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【高校編】分岐・鹿王院樹
頭撫でられデイ
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「そんなシーンあったっけ……?」
学校のカフェテリアではなくて、たまに千晶ちゃんとお茶する街中のカフェ。そのすみっこの、なんだか落ち着くソファ席で、私たちは向き合って話していた。
私は暖かいカフェオレをチビチビ飲みながら千晶ちゃんに尋ねた。千晶ちゃんは「わたしもハッキリとは」と少し眉を寄せる。
「何せ、記憶が古すぎて」
「ん、まぁ」
「ただ、確かあったと思うんだよね」
うーん、と眉間に指を当てる千晶ちゃん。
「ええとね、全く別の件で"ゲームの華"ちゃんが何か不正っぽいことをして、その時に似た会話があった」
「……ていうか、さー……」
私はぽつり、と口を開く。
「なあに?」
「最近、ちょっと考えてることがあるんだけど」
「? 言ってみて」
千晶ちゃんに促され、私はぽつりぽつりと話し出す。
「私、シナリオと同じ道歩いてない?」
「どういうこと?」
「実はね」
私は肩をすくめた。
「樹くんと話してるんだけど、……このまま嫌がらせが続くようなら、転校も視野に入れようかって」
「それは」
千晶ちゃんは口ごもる。
「……華ちゃんは何も悪くないのに」
「そうなんだけどね」
青花に関しては「私何もしてません」って断言できる。
「まぁ、今のところ実害ないから。フワッと想定してるだけ、っちゃしてるだけなんだけど」
私は言いながら首をかしげる。
(それに)
ちょっと、やり残してることもあるんだ。
「うん」
「それにね、こういう、……シナリオにのった発言? っていうのかな」
私はため息をつく。
「他にもしてるんじゃないかって」
「そうかな?」
「んー。だとしたら、私」
少し泣きそうになって、カフェオレの入ったカップをぎゅうと握りしめた。
「シナリオ通りの、運命を」
「ストップストーップ!」
千晶ちゃんは顔の前で手を大きく交差させた。格闘技のレフェリーみたいに。
「華ちゃん、それはない。それは。樹くんが華ちゃん捨てるなんて、それこそ地球が滅んでもあり得ない」
「んー、そう、かな」
私も、自分で言うのもなんだけれど……それはない、とは思ってる。
「そのうちボロ出すよ、あの子。それに……もし耐えられなくなったら、ほんとに転校しちゃいな? それで華ちゃんの気がラクになるならさ」
「……だね」
私は軽く肩の力を抜いた。
帰宅すると、圭くんが壁の絵を入れ替えていた。圭くんのお父さんが描いた、白鳥の絵。
「あれ、変えちゃうの」
「ハナ」
圭くんは思いっきり眉をしかめた。
「あのオンナ、また来たんだ」
「……桜澤さん?」
「そう。なんなの」
ふうう、と圭くんは思い切り息を吐き出す。
「この絵はここにあるべきじゃない、そうしないとシナリオ……? が進まないってその一点張り」
「ここにあるべきじゃない、って」
「ハナが持ってるべきなんだって」
「……へ?」
圭くんは肩をすくめる。
「ほんとにウザいから、テキトー言ってつまみ出したんだけど」
「うん」
「この絵はハナが持ってて」
「……ええっ!?」
私はびくりと肩をゆらした。なにそれなにそれ!?
「あのオンナの言う通りにする訳じゃないよ? けど、ハナが持ってるのがしっくりするような気がしたんだ」
「あの、でも、その」
「ダメ? おれ、ハナに持っててもらいたい」
きゅるん、と首を傾げられたら、もう……断れないじゃないですか……っ!
「わ、わかった。でも、いつでも返すからね」
「ん」
圭くんはニッコリと笑う。
「とーさんも喜ぶ」
「喜ぶかなぁ?」
「うん」
ものすごく嬉しそうにされたから、とりあえず部屋に飾ってもらったけれどーーこれ、やっぱ、シナリオ通りに進んでいませんかねコレ。
(こーなりゃヤケクソだわ)
このままシナリオ通りに進むようなら、転校して戦線離脱してやるんだから……!
