【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

文字の大きさ
561 / 702
【高校編】分岐・相良仁

月(side仁)

しおりを挟む
「華様が保健室にいらっしゃいまして」
「え、どっか悪いの」

 放課後、社会資料室にフラリとやってきた小西が開口一番にそう言うから、少し俺は焦る。
 なに、体調悪かったのかアイツ。今日は選挙の何やらで、あまり顔を見てない。護衛はきっちり張り付かせているけれど。

「吐き気とめまいが」
「……吐き気?」
「……」
「ちょっと待ってなんで無言で俺見るの」

 ジト目だ。

「いえー? ツワリかなぁって」
「ありえない!」

 慌てて叫んだ。

「ヤってない!」
「ヤるだなんて、まぁお下品な」
「言わせたのはそっちだろーが!」

 小西は上品そうな柳眉をひそめて俺をチラ見したあと、「ま、それはないだろつなとは思っていたのですが」と小さく言った。

「……じゃあなんでわざわざ」
「カマをかけました」
「さいですか……」

 がくりと肩を落とす。

「まぁおそらくは、ストレスに起因するものではないでしょうか? 生徒会選挙も佳境ですし」
「だろうなぁ」

 俺は軽く眉をひそめた。普通でさえ、そういうのってストレスになるところ、華の場合は桜澤青花による選挙妨害とも戦わなきゃいけなかったり、する。

「明日の選挙演説、何事もないと良いのですが」
「だなぁ」

 とりあえず何事もないことを祈る。学園内では、こちらもあまり派手には動けないし。

「とりあえず華様、長引くようなら内科の受診をお勧めしていただけます?」
「りょーかい」

 俺はそう返事をして、淹れたばかりのコーヒーを小西に勧めた。

「いえいりません」
「あ、そ?」
「では」

 さっさと小西は資料室を出て行く。俺はそれを横目で眺めながら、華の吐き気とかが少し心配になったりする。

(ストレス、ねぇ)

 まぁ正直なところ、俺としては校則だのなんだのにそこまで心血注がなくてもいいんじゃないか、とは思う。

(でもそれでほっとけないのが、華なんだろうなぁ)

 自分が嫌な思いをしたからお前もしろーーなんて考え方とは、程遠いタイプだ。自分がした理不尽な苦労を、他の人にはさせたくないと考える、そんな人間だから……俺は好きになったんだろうなと思う。前世でも。
 クスリと笑って、俺は仕事の資料に再び目線を戻す。ちょうどスマホには、護衛チームの人間から華の帰宅を見届けた旨の連絡が入っている。
 それに返信しようとした瞬間、華からもメッセージが入った。添付された写真は、やたらとウマソーなお団子。

『シュリちゃんが買ってきてくれてた!』

 とのことで、俺は「おいおい胃袋掴みにかかられてない?」と少し苦笑いする。絆されないでくれよ俺以外のやつにさ……。

『食欲あんのか』

 その返信に、すぐに『めっちゃお団子食べたけど?』と返事が来て安心する。吐き気はあるが食欲はちゃんとあるらしい。

(一応、直接会って確認はするけども)

 今のところ、心配はなさそうだと安心する。

『あ、小西先生に聞いたの?』
『うん』
『心配かけてごめんねご飯食べたら元気』
『そりゃ良かった』

 次に送られてきたのは、月の写真。めっちゃ遠いけど。

『月がきれいですね』

 俺はしばらくスマホを見て固まった。それから笑う。まったくまぁ、使い古された……でもまぁ、案外言われると悪くないもんだ。
 俺はしばらく考え込んで、それから普通に打ち込んだ。

『俺も愛してる』

 いやぁ、シラフでこんなこと言う日がくるとは。若干の羞恥でスマホを見つめたまま、しばし無言になる。いやまぁ、1人だったんだけど。
 ややあって、来た返信は『ストレートすぎる!』だった。思わず笑う。

『だって俺イギリス人だもん』
『そうかもだけど!』

 俺は準備室の窓から月を見上げた。華もこの月みながら、一人で赤くなって悶えてるかと思うとなんだか笑えるような、幸せなような気持ちになって目を細めた。
 そのうち毎日、並んで手を繋いで、月を眺める日がくることを、俺は何も疑っていなかった。
しおりを挟む
感想 168

あなたにおすすめの小説

傷物令嬢は魔法使いの力を借りて婚約者を幸せにしたい

恋愛
ローゼライト=シーラデンの額には傷がある。幼い頃、幼馴染のラルスに負わされた傷で責任を取る為に婚約が結ばれた。 しかしローゼライトは知っている。ラルスには他に愛する人がいると。この婚約はローゼライトの額に傷を負わせてしまったが為の婚約で、ラルスの気持ちが自分にはないと。 そこで、子供の時から交流のある魔法使いダヴィデにラルスとの婚約解消をしたいと依頼をするのであった。

ナイスミドルな国王に生まれ変わったことを利用してヒロインを成敗する

ぴぴみ
恋愛
少し前まで普通のアラサーOLだった莉乃。ある時目を覚ますとなんだか身体が重いことに気がついて…。声は低いバリトン。鏡に写るはナイスミドルなおじ様。 皆畏れるような眼差しで私を陛下と呼ぶ。 ヒロインが悪役令嬢からの被害を訴える。元女として前世の記憶持ちとしてこの状況違和感しかないのですが…。 なんとか成敗してみたい。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!

白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。 辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。 夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆  異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です) 《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆ 

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

処理中です...