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【高校編】分岐・相良仁
月(sideシュリ)
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「へえ生徒会選挙」
「そうなの!」
華はなんだかやる気があるらしく、リビングのテーブルでせっせと書類になにか書き込んでいた。
まだ敦子おばさんも、圭も帰宅してない。お手伝いの八重子さんは今日はお休み。……この家に、あたしと、華、だけ。
「なにそれ」
「選管に出すしょるーい」
華はボールペン片手にうなる。
「ふーん」
あたしはキッチンへ向かう。
「……コーヒー飲むけど」
「? うん」
「飲む?」
「へっ」
華がぐるりと振り向いた。
「え、シュリちゃんが私にコーヒー?」
ビックリ顔で言うから少しイラっとする。
「なによ、飲むの? 飲まないの」
「の、飲む飲む飲みます」
あたしは無言でお湯をコンロにかけた。羽織ってた薄手のパーカーのポケットから「それ」を取り出す。白い粉。
ちらり、と華を見た。書類に向かってうんうんと唸る華。
華のカップに、それをさらりと入れた。
(……どうだろう、味は)
砂糖とかミルクとか、いれといたほうが誤魔化せるかしら。
ドリッパーにフィルター、それからコーヒーの粉をいれてゆっくりとお湯を注いだ。
すぐに香るコーヒーの香りに、華は反応する。
「わ、いいかおり」
あたしを見て華は微笑む。あたしの好きな笑顔で。
「でも珍しいねシュリちゃん、いつもお紅茶なのに」
「……まぁね」
口だけで笑った。紅茶だったら、いくらなんでも味で何か入ってるってバレるんじゃないかって。
「どーぞ」
勝手にカフェオレにしたマグカップを華の前に置く。華はなんの疑問も抱かずそれを口につけた。あたしは微笑む。
「おいしい?」
「? うん」
あたしを見て華は笑った。
「おいしいよ、シュリちゃん」
「そう」
っていうか、華って味オンチだし紅茶でも気がつかなかったかもね。そう考えると少しおかしくて、あたしはクスクス笑った。華は不思議そうにキョトンとしてて、あたしはその眉間を軽く小突いた。
まったく、なんて顔してあたし見てるのよ。
なんの疑問も疑惑も抱かず、どうしてあたしなんか信頼できるのよ。
だからーーそんなモン、飲まされてるのよ? わかる? 華。
華は微笑んで「ありがとうシュリちゃん」と、また、カフェオレに口をつけた。
部屋に戻ってスマホを見ると、SNSに「あいつ」からまたメッセージが届いていた。
『ちゃんと届きましたか?』
『届いたわよ飲ませたわよ』
そう、返信した。
『じわじわと効果が出る薬です』
すぐに返信が来た。
『司法解剖されても、誰もあなたが犯人だとは気がつかない』
あたしは目を伏せた。
机の上に置かれた一通の封筒、そこには手紙もなにもなく、ただ数シートの錠剤が入っていた。
『あなたは誰』
答えは期待せず、そう送った。
返信は、来なかった。
あたしは引き出しをあけて、そこから錠剤のシートを取り出した。
キッチンシートに包んで、コップの底でゴンゴンと潰す。粉状になったそれを、あたしは無言で見つめた。
キッチンシートで、丁寧に包む。こぼれないように。
窓の外は満月になりかけの青い月が浮かんでいて、ああ中秋の名月が近いのかしら、なんて思う。華はお団子を食べたがるだろうから、学校帰りにでも買ってきてあげよう。
「喜ぶかしら」
ぽつりと言って、あたしは笑う。きっとバカみたいに幸せそうに笑うんだ。
あたしはそれを想像して、少し暖かい気分になった。
(ああ、あの子の笑顔をあたしだけのものにできたら)
それはとても甘美で、蕩けそうなくらい魅惑的な妄想だった。
狂おしい、ほどに。
こんこん、と扉をノックする音がして、あたしは緩慢に「どうぞ」と返事をした。
「ねえ、シュリちゃん悪いんだけど数列のさぁ……あれ、どうしたの」
私が手に持っている銀色のシートを見て、華は言う。
「体調悪いの?」
「ビタミン剤よ」
「ふーん?」
華は首を傾げて、あたしは笑う。
「数列? いいわよ教えてあげる」
「あ、助かる」
微笑む華の笑顔を横目で見ながら、あたしは銀色のシートを引き出しにしまって、封筒を乱雑に本棚に押し込んだ。
「ありがとう、シュリちゃん」
何も知らない華は微笑む。
あたしはただ目を細めた。
