【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

規制線

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「惜しかったよね」
「来年だねえ、これは」

 翌日の試合、団体戦は黒田くんの学校も橋崎くんの学校も、お互いに準々決勝敗退。
 昨日と同じ、体育館二階観覧席で千晶ちゃんと並んで見ていて、千晶ちゃんはほっ、と大きなため息をついた。
 それが、どんな意味なのかは分からないけれど。

「どうする?」

 千晶ちゃんに話を向けると、千晶ちゃんは「ぬぬぬ」とよく分からない声で唸った。

「私はさぁ、素直になった方がいいと……」
「ちっあっきさぁあん」

 ばたばたばた、と階段を登ってくる大きな音と声、それと共に現れた大柄な空手着の男の子は、もちろん橋崎くんで。

「あの、あのですね、好きです! 負けたけどでも俺はもうですね」
「ううううわぁこんなとこでそんな話しないでっ」

 千晶ちゃんは真っ赤になってたちあごって、反対方向に向かって走り去っていく。

「ち、ちあきさぁあんっ」

 橋崎くんが追いかけ始める。……まあ、捕まるのも時間の問題だろうなぁ、と私は苦笑した。

「設楽」
「あ、お疲れ様」

 黒田くんは案外とスッキリした顔をしている。
 そのまま、私の横にストンと座る。

「今日帰んのか」
「あ、うん。塾もあるし」
「遅くなるだろうし、気を付けろよ。……応援サンキュ」

 にっ、と笑う黒田くんはいつも通りで私は首を傾げた。

(そんなに悔しそうじゃない?)

 私の視線に気がついたのか、黒田くんは少し苦笑いした。

「あのな」
「うん」
「悔しいのは悔しいんだ」
「……うん」
「でもな、なんか、こう……あと少しで分かりそうな、そんな気がして」
「?」

 黒田くんにしては抽象的な話で、私は首を傾げた。

「わかんねーよな。すまん」
「ううん、いいんだけど」
「なんつーかな、ベタな言い方なんだけど、一皮むけそう?」
「ひとかわ?」
「んー、これじゃねえな、俺ほんと説明ベタだわ」

 黒田くんは難しい顔をする。

「なんか、次のとこが見えそう? 天井が見えた、かな」
「天井?」
「おう。なんか、突き破れる気がする」

 そうハッキリ言った黒田くんはめちゃくちゃカッコよくて、私は思わず見惚れる。
 正直よくわかんないけど、黒田くんはやっぱりカッコいいのです。
 胸がきゅうっとなって、思わず唇にキスをした。ほんの一瞬。

「……」
「あは、ごめん」
「いーけどよ」

 黒田くんは軽く視線を走らせる。誰かに見られてたらヤだったかな?

(ていうかやだよね!?)

 少しシュンとすると、名前を呼ばれた。

「設楽」
「?」

 顔を上げると、お返しのように小さなキス。

「次は勝つから」
「……うん!」
「毎回言ってるなこれ」
「毎回信じてるから」
「毎回裏切ってんな」
「裏切られてなんかない」

 私はにんまりと笑った。

「毎回かっこいいから」
「……そーかよ」

 あんま可愛いこと言うな、となぜかデコピンされた。多分照れてますね?
 そのあとなんとか千晶ちゃんと京都駅で合流して、一緒に新幹線に乗って帰る。
 新幹線の座席、そこでガチガチガチガチと固すぎるアイスを食べようと四苦八苦しながら、私は聞いた。

「で、さ。どうなったの?」

 むすっと黙り込む千晶ちゃん。あれれ?

「あのー、お付き合い、することに?」
「なったけど一瞬で別れた」
「エッ」

 思わず絶句。い、一体なにが!?
 驚愕の表情(多分)で黙り込む私をチラリと見て、千晶ちゃんは言う。

「わたし、いきなりチューしてくる男ムリなんだよねっ」
「エッ」
「だから別れた」
「ひゃー」

 なんとなく脳裏に浮かぶのは、前のガッコの先輩、鹿島先輩。
 その例があるので、私はゆっくり頷いた。人には人の恋愛感。

「ところでさ、華ちゃん。青百合はどう?」

 千晶ちゃんは首を傾げた。
 青百合学園。いま、私が通ってる「ゲーム」の舞台にもなる学校。

「うん、なれてきたよ。友達もできたし」
「良かった」
「たださぁ」
「?」

 首をかしげる千晶ちゃんに、私は言う。

「校則が妙すぎない……?」
「あは、それは……まぁ、ね」

 樹くんに聞いた話だと、青百合学園は元々別の男子校と女子校が合併してできた学校らしい。

「だから校則が男女で違って……って、あ。新横浜」

 話も途中だったけれど、お互いお土産の紙袋を抱えて降りる。観光ってわけでもなかったのに、なんやかんやと買い込んでしまうのはなんでだろう?

「あれ? なにかあった?」

 新横浜駅の構内は、制服を着た警察官がウロウロと。ほんの少しざわついた雰囲気と、ピリッとした空気。
 駅員さんも走り回っていた。

「? なんだろう」

 そのうち、黄色い規制線が張られた一角が目に入る。制服警官と、スーツ姿の男女。
 なんとなくふらりと近づくと、知ってる人がその黄色いテープから出てきた。

「あ」

 思わず声を上げる。

「ん? ああ」

 こちらを見て軽く会釈してるのは、黒田くんのお父さんだった。
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