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【高校編】分岐・黒田健
女子会と事件
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せっかく会ったんだから一緒に行動しよう、ってことになって、私と千晶ちゃんは一緒に体育館から出た。
「華ちゃん、ホテルどこ?」
「あ、京都駅の」
「一緒だ」
なら同じ部屋にしてもらおうっていうワガママお嬢様炸裂で、ホテルに戻ってフロントの人に相談すると、案外あっさり願望が通った。
「ただ、空きが通常のツインルームしかご用意できないのですが」
ものすごく申し訳なさそうに言われる。私たちのバックボーンがそうさせてます。すみません大丈夫ですよ、私たち中身は庶民なので……千晶ちゃんは違うかな? でもそんなことにこだわる子じゃない。
「ありがとうございます」
にっこりと美少女スマイルでお礼を言う千晶ちゃんに、フロントのお兄さんも少し頬が赤くなる。うーん、美少女すごいよ。
「晩ご飯どうする?」
部屋に荷物を運んでもらいながら、私たちはそんな話をする。
「あのね、行きたいお店があって!」
「なんの?」
不思議そうな千晶ちゃんに、私はにひひと笑って見せた。
「ぜーったいお酒が飲みたくなるお店」
まだあともう少し、飲めないんだけれどね!
タクシーで千晶ちゃんを連れてきたのは京都の繁華街にある小さなお店。
「おでんやさん?」
「予約できないからさっ!」
並ぶしかないんです!
創業は100年以上前、っていう老舗のおでん屋さん。
「ガイドブックにさー、絶品って書いてあってさー、ぜぇったいこようと思ってたんだぁ」
「……今回京都に来たのは、黒田くんの応援だよね?」
ものすごく不審そうな顔で言われてしまった。
「お、応援に決まってるじゃんっ」
おでんはついで! ついでですよ、本当に!
とはいえずっと食べたかったおでんを堪能。
「た、たこ~」
「京都なのにはっきりとしたお出汁だねー」
そして千晶ちゃんはぽそり、とつぶやいた。
「やばい、これ、日本酒だ」
「だよね」
「華ちゃんっ!」
急に大声を出されて、私はびくりと千晶ちゃんを見る。
「な、なに!?」
「二十歳になったら、また来よう!」
私は一瞬ぽかんとして、それから笑った。
ホテルに帰って、交代でお風呂に入る。じゃんけんで、先に私。それから千晶ちゃん。
千晶ちゃんがお風呂から上がるのを待つ間、何気なくテレビをつけた。
歌番組の特番。可愛らしいアイドルグループが、短いスカートを揺らしながら歌っていた。
「……冷えそう」
あんな短いスカートじゃ、腰が冷えそう……とか思っちゃうのは、中身が随分とオトナだからでしょうか……。
と、ガチャリとお風呂から音がした。私は用意してたそれを、パッと差し出す。
「じゃじゃーん」
お風呂から出てきた千晶ちゃんに差し出したのは、さっきお土産やさんで買ったフェイス用のパック。
「京都限定抹茶パック?」
「お肌にいいらしいよ~」
金箔入り。金がお肌にいいのか……というか、そもそも抹茶ってお肌にいいの? とかいうのはまぁ、置いといて。大事なのは気分、気分!
「あは、ありがとう」
2人で開封して顔にのせて、顔を合わせて爆笑した。だって、緑色! 金箔できらきらしてるし!
