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【高校編】分岐・黒田健
【side健】鍵
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「あれ、黒田さんの息子さん」
部活のランニングから武道場近くまで帰ってきた時、そう声をかけられた。
「……うす」
挨拶をしながら、ふと目を細める。
「えーと、白井さん」
「そう! よく覚えてたねぇ」
さすが警部補の息子さんだなぁと白井さんは人懐こそうに笑った。
白井慶一郎。確か親父の部下で、俺も何度か会ったことがある。
「この学校だったんだ」
「なにかあったんすか」
自分の学校に私服とはいえ警官がいる。ほんの少し眉をひそめたけれど、白井さんは明るく笑った。
「違う違う。オレ、ここの卒業生で」
「そうなんすか」
「剣道部ね。たまーに、指導に来てる」
「へえ」
知らなかったッス、というと白井さんも目を細めた。
「いやぁ、最近だからね、また来出したの……あ、時間だから行くね。またね健くん」
ニコニコとした表情で、白井さんは歩き出した。俺も一礼して離れる。
(……?)
なにかがひどくひっかかっていた。
なにか、が。
帰宅して誰もいないリビングの電気をつける。
「お、メシある」
テーブルには料理が並んでいた。……そういや親父は(さすがに)休みのはず。姿は見当たらないが、まぁどっかでかけてるのか、急に仕事に呼び出されたかだな、と見当をつけてメシよそって先に食べ始める。
サバのみぞれ煮。うん、ウマイ。
ガチャリと音がして振り向くと、親父が「お、おかえりぃ」とビニール袋片手に立っていた。車のキーを持っている。
「電気屋?」
ビニール袋の店名からそう聞くと、親父は肩をすくめた。
「そーそー、トイレの電球切れちゃって」
「俺やろうか」
「いーよ、食べてて」
そう言いながら親父はリモコンを使ってテレビをつけた。ちょうど9時のニュースが始まるところだった。
『平塚市で見つかった男性の遺体……』
ニュースキャスターのその言葉に、俺は「ああこれか」と思う。こないだ親父が呼び出されてた事件。
『殺人事件と断定し、捜査を……』
『亡くなったのは平塚市の会社員、木本兆さん42歳で、』
俺はテレビ画面を見つめる。短髪の男がたのしげに笑っている写真。
なんとなく、味噌汁が苦く感じた。
そのことに気がついたのは、本当に偶然だった。
「図書室清掃ってなんかサボりたくなるよなー」
「サボんなよ」
俺は同じクラスの近藤と図書室の清掃をしていた。特殊教室の掃除担当は週替わりで受け持つことになっている。
「さっさと終わらせて部活行くぞ」
「うーい」
といっても、そこは図書室、そこまでやることはない。大抵のことは図書委員や図書の教諭がやってくれている。
ハタキであまり借りられていない本のホコリをざっと落として、床を乾燥モップで拭けば終わり。
ふと、一冊の本が気になった。
「?」
同窓会名簿。
学校主催の同窓会で、参加者の名簿やら感想やらが冊子になったやつ。
三学年くらいが何周年かごとにこの同窓会をやっているらしかった。たとえば、今年は10期生と15期生と23期生、というように。
この学校は歴史が長いから、その名簿も何冊も並んでる。そして誰も見ないからホコリだらけだ。……ほかの図書室清掃のやつ、あんま真面目にやってねーな?
なのに、その一冊だけはホコリがなかった。何度も見られているかのように。
「……」
手に取り、ぱらりとめくる。
「おー黒田、てめえアレだな、大掃除で漫画読み出すタイプだな」
「うるせーな」
近藤にそう答えつつ、俺は気になってぱらぱらとページをめくる。
そこに並んでいるのは参加者の名簿。もちろん三学年の卒業生全員が参加するわけじゃないから、そこまで分厚いわけではないけれど、それでも4百人弱はあった。
それでも俺はその名前を見つけてしまう。木本兆。
「……」
住所は、平塚市桃浜。
嫌な予感でぱらぱらとめくる。
次に見つけたのは筑紫要一だった。京都で見かけたニュースの名前だ、となんとか思い出す。確かなくなっていたのは、京都の紫野。
それから黄瀬孝。新横浜駅の被害者。
俺はその本を掴んだままスマホをタップする。
「黒田?」
近藤が不審そうに俺を見る。俺はただ黙って、親父が電話に出るのを待った。
(犯人はこの学校の関係者だ)
しかも、なにを考えてるのか偏執的に「名前」にこだわっている。
名前と地名の、色の一致。
筑紫は紫野。
黄瀬は新横浜。横の「黄」だ。
木本兆は桃浜。「木」と「兆」。
やっと電話に出た親父に事情を説明すると、今すぐくると言う。
目を白黒させてる近藤を見ながら、俺はふと思った。
(そういや設楽は白だな)
楽、って字に入っている。白。
俺は黒で、設楽は白。
(まぁ俺や設楽が狙われることはないと思うけど)
狙われてんのは、この学校の「卒業生」なんだから、と俺はぼんやりと思った。
部活のランニングから武道場近くまで帰ってきた時、そう声をかけられた。
「……うす」
挨拶をしながら、ふと目を細める。
「えーと、白井さん」
「そう! よく覚えてたねぇ」
さすが警部補の息子さんだなぁと白井さんは人懐こそうに笑った。
白井慶一郎。確か親父の部下で、俺も何度か会ったことがある。
「この学校だったんだ」
「なにかあったんすか」
自分の学校に私服とはいえ警官がいる。ほんの少し眉をひそめたけれど、白井さんは明るく笑った。
「違う違う。オレ、ここの卒業生で」
「そうなんすか」
「剣道部ね。たまーに、指導に来てる」
「へえ」
知らなかったッス、というと白井さんも目を細めた。
「いやぁ、最近だからね、また来出したの……あ、時間だから行くね。またね健くん」
ニコニコとした表情で、白井さんは歩き出した。俺も一礼して離れる。
(……?)
