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【高校編】分岐・鍋島真
炎
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昼間のうちに、ヴェなんちゃらとかいう(素で覚えてない)自然公園の貸し別荘に連れ込まれた。
「お外散策したいです!」
大きな湖とか見えた。カヌーに乗ってる人たちいたし、サイクリングなんかもできるっぽい!
のに、大きな窓には分厚いカーテン、外は絶対に見せないぞという強い意志が感じられる。
(目的がわかりません!)
まぁ、いつものことなんですが、なんですけれど、でも!
「ここ絶対楽し、むぐぐ」
雑にキスされた。なんだこれ!
「はいはい黙って僕の子猫ちゃん」
「誰が子猫ですか! っていうか、だんだん扱いが雑になってませんか雑にっ」
「そんなことないよ~」
くすくす笑う真さんはめちゃくちゃ楽しそうだ。くそう。
「楽しいことしてあげるから黙って」
「楽しいこと?」
首をかしげると、真さんは優雅に目を細めた。
「やーだなぁ華、僕だって常にヤらしいこと考えてる訳じゃないんだよ?」
「か、考えてませんっ」
「その想像を現実にしてあげてもいいけれど?」
「遠慮しますっ」
ぷう、と頬を膨らませて距離を取ると、真さんはいっそう楽しげに笑った。
「こっちにおいで、華」
そのままスタスタと別荘内を歩いて行ってしまう。私はぺたぺたとその後をついて歩いた。なんだろう?
連れていかれたのはキッチンで、真さんは少し楽しげに鍋だのなんだのを取り出した。
管理人さんあたりが用意してくれてたのかな? ちなみにご丁寧に、こちらの窓にも分厚いカーテン。むう。
「フォイヤーツァンゲンボウレ、っていうんだけど」
「はぁ」
「僕は飲まない」
「へ?」
「いくらアルコールだからって、正気の沙汰じゃない」
そう言いながら、真さんはワインボトルを取り出す。赤ワインのボトルみたい。
「? 飲ませていただけるので?」
「なんでそんな江戸時代の丁稚みたいな口調なの」
「はぁ……」
真さんは「飲んでもいいよ」と笑う。
「ただし、アルコール0.00パーセント。要はノンアル」
「ちぇー」
「華チャン」
真さんは私の鼻をつまんだ。
「身体に悪い、そうでしょう?」
「……真さんに言われたくはないんですけど」
じとりと睨んだ。真さん、絶対に未成年飲酒してたもんな! 証拠はないけども……。悪いやつだ。
「ふふ」
真さんは静かに笑った。
「ドイツは意外にワインの生産も盛んなんだってさ」
思い切り話を逸らされた。まぁ、いいけどさ、もう。
「へー、まぁフランス近いですもんね」
「なにその雑な感想」
口調の割に楽しそうだ。
「そんなわけでフォイヤーツァンゲンボウレ、はじめまーす」
真さんは、片手鍋に例のノンアル赤ワインをどくどくと注ぐ。ああもう、適当にするから服についてるじゃん……。
「そのシャツ後で洗わないと」
「捨ててく」
「もったいないからダメです」
こら、と睨むと真さんは何が嬉しいのか、私のコメカミに軽く唇を落とす。
「可愛いなぁ僕のお嫁さん」
「まだ違いますけどね」
そんな風に言っちゃうけれど、まぁ、こういうの言われるとちょっとドキドキしたりもしてる。
火をかけて、それからそこに香辛料っぽいのを突っ込んでいく。シナモンとか、果実の皮とか。
「グリューワイン?」
「の、さらにエゲツないやつ」
「エゲツない」
思わず反駁。
「えげつなさの正体はこれ」
真さんが取り出したのは、円錐状の……なにこれ?
