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【高校編】分岐・相良仁
【番外編】秋の日(上)
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日付が変わる前に2週間の出張から帰ってきた仁は、なんていうか大変元気でらしたので、私は全然眠れてない。
朝。
五分おきになるスヌーズ。
「……うー」
「眠そうだな」
「一限から必修なのに…….」
ベッドで布団にくるまって、半分眠りながらそういうと、「そりゃ起きなきゃな」と仁はなぜだか楽しげに笑った。
英国の学校を卒業して(ほんとにマナーというマナーを身体に叩き込まれた!)結婚してーー私の希望で、日本の大学に進学して、三年目、の秋。
「……だから、今日は早起きだからって言ったのに」
なかなか眠らせてもらえなかった。
仁は私を抱き寄せる。
「ごめんってー。でもさー、久しぶりたったからさー」
素肌の感覚。あったかい。
思わずまた眠りそうになるのを、ぐっと堪えた。
「あは、ねむそーだな」
「誰のせいだと」
仁は私の顔を覗き込むように、何度もキスをふらせてくる。
おでこ、こめかみ、鼻、頬、それから唇ーーって、待って。
いつの間にか、仁は私を組み敷いている。
「……ちょっと待ってなにしてるの」
「ん?」
仁は綺麗に笑いながら、器用にぴっ、と片手と口でそれを開けていた。
「なに開けてるの?」
「コンドーム」
「……おじさん、元気すぎない?」
「おじさん言うな」
楽しげに笑いながら、仁は私の口を塞ぐ。舌をつつかれて、思わず喘ぐように力が抜けて、私の頭からは「一限は必修」が抜け落ちてしまうーー。
「……って、間に合ったぁ!」
大学の教室に飛び込んだ私に、クラスの友達が「おはよー」と手を振ってくれる。
「おはよ」
席をとっていてくれていたから、そこにすとんと座る。
間に合った。
ギリギリ間に合った。
すっぴんだけど間に合った。仁が車で送ってくれて、お礼すっごい言ったけど、冷静になると仁のせいで遅刻しかけてたよね!?
「あれ、相良さん今日すっぴんだね」
「華ちゃん、最近ちゃんとしてたのにね」
「寝坊癖また出てきたの?」
友達に言われて、私は苦笑い。
「すっぴん、ヤなんだけどね~」
「すっぴん可愛いよ、幼い」
「うんうん」
覗き込んでくる友達たちから、私は顔を隠した。少しでも大人っぽく見えてたいのは、仁の横を歩いてても違和感がないように。
「そういえばさ、華ちゃん」
友達のひとりが、私に笑いかける。
「今日、飲み会大丈夫?」
「あ、うん行ける」
私が参加してるサークルは、ゆるーく遊ぶサークル。遊ぶっていってもいわゆる出会いとかそういうんじゃなくて、ほんとに遊ぶ。
こないだは大きい公園で鬼ごっこしたり、とか。
(割と盛り上がるんだよなぁ)
中身の年齢については、うん、考えないようにしてます……。
「おー珍しい」
「相良さんあんま飲み会参加ないもんね」
私は頷いた。
(だってなぁ)
仁の晩ご飯あるし。
正直なところ、仁も気にすんなって言ってくれるし、私いなくても全然大丈夫なんだろうけれど、仁は未だに(ほとんど毎日なのに)私がご飯作ったりすると物凄く喜ぶんだもんなぁ。
嬉しくて、つい。
(今日は遅くなるって言ってたし)
お昼から出勤して、出張の後処理らしい。ちなみに英国大使館に勤めてるけど、……具体的になんの仕事かは分からない。なにしてんだろ。
そんな会話をした日の夕方。
大学近くの居酒屋さん。乾杯、からしばらくして。
ひとりの男子が、やたらと絡んでくることに気がつく。
(あれ?)
