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【高校編】分岐・鹿王院樹
罪と罰【side青花】
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「桜澤青花さん、こんにちは」
突然現れたオッサンがそう言った。穏やかな声。
樹くんがなぜだか設楽華のところへ行って……あれ、こんな展開、ゲームであったかな? なんて不思議に思ってたら。
(設楽華の断罪だよね?)
さすがにこの重要なシーンに向かうにつれて、現実もシナリオ通りになってきた。樹くんはあたしと積極的に話してくれるし、他の攻略対象のみんなも、そう!
(で、今日はここに呼び出されて)
そしてあたしは思い出した。
そーだ、悪役令嬢の断罪はこんな日だったよね! って。
桜が満開で、ちらちら舞ってて、青空でそれが反射して、綺麗で……。
そんな中、設楽華は断罪されて、うなだれて学園を出て行く!
恨みがましい目であたしを見て、それを見た樹くんがあたしを腕に閉じ込めて設楽華を睨みつける!
(うん、そうなるはずだ)
樹くんが設楽華のとこに行ったのは、設楽華を逃がさないようにするためでしょう。
(じゃあこのオッサン誰?)
あたしがオッサンを訝しげに見つめていると、オッサンはぱちりと上下に開く黒い身分証を見せてくる。
「神奈川県警、刑事課の黒田です」
「けいさつ……?」
あたしはおうむ返ししてしまう。警察?
「表には生安部の人間も来ています」
「せいあん?」
「少年捜査課と言い換えましょう」
「……?」
ぽかんとしてるあたしに、オッサンは続ける。
「犯罪教唆……こちらは共同正犯ですね、それから売春防止法違反、および斡旋の件でお話が聞きたく」
あたしにそのオッサン(設楽華の言い方だと黒田健の父親!?)がぴらり、と一枚紙をあたしに見せつけるように差し出す。
「こちらは正真正銘、白井のものと違って本物の令状です」
あたしはぽかんとそれを見つめる。え? え?
肩は相変わらず、なぜかトージ先生が支えてくれて……、痛いなぁ、これじゃ支えるっていうより掴まれてるみたいな気持ちになる。
ていうか、あたし、トージ先生ルートに入ったつもり、なかったんだけど?
それより。
ざわざわと心に黒いものが集まっていく。なにそれ、なにそれ?
「ば、売春?」
「斡旋…?」
「桜澤さんが?」
ざわ、とギャラリーから戸惑いの声が飛ぶ。
設楽華の断罪を目撃するはずだった、ギャラリー!
あたしが目線を向けると、彼らは一気に目を逸らした。あたしのお友達だった男の子たちまで、戸惑ってざわついている。
信じなさいよ!
あれだけ、あたしのこと、崇めてたくせに……なに!?
(ちょっと警察が来たくらいで)
庇いなさいよ、と彼らを見たけれど、キョロキョロと視線を散らすばかりで。
アンタたち、その程度!?
結局のところ、あたしのことなんか……信じてなかったってわけ!?
「し、知らない! あたし、知りませんっ!」
とりあえずそう叫んだ。誰も守ってくれないならば、戦うしかないじゃん!
「そ、それに白井って誰です!? 知りません」
「知らないのならば」
背後から、淡々とした声。
「樹くぅん!」
あたしは叫びながら振り向く。
助けてくれる、そう期待をこめて。だけれどそこでぶつかったのは、ひどく冷たい視線で……。
「え?」
首を傾げた。あれ? どうしてそんな顔をしているの?
(青花が困ってるよ?)
樹くんの、大事なあたしが、困ってるよ?
けれど樹くんはただ、スマホを片手に操作した。すぐにあたしのスマホが鳴る。え?
「これは」
樹くんが淡々とスマホをかざす。
「数ヶ月前、とある件で逮捕された白井という警察官のスマートフォンだ」
「たい、ほ?」
あたしは戸惑う。え? 白井?
(そんなはずない、数ヶ月前?)
白井とは、昨日もメッセージをやりとりしてた。こんどは設楽華をどんな目に合わせてやろうか、って……そのはずで。
(っ、そんなことはどうでもいいの!)
