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【高校編】分岐・鍋島真
【side青花】あたしを狙う誰か
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「は?」
思わず低い声が出た。だってそんなはずなかった。あたしに逆恨みで嫌がらせするなんて、大した度胸ねと言いたいだけだった。
夏休み終わってすぐのことだったと思う。
「入院? してんの? あー、えーと」
「アリサ」
「そうそうアリサたーん」
そう呼んであげていた。隠キャなのにカースト上位のあたしたちと遊ぶんだから、そりゃ、少しくらいの「我慢」も必要でしょう?
そうじゃなきゃ、あたしたちが隠キャに構うメリットがなくない……?
涼くんは少し目を細めた。
「? なに?」
「ま、……行ってみろよ」
あの子がお前に復讐なんかできるわけがないってこと、確認したらいい。
そんな風に言われて、何がなんだか分からないうちにあたしはアリサたんの病室を訪れていた。
そこにいたのは、すっかりガリガリなアリサたん。
(痩せろとは言ったけどさ)
痩せすぎじゃん。
鼻の穴にチューブ入れられてんのは正直ウケたけど、同時にあたしは気がついた。
(じゃ、あたしに逆恨みしてんの、誰?)
こいつの家族ぅ?
でも、知らないっぽいんだよね、あたし達がしてた遊びのこと。
用事は済んだから、さっさと病室を出て歩き出す。
病院のコンビニに寄って、雑誌を買う。病院の入り口にチェーンのカフェがあって、新発売のフラペチーノが今日から売ってることを思い出したから、寄ろうと思って。
(誰より先に、SNSに上げなきゃ)
誰かの後だと、イイネが減っちゃう。
無事にフラペチーノを買えて、窓際の席に座った。中庭を向いているその席は、あんまり病院っぽくない。いいんじゃない?
あたしはそれをパシャリとカメラにおさめる。
少し加工して、即アップ。……よし、一番だ。ふっふ、学校早退したかいがあった!
ぱらりと雑誌を開く。欲しいもの載ってるかな、って思ってたら、紙が一枚挟まってたことに気がつく。
「……蛙のホルマリン漬け?」
メモには、そうかいてあった。何これ? ……って、あたしはひとつ、思い出したことがある。
(アリサたんに会いに来てたから、思い出したのかなぁ)
アリサたんに「その遊び」をしようって提案したのは、まぁなんてことはなくて、単なる暇つぶし。
(中学生男子なんて性欲のカタマリだし?)
発散させたげようかなって、そう思ったのもある。
だからアリサたんにお願いした。
口でしてあげてって。
最初は不慣れだからか、泣いて嫌がってたけど、慣れてくると淡々とこなすようになっていた。人間、なんでも慣れだよね!
(ていうか、最初からやれよ~)
やれるんならさ。
(やれることを、やりもしない内に「やれない」「むり」とか言うヤツ、嫌いなんだよねぇ)
根性ないなぁ、ほんとに。
あたしは窓の外を眺めながらそう呟く。
まぁそれで、そういうのを理科準備室でさせてたんだけど、ある日男子が笑いながら言ったんだよね、「ホルマリン漬け蛙に見られながらイくのってなんか気まずいよな」って。
(あたし、天然だからなぁ)
思い出して自分でも笑える。てっきりアリサたんのこと、ホルマリン漬け蛙に例えてるんだと思って「アリサたんが蛙なんて酷いよ~」って答えちゃった、んだよね……。
「え?」
私はその紙片を見つめる。
え? そのこと? 関係ないよね?
(だって、あたしがこの雑誌買ったの、たまたまだし)
もっと言えば、あたしがここに来ることを知ってたのは涼くんだけ。
(……え? 涼?)
あたしに嫌がらせしてんの、あいつ?
カッと頬が熱くなる。
(バカにして!)
そういえば、アリサたんにやけに同情的だった。あいつ、あいつ、少し顔がいいから構ってやってるだけなのに!
あたしはカフェのゴミ箱に雑誌と中身がそのままのフラペチーノを叩きつけるように捨てて、涼くんを駅前まで呼び出す。
「なんだよ、急に」
あたしの呼び出しにすぐ来るとこなんかいつも通りで、それが余計に腹が立つ。頭の中では、あたしのことバカにしてるくせに!
「アンタでしょ!? いままでの嫌がらせ!」
「は?」
とぼける涼くんに、あたしはイチから説明してあげる。
けど、涼くんは慌てた様子で否定した。
「オレじゃないよ!」
「言い訳はしないで!」
「いや、だって、ほら。オレ、今日青花があの病院に行ったの、いま知ったし」
「……え?」
「だって、言ってなかったよな?」
「そう、いえば」
あたしは黙り込む。涼くんは困った顔であたしを見つめてる。
「それに、雑誌に入ってたメモ? それだって、偶然だろ。病院の、なんかのメモだったんじゃね? 実験とかの。知らねーけど、青ちゃんが雑誌買ったの、たまたまなんだよな?」
「そ、そうだよね、たまたまだよね」
あは、とあたしが笑うと、涼くんは少し安心した顔をしてくれた。
顔が良い人がそういう顔すると、素直にごめんねって思う。
だけどあたしは帰宅して、家の玄関の前の紙袋を見つける。
中身は、蛙のホルマリン漬けだった。
悲鳴も出なかった。
あたし、誰に狙われてるの?
