【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
559 / 702
【高校編】分岐・相良仁

秘するが花(side仁)

しおりを挟む
「色々考えたんだけどさー」

 華はぶつくさと言った。

「選挙、出る」
「簡単に言うなあ」
「考えたんだって! これでも!」

 華はぷうと頬を膨らませる。

「だってさあ、その方が早そうだし」
「なんでその辺に燃えてんのお前」

 校則の改革だとかなんだとか。

(別に、前世でもフェミニストって訳でもなかったよなぁ)

 まぁたしかに古臭いとは思うけど。

「だってさ」

 華はふ、と目線を落として、少し微笑んだ。

「次に入学してくる子たちにさ、同じ苦労させたくないじゃん?」
「……そっか」

 実に華らしい理由だった。

「ところでさ」

 華が首を傾げた。

「この姿勢はなんでしょう?」
「んー?」

 俺の車の中、華は俺の膝の上にいた。横向きに座って、頭を俺の右肩に。

「いやぁなんか時々お前こうしたくなるんだよね」

 時々、なんていうけど本当は四六時中こうやっていちゃついてたい。そんな塾帰りの車内ーー。堂々と華を家まで送れるようになったのは、ほんとに嬉しい。こうやっていちゃつけるから。

「んー、でもさぁ」

 薄暗い車内で、華はぴしり、と俺の手を叩く。

「お腹触るの禁止」
「エッなんで」
「……ヤラシクなるでしょ?」

 そう言って見上げる華の目は、ほんとちゃんとした「大人のひと」の目で、……こういう、中身と外見の年齢差っていうか、そういうのがコイツの容姿の良さ以上にヒトを惹きつけちゃうのかもなー、なんて思う。

「……ごめん」
「ね?」
「まぁ止めないけど」
「へ!?」

 びっくり顔の華に軽くキス。それだけで華は驚くくらいトロンとなるから、ほんと俺の理性ってすごいよなーと思う。まぁ伊達にトシ食ってないってコトで。

「だってさぁ俺もさあ疲れるわけよ流石に」
「……ん、お疲れ様」

 素直に返された。頬をむにりと掴む。やめてよって顔された。かーわいい。

「まぁ、激務だと思います……」
「でしょ?」

 通常の華の護衛に加えて学校業務! 特にテスト前後はほんとにキツイ。

「そーなるとさ、俺も癒しが必要なわけ」

 華をぎゅうぎゅう抱きしめて、色んなとこにキスを落として、華の色んな反応たのしんで。

(華のにおい)

 甘いような、蕩けるような。

「あー、ほんと好き」
「……っ、そんな急に」

 俺の腕の中で、頬を赤くして、口を手の甲で少し隠してーー。

「誘ってるようにしか見えない」
「さ、誘ってない! ていうか、そんなこと言わない!」
「うんうん」

 割とてきとーに返事をして、軽く耳を噛む。びくりと震える身体、見上げた瞳はしっとり濡れてる。

「早く卒業して」
「……したいよ私だって」

 俺は軽く微笑む。

「でもまぁ、高校生活楽しんで欲しいって気持ちもあるんだぜ俺には」
「本当? まぁね、一生に一回の三年間だもんね」
「前世含めてると6年だけどな」
「揚げ足とらない……あ、ていうか」

 華は少し眉を下げた。

「そろそろ帰らないと」
「もー?」

 うん、と華は頷く。

「シュリちゃんに、色々……、バレてて」
「そりゃそーだ」
「し、知ってたの!?」

 俺を見あげる華の額に、そっとキス。

「ごめんな、あれ、俺のミス」
「……え?」
「お前さ、あのお嬢様のスマホ借りて買い物してただろ」
「え、あ、うん」
「履歴見られてたぞ多分。まぁ見るつもりは無かったと思うけど、勝手に履歴出てたんだろ」

 一応フォロー。あの子を悪く言いたいわけじゃない。

「り、履歴……」
「俺のピアス」

 華は目をまんまるに見開いた。

「お前が買ったのと、同じピアスしてたからさ」
「……あ~っ」

 華は眉間に指を当てて、俯いた。それからぱっ、と俺を見上げた。

「ご、ごめん、私のせいじゃん!」
「いや、俺が気ぃ抜けてただけ。すまん」
「仁のせいじゃ……」

 華は見るからにシュン、とする。

「大丈夫、いざとなりゃ色々画策するから大丈夫」
「……なに企んでるの? 悪巧み?」
「失敬な」

 俺は苦笑いして、軽くデコピンした。隠し玉の一つや二つ、取っておくもんだ。

「ダイジョーブダイジョーブ」
「なんで外国人なまりなの……」

 思い切り訝しそうなカオをされた。俺はちょっと笑いながら、軽く唇にキスを落とす。はー、ほんとに可愛いんだからさ。

「そーいうことなら、ま、そろそろ帰りますか」
「ご、ごめんね……でもね、シュリちゃん悪いわけじゃないの」
「知ってるよ」

 あの子はあれで、案外まっとうな人格をしてる。

「そりゃ、……知ってる子がオッサンに手ぇ出されてたら心配するよね、っていう……」
「オッサンに言うな」

 華が助手席に戻りながら相変わらず失礼なことを言うので、俺は一応突っ込んだ。

「や、これ結構マジで。ジョシコーセーと三十路だよ? アウトもアウト」
「まーな」

 だからこそ、俺は最後の一線は超えない覚悟がある。例え中身が大人だろうと、華の身体はまだ子供なんだから。

(ま、17と18とどう違うのかって言われたら、そりゃそーなんだけどさ)

 でも、だからこそ線引きは大事なんだと思う。

「だからね、シュリちゃん、……なんていうか、いい子なんだよ」
「ん」
「いい子なんだけど、だから、……分かって欲しいとか、思っちゃう」
「うん」

 俺は華の頭をそっと撫でて、頷いた。

(きっとそれは無理だよ、華)

 そう思ったけれど、それを言えばあの子の気持ちを言葉に滲ませてしまうような気がして、そっと俺は口をつぐんだ。秘するが花、とも言うからな。
 ーーきっとあの子は、そうするつもりなのだろうし、俺がどーのこーの言っていいもんじゃない。

(でもそうであれば、)

 俺はアクセルを踏みながら思う。

(あの子の気持ちは、どこへ向かうんだろう?)

 ふと、そんなことを考えた。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...