【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鍋島真

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 翌日の放課後、教室で同じクラスの大村さんと話していると、ガラリと教室の扉が開かれた。

「……あ、あんたまた性懲りもなく」

 立っていたのは桜澤青花。
 大村さんが睨みつけるけれど、完全に無視して青花は言った。

「ねえ設楽華、あんたあたしのノートに手下使って何かした?」
「て、手下」

 思わず復唱。ついに取り巻きどころか手下とまで……。いやいや、いないから!

「アンタもういい加減にしな」

 大村さんがイラついた口調で立ち上がる。つかつかと入り口付近で立っている青花の元へ向かった。

「一体何の用なのよ!」
「これ」

 青花はイラついた様子で、ノートを近くの机にばさりと置いた。そして言う。

「何のつもりなの?」
「だから、なに……なにこれ?」

 大村さんがノートを手に取り、開いてから気味が悪そうにそれを机に戻した。

「?」

 私も立ち上がり、二人のところまで行ってそっと覗き込む。……なにこれ。

「うわ」

 思わず声が出た。ノートにびっしりと赤い文字で書かれていたのは、……これ。

「あたしが中学の時に、いじられキャラの子にしてた遊びが書いてあるんだけど」

 あの、ファミレスでの話を思い出して思わず口を押さえた。

(遊び)

 ……あれ、遊びなんだ。
 反射的に青花の顔を見るけれど、そこには何の逡巡もなかった。
 この子は、本気で、あれを遊びだと思ってやってる。ふざけてるだけ、だって。

「なんのつもりなの?」

 青花はなおも言い募る。

「だからさあ、設楽さん、んなことしてないって。いつされたのコレ」
「分かんないわよ、使おうと思って出したらこうなってたんだから」

 ふん、と鼻息荒く青花は言う。私はノートを見て、それから少しほっとする。良かった、真さんの字じゃない。

(……だとしたら、誰が?)

 私がぽけっと考えてるうちに、青花は何やらわめきながら帰っていった。……ノートを残して。

「あ、あの女こんな君の悪いもの残して」

 ぷんすか、と大村さんはまたノートを手に取り、何気なく文章を読んで絶句した。

「……え、あれ、あの子。これ、遊び、って言ってた?」
「……うん」
「マジ?」

 大村さんはノートから、汚らわしいものに触れた時のような顔をして手を離した。

「……いくらなんでも」

 私はじっとノートをみつめる。……ほんとに真さんじゃない?
 念のため回収して帰って、鎌倉の家に真さんを呼び出すーーっていうか、今日は元々迎えに来てもらう約束だった。

「夜桜を見なくてはいけません」

 昨日の夜、送ってくれた時にものすごく唐突にそう言われて、今日は夜桜見学に行くことになっていたから。
 夕方に迎えに来てくれた真さんの車に乗り込む。鎌倉市内だと人目があるので(いちおうまだ世間的には私は鹿王院の御曹司の許婚、なのだ)横須賀まで行くらしい。何気に横須賀って初めてだ。

「甘酒飲もうねえ華、甘酒なら飲めるからね」

 グリューワインのこと、根に持ってるの知ってたのか……。じとりと真さんを見上げるけれど、ほんとに相変わらず何考えてんだか分からない。

「ん? どうしたの? 愛する夫に見惚れてるの?」
「……いいえぇ」

 仕方なく視線を前に戻す。あたりはもう真っ暗だ。
 カーステレオからは何語か分からない歌。……オペラ?

「なんですかこの曲」

 これから楽しい(?)夜桜見学だっていうのに、なにやら綺麗すぎて、どこか悲壮なメロディで。

「オペラ? イタリア語?」
「オペライコールイタリアって、…….ああ敦子さんの趣味か」
「いや良く知らないんですけど」

 敦子さんが好きなのは「椿姫」で、私はオペラといえばそれしか知らない。

「これはドイツ語。モーツァルトだよ、魔王。知ってるでしょう」
「知ってる魔王と違います」
「ふふふ」

 真さんは私の言葉のどこに面白みを感じたのか、ものすごく楽しそうに笑った。

「魔王違いみたいに言うのやめてよ」
「なんですかその解釈」

 とにかくツボだったらしい。……まぁ、もう真さんが楽しければそれでいいですよ、ええ……。

「この曲はね」
「はぁ」
「復讐の炎は地獄のように我が心に燃え、って曲で」
「……は?」
「なに?」
「え、なにそれ怖っ。そんな話でした?」

 なんか親子が馬に乗ってたら魔王が追いかけてくる話(?)だと思ってた。

「あは、まぁアレの筋はどうでも良くてーーただ、まぁ、ピッタリかなぁって」

 なんとなく聞いてたんだ、と真さんは目を細める。なにに?
 ……復讐なのだとすれば。

「……もしかして、このノート。書いたのは青花の中学時代のいじめのターゲットだった子ですか?」
「ぶっぶー」

 即答された。え、違うんだ。

(そうじゃなきゃ、こんなに詳細に分からなくない?)

 そう思うのだけれどーー真さんは「もう何も答えませんからね僕は」って顔で運転してる……こうなると、何を聞いてもダメだ。
 私は諦めてノートを閉じて、車のシートに深く身体を委ねた。そもそも真さんの言動や思考を読んだり予想しようとすること自体が、そもそも無駄な行為なのだから。
 カーステレオからは、美しいアリアが歌い上げられていた。
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