あたしは顔を上げて、ゆるゆると首を振った。
鳴り続けていたスマホが、やっと止まる。
「し、知らないの。ほんとうに。あたし」
「ならば桜澤、お前のそれを見せてみろ」
樹くんは冷たい声で続ける。
「このスマホとやりとりしていた全てが残っているはずだ」
「……あ」
あたしのバカ! 削除しておくべきだった!
だけれど、なんで? なんで白井のスマホを樹くんが持ってるの?
(なんでそんな風に)
設楽華を大事そうに腕に閉じ込めているの?
あたしはただ、呆然とそれを見つめた。
「桜澤青花。1月半ば以降、お前が白井だと思ってメッセージをやり取りしていた相手は、俺だ」
「……え?」
「華を」
ぐっ、と樹くんはひどくきつく、眉間にシワを寄せた。
「華に何をしてきたか、何をしようとしていたか。……すべて記録がとってある」
「……は?」
「桜澤」
ふ、と樹くんは息を吐き出す。
「神妙にお縄につけ」
「時代劇だね!?」
設楽華が思わずって感じで突っ込んだ。
「な、」
あたしはプルプルと震える。なにそれ、なにそれ、なにそれ!?
あたしは周りを見回した。
ギャラリーたちは遠巻きにあたしを見てる。
中には明らかにあたしを睨みつけてる視線も。
ぐ、と肩を掴むトージ先生の手が痛い。
「人として」
いかがなものかと、とトージ先生。
「つうかな、ケーサツ行く前に華に謝れや」
敵意と呆れまじりに言うのは、アキラくんで。
「最低」
ただそれだけを吐き捨てたのは、圭くんで。
「……あれ?」
あたしは変な汗が出てるのを感じる。
手のひらが、ジットリとした汗でぬるりと湿る。
あれ?
あれ?
あれ?
(これって、このセリフたちって)
少し変わっているけれど。でも。
設楽華が、言われるはずだったセリフ、なんじゃないの?
なんであたしが、言われてるの?
なんであたしがーー断罪されてるの?
「そんなはずないじゃない」
あたしの小さな呟きは、春の空に溶けるように消えた。
突然現れたオッサンがそう言った。穏やかな声。
樹くんがなぜだか設楽華のところへ行って……あれ、こんな展開、ゲームであったかな? なんて不思議に思ってたら。
(設楽華の断罪だよね?)
さすがにこの重要なシーンに向かうにつれて、現実もシナリオ通りになってきた。樹くんはあたしと積極的に話してくれるし、他の攻略対象のみんなも、そう!
(で、今日はここに呼び出されて)
そしてあたしは思い出した。
そーだ、悪役令嬢の断罪はこんな日だったよね! って。
桜が満開で、ちらちら舞ってて、青空でそれが反射して、綺麗で……。
そんな中、設楽華は断罪されて、うなだれて学園を出て行く!
恨みがましい目であたしを見て、それを見た樹くんがあたしを腕に閉じ込めて設楽華を睨みつける!
(うん、そうなるはずだ)
樹くんが設楽華のとこに行ったのは、設楽華を逃がさないようにするためでしょう。
(じゃあこのオッサン誰?)
あたしがオッサンを訝しげに見つめていると、オッサンはぱちりと上下に開く黒い身分証を見せてくる。
「神奈川県警、刑事課の黒田です」
「けいさつ……?」
あたしはおうむ返ししてしまう。警察?
「表には生安部の人間も来ています」
「せいあん?」
「少年捜査課と言い換えましょう」
「……?」
ぽかんとしてるあたしに、オッサンは続ける。
「犯罪教唆……こちらは共同正犯ですね、それから売春防止法違反、および斡旋の件でお話が聞きたく」
あたしにそのオッサン(設楽華の言い方だと黒田健の父親!?)がぴらり、と一枚紙をあたしに見せつけるように差し出す。
「こちらは正真正銘、白井のものと違って本物の令状です」
あたしはぽかんとそれを見つめる。え? え?
肩は相変わらず、なぜかトージ先生が支えてくれて……、痛いなぁ、これじゃ支えるっていうより掴まれてるみたいな気持ちになる。
ていうか、あたし、トージ先生ルートに入ったつもり、なかったんだけど?
