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【高校編】分岐・相良仁
【番外編】秋の日(下)
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私が嫌だったのは、多分あの男の子じゃないんだろう。
未だに「ちょろそう」「ヤれそう」「騙せそう」「セカンド扱いしても大丈夫そう」な私が、私自身が、変われてない自分がーー嫌だった。
「変わんなくていいよ」
自宅、マンションのリビングで、ソファに座って私を膝の間に座らせて抱きしめて、仁は穏やかに言った。
「でもさ、仁はやじゃないの? 私がそんな風な目で見られるの」
「嫌だよ?」
仁は笑う。
「でもさ、華がそう見られてしまうのは華のせいじゃないじゃん」
「私のせいかもよ」
「違うよ。つーか、変わって欲しくない」
そんな風に言う仁に、彼の手をいじりながら私は言う。
「変わっちゃったら、もう、私のこと好きじゃない?」
「そんなことない。好き」
即答だった。
「容姿が変わろうと、性格が変わろうと、関係ないかな」
「?」
「本質的に、華は華だから」
「意味わかんない」
「ええと、なぁ」
仁は思い出すような声で、少し笑った。
「最初さ、前世の記憶が戻った頃」
「うん」
「まだ華が人間で生まれ変わってるとは分かんなくて」
「?」
「でも、それでも。華が鳥とかネコとかになってても、俺、気付けると思ってた」
「……なにそれ」
「イルカとかな」
思わず身体を揺らす。
「あは、じゃあもし本当にイルカだったらどうしてた?」
「そーだなぁ」
仁は優しく私の身体を撫でる。
「すっげえ金稼いで、小さい島を買って、お前と暮らそうかな」
イルカのお前と、と仁は言う。
「1日のんびりして暮らそうぜ」
「……いいねぇ」
思い浮かべる。
青い海と白い雲。
海に張り出したコテージからは仁が私を呼ぶ。
イルカの私は、その声に思い切り身体を弾ませてーー海からジャンプ。波しぶきを思いっきりかけてあげる。仁は迷惑そうな顔で、それでも笑ってる。
「……でも、人間で良かった」
するりとその手が私の服に入り込む。
「イルカとはセックスできねーもんな」
「……もう」
笑いながら見上げると、噛みつかれるみたいにキスされた。
いつもより荒いキスで、苦しくて喘いでる間にソファに押し倒される。
「……仁?」
「ごめん華、俺さあ、すっげえ嫉妬してるかも」
「なにに?」
「嫉妬っていうか怒ってる。お前をそんな目で見やがってって」
「あの子に?」
「うん」
仁は私の胸に顔を埋めた。
「お前をあんな扱いしてた、色んなやつと被ってダメだ」
抑えてたんだけど、と仁は苦しそうに言う。
「……ごめんね?」
「だから、華のせいじゃなくって」
うー、と仁は顔を上げた。
「ごめん」
「仁、私、いま、幸せだよ」
唐突な言葉に、仁はきょとんとする。
「今までの、前世含めて嫌だったこともーー仁とこうしてるために必要だったと言われたら、繰り返しても我慢できるくらいに」
「華」
「だから、ありがとう」
ぎゅうっと抱きしめられる。
そのまま、唇をもう一度奪われて……ほわほわする意識の中で、私はやっぱり、イルカじゃなくて人間で良かったなぁなんて思った。
翌朝学校に行くと、なんだかサークル内で私がインテリヤクザのオンナだって噂が立ってる、と友達が教えてくれた。
「ごめんね、あいつが後追ってただなんて」
苦い顔で友達は言う。
「てか、なにがあったの?」
私は首を傾げた。
「ええとね、追いかけてこられて、話てたんだけど。そしたら旦那と遭遇して」
「ふんふん旦那さんと、……は?」
「え?」
私は首を傾げた。
「あれ? 言ってなかったっけ? 私、結婚してる……」
「はー!?」
友達だけじゃなくて、同じ教室にいた何人かが驚いたように立ち上がった。
「し、しらなかった!」
「あれ?」
言ってなかったかな?
「家族と暮らしてるって」
「あ、それが旦那」
「普通さ、家族って実家だよ!」
「あ」
そうか……そりゃそうか。
なんか入学したてのころ、新婚ってなんか気恥ずかしくてそんな言い方したかもだなぁ。
「ごめん……旦那です」
「いつ結婚したの!?」
「大学入る前に」
「えー」
なんやかんや問い詰められて、スマホで仁の写真を見せる。
「……っイケメン」
「てか随分歳上だよね!?」
「うん、えへへ」
イケメンと言われて嬉しくて笑う。
「背ぇ高そう」
「180ちょっと」
「えー! いいな!?」
「でもなんでこんな歳上のひとと?」
聞かれて首を傾げ、あっちの学校に留学したときに決めた「理由」を話す。
「ええと許婚で」
「許婚!? なにそれいまどき!?」
「うん、まぁ」
「……華ちゃんてお嬢様なの?」
苦笑いしながら「実はね」と頷く。
「ほえー」
「てか、じゃあ可哀想な男子いっぱいいるわ」
「?」
「ヤクザではない?」
「や、ヤクザじゃないよ!」
てかなんでそんな!?
そんな風に見えるかな!?
