【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
313 / 702
【高校編】分岐・鍋島真

星空

しおりを挟む
「あのー」
「なに?」
「これ、とってもらえません?」
「却下」

 真さんの声はとても楽しそうだった。

(なぜ)

 私は自分の目元に手を当てる。

(なぜ、目隠しなんかされちゃってるんでしょうか)

 首をひねる私の首元に、暖かいものが触れる。

「ひゃ!?」
「ふふ、いい反応」
「急すぎますっ」

 触れたのは、真さんの唇で。そのままぺろりと舐められてしまう。ぞくぞくして、ちょっと力が抜けた私を、真さんはひょい、と抱き上げた。

「?」
「まぁこのままヤらしいことしてもいいんだけれど」
「あぶのーまる」
「ふふ、それはまた今度ね」

 ばさりと身体になにかかけられた。

(毛布?)

 ぐるぐる巻きにされていく。

「あ、あのー? なにを」
「さむいから」

 その真さんの言葉はほんとにマジで、私は次の瞬間には極寒の風に晒されていた。

「さっ、寒い! 外ですか!?」
「そーそー、お外」

 くすくす笑う声。なに考えててるんだ!
 すぐに、私を横抱きにしたまま、どこかに座り込む真さん。別荘前のベンチかな? と予測してみる。

「はい、どーぞ」

 しゅるり、と目隠しが解かれた。私はぽかんと口を開けてそれを見つめた。言葉が出ない。満点の星空、自分が起きてるのか横になってるのか、分からなくなるくらいにーー。

「……すごい」
「でしょ」

 街の光が全くないせいで、星の光が直接降り注ぐ感じ。凄すぎて頭がぐらぐらした。なにこれ……!

「これ見たかったんだよね」

 華と、と見上げた先で真さんは言った。横抱きにされてるせいで、視界に星と真さんしかいない。

「宇宙にいるみたい、」

 思わず溢れた言葉に真さんは笑う。その表情は見えない。

「……真さん」
「なぁに」
「ガッコー、行ってないんですって」

 ぽつり、と言った言葉に、真さんはだまる。

「こないだ、真さんのマンション行った時に、たまたま駅で真さんのお友達に会ったんです」
「へぇ」
「お誕生日会した友達」
「お喋りだなぁ、あいつも」

 真さんはどうでも良さそうに言った。

「なんでサボってるんです」
「サボってないよ、……仕事してる」

 私は真さんの膝の上で起き上がって、じっとその目を見つめた。

「仕事って」
「なんか色々。お店作ったり」

 真さんは淡々と言った。そーいやコンサルやら何やらしてたな、この人。

「大学はね、もう卒業できたらそれでいいかなって」
「なんで」
「目的見失った」

 真さんは平らな声で言う。

「僕の敵がいなくなった」
「じゃあ」

 私はぱちん、と真さんの頬を両手で挟む。

「真さんのために勉強したらどうですか」

 せっかくできる環境にいるのに。

「僕さ、そこまで法律興味ないんだよね」

 仕事で使う分は置いといてさ、と真さんは言う。

「成績優秀なくせに」
「だってそれは」

 真さんは笑った。

「リス男を倒すためだったから」
「……時々言う、そのリス男ってお父様のことですよね?」

 なんなのリス男……。

「リスはリスだよ。ちょっと可愛すぎるかもだけど」
「はぁ……」

 あんまりリスに似ていないとは思うんだけどなぁ。

「だからねー、あとはまぁ、君と幸せに生きていけたらそれでいいんだよ」

 真さんは私をきゅう、と抱きしめた。

「他にはいいや」

 僕には君がいるから、と耳元で真さんは言う。

(この人を、)

 私は抱きしめ返しながら、思う。

(そうやってこの人を独占して、私だけのものにして)

 私たちはダメダメだから。お互いにダメダメな感じで依存……? とは違うかもだけど、そんな風に。

(それはきっと幸せだろうな)

 甘くてダメダメで、グズグズで。
 私は真さんの頭を撫でる。形の良い後頭部、さらさらの髪。

(でもそれは、きっと真さんのためにならないから)

 ものすごく魅力的だけれどーー私はそれを諦めなきゃいけない。いちばん側にいることは、誰にも譲りたくないけれど、でも。

「他にしたいこと、ないんですか?」
「他? 他ね」

 真さんは私の耳を噛みながら言う。ええい、なぜ噛む。

「あ、華と西表島に新婚旅行行こうと思ってて」
「あ、そうなんですか? 初耳なんですが」
「だろうね言ってないから」
「言ってくださいよ」
「南十字星が見えるし、イリオモテヤマネコの観察もできるんだって」
「へー」

 ネコ! それはちょっと嬉しい。まぁ撫でたりはできないんだろうけど……天然記念物だもんなぁ。

「それから、」

 真さんは言う。

「もし華が僕の赤ちゃん産んでくれたら」
「ご希望なら」

 まぁ授かりものだから、どうなるか分かんないけども。

「ほんと?」

 嬉しそうに真さんは私のコメカミにキスをした。

「まぁそれはそれで、……真さんは何がしたいんですか」
「何が?」
「将来、私抜きで」
「華いないと僕死ぬけど」
「います、いますけど、でも」

 私は真さんの顔をのぞきこむ。

「私の旦那さんは、そんだけのツマンナイ男なんですか?」
「……なに、なんか挑戦的だね」
「そうでしょうか」
「そうだよ」

 むっとしたカオで、真さんは言った。私は思わず笑う。このひと、なんか色々表情見せてくれるようになってきたよなぁ。

「真さんのやりたいことやったら良いんですよ」
「やりたいこと」
「知りたいこと、学びたいこと」

 色々あるはずだ。この人は、まだハタチの「男の子」なんだから。
 しばらく真さんは無言で、それからクスクスと笑いだした。

「なるほどなぁ」
「? どうしたんです」
「でもさ、華」

 真さんは言う。

「あんまり贅沢できないよ?」
「それは別に」
「忙しくなっちゃうから、もうあんまりお仕事できないし」
「はぁ」
「もしかしたら、家を空けがちかも」
「はい」

 待ってます、と言うと真さんは笑った。

「そっかあ」
「そうですよ」
「そっかぁ……」

 きゅう、と真さんはもう一度私を抱きしめ直す。

「ねぇ僕からいろんなものが無くなっても、僕のこと好きでいてくれる」
「好きですよ」

 答えながら、やっと気がついた。

(あ、そっか、私)

 思わず笑ってしまう。

「どうしたの」
「や、私」

 真さんを強く抱きしめる。なんだ、なんだ。そうだったんだ。

「真さんのこと、好きだったんだなぁって」
「……そこに気がついてなくて、なんで僕と結婚しようなんて思ったの?」
「カラダの相性?」
「マジかよ」

 真さんが爆笑して、私も笑った。天宙には降るような星空だけがあって、私は真さんをグズグズにできなかったことを、少しだけ残念に思った。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...