それより。
ざわざわと心に黒いものが集まっていく。なにそれ、なにそれ?
「ば、売春?」
「斡旋…?」
「桜澤さんが?」
ざわ、とギャラリーから戸惑いの声が飛ぶ。
設楽華の断罪を目撃するはずだった、ギャラリー!
あたしが目線を向けると、彼らは一気に目を逸らした。あたしのお友達だった男の子たちまで、戸惑ってざわついている。
信じなさいよ!
あれだけ、あたしのこと、崇めてたくせに……なに!?
(ちょっと警察が来たくらいで)
庇いなさいよ、と彼らを見たけれど、キョロキョロと視線を散らすばかりで。
アンタたち、その程度!?
結局のところ、あたしのことなんか……信じてなかったってわけ!?
「し、知らない! あたし、知りませんっ!」
とりあえずそう叫んだ。誰も守ってくれないならば、戦うしかないじゃん!
「そ、それに白井って誰です!? 知りません」
「知らないのならば」
背後から、淡々とした声。
「樹くぅん!」
あたしは叫びながら振り向く。
助けてくれる、そう期待をこめて。だけれどそこでぶつかったのは、ひどく冷たい視線で……。
「え?」
首を傾げた。あれ? どうしてそんな顔をしているの?
(青花が困ってるよ?)
樹くんの、大事なあたしが、困ってるよ?
けれど樹くんはただ、スマホを片手に操作した。すぐにあたしのスマホが鳴る。え?
「これは」
樹くんが淡々とスマホをかざす。
「数ヶ月前、とある件で逮捕された白井という警察官のスマートフォンだ」
「たい、ほ?」
あたしは戸惑う。え? 白井?
(そんなはずない、数ヶ月前?)
白井とは、昨日もメッセージをやりとりしてた。こんどは設楽華をどんな目に合わせてやろうか、って……そのはずで。
(っ、そんなことはどうでもいいの!)
あたしは顔を上げて、ゆるゆると首を振った。
鳴り続けていたスマホが、やっと止まる。
「し、知らないの。ほんとうに。あたし」
「ならば桜澤、お前のそれを見せてみろ」
樹くんは冷たい声で続ける。
「このスマホとやりとりしていた全てが残っているはずだ」
「……あ」
あたしのバカ! 削除しておくべきだった!
だけれど、なんで? なんで白井のスマホを樹くんが持ってるの?
(なんでそんな風に)
設楽華を大事そうに腕に閉じ込めているの?
あたしはただ、呆然とそれを見つめた。
「桜澤青花。1月半ば以降、お前が白井だと思ってメッセージをやり取りしていた相手は、俺だ」
「……え?」
「華を」
ぐっ、と樹くんはひどくきつく、眉間にシワを寄せた。
「華に何をしてきたか、何をしようとしていたか。……すべて記録がとってある」
「……は?」
「桜澤」
ふ、と樹くんは息を吐き出す。
「神妙にお縄につけ」
「時代劇だね!?」
設楽華が思わずって感じで突っ込んだ。
「な、」
あたしはプルプルと震える。なにそれ、なにそれ、なにそれ!?
あたしは周りを見回した。
ギャラリーたちは遠巻きにあたしを見てる。
中には明らかにあたしを睨みつけてる視線も。
ぐ、と肩を掴むトージ先生の手が痛い。
「人として」
いかがなものかと、とトージ先生。
「つうかな、ケーサツ行く前に華に謝れや」
敵意と呆れまじりに言うのは、アキラくんで。
「最低」
ただそれだけを吐き捨てたのは、圭くんで。
「……あれ?」
あたしは変な汗が出てるのを感じる。
手のひらが、ジットリとした汗でぬるりと湿る。
あれ?
あれ?
あれ?
(これって、このセリフたちって)
少し変わっているけれど。でも。
設楽華が、言われるはずだったセリフ、なんじゃないの?
なんであたしが、言われてるの?
なんであたしがーー断罪されてるの?
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あたしの小さな呟きは、春の空に溶けるように消えた。
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