【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鍋島真

寂しさとシーツの海

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 千晶ちゃんと思いっきり! ほんとに思いっきり遊んで遊んで遊びまくる。
 イルカも見たし火山も見たしシュノーケリングもしたし潜水艦も乗ったしヘリも乗ったし、フラダンスのショーも見た!

「はー、食べたぁ」
「凄かったよね華ちゃんね」

 千晶ちゃんが一足先に帰国する、って日のお昼。夕方前の飛行機だから、ランチを食べてから空港まで送りにいく、その道中。
 ちなみにジェームスさんの運転する車の中なんだけれど……。
 千晶ちゃんはなんか面白そうに言った。

「ん? なにが?」
「さっきのレストラン。隣に座ってたかた、華ちゃん見て驚愕してたよ。どこに入ってるのその量の肉? って」
「えへへへへ?」

 褒められてるのかな? ……違うか。
 ハワイに来て、少し太ったかもしれない……。

(美味しいんだもの! 量が多いんだもの!)

 千晶ちゃんが乗った飛行機が綺麗に空を飛ぶのを見送って、私はジェームスさんに促されてホテルに帰る。

「やっぱり1人じゃおでかけできないのかぁ」

 むー、とベランダから海を眺める。けど、まぁ、少し遊び疲れてきたことだし。少しゆっくりするかあ。
 私はスマホをじっとみつめる。
 相変わらず、真さんから連絡はない。

(そりゃー、遊びに来てるわけでも観光に来てるわけでもないですよ?)

 でもさー。
 でもさぁ。
 そんなことを考えながら、私は暮れていく太陽を眺めた。
 海がじわじわとオレンジ色に染まる。

(いつ帰ってくるんだっけ?)

 真さんのことを考える。
 もう1週間以上になる、のにな。
 付けられてたキスマークは消えてしまった。

(それが寂しい、なんて)

 私はやっぱり、どうかしてしまってる。
 南の島の柔らかな風が、ふんわりと頬を撫でる。

「……晩ご飯まで、寝ようかな」

 疲れていたんだろうか、ひどい眠気を感じて、私はシーツの波にダイブする。
 ちょうどいい固さのベッド。ひんやりとした、白いシーツ。
 ひとりで眠るには大きすぎる。
 そんなことを思いながら、私はいくつか夢を見た。
 千晶ちゃんと見たマンタだとか、夜の火山だとか。
 その夢と夢のあわい、深い眠りの最中に、私はぎしりとベッドに誰か乗ってきたことに気がつく。

「……ん~?」
「間抜けな声!」

 楽しげな声は真さんので、私は少し文句を言ってやろうと目を開ける。

「あれ!? 真っ暗!?」
「何時から寝てたの?」

 暗闇の中で、真さんが笑う気配がする。うーん、何時くらいだろう……。

「寂しかった?」
「全然です~、ちょう楽しかったです~」

 唇を尖らせて顔を背ける。
 真さんいなくても、って言葉は音にならなかった。頬に手を添えられて、なんだか無理やりに唇塞がれたから。

「んむむっ」
「あーあ、素直じゃないなぁ」

 くすくす笑う真さんは、丁寧に、ってくらいに私の口内をゆっくり舌でなぞっていく。私のちからはだんだん抜けて、頭の芯がじんと痺れてしまう。

(寂しかった、って)

 そんな風に言われてるみたいで。
 私の両手はゆるゆると真さんの背中にまわる。

(私だって、寂しかった)

 千晶ちゃんと遊んで、すごくすごく楽しかったけれど、寂しかった。会いたかった。
 暗闇の中で、真さんが微笑んだ気がした。
 知ってるよ、って感じで。


「あ、こんなことヤってる場合じゃなかった」
「なんですか唐突に」

 シーツに包まった私は首を傾げた。あれからどれくらい経ったんだろう。まだまだ外は真っ暗だけれど、そもそも何時なんだろう?

「時間がないんだった」
「なんのですか?」
「ハイ服着て」
「脱がせたのそっちむぐう」
「あは素っ頓狂」

 真さんはケタケタ笑いながら、ベッドボードのスイッチで電気をつける。
 一気に明るくなる。時計は……1時。まさか昼ってことはないだろうから。

「超深夜じゃないですか、寝ましょうよう」
「疲れてるね、あれだけ鳴けばね」

 にやりと細められた瞳は完全に私をからかってる。くそう。

「千晶ちゃんと! 観光! して! 疲れた! から!」
「はいはい」

 さっさと自分だけ服を着ていく真さん。

「ほんとに何ですか」
「はい」

 頭にぽすんとカットソーを通される。

「長袖?」
「はいはい行くよ~」

 いつの間にか、ジーンズまで準備されてた。抵抗しても無駄だとやっと諦めて、私はジーンズをはく。
 手を繋いで部屋を出た。ジェームスさんはいない。

「……ていうか、あれなんですかジェームスさん。軟禁ですよ軟禁」
「あは、彼とっても面白いデショ?」
「いや愉快な人でしたけど!」

 千晶ちゃんとの観光中、めっちゃ写真とか撮ってくれたし、発音綺麗だから英語の勉強になったし、優しかったし。

「知り合いの友達」
「ジェームスさん?」
「実は単なる大学生」
「!?」

 むきむきの!? あんなにムキムキの!?

「クソ頭いいよ彼」

 真さんが言った大学名は、私でも知ってるところで。

「ほえー」

 思わず感心してしまう。

「地球一周の旅にでるために貯金中らしくてね。快く華チャンの見張りに応募してくれたってわけ」
「今、見張りって言いましたね見張りって」

 千晶ちゃんが言ってた「多分単なるナンパ避け」はマジだったのか……。

「じゃあ隙をつけば逃げられたんですね!?」
「彼、アメフトしてるから無理じゃない?」
「……」

 逃げた途端に捕獲されそう……。
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