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【高校編】分岐・黒田健
【side健】
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もうすぐ夏休みが終わる、っていうクソあちぃ日の夕方。
「生徒会役員になろうと思って」
「へえ?」
設楽は俺のうちのリビングで、メロンソーダを飲みながらそう言って笑った。
ソファ前のローテーブルの上には所狭しと積み上げられたテキストの山。
要は夏休みの宿題、だ。
(終わんなかったんだよなぁ)
部活部活部活三昧で、コツコツやってたつもりが案外残ってた。
もうこうなりゃ仕方ない、潔く謝って追加課題でもなんとかこなしていこう、と腹を括ってたら設楽から連絡があった。
「夏休みの宿題、手伝おうか?」
終わってないだろうな、と思われてたんだろーなってのが気恥ずかしかったり、俺の行動読まれてんのが……というよりは、読まれるくらいには一緒に過ごしてんだなと思うのが(嬉しくて)気恥ずかしかったり……まぁとにかく断る理由はない。二つ返事で家庭教師をお願いした。
ある程度目処がついて、休憩に設楽の好きなメロンソーダ(アイスのせ)を出したところで、ぽそっと設楽が「生徒会役員やりたい」と話し出したのだ。
ソファの隣に座って、俺はコーヒーを飲みながら口を開いた。
「前のガッコも実行委員してたもんな。そういうの好きなんか」
「えーと、ちょっと違って」
設楽はアイスをその可愛らしい口に運びながら言葉を続ける。ちらりと見えた少し薄い舌に心臓が勝手にどきりとする。
俺はやっぱりもうダメだという感情を表情に出さないように気をつけつつ、設楽の話の続きを待つ。
「青百合ってね、男女で校則が違うの」
「へえ?」
そんなことあんのか?
俺の疑問を汲み取ってか、設楽は説明してくれた。
「もともとね、青百合って男子校と女子校が戦後に統合された学校なんだって。女子校も男子校も、どちらも明治にできた学校なんだけど」
「……校則だけはそのまま変わらずってことか?」
「その通りなの」
設楽は首を傾げた。
「男子校のほうは、どちらかというと自主性を重んじるというか。学業に支障なければ服装もそこまで気にしなくていいし。髪も染められるんだ」
「ああ、うちのガッコも頭髪の規則ねぇな」
「そうなの?」
驚く設楽に、俺は笑って答えた。
「うちの学校、だいたい皆部活してるからな。部活ごとに規則があるから、校則で決めなくていいんだよ」
まぁそんな訳で、だいたい坊主かそれにそれこそ毛が生えたようなやつしかいない。俺だって世間的には相当短髪だけれど、あの学校内じゃ長いほうだ。
「ああ、なるほどね」
設楽は俺の髪にそっと触れた。
「黒田くんは短いの似合うけど」
「楽だしなぁ」
ドライヤーなんか使ったことがない。
さわさわと触れる設楽の指がくすぐったくて、少し気持ちがいい。
「頭、なでるのも結構気持ちいいんだね」
「そんなに俺撫でてるか」
「うん」
くすくすと設楽は小さく笑う。俺を撫でる設楽の細い手首をとって、そっと引き寄せた。
半分抱きしめるみたいにしながら、設楽の髪を撫でる。さらり、という擬音が似合いそうなそんな黒髪。
至近距離で俺を見上げるその額に、軽くキスを落とす。設楽は俺のTシャツの裾をそっと掴んだ。
少し離れて、目が合う。足りないって顔をしてて、臓腑の内からざわりと熱いなにかが湧き出そうになる。
唇を重ねる。何度も、角度を変えながら、ゆっくりと舌をねじ込む。俺に応えようとする設楽がいじらしくて、愛おしい。その舌を、さっきから可愛くて仕方ないと思っていたその薄い舌を甘噛みすると、設楽は震えるように俺の首に腕を回す。
ソファに軽く押し倒すみたいにしながら、設楽の口の中を堪能する。隅から隅で。設楽はその度に小さく震え、蕩けるような細い声をあげた。
(あー、ダメだ)
そんな声は反則だ。
そっと離れると、薄ら開いていた唇を設楽はそっと閉じて、それからこくりと喉を動かして、俺と設楽の唾液が混じり合ったモノを飲み込んだ。
俺は自分を褒めたい。
そこで再び設楽に覆いかぶさらなかった自分を褒めたい。
「……黒田くん」
「? なんだよ」
「しよーよー」
「しねぇよ」
ぽんぽん、と頭を撫でた。
「ごめんな?」
「謝られることじゃないけど」
設楽は起き上がって、髪に触れる。少しぐちゃぐちゃだ。
俺がそうした、ってことが少しの満足感を俺に与える。俺が。俺の。
俺のだから。
(……この独占欲)
いつか落ち着く日がくるんだろーか。……無さそうだな。
俺はさらりと設楽の髪に触れて、整えた。設楽は嬉しそうに笑う。
「……あ、でね」
少し溶けかけたメロンソーダをひと口飲んだあと、設楽は首を傾げた。
「なんだかえっちぃ展開になってたけど」
「なってねぇよ」
いやなってたか? ……なってたか。
「話の続きね」
えへへ、と設楽は笑う。
「えーと、男子は髪染めOKまで聞いた」
「そーそー。なのにね、女子はダメなの。ダメどころか厳しすぎるの」
設楽は口を尖らせた。
「黒髪ストレートじゃないとダメなの。ポニテとお団子も禁止」
「お団子って……ああ、あれか。なんかこう、丸めた」
「そうそう」
設楽は頷く。
「? スッキリしていいじゃねぇか」
むしろ清楚というなら、まとめ髪のイメージが強い。
「うなじ」