「お砂糖?」
「正解。気が狂うよねこの砂糖の塊」
真さんは軽く眉をしかめて、それから銀色の、金属製の台を取り出す。鍋にかかる形だ。
「この上にこの狂気の塊を置きます」
「何グラムあるんでしょうか……」
「知らないよ、僕の一生の摂取量は超えてそうだよ」
「超えてないですよ」
案外いろんなものに大量に入ってますよ砂糖。怖いですよ砂糖。
「で、これに」
真さんは別の瓶を取り出した。
「これはマジもんのアルコールだから、よくよく加熱してアルコール飛ばさなきゃいけません」
「ラム酒?」
「まぁ加熱もクソも」
真さんは、お砂糖にラムをかけた。じんわりと湿るお砂糖。
「燃やすんだけどね」
「燃やす?」
「いえす! ふぁいや!」
謎にテンション高く、真さんはラム漬け砂糖にライターで火をつけた。ぼう、と青い炎が揺れる。
「わ、わ、わ」
ぽたぽた、と青い炎がノンアルワインに落ちていく。溶けたお砂糖だ。
「なにこれなにこれー!?」
「なんかこういう飲み物らしいよ」
僕はいらない、と真さんは言う。
「まぁでも、華好きかなぁって」
青い炎を見つめながら、真さんは少し笑った。
「甘いから」
「……あまけりゃいい、って訳じゃないんですけどね」
言いながらも思う。なんだろう、なんでだろ。結構、嬉しいですよ?
(ていうか、かなり、かな)
じわじわと嬉しくなってしまう。なんでだろう、意味わかんない……。
「どーぞ」
真さんは、それをマグカップに注いでくれた。ふんわり香る甘いにおい。一応更にアルコール飛ばす、って加熱されててほかほかだ。
私たちは、ダイニングのテーブルで向かい合って座る。真さんはコーヒーを飲むみたいで、インスタントの粉末にお湯を注いでいた。
「普段インスタント、飲まないのに」
「旅先だからしゃーなしなんだしゃーなし」
真さんはちょっと笑った。
私は真さんが注いでくれた、ノンアルグリューワインのエゲツないやつ、に口をつけた。
「……わー」
甘い。けど、シナモンとかオレンジピールとかが入ってるおかけで、甘さだけじゃなくてスッキリしてる感じ。なにより、あったまる! 正直、外は極寒だからちょっと冷えてたのです。
「あのさ」
「はい?」
真さんが真顔で、私はちょっとびっくりする。この人あんま真顔になんないから。
「おいしい?」
私は一瞬、ぽかんとしてしまった。それからなんだかあったかなものがこみ上げて、何度も頷く。
「おいしい、おいしいです」
「ほんと」
ほんの少し、安心したように真さんはコーヒーに口をつける。その頬が少し赤くて、私はちょっと黙ってしまう。なんだかとっても、くすぐったかったのでした。
「お外散策したいです!」
大きな湖とか見えた。カヌーに乗ってる人たちいたし、サイクリングなんかもできるっぽい!
のに、大きな窓には分厚いカーテン、外は絶対に見せないぞという強い意志が感じられる。
(目的がわかりません!)
まぁ、いつものことなんですが、なんですけれど、でも!
「ここ絶対楽し、むぐぐ」
雑にキスされた。なんだこれ!
「はいはい黙って僕の子猫ちゃん」
「誰が子猫ですか! っていうか、だんだん扱いが雑になってませんか雑にっ」
「そんなことないよ~」
くすくす笑う真さんはめちゃくちゃ楽しそうだ。くそう。
「楽しいことしてあげるから黙って」
「楽しいこと?」
首をかしげると、真さんは優雅に目を細めた。
「やーだなぁ華、僕だって常にヤらしいこと考えてる訳じゃないんだよ?」
「か、考えてませんっ」
「その想像を現実にしてあげてもいいけれど?」
「遠慮しますっ」
ぷう、と頬を膨らませて距離を取ると、真さんはいっそう楽しげに笑った。
「こっちにおいで、華」
そのままスタスタと別荘内を歩いて行ってしまう。私はぺたぺたとその後をついて歩いた。なんだろう?