そんな気合いを入れて絵を見つめていると、部屋の扉がノックされた。
「? どーぞ」
「入るぞ」
樹くんの声がして、私は思わず頬が緩む。あー、好きな声。
「どうしたの?」
夕食まではまだ間があるはずだ。
「いや、これ」
樹くんはコンビニの袋を掲げた。
「寒くなる前に」
「あ、食べたかったアイス!」
大人気のアイス。盛夏の間はどこに行っても手に入らなかったのです。
9月とはいえまだまだ暑い。ツクツクホーシも現役。
「外で食べよう~」
「蚊がくるぞ」
「いーのいーの」
鯉の池を見ながら、二人で並んでアイスを食べる。いちおう、樹くんは蚊取り線香をつけてくれた。豚さん型の、よくあるやつ。ふんわりと香る、蚊取り線香の匂い。
「あのさー」
ふと、鯉を見ながら口を開く。
「子供の頃から思ってたんだけど」
「うむ?」
「この鯉ってお高い?」
初めて来た時に考えてたのだ、ここの鯉っていわゆる高級錦鯉なんじゃないかって。
「いや?」
樹くんは首を傾げた。
「貰い物とか、金魚すくいにまじってた鯉の稚魚が育ったやつだからなぁ」
「あ、そーなの?」
てっきり一千万とかするやつかと。
「いないいない」
「そーなんだ」
素人目にはよくわかりませんね。池の傍にかがんでじっと見ていると、唐突にぽん、と頭を撫でられた。
「?」
今日、ほんと頭撫でられデイかも。
「今日も大変だったようだな」
「あー」
私は手に持ったアイスを眺める。そうか、それでアイス買ってきてくれたのか。
「……割と転校を考えてるんだけど」
「うむ」
「やり残してることがあるんだよね」
「風紀委員の話か?」
「そ」
私は頷く。それさえやり遂げたら、ぶっちゃけ学校なんかどこだっていいんだよなー……。
学校のカフェテリアではなくて、たまに千晶ちゃんとお茶する街中のカフェ。そのすみっこの、なんだか落ち着くソファ席で、私たちは向き合って話していた。
私は暖かいカフェオレをチビチビ飲みながら千晶ちゃんに尋ねた。千晶ちゃんは「わたしもハッキリとは」と少し眉を寄せる。
「何せ、記憶が古すぎて」
「ん、まぁ」
「ただ、確かあったと思うんだよね」
うーん、と眉間に指を当てる千晶ちゃん。
「ええとね、全く別の件で"ゲームの華"ちゃんが何か不正っぽいことをして、その時に似た会話があった」
「……ていうか、さー……」
私はぽつり、と口を開く。
「なあに?」
「最近、ちょっと考えてることがあるんだけど」
「? 言ってみて」
千晶ちゃんに促され、私はぽつりぽつりと話し出す。
「私、シナリオと同じ道歩いてない?」
「どういうこと?」
「実はね」
私は肩をすくめた。
「樹くんと話してるんだけど、……このまま嫌がらせが続くようなら、転校も視野に入れようかって」
「それは」
千晶ちゃんは口ごもる。
「……華ちゃんは何も悪くないのに」
「そうなんだけどね」
青花に関しては「私何もしてません」って断言できる。
「まぁ、今のところ実害ないから。フワッと想定してるだけ、っちゃしてるだけなんだけど」
私は言いながら首をかしげる。
(それに)
ちょっと、やり残してることもあるんだ。
「うん」
「それにね、こういう、……シナリオにのった発言? っていうのかな」
私はため息をつく。
「他にもしてるんじゃないかって」
「そうかな?」
「んー。だとしたら、私」
少し泣きそうになって、カフェオレの入ったカップをぎゅうと握りしめた。
「シナリオ通りの、運命を」
「ストップストーップ!」
千晶ちゃんは顔の前で手を大きく交差させた。格闘技のレフェリーみたいに。