(なにも知らないままでいてね)
何も知らずに、笑っていてほしい。あたしはただ、それだけを、願った。
「そうなの!」
華はなんだかやる気があるらしく、リビングのテーブルでせっせと書類になにか書き込んでいた。
まだ敦子おばさんも、圭も帰宅してない。お手伝いの八重子さんは今日はお休み。……この家に、あたしと、華、だけ。
「なにそれ」
「選管に出すしょるーい」
華はボールペン片手にうなる。
「ふーん」
あたしはキッチンへ向かう。
「……コーヒー飲むけど」
「? うん」
「飲む?」
「へっ」
華がぐるりと振り向いた。
「え、シュリちゃんが私にコーヒー?」
ビックリ顔で言うから少しイラっとする。
「なによ、飲むの? 飲まないの」
「の、飲む飲む飲みます」
あたしは無言でお湯をコンロにかけた。羽織ってた薄手のパーカーのポケットから「それ」を取り出す。白い粉。
ちらり、と華を見た。書類に向かってうんうんと唸る華。
華のカップに、それをさらりと入れた。
(……どうだろう、味は)
砂糖とかミルクとか、いれといたほうが誤魔化せるかしら。
ドリッパーにフィルター、それからコーヒーの粉をいれてゆっくりとお湯を注いだ。
すぐに香るコーヒーの香りに、華は反応する。
「わ、いいかおり」
あたしを見て華は微笑む。あたしの好きな笑顔で。
「でも珍しいねシュリちゃん、いつもお紅茶なのに」
「……まぁね」
口だけで笑った。紅茶だったら、いくらなんでも味で何か入ってるってバレるんじゃないかって。
「どーぞ」
勝手にカフェオレにしたマグカップを華の前に置く。華はなんの疑問も抱かずそれを口につけた。あたしは微笑む。
「おいしい?」
「? うん」
あたしを見て華は笑った。
「おいしいよ、シュリちゃん」
「そう」
っていうか、華って味オンチだし紅茶でも気がつかなかったかもね。そう考えると少しおかしくて、あたしはクスクス笑った。華は不思議そうにキョトンとしてて、あたしはその眉間を軽く小突いた。
まったく、なんて顔してあたし見てるのよ。
なんの疑問も疑惑も抱かず、どうしてあたしなんか信頼できるのよ。
だからーーそんなモン、飲まされてるのよ? わかる? 華。
華は微笑んで「ありがとうシュリちゃん」と、また、カフェオレに口をつけた。
部屋に戻ってスマホを見ると、SNSに「あいつ」からまたメッセージが届いていた。
『ちゃんと届きましたか?』
『届いたわよ飲ませたわよ』
そう、返信した。
『じわじわと効果が出る薬です』
すぐに返信が来た。
『司法解剖されても、誰もあなたが犯人だとは気がつかない』
あたしは目を伏せた。
机の上に置かれた一通の封筒、そこには手紙もなにもなく、ただ数シートの錠剤が入っていた。
『あなたは誰』
答えは期待せず、そう送った。
返信は、来なかった。
あたしは引き出しをあけて、そこから錠剤のシートを取り出した。
キッチンシートに包んで、コップの底でゴンゴンと潰す。粉状になったそれを、あたしは無言で見つめた。
キッチンシートで、丁寧に包む。こぼれないように。
窓の外は満月になりかけの青い月が浮かんでいて、ああ中秋の名月が近いのかしら、なんて思う。華はお団子を食べたがるだろうから、学校帰りにでも買ってきてあげよう。
「喜ぶかしら」
ぽつりと言って、あたしは笑う。きっとバカみたいに幸せそうに笑うんだ。
あたしはそれを想像して、少し暖かい気分になった。
(ああ、あの子の笑顔をあたしだけのものにできたら)
それはとても甘美で、蕩けそうなくらい魅惑的な妄想だった。
狂おしい、ほどに。
こんこん、と扉をノックする音がして、あたしは緩慢に「どうぞ」と返事をした。
「ねえ、シュリちゃん悪いんだけど数列のさぁ……あれ、どうしたの」
私が手に持っている銀色のシートを見て、華は言う。
「体調悪いの?」
「ビタミン剤よ」
「ふーん?」
華は首を傾げて、あたしは笑う。
「数列? いいわよ教えてあげる」
「あ、助かる」
微笑む華の笑顔を横目で見ながら、あたしは銀色のシートを引き出しにしまって、封筒を乱雑に本棚に押し込んだ。
「ありがとう、シュリちゃん」
何も知らない華は微笑む。
あたしはただ目を細めた。
(なにも知らないままでいてね)
何も知らずに、笑っていてほしい。あたしはただ、それだけを、願った。
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