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【高校編】分岐・黒田健
リアル
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「……お前ってさ」
「うん」
「トラブル体質だよな?」
私を自転車の後ろに乗せて歩きながら、黒田くんは言った。顔は見えないので、どんな顔をしてるかは分からないけれど、きっといつも通りな顔で言ってるんだろう。
けれど、声のトーンはとても心配そうで。
「……そんなつもりはないんだけどね」
「責めてるつもりじゃねーよ」
「うん」
分かってる。
私は小さく頷いた。
「しかし、現場抑えられといて1時間無言で通すっつーのは、なんだろうなぁ。わかんねーな」
黒田くんの言う通り、さっき桜澤さんの取り調べ(というか、職員室で事情を聞いたらしいけど)をした仁いわく「ずーっと無言」。
徹頭徹尾、黙秘を貫いてーー最終的に親御さんがすっ飛んできた。
(ま、あれは仁の言い方も悪かったと思うのよねー)
校内でカッター振り回してたから回収に来い、みたいな。
(……でも)
妙に親御さん、慣れてた。トラブルを起こされるのには慣れてる、みたいな。慣れすぎて憔悴しきっていた。
こっそり職員室覗きに行って、胸が痛くなってしまった。「またなの?」ってお母さんの悲しそうな声と、つんと顎を逸らす桜澤さんと。
私にも謝ってくれる、って言ったらしいけど関わり合いになりたくないから断った。
そんな訳で桜澤さん、今回は厳重注意だけで済まされた感じ、なんだけれど。
ぴたり、と黒田くんが立ち止まる。
「? どうしたの」
「何の用だ」
黒田くんが言った先には、小さなコンビニ。そこのゴミ箱の影から、ゆらりと誰かが立ち上がった。
「こんばんは?」
「てめーが桜澤か」
「あらご挨拶」
ふらふら、と桜澤さんは歩いてくる。それからとても、不思議そうに私と黒田くんを交互に見つめた。
「どんなご関係?」
「ごそーぞーにお任せします、って感じだな」
黒田くんは淡々と言う。
「ふうん?」
桜澤さんは首を傾げた。それからぽつり、と小さく言う。
「……現実って時々、すっごいふしぎ」
「なにがだよ」
「黒田健と設楽華が付き合ってるだなんて、誰が想像できる? ねえそれは鹿王院樹は知ってることなの?」
黒田くんは無言で桜澤さんと対峙し続ける。
「……現実感が、ないのよ、ねー」
ぽつぽつ、と桜澤さんは言う。
「ずうっと、ガラスの膜が張ってるみたいな」
私は思わず息を飲む。それは、私が「前世の記憶」を取り戻して、しばらくあった感覚だから。
砂を噛むような、どこか人ごとみたいな。
「だけど、……あたしね」
すっかり真っ暗で、コンビニから漏れるぼんやりとした明かりの中で、桜澤さんはふわりと笑った。
「誰かを傷つける時だけは、それがなくなるの。リアルだなぁって思う」
「……それで設楽に手ぇ出したのか?」
黒田くんの低い声。桜澤さんはまったく怯む様子も見えなかった。
「それはまた別。遊び? 設楽華にも言ったけれど、現実とゲームのすり合わせ作業」
「何の話だよ」
「モブくんには分からない」
「……前にも誰かに言われたよ、それ」
「へえ?」
少しだけ桜澤さんは楽しそうに肩を揺らす。
「ま、……しばらくは大人しくしておくわよ。退学になったりしても困るから」
「桜澤」
黒田くんが名前を呼んだ。
「次に設楽に何かしてみろ、オンナだからって容赦はしねー」
「あら怖い」
やっぱり桜澤さんはクスクス笑いながら、くるりと背を向けてコンビニへ入って行ってしまった。
「……大丈夫か設楽」
少し気が抜けて、黒田くんにしがみつくみたいになってる私に、黒田くんは優しく言ってくれた。
「……ん」
なんとか返事をする。……なかなか、すごい子だよね、多分。なんだか苛烈なひとだった。
(しばらくじゃなくて、永遠に大人しくしてて欲しい……)
ぐったりしてる私は黒田くんに心配されながら家に送り届けてもらって、まぁ帰宅するとちょっと落ち着いた。
お手伝いさんの八重子さんが作ってくれてた晩ご飯は、グラタンとオニオンスープで私は歓喜してしまう。
「ちょっと、あんたはしゃぎすぎ」
シュリちゃんに少し怒られた。
「だって八重子さんのオニオンスープ、大好きなんだもんー!」
イヤなことがあった分、ご飯が好きなやつだとテンション上がります!
「おれも」
圭くんも同意してくれた。ふふ、さすがわかってる!
