【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鹿王院樹

罪と罰【side青花】

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「桜澤青花さん、こんにちは」

 突然現れたオッサンがそう言った。穏やかな声。
 樹くんがなぜだか設楽華のところへ行って……あれ、こんな展開、ゲームであったかな? なんて不思議に思ってたら。

(設楽華の断罪だよね?)

 さすがにこの重要なシーンに向かうにつれて、現実もシナリオ通りになってきた。樹くんはあたしと積極的に話してくれるし、他の攻略対象のみんなも、そう!

(で、今日はここに呼び出されて)

 そしてあたしは思い出した。
 そーだ、悪役令嬢の断罪はこんな日だったよね! って。
 桜が満開で、ちらちら舞ってて、青空でそれが反射して、綺麗で……。
 そんな中、設楽華は断罪されて、うなだれて学園を出て行く!
 恨みがましい目であたしを見て、それを見た樹くんがあたしを腕に閉じ込めて設楽華を睨みつける!

(うん、そうなるはずだ)

 樹くんが設楽華のとこに行ったのは、設楽華を逃がさないようにするためでしょう。

(じゃあこのオッサン誰?)

 あたしがオッサンを訝しげに見つめていると、オッサンはぱちりと上下に開く黒い身分証を見せてくる。

「神奈川県警、刑事課の黒田です」
「けいさつ……?」

 あたしはおうむ返ししてしまう。警察?

「表には生安部の人間も来ています」
「せいあん?」
「少年捜査課と言い換えましょう」
「……?」

 ぽかんとしてるあたしに、オッサンは続ける。

「犯罪教唆……こちらは共同正犯ですね、それから売春防止法違反、および斡旋の件でお話が聞きたく」

 あたしにそのオッサン(設楽華の言い方だと黒田健の父親!?)がぴらり、と一枚紙をあたしに見せつけるように差し出す。

「こちらは正真正銘、白井のものと違って本物の令状です」

 あたしはぽかんとそれを見つめる。え? え?
 肩は相変わらず、なぜかトージ先生が支えてくれて……、痛いなぁ、これじゃ支えるっていうより掴まれてるみたいな気持ちになる。
 ていうか、あたし、トージ先生ルートに入ったつもり、なかったんだけど?
 それより。
 ざわざわと心に黒いものが集まっていく。なにそれ、なにそれ?

「ば、売春?」
「斡旋…?」
「桜澤さんが?」

 ざわ、とギャラリーから戸惑いの声が飛ぶ。
 設楽華の断罪を目撃するはずだった、ギャラリー!
 あたしが目線を向けると、彼らは一気に目を逸らした。あたしのお友達だった男の子たちまで、戸惑ってざわついている。
 信じなさいよ!
 あれだけ、あたしのこと、崇めてたくせに……なに!?

(ちょっと警察が来たくらいで)

 庇いなさいよ、と彼らを見たけれど、キョロキョロと視線を散らすばかりで。
 アンタたち、その程度!?
 結局のところ、あたしのことなんか……信じてなかったってわけ!?

「し、知らない! あたし、知りませんっ!」

 とりあえずそう叫んだ。誰も守ってくれないならば、戦うしかないじゃん!

「そ、それに白井って誰です!? 知りません」
「知らないのならば」

 背後から、淡々とした声。

「樹くぅん!」

 あたしは叫びながら振り向く。
 助けてくれる、そう期待をこめて。だけれどそこでぶつかったのは、ひどく冷たい視線で……。

「え?」

 首を傾げた。あれ? どうしてそんな顔をしているの?

(青花が困ってるよ?)

 樹くんの、大事なあたしが、困ってるよ?
 けれど樹くんはただ、スマホを片手に操作した。すぐにあたしのスマホが鳴る。え?

「これは」

 樹くんが淡々とスマホをかざす。

「数ヶ月前、とある件で逮捕された白井という警察官のスマートフォンだ」
「たい、ほ?」

 あたしは戸惑う。え? 白井?

(そんなはずない、数ヶ月前?)

 白井とは、昨日もメッセージをやりとりしてた。こんどは設楽華をどんな目に合わせてやろうか、って……そのはずで。

(っ、そんなことはどうでもいいの!)

 あたしは顔を上げて、ゆるゆると首を振った。
 鳴り続けていたスマホが、やっと止まる。

「し、知らないの。ほんとうに。あたし」
「ならば桜澤、お前のそれを見せてみろ」

 樹くんは冷たい声で続ける。

「このスマホとやりとりしていた全てが残っているはずだ」
「……あ」

 あたしのバカ! 削除しておくべきだった!
 だけれど、なんで? なんで白井のスマホを樹くんが持ってるの?

(なんでそんな風に)

 設楽華を大事そうに腕に閉じ込めているの?
 あたしはただ、呆然とそれを見つめた。

「桜澤青花。1月半ば以降、お前が白井だと思ってメッセージをやり取りしていた相手は、俺だ」
「……え?」
「華を」

 ぐっ、と樹くんはひどくきつく、眉間にシワを寄せた。

「華に何をしてきたか、何をしようとしていたか。……すべて記録がとってある」
「……は?」
「桜澤」

 ふ、と樹くんは息を吐き出す。

「神妙にお縄につけ」
「時代劇だね!?」

 設楽華が思わずって感じで突っ込んだ。

「な、」

 あたしはプルプルと震える。なにそれ、なにそれ、なにそれ!?
 あたしは周りを見回した。
 ギャラリーたちは遠巻きにあたしを見てる。
 中には明らかにあたしを睨みつけてる視線も。
 ぐ、と肩を掴むトージ先生の手が痛い。

「人として」

 いかがなものかと、とトージ先生。

「つうかな、ケーサツ行く前に華に謝れや」

 敵意と呆れまじりに言うのは、アキラくんで。

「最低」

 ただそれだけを吐き捨てたのは、圭くんで。

「……あれ?」

 あたしは変な汗が出てるのを感じる。
 手のひらが、ジットリとした汗でぬるりと湿る。
 あれ?
 あれ?
 あれ?

(これって、このセリフたちって)

 少し変わっているけれど。でも。
 設楽華が、言われるはずだったセリフ、なんじゃないの?
 なんであたしが、言われてるの?
 なんであたしがーー断罪されてるの?

「そんなはずないじゃない」

 あたしの小さな呟きは、春の空に溶けるように消えた。
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