「なにこれー」
「うける」
やばいやばい、って言いながら並んでスマホで自撮りする。画面を確認して、また爆笑。
「これやっば」
「宇宙人?」
私はちょっとだけ悩んでから、1人だけで自撮りして、それを黒田くんに送った。
「え、いいの!?」
「笑ってくれるかなぁって」
明日の団体戦、緊張してるかもだし……。
(橋崎くん以外の人に負けた)
それは実力なのか、橋崎くんがいなくて気合が入らなかったからなのか……黒田くんなら、どっちにしろ「実力で負けた」って言うだろうけれど。
でも、悔しかっただろう、って思う。
(あんまりそういうの、表に出さないヒトだけれど)
少し、視線がちりっとしていた。
あんまりそういうの、残させたくなくてーー。
すぐに返信がくる。
『なんだこれ』
でもすぐに、続きが。
『サンキュ』
私はなんだか不思議な気持ちになる。
「伝わってたね~」
しみじみ、とした感じで千晶ちゃんが言う。私は苦笑した。
「この場合は笑い飛ばしてもらって良かったんだけどな~」
「いいんじゃん? リラックスはできてると思うよ」
「かなぁ」
そう言いながら、何気なく視線をテレビに向ける。歌番組は終わって、ニュースに切り替わっていた。どうやらローカルニュースの時間のようだった。
『今日お昼頃、京都市北区紫野の路上で男性が倒れているのを観光客が見つけーー』
アナウンサーが淡々と読み上げる。
『倒れていたのは南区の自営業、筑紫要一さん57歳で、警察では事件と事故両方を……』
なにげなく見ながら、千晶ちゃんはぽそりと「事件だったらヤダねぇ」と呟いた。
「……あのさぁ千晶ちゃん」
「なぁに?」
「こんなの、人が亡くなってるのに言うのはさ、不謹慎なんだけれど」
「うん」
私は千晶ちゃんをチラリと見上げた。
「私たち、前世持ち、じゃん」
「? うん」
「てことはさ、一度死んでる、わけで」
「……うん」
突然殺された。終わらされた、かつての「私」の人生。大きなナイフ、振り上げられたあの男の手。奪われた、かつての生。
「この人も、きっとあそこで死ぬなんて思ってなくて」
テレビの画面下に出ているのは、生前の、善良そうなおじさんの写真。
「だからさー、なんていうか。後悔しないように生きた方がいいなぁって、私は思うんだ」
千晶ちゃんは口を真一文字に結んでいる。
「ねえ千晶ちゃんは、橋崎くんが好きなの?」
「へっ!? ん、あう、うう、うん」
「どっちなの」
笑いながら私は千晶ちゃんの緑色の顔面を見る。きっと緑色の下は赤く染まってるんだろう。
「好きなら好き、って言ってみたらどうかなぁ」
「……むむむ」
千晶ちゃんは何度か瞬きをしたあと、小さく「考えておきます……」と呟いた。まったく、ほんとに可愛いんだからなぁ千晶ちゃんは!
「華ちゃん、ホテルどこ?」
「あ、京都駅の」
「一緒だ」
なら同じ部屋にしてもらおうっていうワガママお嬢様炸裂で、ホテルに戻ってフロントの人に相談すると、案外あっさり願望が通った。
「ただ、空きが通常のツインルームしかご用意できないのですが」
ものすごく申し訳なさそうに言われる。私たちのバックボーンがそうさせてます。すみません大丈夫ですよ、私たち中身は庶民なので……千晶ちゃんは違うかな? でもそんなことにこだわる子じゃない。
「ありがとうございます」
にっこりと美少女スマイルでお礼を言う千晶ちゃんに、フロントのお兄さんも少し頬が赤くなる。うーん、美少女すごいよ。
「晩ご飯どうする?」
部屋に荷物を運んでもらいながら、私たちはそんな話をする。
「あのね、行きたいお店があって!」
「なんの?」
不思議そうな千晶ちゃんに、私はにひひと笑って見せた。
「ぜーったいお酒が飲みたくなるお店」
まだあともう少し、飲めないんだけれどね!
タクシーで千晶ちゃんを連れてきたのは京都の繁華街にある小さなお店。
「おでんやさん?」
「予約できないからさっ!」
並ぶしかないんです!
創業は100年以上前、っていう老舗のおでん屋さん。
「ガイドブックにさー、絶品って書いてあってさー、ぜぇったいこようと思ってたんだぁ」
「……今回京都に来たのは、黒田くんの応援だよね?」
ものすごく不審そうな顔で言われてしまった。
「お、応援に決まってるじゃんっ」
おでんはついで! ついでですよ、本当に!