そのあと自室に帰って勉強してると、ドアがノックされる。
「はーい」
「ただいま、華」
敦子さんだった。
「? おかえりなさい、どうしたの?」
「学校から連絡が来て」
トラブルですって? と心配気に言う敦子さんに、私は笑って見せた。
「ぜーんぜん大丈夫。ちょっと不安定な子だったみたいで」
「……そう? なにかあったら言って頂戴」
「はぁい」
返事をして、ぱたりとドアが閉まったところで、今度はお子様スマホが鳴り響く。
「はいはいはい」
なんだか忙しいなぁ! と画面を見ると黒田くんで、私は「はーい」と通話に出た。
『よう今大丈夫か?』
「うん」
『実はな』
黒田くんは、桜澤さんのことについてちょっと調べてくれたらしい。
『でな、桜澤と同じ中学だったって奴と友達だってのが、通ってる道場の後輩にいて』
「うん」
『……桜澤、あいつは多分、どっかぶっ飛んでる』
黒田くんが人をそんな風に評するのは珍しくて、私は思わず首を傾げた。
「うん」
「トラブル体質だよな?」
私を自転車の後ろに乗せて歩きながら、黒田くんは言った。顔は見えないので、どんな顔をしてるかは分からないけれど、きっといつも通りな顔で言ってるんだろう。
けれど、声のトーンはとても心配そうで。
「……そんなつもりはないんだけどね」
「責めてるつもりじゃねーよ」
「うん」
分かってる。
私は小さく頷いた。
「しかし、現場抑えられといて1時間無言で通すっつーのは、なんだろうなぁ。わかんねーな」
黒田くんの言う通り、さっき桜澤さんの取り調べ(というか、職員室で事情を聞いたらしいけど)をした仁いわく「ずーっと無言」。
徹頭徹尾、黙秘を貫いてーー最終的に親御さんがすっ飛んできた。
(ま、あれは仁の言い方も悪かったと思うのよねー)
校内でカッター振り回してたから回収に来い、みたいな。
(……でも)
妙に親御さん、慣れてた。トラブルを起こされるのには慣れてる、みたいな。慣れすぎて憔悴しきっていた。
こっそり職員室覗きに行って、胸が痛くなってしまった。「またなの?」ってお母さんの悲しそうな声と、つんと顎を逸らす桜澤さんと。
私にも謝ってくれる、って言ったらしいけど関わり合いになりたくないから断った。
そんな訳で桜澤さん、今回は厳重注意だけで済まされた感じ、なんだけれど。
ぴたり、と黒田くんが立ち止まる。
「? どうしたの」
「何の用だ」
黒田くんが言った先には、小さなコンビニ。そこのゴミ箱の影から、ゆらりと誰かが立ち上がった。
「こんばんは?」
「てめーが桜澤か」
「あらご挨拶」
ふらふら、と桜澤さんは歩いてくる。それからとても、不思議そうに私と黒田くんを交互に見つめた。
「どんなご関係?」
「ごそーぞーにお任せします、って感じだな」
黒田くんは淡々と言う。
「ふうん?」
桜澤さんは首を傾げた。それからぽつり、と小さく言う。
「……現実って時々、すっごいふしぎ」
「なにがだよ」
「黒田健と設楽華が付き合ってるだなんて、誰が想像できる? ねえそれは鹿王院樹は知ってることなの?」
黒田くんは無言で桜澤さんと対峙し続ける。
「……現実感が、ないのよ、ねー」
ぽつぽつ、と桜澤さんは言う。
「ずうっと、ガラスの膜が張ってるみたいな」
私は思わず息を飲む。それは、私が「前世の記憶」を取り戻して、しばらくあった感覚だから。
砂を噛むような、どこか人ごとみたいな。
「だけど、……あたしね」
すっかり真っ暗で、コンビニから漏れるぼんやりとした明かりの中で、桜澤さんはふわりと笑った。
「誰かを傷つける時だけは、それがなくなるの。リアルだなぁって思う」
「……それで設楽に手ぇ出したのか?」
黒田くんの低い声。桜澤さんはまったく怯む様子も見えなかった。
「それはまた別。遊び? 設楽華にも言ったけれど、現実とゲームのすり合わせ作業」
「何の話だよ」
「モブくんには分からない」
「……前にも誰かに言われたよ、それ」
「へえ?」
少しだけ桜澤さんは楽しそうに肩を揺らす。
「ま、……しばらくは大人しくしておくわよ。退学になったりしても困るから」
「桜澤」
黒田くんが名前を呼んだ。
「次に設楽に何かしてみろ、オンナだからって容赦はしねー」
「あら怖い」
やっぱり桜澤さんはクスクス笑いながら、くるりと背を向けてコンビニへ入って行ってしまった。
「……大丈夫か設楽」
少し気が抜けて、黒田くんにしがみつくみたいになってる私に、黒田くんは優しく言ってくれた。
「……ん」
なんとか返事をする。……なかなか、すごい子だよね、多分。なんだか苛烈なひとだった。
(しばらくじゃなくて、永遠に大人しくしてて欲しい……)
ぐったりしてる私は黒田くんに心配されながら家に送り届けてもらって、まぁ帰宅するとちょっと落ち着いた。
お手伝いさんの八重子さんが作ってくれてた晩ご飯は、グラタンとオニオンスープで私は歓喜してしまう。
「ちょっと、あんたはしゃぎすぎ」
シュリちゃんに少し怒られた。
「だって八重子さんのオニオンスープ、大好きなんだもんー!」
イヤなことがあった分、ご飯が好きなやつだとテンション上がります!
「おれも」
圭くんも同意してくれた。ふふ、さすがわかってる!
そのあと自室に帰って勉強してると、ドアがノックされる。
「はーい」
「ただいま、華」
敦子さんだった。
「? おかえりなさい、どうしたの?」
「学校から連絡が来て」
トラブルですって? と心配気に言う敦子さんに、私は笑って見せた。
「ぜーんぜん大丈夫。ちょっと不安定な子だったみたいで」
「……そう? なにかあったら言って頂戴」
「はぁい」
返事をして、ぱたりとドアが閉まったところで、今度はお子様スマホが鳴り響く。
「はいはいはい」
なんだか忙しいなぁ! と画面を見ると黒田くんで、私は「はーい」と通話に出た。
『よう今大丈夫か?』
「うん」
『実はな』
黒田くんは、桜澤さんのことについてちょっと調べてくれたらしい。
『でな、桜澤と同じ中学だったって奴と友達だってのが、通ってる道場の後輩にいて』
「うん」
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