にこにこと笑いかけてくるのは、なんていうかあまりサークル内で評判の良くない……要は、割と女癖が悪い男子。
(ほとんどサークル参加してなかったのになぁ)
今日はいるんだ。なんだか、なぁ。
「相良さん」
「華ちゃん」
友達が庇ってくれるけれど、なんだか気がついたらその男子が横にいる。うーん。なんかさりげなく(?)身体に触られるのが、すごく嫌だ。
「どうする、今日帰る?」
「そうしよっかなぁ」
「前々から、華ちゃん狙ってるって噂、あったんだよ」
「まじかー……」
相変わらずチョロそうに見えてますか。そうですか……。
「じゃあ私、悪いけど抜けるね」
ここのサークルは飲み会でもゆるゆるで、こういうのも自由だ。人数も適当。
「また飲みなおそうね」
「駅まで送る?」
「ううん、大丈夫」
せっかく楽しいところ、悪いし。
私はこっそり居酒屋さんを抜け出す。うー、あそこの焼き鳥美味しいのになぁ。
ほんの少しほろ酔いで歩いていると、ぐっと腕を掴まれた。
「ひゃ!?」
驚いて振り向くと、さっきの男子。
「相良さん、や! どこ行くの?」
「えーと、もう帰るんだけど」
「うっそ! なんで? 明日早い?」
「うん早い」
早くないけど。三限からだけど。
「えー。……家、この辺だっけ? 送ろうか」
「ううん、大丈夫」
「でももう遅いし」
「8時前だし~」
お前のせいでな! とちょっと思う。
ていうか、つけてきたんだー。やだなぁ。
「じゃ、帰らなきゃだから」
「ウチ近いんだけど、少し飲んでいかない?」
「んー、行かない。またね」
手を振り解こうとするけど、ニコニコ顔のそいつは全然手を緩めてくれない。
「相良さん、彼氏いないよね?」
「いる。いるから離して」
彼氏っていうか、夫だけど!
「うっそー。全然そんな雰囲気ないじゃん。学校でも女子としかいないし」
「学校の人じゃないから」
思い切り腕を振り解いて、その反動で少しよろめく。
身体を受け止めてくれたのは、……知ってる匂いと、声で。
「なぁにーちゃん、誰の女にホイホイ手ぇだそうとしてんの?」
見上げた先では、仁が口だけで笑っていた。きっちりスーツで、背も高いから、うん、結構怖い……。
(……目が超怒ってる)
私はきゅ、と仁に抱きついた。
朝。
五分おきになるスヌーズ。
「……うー」
「眠そうだな」
「一限から必修なのに…….」
ベッドで布団にくるまって、半分眠りながらそういうと、「そりゃ起きなきゃな」と仁はなぜだか楽しげに笑った。
英国の学校を卒業して(ほんとにマナーというマナーを身体に叩き込まれた!)結婚してーー私の希望で、日本の大学に進学して、三年目、の秋。
「……だから、今日は早起きだからって言ったのに」
なかなか眠らせてもらえなかった。
仁は私を抱き寄せる。
「ごめんってー。でもさー、久しぶりたったからさー」
素肌の感覚。あったかい。
思わずまた眠りそうになるのを、ぐっと堪えた。
「あは、ねむそーだな」
「誰のせいだと」
仁は私の顔を覗き込むように、何度もキスをふらせてくる。
おでこ、こめかみ、鼻、頬、それから唇ーーって、待って。
いつの間にか、仁は私を組み敷いている。
「……ちょっと待ってなにしてるの」
「ん?」
仁は綺麗に笑いながら、器用にぴっ、と片手と口でそれを開けていた。
「なに開けてるの?」
「コンドーム」
「……おじさん、元気すぎない?」
「おじさん言うな」
楽しげに笑いながら、仁は私の口を塞ぐ。舌をつつかれて、思わず喘ぐように力が抜けて、私の頭からは「一限は必修」が抜け落ちてしまうーー。
「……って、間に合ったぁ!」
大学の教室に飛び込んだ私に、クラスの友達が「おはよー」と手を振ってくれる。
「おはよ」
席をとっていてくれていたから、そこにすとんと座る。
間に合った。
ギリギリ間に合った。
すっぴんだけど間に合った。仁が車で送ってくれて、お礼すっごい言ったけど、冷静になると仁のせいで遅刻しかけてたよね!?
