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【高校編】分岐・相良仁
【side仁】これから
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どこからどう今回の話を嗅ぎつけたかわかんない父親はまぁベラベラベラベラ嬉しそうにお喋りしてくれた。
「だからジーンは5歳までひとりでトイレに」
「お前少し黙れ」
「やぁだなぁジーン、お父様は楽しい昔話をしてるだけじゃないか」
華は楽しそうに肩を揺らしている。
「なんでよー、もっと聞きたい」
「……聞かなくていいよ」
さらりと髪を撫でそうになって、華のバーさんの視線に射殺されそうになる。
「指一本触れないのでは?」
「……でした」
華はじとりと俺を見上げる。余計なこと言って! って顔。
でも俺はそれで認めてもらえるなら、一年くらい我慢する……我慢できるかな? しますよ!
「じゃあ次は~」
「まだ何か話す気なのかよ」
親父にそう言うと、親父は肩を竦めた。
「ううん? でも次は華さんが誠意見せるばーん」
俺はぽかんと親父を見つめた。なんだそりゃ。
華はじっと親父を見てる。
「まだボクは認めてないデスよ?」
「しらねーよ、いって」
華に太ももをつねられた。なになに!? ……ていうか、華から触んのはOKなの?
「私はちゃんと認められたい」
「……認めるもなにもない」
別に親の許可なんか必要ない。単に、華は未成年だし、それに華のバーさんと縁切りみたいになんのは、なんかヤだった。だからちゃんと挨拶したかったし、認められたかった。
華もバーさんも、多分普通に「家族」なのに……華を奪って行くのは、出来る限り、最後の手段にしたくなっていた。
「まーまー、そう言わずにジーンちゃん」
「腹立つ呼び方ヤメロ」
「別にさあ、結婚に反対してるわけじゃないの。単に少しだけ、英国の学校に通ってもらいたいだけで」
「……へ?」
俺たちはぽかんと顔を見合わせた。親父は笑って、華と華のバーさんに向かって話しだす。
「ロンドン郊外に知り合いがやってる全寮制の学校があるんです。もちろん女子校」
華のバーさんは興味深げに聞いていた。その表情を俺はやっと少し冷静に見つめる。
(ふうん)
いや、わかってたけど……認めるなんかなかなかできないよなぁ。
親父は言葉を続ける。
「この学校は未だに花嫁学校としての色合いを残してましてね」
ちら、と華を見たあとさらに続ける。
「英国式のマナーや儀典、もちろんお勉強もひととおり」
「……はい」
「できる?」
「できます」
華はキッパリ答えて、俺は親父の足を踏んだ。
「いっ」
「なに勝手こいてんだクソ親父」
立場を利用させてもらったけれど、それだって親父のモンってわけじゃない。代々勝手に受け継がれてる良く分かんないモンで、俺は継ぐ気がない。
「いやぁ、だってさぁ、ジーン。お前のお母さんはそこで苦労したんだよ」
母親の名前を出されて、少し黙る。苦労?
「伯爵家に嫁ぐってどっかそーいうことなの。マナーも儀典も、くだらないけど知らないと苦労するの」
ねぇ? と華に笑いかける親父に、華は神妙に頷いた。
「がんばります……ね、敦子さん行っていいでしょう?」
華のバーさんは頷く。
「全寮制ね。いいんじゃない? いってらっしゃいよ」
微笑むその口で「頭が冷えそうで」と言いたいのを我慢してんだろーな、と俺は思う。
(少し離れたら感情も冷えると思われてんだろうなぁ)
親父の知り合いのその学校、確か教職員スタッフに至るまで全員女性だ。つまり、俺の入り込む隙間はない……。
その間に、華の俺に対する感情が冷えちゃえば万々歳、って感じなんだろうなぁ。
でも残念ながら、それはない。
「でも」
俺は華を見つめる。
(学校は?)
今の学校、楽しいって言ってたじゃんか。……桜澤以外は、って感じになるけど、でも。
(友達も、委員会も、勉強も)
全部捨てて行くのかよ。……俺なんかのために?
「……卒業後でいいんじゃないか」
「高校出てるのに高校に留学って変じゃない?」
華は首を傾げた。俺は「変じゃないよ」とテキトーに答える。
「でもあの、できれば夏以降にしてもらえませんか?」
華は親父に笑う。
「いまやってる委員会の任期が、1学期末までなんです。七月半ば」
「うん、構わないよ。というかちょうどいいかなぁ」
9月が新学年だからね、と親父は笑う。
「一年でぜぇんぶ覚えるんだよ? できなかったら留年だからね」
「できます」
華はきゅうと膝の上で手を握り締めて、そう答えた。
「それでこの人といられるなら、やります」
「……おやおやウチの息子たん、ずいぶん想われてるみたいで」
親父は茶化すけど、俺はなぜだか泣きそうだしそこまでやんなくていいと思う。継ぐ気なんかないのに。
華は笑う。
「仁、なんで泣いてるの」
「泣いてねーし」
「泣いてる」
くすくすと華は笑う。
華をぎゅうぎゅう抱きしめたいけど、それは我慢する。約束だから。
(結婚まで指一本触れません)
……てことは来年の卒業、七月まで我慢ってこと!?