警察に通報したホルマリン漬けは「落とし物」として回収されていった。
そんなことが続いてーーあたしは決意した。
(ゲームの青花の筋書きを、完璧に辿ろう)
だって、ゲームの青花はこんな目にあってなかったし。
だとすれば、ゲームのシナリオにのってさえしまえば、あたしに待ってるのはハッピーエンドしかないはずだ。
思わず低い声が出た。だってそんなはずなかった。あたしに逆恨みで嫌がらせするなんて、大した度胸ねと言いたいだけだった。
夏休み終わってすぐのことだったと思う。
「入院? してんの? あー、えーと」
「アリサ」
「そうそうアリサたーん」
そう呼んであげていた。隠キャなのにカースト上位のあたしたちと遊ぶんだから、そりゃ、少しくらいの「我慢」も必要でしょう?
そうじゃなきゃ、あたしたちが隠キャに構うメリットがなくない……?
涼くんは少し目を細めた。
「? なに?」
「ま、……行ってみろよ」
あの子がお前に復讐なんかできるわけがないってこと、確認したらいい。
そんな風に言われて、何がなんだか分からないうちにあたしはアリサたんの病室を訪れていた。
そこにいたのは、すっかりガリガリなアリサたん。
(痩せろとは言ったけどさ)
痩せすぎじゃん。
鼻の穴にチューブ入れられてんのは正直ウケたけど、同時にあたしは気がついた。
(じゃ、あたしに逆恨みしてんの、誰?)
こいつの家族ぅ?
でも、知らないっぽいんだよね、あたし達がしてた遊びのこと。
用事は済んだから、さっさと病室を出て歩き出す。
病院のコンビニに寄って、雑誌を買う。病院の入り口にチェーンのカフェがあって、新発売のフラペチーノが今日から売ってることを思い出したから、寄ろうと思って。
(誰より先に、SNSに上げなきゃ)
誰かの後だと、イイネが減っちゃう。
無事にフラペチーノを買えて、窓際の席に座った。中庭を向いているその席は、あんまり病院っぽくない。いいんじゃない?
あたしはそれをパシャリとカメラにおさめる。
少し加工して、即アップ。……よし、一番だ。ふっふ、学校早退したかいがあった!
ぱらりと雑誌を開く。欲しいもの載ってるかな、って思ってたら、紙が一枚挟まってたことに気がつく。
「……蛙のホルマリン漬け?」
メモには、そうかいてあった。何これ? ……って、あたしはひとつ、思い出したことがある。
(アリサたんに会いに来てたから、思い出したのかなぁ)
アリサたんに「その遊び」をしようって提案したのは、まぁなんてことはなくて、単なる暇つぶし。
(中学生男子なんて性欲のカタマリだし?)
発散させたげようかなって、そう思ったのもある。
だからアリサたんにお願いした。
口でしてあげてって。
最初は不慣れだからか、泣いて嫌がってたけど、慣れてくると淡々とこなすようになっていた。人間、なんでも慣れだよね!
(ていうか、最初からやれよ~)
やれるんならさ。
(やれることを、やりもしない内に「やれない」「むり」とか言うヤツ、嫌いなんだよねぇ)
根性ないなぁ、ほんとに。
あたしは窓の外を眺めながらそう呟く。
まぁそれで、そういうのを理科準備室でさせてたんだけど、ある日男子が笑いながら言ったんだよね、「ホルマリン漬け蛙に見られながらイくのってなんか気まずいよな」って。
(あたし、天然だからなぁ)
思い出して自分でも笑える。てっきりアリサたんのこと、ホルマリン漬け蛙に例えてるんだと思って「アリサたんが蛙なんて酷いよ~」って答えちゃった、んだよね……。
「え?」
私はその紙片を見つめる。
え? そのこと? 関係ないよね?
(だって、あたしがこの雑誌買ったの、たまたまだし)
もっと言えば、あたしがここに来ることを知ってたのは涼くんだけ。
(……え? 涼?)
あたしに嫌がらせしてんの、あいつ?
カッと頬が熱くなる。
(バカにして!)
そういえば、アリサたんにやけに同情的だった。あいつ、あいつ、少し顔がいいから構ってやってるだけなのに!
あたしはカフェのゴミ箱に雑誌と中身がそのままのフラペチーノを叩きつけるように捨てて、涼くんを駅前まで呼び出す。
「なんだよ、急に」
あたしの呼び出しにすぐ来るとこなんかいつも通りで、それが余計に腹が立つ。頭の中では、あたしのことバカにしてるくせに!
「アンタでしょ!? いままでの嫌がらせ!」
「は?」
とぼける涼くんに、あたしはイチから説明してあげる。
けど、涼くんは慌てた様子で否定した。
「オレじゃないよ!」
「言い訳はしないで!」
「いや、だって、ほら。オレ、今日青花があの病院に行ったの、いま知ったし」
「……え?」
「だって、言ってなかったよな?」
「そう、いえば」
あたしは黙り込む。涼くんは困った顔であたしを見つめてる。
「それに、雑誌に入ってたメモ? それだって、偶然だろ。病院の、なんかのメモだったんじゃね? 実験とかの。知らねーけど、青ちゃんが雑誌買ったの、たまたまなんだよな?」
「そ、そうだよね、たまたまだよね」
あは、とあたしが笑うと、涼くんは少し安心した顔をしてくれた。
顔が良い人がそういう顔すると、素直にごめんねって思う。
だけどあたしは帰宅して、家の玄関の前の紙袋を見つける。
中身は、蛙のホルマリン漬けだった。
悲鳴も出なかった。
あたし、誰に狙われてるの?
警察に通報したホルマリン漬けは「落とし物」として回収されていった。
そんなことが続いてーーあたしは決意した。
(ゲームの青花の筋書きを、完璧に辿ろう)
だって、ゲームの青花はこんな目にあってなかったし。
だとすれば、ゲームのシナリオにのってさえしまえば、あたしに待ってるのはハッピーエンドしかないはずだ。
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