なにかがひどくひっかかっていた。
なにか、が。
帰宅して誰もいないリビングの電気をつける。
「お、メシある」
テーブルには料理が並んでいた。……そういや親父は(さすがに)休みのはず。姿は見当たらないが、まぁどっかでかけてるのか、急に仕事に呼び出されたかだな、と見当をつけてメシよそって先に食べ始める。
サバのみぞれ煮。うん、ウマイ。
ガチャリと音がして振り向くと、親父が「お、おかえりぃ」とビニール袋片手に立っていた。車のキーを持っている。
「電気屋?」
ビニール袋の店名からそう聞くと、親父は肩をすくめた。
「そーそー、トイレの電球切れちゃって」
「俺やろうか」
「いーよ、食べてて」
そう言いながら親父はリモコンを使ってテレビをつけた。ちょうど9時のニュースが始まるところだった。
『平塚市で見つかった男性の遺体……』
ニュースキャスターのその言葉に、俺は「ああこれか」と思う。こないだ親父が呼び出されてた事件。
『殺人事件と断定し、捜査を……』
『亡くなったのは平塚市の会社員、木本兆さん42歳で、』
俺はテレビ画面を見つめる。短髪の男がたのしげに笑っている写真。
なんとなく、味噌汁が苦く感じた。
そのことに気がついたのは、本当に偶然だった。
「図書室清掃ってなんかサボりたくなるよなー」
「サボんなよ」
俺は同じクラスの近藤と図書室の清掃をしていた。特殊教室の掃除担当は週替わりで受け持つことになっている。
「さっさと終わらせて部活行くぞ」
「うーい」
といっても、そこは図書室、そこまでやることはない。大抵のことは図書委員や図書の教諭がやってくれている。
ハタキであまり借りられていない本のホコリをざっと落として、床を乾燥モップで拭けば終わり。
ふと、一冊の本が気になった。
「?」
同窓会名簿。
学校主催の同窓会で、参加者の名簿やら感想やらが冊子になったやつ。
三学年くらいが何周年かごとにこの同窓会をやっているらしかった。たとえば、今年は10期生と15期生と23期生、というように。
この学校は歴史が長いから、その名簿も何冊も並んでる。そして誰も見ないからホコリだらけだ。……ほかの図書室清掃のやつ、あんま真面目にやってねーな?
なのに、その一冊だけはホコリがなかった。何度も見られているかのように。
「……」
手に取り、ぱらりとめくる。
「おー黒田、てめえアレだな、大掃除で漫画読み出すタイプだな」
「うるせーな」
近藤にそう答えつつ、俺は気になってぱらぱらとページをめくる。
そこに並んでいるのは参加者の名簿。もちろん三学年の卒業生全員が参加するわけじゃないから、そこまで分厚いわけではないけれど、それでも4百人弱はあった。
それでも俺はその名前を見つけてしまう。木本兆。
「……」
住所は、平塚市桃浜。
嫌な予感でぱらぱらとめくる。
次に見つけたのは筑紫要一だった。京都で見かけたニュースの名前だ、となんとか思い出す。確かなくなっていたのは、京都の紫野。
それから黄瀬孝。新横浜駅の被害者。
俺はその本を掴んだままスマホをタップする。
「黒田?」
近藤が不審そうに俺を見る。俺はただ黙って、親父が電話に出るのを待った。
(犯人はこの学校の関係者だ)
しかも、なにを考えてるのか偏執的に「名前」にこだわっている。
名前と地名の、色の一致。
筑紫は紫野。
黄瀬は新横浜。横の「黄」だ。
木本兆は桃浜。「木」と「兆」。
やっと電話に出た親父に事情を説明すると、今すぐくると言う。
目を白黒させてる近藤を見ながら、俺はふと思った。
(そういや設楽は白だな)
楽、って字に入っている。白。
俺は黒で、設楽は白。
(まぁ俺や設楽が狙われることはないと思うけど)
狙われてんのは、この学校の「卒業生」なんだから、と俺はぼんやりと思った。
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