(こっちの学校より期間増えてるじゃん!)
顔に出てたのか、じとりと華のばーさんに顔を見られて、俺はなんとか苦笑いを返した。
「だからジーンは5歳までひとりでトイレに」
「お前少し黙れ」
「やぁだなぁジーン、お父様は楽しい昔話をしてるだけじゃないか」
華は楽しそうに肩を揺らしている。
「なんでよー、もっと聞きたい」
「……聞かなくていいよ」
さらりと髪を撫でそうになって、華のバーさんの視線に射殺されそうになる。
「指一本触れないのでは?」
「……でした」
華はじとりと俺を見上げる。余計なこと言って! って顔。
でも俺はそれで認めてもらえるなら、一年くらい我慢する……我慢できるかな? しますよ!
「じゃあ次は~」
「まだ何か話す気なのかよ」
親父にそう言うと、親父は肩を竦めた。
「ううん? でも次は華さんが誠意見せるばーん」
俺はぽかんと親父を見つめた。なんだそりゃ。
華はじっと親父を見てる。
「まだボクは認めてないデスよ?」
「しらねーよ、いって」
華に太ももをつねられた。なになに!? ……ていうか、華から触んのはOKなの?
「私はちゃんと認められたい」
「……認めるもなにもない」
別に親の許可なんか必要ない。単に、華は未成年だし、それに華のバーさんと縁切りみたいになんのは、なんかヤだった。だからちゃんと挨拶したかったし、認められたかった。
華もバーさんも、多分普通に「家族」なのに……華を奪って行くのは、出来る限り、最後の手段にしたくなっていた。
「まーまー、そう言わずにジーンちゃん」
「腹立つ呼び方ヤメロ」
「別にさあ、結婚に反対してるわけじゃないの。単に少しだけ、英国の学校に通ってもらいたいだけで」
「……へ?」
俺たちはぽかんと顔を見合わせた。親父は笑って、華と華のバーさんに向かって話しだす。
「ロンドン郊外に知り合いがやってる全寮制の学校があるんです。もちろん女子校」
華のバーさんは興味深げに聞いていた。その表情を俺はやっと少し冷静に見つめる。
(ふうん)
いや、わかってたけど……認めるなんかなかなかできないよなぁ。
親父は言葉を続ける。
「この学校は未だに花嫁学校としての色合いを残してましてね」
ちら、と華を見たあとさらに続ける。
「英国式のマナーや儀典、もちろんお勉強もひととおり」
「……はい」
「できる?」
「できます」
華はキッパリ答えて、俺は親父の足を踏んだ。
「いっ」
「なに勝手こいてんだクソ親父」
立場を利用させてもらったけれど、それだって親父のモンってわけじゃない。代々勝手に受け継がれてる良く分かんないモンで、俺は継ぐ気がない。
「いやぁ、だってさぁ、ジーン。お前のお母さんはそこで苦労したんだよ」
母親の名前を出されて、少し黙る。苦労?
「伯爵家に嫁ぐってどっかそーいうことなの。マナーも儀典も、くだらないけど知らないと苦労するの」
ねぇ? と華に笑いかける親父に、華は神妙に頷いた。
「がんばります……ね、敦子さん行っていいでしょう?」
華のバーさんは頷く。
「全寮制ね。いいんじゃない? いってらっしゃいよ」
微笑むその口で「頭が冷えそうで」と言いたいのを我慢してんだろーな、と俺は思う。
(少し離れたら感情も冷えると思われてんだろうなぁ)
親父の知り合いのその学校、確か教職員スタッフに至るまで全員女性だ。つまり、俺の入り込む隙間はない……。
その間に、華の俺に対する感情が冷えちゃえば万々歳、って感じなんだろうなぁ。
でも残念ながら、それはない。
「でも」
俺は華を見つめる。
(学校は?)
今の学校、楽しいって言ってたじゃんか。……桜澤以外は、って感じになるけど、でも。
(友達も、委員会も、勉強も)
全部捨てて行くのかよ。……俺なんかのために?
「……卒業後でいいんじゃないか」
「高校出てるのに高校に留学って変じゃない?」
華は首を傾げた。俺は「変じゃないよ」とテキトーに答える。
「でもあの、できれば夏以降にしてもらえませんか?」
華は親父に笑う。
「いまやってる委員会の任期が、1学期末までなんです。七月半ば」
「うん、構わないよ。というかちょうどいいかなぁ」
9月が新学年だからね、と親父は笑う。
「一年でぜぇんぶ覚えるんだよ? できなかったら留年だからね」
「できます」
華はきゅうと膝の上で手を握り締めて、そう答えた。
「それでこの人といられるなら、やります」
「……おやおやウチの息子たん、ずいぶん想われてるみたいで」
親父は茶化すけど、俺はなぜだか泣きそうだしそこまでやんなくていいと思う。継ぐ気なんかないのに。
華は笑う。
「仁、なんで泣いてるの」
「泣いてねーし」
「泣いてる」
くすくすと華は笑う。
華をぎゅうぎゅう抱きしめたいけど、それは我慢する。約束だから。
(結婚まで指一本触れません)
……てことは来年の卒業、七月まで我慢ってこと!?
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