連れていかれたのはキッチンで、真さんは少し楽しげに鍋だのなんだのを取り出した。
管理人さんあたりが用意してくれてたのかな? ちなみにご丁寧に、こちらの窓にも分厚いカーテン。むう。
「フォイヤーツァンゲンボウレ、っていうんだけど」
「はぁ」
「僕は飲まない」
「へ?」
「いくらアルコールだからって、正気の沙汰じゃない」
そう言いながら、真さんはワインボトルを取り出す。赤ワインのボトルみたい。
「? 飲ませていただけるので?」
「なんでそんな江戸時代の丁稚みたいな口調なの」
「はぁ……」
真さんは「飲んでもいいよ」と笑う。
「ただし、アルコール0.00パーセント。要はノンアル」
「ちぇー」
「華チャン」
真さんは私の鼻をつまんだ。
「身体に悪い、そうでしょう?」
「……真さんに言われたくはないんですけど」
じとりと睨んだ。真さん、絶対に未成年飲酒してたもんな! 証拠はないけども……。悪いやつだ。
「ふふ」
真さんは静かに笑った。
「ドイツは意外にワインの生産も盛んなんだってさ」
思い切り話を逸らされた。まぁ、いいけどさ、もう。
「へー、まぁフランス近いですもんね」
「なにその雑な感想」
口調の割に楽しそうだ。
「そんなわけでフォイヤーツァンゲンボウレ、はじめまーす」
真さんは、片手鍋に例のノンアル赤ワインをどくどくと注ぐ。ああもう、適当にするから服についてるじゃん……。
「そのシャツ後で洗わないと」
「捨ててく」
「もったいないからダメです」
こら、と睨むと真さんは何が嬉しいのか、私のコメカミに軽く唇を落とす。
「可愛いなぁ僕のお嫁さん」
「まだ違いますけどね」
そんな風に言っちゃうけれど、まぁ、こういうの言われるとちょっとドキドキしたりもしてる。
火をかけて、それからそこに香辛料っぽいのを突っ込んでいく。シナモンとか、果実の皮とか。
「グリューワイン?」
「の、さらにエゲツないやつ」
「エゲツない」
思わず反駁。
「えげつなさの正体はこれ」
真さんが取り出したのは、円錐状の……なにこれ?
「お砂糖?」
「正解。気が狂うよねこの砂糖の塊」
真さんは軽く眉をしかめて、それから銀色の、金属製の台を取り出す。鍋にかかる形だ。
「この上にこの狂気の塊を置きます」
「何グラムあるんでしょうか……」
「知らないよ、僕の一生の摂取量は超えてそうだよ」
「超えてないですよ」
案外いろんなものに大量に入ってますよ砂糖。怖いですよ砂糖。
「で、これに」
真さんは別の瓶を取り出した。
「これはマジもんのアルコールだから、よくよく加熱してアルコール飛ばさなきゃいけません」
「ラム酒?」
「まぁ加熱もクソも」
真さんは、お砂糖にラムをかけた。じんわりと湿るお砂糖。
「燃やすんだけどね」
「燃やす?」
「いえす! ふぁいや!」
謎にテンション高く、真さんはラム漬け砂糖にライターで火をつけた。ぼう、と青い炎が揺れる。
「わ、わ、わ」
ぽたぽた、と青い炎がノンアルワインに落ちていく。溶けたお砂糖だ。
「なにこれなにこれー!?」
「なんかこういう飲み物らしいよ」
僕はいらない、と真さんは言う。
「まぁでも、華好きかなぁって」
青い炎を見つめながら、真さんは少し笑った。
「甘いから」
「……あまけりゃいい、って訳じゃないんですけどね」
言いながらも思う。なんだろう、なんでだろ。結構、嬉しいですよ?
(ていうか、かなり、かな)
じわじわと嬉しくなってしまう。なんでだろう、意味わかんない……。
「どーぞ」
真さんは、それをマグカップに注いでくれた。ふんわり香る甘いにおい。一応更にアルコール飛ばす、って加熱されててほかほかだ。
私たちは、ダイニングのテーブルで向かい合って座る。真さんはコーヒーを飲むみたいで、インスタントの粉末にお湯を注いでいた。
「普段インスタント、飲まないのに」
「旅先だからしゃーなしなんだしゃーなし」
真さんはちょっと笑った。
私は真さんが注いでくれた、ノンアルグリューワインのエゲツないやつ、に口をつけた。
「……わー」
甘い。けど、シナモンとかオレンジピールとかが入ってるおかけで、甘さだけじゃなくてスッキリしてる感じ。なにより、あったまる! 正直、外は極寒だからちょっと冷えてたのです。
「あのさ」
「はい?」
真さんが真顔で、私はちょっとびっくりする。この人あんま真顔になんないから。
「おいしい?」
私は一瞬、ぽかんとしてしまった。それからなんだかあったかなものがこみ上げて、何度も頷く。
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「ほんと」
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