「あれ、相良さん今日すっぴんだね」
「華ちゃん、最近ちゃんとしてたのにね」
「寝坊癖また出てきたの?」
友達に言われて、私は苦笑い。
「すっぴん、ヤなんだけどね~」
「すっぴん可愛いよ、幼い」
「うんうん」
覗き込んでくる友達たちから、私は顔を隠した。少しでも大人っぽく見えてたいのは、仁の横を歩いてても違和感がないように。
「そういえばさ、華ちゃん」
友達のひとりが、私に笑いかける。
「今日、飲み会大丈夫?」
「あ、うん行ける」
私が参加してるサークルは、ゆるーく遊ぶサークル。遊ぶっていってもいわゆる出会いとかそういうんじゃなくて、ほんとに遊ぶ。
こないだは大きい公園で鬼ごっこしたり、とか。
(割と盛り上がるんだよなぁ)
中身の年齢については、うん、考えないようにしてます……。
「おー珍しい」
「相良さんあんま飲み会参加ないもんね」
私は頷いた。
(だってなぁ)
仁の晩ご飯あるし。
正直なところ、仁も気にすんなって言ってくれるし、私いなくても全然大丈夫なんだろうけれど、仁は未だに(ほとんど毎日なのに)私がご飯作ったりすると物凄く喜ぶんだもんなぁ。
嬉しくて、つい。
(今日は遅くなるって言ってたし)
お昼から出勤して、出張の後処理らしい。ちなみに英国大使館に勤めてるけど、……具体的になんの仕事かは分からない。なにしてんだろ。
そんな会話をした日の夕方。
大学近くの居酒屋さん。乾杯、からしばらくして。
ひとりの男子が、やたらと絡んでくることに気がつく。
(あれ?)
にこにこと笑いかけてくるのは、なんていうかあまりサークル内で評判の良くない……要は、割と女癖が悪い男子。
(ほとんどサークル参加してなかったのになぁ)
今日はいるんだ。なんだか、なぁ。
「相良さん」
「華ちゃん」
友達が庇ってくれるけれど、なんだか気がついたらその男子が横にいる。うーん。なんかさりげなく(?)身体に触られるのが、すごく嫌だ。
「どうする、今日帰る?」
「そうしよっかなぁ」
「前々から、華ちゃん狙ってるって噂、あったんだよ」
「まじかー……」
相変わらずチョロそうに見えてますか。そうですか……。
「じゃあ私、悪いけど抜けるね」
ここのサークルは飲み会でもゆるゆるで、こういうのも自由だ。人数も適当。
「また飲みなおそうね」
「駅まで送る?」
「ううん、大丈夫」
せっかく楽しいところ、悪いし。
私はこっそり居酒屋さんを抜け出す。うー、あそこの焼き鳥美味しいのになぁ。
ほんの少しほろ酔いで歩いていると、ぐっと腕を掴まれた。
「ひゃ!?」
驚いて振り向くと、さっきの男子。
「相良さん、や! どこ行くの?」
「えーと、もう帰るんだけど」
「うっそ! なんで? 明日早い?」
「うん早い」
早くないけど。三限からだけど。
「えー。……家、この辺だっけ? 送ろうか」
「ううん、大丈夫」
「でももう遅いし」
「8時前だし~」
お前のせいでな! とちょっと思う。
ていうか、つけてきたんだー。やだなぁ。
「じゃ、帰らなきゃだから」
「ウチ近いんだけど、少し飲んでいかない?」
「んー、行かない。またね」
手を振り解こうとするけど、ニコニコ顔のそいつは全然手を緩めてくれない。
「相良さん、彼氏いないよね?」
「いる。いるから離して」
彼氏っていうか、夫だけど!
「うっそー。全然そんな雰囲気ないじゃん。学校でも女子としかいないし」
「学校の人じゃないから」
思い切り腕を振り解いて、その反動で少しよろめく。
身体を受け止めてくれたのは、……知ってる匂いと、声で。
「なぁにーちゃん、誰の女にホイホイ手ぇだそうとしてんの?」
見上げた先では、仁が口だけで笑っていた。きっちりスーツで、背も高いから、うん、結構怖い……。
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私はきゅ、と仁に抱きついた。
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