は笑った。
ただ、それだけの、夢。
「華?」
ぱちり、と目を覚ますと辺りは見慣れた風景。もうほとんど夕闇の中だけれど。
フロントガラスの向こうには、続く車列と赤信号。
「どうした?」
「え? なにが」
「泣いてる」
仁は、そっと私の頬に、目元に触れた。薄暗い車内で、仁の気遣わしげな視線を、私はとても甘く感じた。
(もしかしたら、あったかもしれない"かつての未来")
でも、もうそれは失われた時間だ。時間はどこまでも不可逆で、遡ることはできない。
(だけれど、今度は)
今度は、間違わなかった。そう確信できる。
私は暖かな仁の手を取った。
「華?」
「ほんとに、なんでもないの」
この手に、全てを委ねてしまいたい気持ちはあるけれどーーでも、慌てる必要はない。私たちは、また、ちゃんと出会えた。ちゃんと「やり直し」ーーやり直し、でいいのかな、できているのだから。
「仁」
「うん?」
「愛してる」
私の言葉に、仁は固まった。私の顔を、それこそ穴が開くほどに見つめながら。
我に帰ったのは、後ろの車からのクラクション。仁はハッとしてアクセルを踏む。
「な、なになに急に? 何なの俺、死ぬの? 死ぬ前の幻覚? 華からそんな、」
「幻覚でも幻聴でもないし、そんな急に死ぬのやめてよ」
「死なないけどさ!」
仁は路肩に車を停めてハンドルを抱えた。
「ヤバイ幸せで死にそう」
「なにそれ」
私のたった一言で、こんな風になっちゃう仁が愛おしい。
(誰かの特別であることが、こんなに甘くて幸せなことだなんて)
前世で、ずうっと「特別」「いちばん」になれなかったせいで、なんていうか、そんな風に扱われることがくすぐったくて仕方ない。
(仁にも、伝わってるといいな)
仁もまた、甘くてくすぐったくて、幸せな気持ちでいてくれたらいい。
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