とはいえずっと食べたかったおでんを堪能。
「た、たこ~」
「京都なのにはっきりとしたお出汁だねー」
そして千晶ちゃんはぽそり、とつぶやいた。
「やばい、これ、日本酒だ」
「だよね」
「華ちゃんっ!」
急に大声を出されて、私はびくりと千晶ちゃんを見る。
「な、なに!?」
「二十歳になったら、また来よう!」
私は一瞬ぽかんとして、それから笑った。
ホテルに帰って、交代でお風呂に入る。じゃんけんで、先に私。それから千晶ちゃん。
千晶ちゃんがお風呂から上がるのを待つ間、何気なくテレビをつけた。
歌番組の特番。可愛らしいアイドルグループが、短いスカートを揺らしながら歌っていた。
「……冷えそう」
あんな短いスカートじゃ、腰が冷えそう……とか思っちゃうのは、中身が随分とオトナだからでしょうか……。
と、ガチャリとお風呂から音がした。私は用意してたそれを、パッと差し出す。
「じゃじゃーん」
お風呂から出てきた千晶ちゃんに差し出したのは、さっきお土産やさんで買ったフェイス用のパック。
「京都限定抹茶パック?」
「お肌にいいらしいよ~」
金箔入り。金がお肌にいいのか……というか、そもそも抹茶ってお肌にいいの? とかいうのはまぁ、置いといて。大事なのは気分、気分!
「あは、ありがとう」
2人で開封して顔にのせて、顔を合わせて爆笑した。だって、緑色! 金箔できらきらしてるし!
「なにこれー」
「うける」
やばいやばい、って言いながら並んでスマホで自撮りする。画面を確認して、また爆笑。
「これやっば」
「宇宙人?」
私はちょっとだけ悩んでから、1人だけで自撮りして、それを黒田くんに送った。
「え、いいの!?」
「笑ってくれるかなぁって」
明日の団体戦、緊張してるかもだし……。
(橋崎くん以外の人に負けた)
それは実力なのか、橋崎くんがいなくて気合が入らなかったからなのか……黒田くんなら、どっちにしろ「実力で負けた」って言うだろうけれど。
でも、悔しかっただろう、って思う。
(あんまりそういうの、表に出さないヒトだけれど)
少し、視線がちりっとしていた。
あんまりそういうの、残させたくなくてーー。
すぐに返信がくる。
『なんだこれ』
でもすぐに、続きが。
『サンキュ』
私はなんだか不思議な気持ちになる。
「伝わってたね~」
しみじみ、とした感じで千晶ちゃんが言う。私は苦笑した。
「この場合は笑い飛ばしてもらって良かったんだけどな~」
「いいんじゃん? リラックスはできてると思うよ」
「かなぁ」
そう言いながら、何気なく視線をテレビに向ける。歌番組は終わって、ニュースに切り替わっていた。どうやらローカルニュースの時間のようだった。
『今日お昼頃、京都市北区紫野の路上で男性が倒れているのを観光客が見つけーー』
アナウンサーが淡々と読み上げる。
『倒れていたのは南区の自営業、筑紫要一さん57歳で、警察では事件と事故両方を……』
なにげなく見ながら、千晶ちゃんはぽそりと「事件だったらヤダねぇ」と呟いた。
「……あのさぁ千晶ちゃん」
「なぁに?」
「こんなの、人が亡くなってるのに言うのはさ、不謹慎なんだけれど」
「うん」
私は千晶ちゃんをチラリと見上げた。
「私たち、前世持ち、じゃん」
「? うん」
「てことはさ、一度死んでる、わけで」
「……うん」
突然殺された。終わらされた、かつての「私」の人生。大きなナイフ、振り上げられたあの男の手。奪われた、かつての生。
「この人も、きっとあそこで死ぬなんて思ってなくて」
テレビの画面下に出ているのは、生前の、善良そうなおじさんの写真。
「だからさー、なんていうか。後悔しないように生きた方がいいなぁって、私は思うんだ」
千晶ちゃんは口を真一文字に結んでいる。
「ねえ千晶ちゃんは、橋崎くんが好きなの?」
「へっ!? ん、あう、うう、うん」
「どっちなの」
笑いながら私は千晶ちゃんの緑色の顔面を見る。きっと緑色の下は赤く染まってるんだろう。
「好きなら好き、って言ってみたらどうかなぁ」
「……むむむ」
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