「華ちゃん、それはない。それは。樹くんが華ちゃん捨てるなんて、それこそ地球が滅んでもあり得ない」
「んー、そう、かな」
私も、自分で言うのもなんだけれど……それはない、とは思ってる。
「そのうちボロ出すよ、あの子。それに……もし耐えられなくなったら、ほんとに転校しちゃいな? それで華ちゃんの気がラクになるならさ」
「……だね」
私は軽く肩の力を抜いた。
帰宅すると、圭くんが壁の絵を入れ替えていた。圭くんのお父さんが描いた、白鳥の絵。
「あれ、変えちゃうの」
「ハナ」
圭くんは思いっきり眉をしかめた。
「あのオンナ、また来たんだ」
「……桜澤さん?」
「そう。なんなの」
ふうう、と圭くんは思い切り息を吐き出す。
「この絵はここにあるべきじゃない、そうしないとシナリオ……? が進まないってその一点張り」
「ここにあるべきじゃない、って」
「ハナが持ってるべきなんだって」
「……へ?」
圭くんは肩をすくめる。
「ほんとにウザいから、テキトー言ってつまみ出したんだけど」
「うん」
「この絵はハナが持ってて」
「……ええっ!?」
私はびくりと肩をゆらした。なにそれなにそれ!?
「あのオンナの言う通りにする訳じゃないよ? けど、ハナが持ってるのがしっくりするような気がしたんだ」
「あの、でも、その」
「ダメ? おれ、ハナに持っててもらいたい」
きゅるん、と首を傾げられたら、もう……断れないじゃないですか……っ!
「わ、わかった。でも、いつでも返すからね」
「ん」
圭くんはニッコリと笑う。
「とーさんも喜ぶ」
「喜ぶかなぁ?」
「うん」
ものすごく嬉しそうにされたから、とりあえず部屋に飾ってもらったけれどーーこれ、やっぱ、シナリオ通りに進んでいませんかねコレ。
(こーなりゃヤケクソだわ)
このままシナリオ通りに進むようなら、転校して戦線離脱してやるんだから……!
そんな気合いを入れて絵を見つめていると、部屋の扉がノックされた。
「? どーぞ」
「入るぞ」
樹くんの声がして、私は思わず頬が緩む。あー、好きな声。
「どうしたの?」
夕食まではまだ間があるはずだ。
「いや、これ」
樹くんはコンビニの袋を掲げた。
「寒くなる前に」
「あ、食べたかったアイス!」
大人気のアイス。盛夏の間はどこに行っても手に入らなかったのです。
9月とはいえまだまだ暑い。ツクツクホーシも現役。
「外で食べよう~」
「蚊がくるぞ」
「いーのいーの」
鯉の池を見ながら、二人で並んでアイスを食べる。いちおう、樹くんは蚊取り線香をつけてくれた。豚さん型の、よくあるやつ。ふんわりと香る、蚊取り線香の匂い。
「あのさー」
ふと、鯉を見ながら口を開く。
「子供の頃から思ってたんだけど」
「うむ?」
「この鯉ってお高い?」
初めて来た時に考えてたのだ、ここの鯉っていわゆる高級錦鯉なんじゃないかって。
「いや?」
樹くんは首を傾げた。
「貰い物とか、金魚すくいにまじってた鯉の稚魚が育ったやつだからなぁ」
「あ、そーなの?」
てっきり一千万とかするやつかと。
「いないいない」
「そーなんだ」
素人目にはよくわかりませんね。池の傍にかがんでじっと見ていると、唐突にぽん、と頭を撫でられた。
「?」
今日、ほんと頭撫でられデイかも。
「今日も大変だったようだな」
「あー」
私は手に持ったアイスを眺める。そうか、それでアイス買ってきてくれたのか。
「……割と転校を考えてるんだけど」
「うむ」
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