【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
669 / 702
【高校編】分岐・鹿王院樹

成績

しおりを挟む
 夏休み明け最初の実力テスト、その結果が、職員室前の廊下に張り出されていた。高等部全学年の、上位50人の氏名と点数だ。

(個人情報的なのはいーんだろうか)

 そう思うんだけれど、まぁ、上位50人くらいは「頑張ったね!」的な意味で張り出されても良いのかもしれない。

「……5位かぁ」

 人だかりのなか、なんとか自分の名前を見つけた。

「設楽さん上がってるじゃん!」

 一緒に見にきた大村さんは、私の名前をみてはしゃぐ。

「ありがとー」

 えへへ、と笑うと「設楽さん頑張ってたもんね!」と頭を撫でられた。なんていうんだろ、褒められて素直に嬉しいです。

(でもほんとに頑張ったもんな!)

 手前味噌だけれどさー。高二の夏は受験を制するらしいからさ……。いつかも聞いたようなフレーズだなこれ。毎年言われてない?

「大村さんは?」
「17位」
「あ、でも古典は3位? すごっ」
「数学に足引っ張られたよねー……あ、鹿王院くん、45位」

 樹くんの名前を見つけて、大村さんは感心したように言った。

「すごいよねー、ずらりと特進のメンバーの名前の中に、唯一のスポクラ」
「家庭教師がいいですから」

 なんて自慢気に言ってしまうけど、原作ゲームでは樹くんの成績はもっと良かった。

(今ほど忙しくないはずだったもんね)

 部活と、家の仕事のお手伝いはゲームのままだ。
 けれど、今……つまり現実では、樹くんはクラス自体違う。ゲームでは「青百合組」なんて呼ばれる内部進学組のクラスにいた。
 でも、今はスポクラ、スポーツ特待の生徒が殆どを占めるクラスに在籍しているし、その上に年代別の代表に選ばれたり、合宿に呼ばれたりして、忙しさが段違いなのだ。学校に来れない日だって結構ある。

(なにが影響したんだろ?)

 樹くんのサッカー人生に、なにがそんな変化をもたらしたんだろうか。

「あのさ、ノロケ?」
「えへへ」

 まぁ、家庭教師とは何を隠そう私のことだったりするのですよ。
 そんな話をのんびり話していると「はああ!?」って声がして振り向く。

「あ、痛い子」

 大村さんが眉をしかめる。痛い子、なんて呼ばれちゃってるのは桜澤青花だ。思わず身体をすくめた。

(あの男のひと……)

 お寿司屋さんで、唐突に私を襲撃(?)した犯人が、直前まで一緒にいたのが青花だった、らしい。

(でも、青花がけしかけたっていう証拠が、何一つなくて)

 犯人も未成年、出来心、突発的な犯行だった、反省もしている、ってことで不起訴になった。親御さんも出てきて平謝りだったけれど。青ざめてたなぁ……人間ってあんな顔色になるんだなぁ……。
 とにかくまあ、関わり合いになりたくなくて、大村さんに小さく「行こ?」と袖を引いた。大村さんも頷く。

「ちょっと! 逃げるの設楽華!?」

 びしり、と青花は私の背中に向けて大声で叫ぶ。

「こんな順位、あるはずがないじゃない! 不正よ!」

 私はゆるゆると振り返る。不正? その言葉はーー許せなかった。私の努力を否定された気がした。

「根拠はなに? 桜澤さん」

 私は青花に向き直り、はっきりくっきり言った。

「私が不正をした、なんて証拠は」

 私の声は、思ったよりあたりに響いたみたいで、廊下がしんとなる。

「証拠お? 証拠ならあるわよ!」

 ふんす、と青花は鼻息荒く、胸を張る。

「設楽華がこんな成績、とれるはずがないからっ!」

 私はなんだか、全身から力が抜けそうになって肩を落とした。

(……それは、ゲームでの話でしょ?)

 毎年留年ギリギリなとこを、学園長に泣きついて進級させてもらって、とかだったっけ……?

(でもいま、"私"は特進クラスにまでいるのに)

 そのへん、青花はどう捉えてるんだろ……。ま、いいか。

(あほらしー)

 なんか急に、怒りが抜けていった。こんな子相手してる暇があったら、英単語覚えてた方がいいよ。

「時間の無駄。いこ、大村さん」
「だね」

 踵を返した私に、大村さんは微笑む。青花はびっくりした顔をーーけれどとても、嬉しそうな顔をしていた。

(?)

 なんでだろ。
 不思議に思いながらも、その日はいつもの通りに過ぎて行った。

「あ、立候補するの華ちゃん」

 委員会の帰り、廊下を歩いてると千晶ちゃんと出会う。千晶ちゃんの視線の先には、私が持ってた立候補届。
 じきに、生徒会選挙が始まるのです。

「うん」

 軽く肩をすくめた。

「当選するとは思ってないんだけど、風紀の委員長、なれたら色々早いかなって」

 前世紀につくられた、古臭い校則の改革!

「当選してよ華ちゃん、手伝う」

 千晶ちゃんはハーフアップにしてる髪に触れた。

「ポニテのが落ち着く。ポニテなんか若いうちしかできないんだから、好きなだけうなじ晒させて欲しい」

 これまた中身がオトナな千晶ちゃんらしい見解だけれど、私は首を傾げた。

「何歳でも、似合うなら良くない?」

 ていうか千晶ちゃんは美人さんなので、どんな髪型でも似合うと思うのですよねー……。

「そーかなー? ま、とにかく手伝う! 絶対変だもん」

 千晶ちゃんは口を尖らせた。

「それはそうと、」

 千晶ちゃんはふと口調を変えた。

「見てたよ、昼の、桜澤青花との一件」
「あー」

 私は苦笑いして頬をかいた。

「なんか、ちょっとイラっときて」
「あれはムカつくよ。てか、誰も華ちゃんが不正したなんて信じてないから大丈夫」

 千晶ちゃんはそっと私の頭をぽん、と撫でてくれた。なんだか撫でられデイだなぁ。

「そういえば、あの時青花笑ってたんだけど」
「え?」
「私があそこ離れる直前」
「……ああ」

 千晶ちゃんは顎に手を当て、少し考える。

「もしかしたら、……場面は全然ちがうんだけど、似たようなセリフがあったんだよね」
「え、ゲームに?」
「うん、それのことかも」

 千晶ちゃんはふと周りを見回し「あとでカフェ来れる?」と小さく言った。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...