「……?」
「うなじが見えるからダメなんだって」
「は?」
「うなじが男子生徒を欲情させるそうです」
なんだそりゃ、とさすがに俺も呆れて首を傾げた。
「生徒会役員になろうと思って」
「へえ?」
設楽は俺のうちのリビングで、メロンソーダを飲みながらそう言って笑った。
ソファ前のローテーブルの上には所狭しと積み上げられたテキストの山。
要は夏休みの宿題、だ。
(終わんなかったんだよなぁ)
部活部活部活三昧で、コツコツやってたつもりが案外残ってた。
もうこうなりゃ仕方ない、潔く謝って追加課題でもなんとかこなしていこう、と腹を括ってたら設楽から連絡があった。
「夏休みの宿題、手伝おうか?」
終わってないだろうな、と思われてたんだろーなってのが気恥ずかしかったり、俺の行動読まれてんのが……というよりは、読まれるくらいには一緒に過ごしてんだなと思うのが(嬉しくて)気恥ずかしかったり……まぁとにかく断る理由はない。二つ返事で家庭教師をお願いした。
ある程度目処がついて、休憩に設楽の好きなメロンソーダ(アイスのせ)を出したところで、ぽそっと設楽が「生徒会役員やりたい」と話し出したのだ。
ソファの隣に座って、俺はコーヒーを飲みながら口を開いた。
「前のガッコも実行委員してたもんな。そういうの好きなんか」
「えーと、ちょっと違って」
設楽はアイスをその可愛らしい口に運びながら言葉を続ける。ちらりと見えた少し薄い舌に心臓が勝手にどきりとする。
俺はやっぱりもうダメだという感情を表情に出さないように気をつけつつ、設楽の話の続きを待つ。
「青百合ってね、男女で校則が違うの」
「へえ?」
そんなことあんのか?
俺の疑問を汲み取ってか、設楽は説明してくれた。
「もともとね、青百合って男子校と女子校が戦後に統合された学校なんだって。女子校も男子校も、どちらも明治にできた学校なんだけど」
「……校則だけはそのまま変わらずってことか?」
「その通りなの」
設楽は首を傾げた。
「男子校のほうは、どちらかというと自主性を重んじるというか。学業に支障なければ服装もそこまで気にしなくていいし。髪も染められるんだ」
「ああ、うちのガッコも頭髪の規則ねぇな」
「そうなの?」
驚く設楽に、俺は笑って答えた。
「うちの学校、だいたい皆部活してるからな。部活ごとに規則があるから、校則で決めなくていいんだよ」
まぁそんな訳で、だいたい坊主かそれにそれこそ毛が生えたようなやつしかいない。俺だって世間的には相当短髪だけれど、あの学校内じゃ長いほうだ。
「ああ、なるほどね」
設楽は俺の髪にそっと触れた。
「黒田くんは短いの似合うけど」
「楽だしなぁ」
ドライヤーなんか使ったことがない。
さわさわと触れる設楽の指がくすぐったくて、少し気持ちがいい。
「頭、なでるのも結構気持ちいいんだね」
「そんなに俺撫でてるか」
「うん」
くすくすと設楽は小さく笑う。俺を撫でる設楽の細い手首をとって、そっと引き寄せた。
半分抱きしめるみたいにしながら、設楽の髪を撫でる。さらり、という擬音が似合いそうなそんな黒髪。
至近距離で俺を見上げるその額に、軽くキスを落とす。設楽は俺のTシャツの裾をそっと掴んだ。
少し離れて、目が合う。足りないって顔をしてて、臓腑の内からざわりと熱いなにかが湧き出そうになる。
唇を重ねる。何度も、角度を変えながら、ゆっくりと舌をねじ込む。俺に応えようとする設楽がいじらしくて、愛おしい。その舌を、さっきから可愛くて仕方ないと思っていたその薄い舌を甘噛みすると、設楽は震えるように俺の首に腕を回す。
ソファに軽く押し倒すみたいにしながら、設楽の口の中を堪能する。隅から隅で。設楽はその度に小さく震え、蕩けるような細い声をあげた。
(あー、ダメだ)
そんな声は反則だ。
そっと離れると、薄ら開いていた唇を設楽はそっと閉じて、それからこくりと喉を動かして、俺と設楽の唾液が混じり合ったモノを飲み込んだ。
俺は自分を褒めたい。
そこで再び設楽に覆いかぶさらなかった自分を褒めたい。
「……黒田くん」
「? なんだよ」
「しよーよー」
「しねぇよ」
ぽんぽん、と頭を撫でた。
「ごめんな?」
「謝られることじゃないけど」
設楽は起き上がって、髪に触れる。少しぐちゃぐちゃだ。
俺がそうした、ってことが少しの満足感を俺に与える。俺が。俺の。
俺のだから。
(……この独占欲)
いつか落ち着く日がくるんだろーか。……無さそうだな。
俺はさらりと設楽の髪に触れて、整えた。設楽は嬉しそうに笑う。
「……あ、でね」
少し溶けかけたメロンソーダをひと口飲んだあと、設楽は首を傾げた。
「なんだかえっちぃ展開になってたけど」
「なってねぇよ」
いやなってたか? ……なってたか。
「話の続きね」
えへへ、と設楽は笑う。
「えーと、男子は髪染めOKまで聞いた」
「そーそー。なのにね、女子はダメなの。ダメどころか厳しすぎるの」
設楽は口を尖らせた。
「黒髪ストレートじゃないとダメなの。ポニテとお団子も禁止」
「お団子って……ああ、あれか。なんかこう、丸めた」
「そうそう」
設楽は頷く。
「? スッキリしていいじゃねぇか」
むしろ清楚というなら、まとめ髪のイメージが強い。
「うなじ」
「……?」
「うなじが見えるからダメなんだって」
「は?」
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