【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・鍋島真

チュロス【side真】

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 華が家に来てる日曜日のお昼過ぎ。
 僕が家電量販店で買ってきたチュロスメーカーを見て、華はちょっと怒ってて可愛い。

「使わないじゃないですか! 使わないでしょう? 綿飴メーカーもすき焼き以来使ってないじゃないですか」
「え、華、嫌い? チュロス?」
「好きですよ、好きですけどっ」

 ぷんすかしてる華の口にチュロス突っ込む。えい。

「むぐう」

 変な声を出して、そのままもぐもぐとチュロスを食べだす華。ハムスターみたいで可愛い。

「当選祝~い」

 華はこのたび、無事に生徒会役員に当選したらしい。めでたいのか、めでたくないのか。

「え、あー。ありがとうございます?」

 両手にチュロスを持って口から離して、華は小首を傾げた。うん、「えろい」。

「何がですか!?」
「あれ声に出てた? いやまぁ僕のはそんな細くないけども」
「いいですか、棒状のものをなんでもそういう風に捉えていいのは中学生までです」
「僕、精神年齢14歳くらいだからなぁ」

 華チャンの頬をさらりと撫でると、華はくすぐったそうに笑う。

「もう」
「お祝いしようか華チャン?」
「……なにをして?」
「そりゃあ」

 パーティだけども、その前に君を食べておこう。
 僕の可愛いお嫁さん。


 ベッドの中で、華はやたらと分厚い結婚情報誌をぱらぱらとめくっている。

「うー、真さん和装も似合いそう……」
「自分が着たいので選べば?」

 難しいカオをしてる華の髪をさらりと撫でた。

「ていうかお色直し100回くらいしていいから好きなの全部着なよ」
「いや疲れるからいいです……」

 華は呆れた目をして笑う。

「僕が見たい」
「えー」

 くすくすと僕のお嫁さんは笑って、僕に甘えるようにくっついてくる。
 可愛くて耳を噛む。やだ、って身をよじる華は全然嫌そうじゃなくて、僕はついついまた華を組み敷いて唇を重ねる。

「もー、夏に式なのに全然なにも決まらない」
「いいよ、まだ時間あるでしょう」
「場所くらいは決めなきゃ」

 軽く唇を重ねながら、そんな話をする。
 夏に式、ってのは留学前、日本を立つ前に結婚式を挙げようってことになった。
 本当は華の卒業を待つつもりだったけど、まあ別に招待客呼びまくるわけじゃないし、身内だけだしってことで。

「ねえ、真さん」
「なぁに」
「好き?」

 きみが、こんな普通の女の子みたいな質問をするなんて。
 切ない顔で。
 狂おしい声で。

「好きだよ」

 この僕が、普通の男みたいな答えを言うなんて。

「愛してる」

 そんな陳腐な言葉を続けるなんて。

「死ぬまでそばにいる」

 未来への約束なんて、死ぬほど馬鹿にしていたくせに。
 そんな僕を、華はじっと見つめた。

「死んだら」
「うん」
「もう一緒にはいてくれないの?」

 なんでそんな悲しげなカオをするんだろう。

「いるよ」

 僕は即答する。
 死後の世界だとか、そんなモノ信じてないけれど、それでも。

「ずっと」
「ずっと?」
「うん」
「死んでも?」
「来世でも。約束してたデショ?」

 前京都でさ、と言うと華は小さく頷いた。
 華は少しだけ安心したみたいに、僕にしがみつく。

「もう怖くない」
「うん」

 なにが怖かったの、とは聞けなかった。
 華が何か隠しているのは知ってるけど、でも言いたくないならいいって。
 時々するオトナの目。初めてだったはずの華から感じた、他のオトコの影。やけに慣れていたキス、その他色々。

(君はなにを隠してるんだろうね)

 僕に抱きついて、華は微笑む。僕はそれで何だか脳髄が溶けてしまって、何か色々とどうでも良くなってしまう。

 華チャンがスヤスヤ眠ってて、でも僕にしがみついて離れなくて、僕は少しだけ苦笑いしてスマホでホテルのディナーをキャンセルする。まだ時間はあるけど、これは起きないでしょう。
 ふ、と華の寝顔を見ててつい彼女の名前を呼んでしまう。

「華」

 つう、と華の閉じた瞳から涙が流れた。

「華」

 そっと指先で拭う。
 なんの夢を見て泣いているんだろうね、きみは。

(いい夢を見ていて欲しいのに)

 イヤなことなんかなにひとつ、この子に起きなければいいのに。
 幸せだけが、甘いものだけがこの子のそばにあればいい。

(僕も大概だなぁ)

 こんな馬鹿なことを思うなんて、願うなんてーー僕はいつからこんな風に成り下がったんだろうね?

(だけどそれが心地良い)

 心地良いどころか、幸せだ。
 僕は華を抱き寄せる。君が泣いてるこの夢が、今からでも素敵な夢に変わりますようにって、そんなふうに思ってただ君を抱きしめる。
 どうか願わくば、その夢に僕が出ていますように、なんてダサいことまで考えてしまうから、やっぱり僕ももう大概だよなぁ、ほんとに。
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