「昨日の男子の話だと、目がカタギじゃなかったって」
「……えー?」
カタギじゃないって、すごい言われようだなぁ。
「ちがうよ」
「なにしてるひと?」
「大使館勤務」
イギリスの、と言いそえた。
「大使館!?」
「うん」
「かしこそー」
「ねえねぇ華ちゃん」
友達は、首を傾げた。
「幸せ?」
私は何度か目を瞬かせてから、にっこり笑って頷いた。
「ちょー幸せ」
「ならヨシ!」
友達はそう言って、元気にサムズアップして笑った。
未だに「ちょろそう」「ヤれそう」「騙せそう」「セカンド扱いしても大丈夫そう」な私が、私自身が、変われてない自分がーー嫌だった。
「変わんなくていいよ」
自宅、マンションのリビングで、ソファに座って私を膝の間に座らせて抱きしめて、仁は穏やかに言った。
「でもさ、仁はやじゃないの? 私がそんな風な目で見られるの」
「嫌だよ?」
仁は笑う。
「でもさ、華がそう見られてしまうのは華のせいじゃないじゃん」
「私のせいかもよ」
「違うよ。つーか、変わって欲しくない」
そんな風に言う仁に、彼の手をいじりながら私は言う。
「変わっちゃったら、もう、私のこと好きじゃない?」
「そんなことない。好き」
即答だった。
「容姿が変わろうと、性格が変わろうと、関係ないかな」
「?」
「本質的に、華は華だから」
「意味わかんない」
「ええと、なぁ」
仁は思い出すような声で、少し笑った。
「最初さ、前世の記憶が戻った頃」
「うん」
「まだ華が人間で生まれ変わってるとは分かんなくて」
「?」
「でも、それでも。華が鳥とかネコとかになってても、俺、気付けると思ってた」
「……なにそれ」
「イルカとかな」
思わず身体を揺らす。
「あは、じゃあもし本当にイルカだったらどうしてた?」
「そーだなぁ」
仁は優しく私の身体を撫でる。
「すっげえ金稼いで、小さい島を買って、お前と暮らそうかな」
イルカのお前と、と仁は言う。
「1日のんびりして暮らそうぜ」
「……いいねぇ」
思い浮かべる。
青い海と白い雲。
海に張り出したコテージからは仁が私を呼ぶ。
イルカの私は、その声に思い切り身体を弾ませてーー海からジャンプ。波しぶきを思いっきりかけてあげる。仁は迷惑そうな顔で、それでも笑ってる。
「……でも、人間で良かった」
するりとその手が私の服に入り込む。
「イルカとはセックスできねーもんな」
「……もう」
笑いながら見上げると、噛みつかれるみたいにキスされた。
いつもより荒いキスで、苦しくて喘いでる間にソファに押し倒される。
「……仁?」
「ごめん華、俺さあ、すっげえ嫉妬してるかも」
「なにに?」
「嫉妬っていうか怒ってる。お前をそんな目で見やがってって」
「あの子に?」
「うん」
仁は私の胸に顔を埋めた。
「お前をあんな扱いしてた、色んなやつと被ってダメだ」
抑えてたんだけど、と仁は苦しそうに言う。
「……ごめんね?」
「だから、華のせいじゃなくって」
うー、と仁は顔を上げた。
「ごめん」
「仁、私、いま、幸せだよ」
唐突な言葉に、仁はきょとんとする。
「今までの、前世含めて嫌だったこともーー仁とこうしてるために必要だったと言われたら、繰り返しても我慢できるくらいに」
「華」
「だから、ありがとう」
ぎゅうっと抱きしめられる。
そのまま、唇をもう一度奪われて……ほわほわする意識の中で、私はやっぱり、イルカじゃなくて人間で良かったなぁなんて思った。
翌朝学校に行くと、なんだかサークル内で私がインテリヤクザのオンナだって噂が立ってる、と友達が教えてくれた。
「ごめんね、あいつが後追ってただなんて」
苦い顔で友達は言う。
「てか、なにがあったの?」
私は首を傾げた。
「ええとね、追いかけてこられて、話てたんだけど。そしたら旦那と遭遇して」
「ふんふん旦那さんと、……は?」
「え?」
私は首を傾げた。
「あれ? 言ってなかったっけ? 私、結婚してる……」
「はー!?」
友達だけじゃなくて、同じ教室にいた何人かが驚いたように立ち上がった。
「し、しらなかった!」
「あれ?」
言ってなかったかな?
「家族と暮らしてるって」
「あ、それが旦那」
「普通さ、家族って実家だよ!」
「あ」
そうか……そりゃそうか。
なんか入学したてのころ、新婚ってなんか気恥ずかしくてそんな言い方したかもだなぁ。
「ごめん……旦那です」
「いつ結婚したの!?」
「大学入る前に」
「えー」
なんやかんや問い詰められて、スマホで仁の写真を見せる。
「……っイケメン」
「てか随分歳上だよね!?」
「うん、えへへ」
イケメンと言われて嬉しくて笑う。
「背ぇ高そう」
「180ちょっと」
「えー! いいな!?」
「でもなんでこんな歳上のひとと?」
聞かれて首を傾げ、あっちの学校に留学したときに決めた「理由」を話す。
「ええと許婚で」
「許婚!? なにそれいまどき!?」
「うん、まぁ」
「……華ちゃんてお嬢様なの?」
苦笑いしながら「実はね」と頷く。
「ほえー」
「てか、じゃあ可哀想な男子いっぱいいるわ」
「?」
「ヤクザではない?」
「や、ヤクザじゃないよ!」
てかなんでそんな!?
そんな風に見えるかな!?
「昨日の男子の話だと、目がカタギじゃなかったって」
「……えー?」
カタギじゃないって、すごい言われようだなぁ。
「ちがうよ」
「なにしてるひと?」
「大使館勤務」
イギリスの、と言いそえた。
「大使館!?」
「うん」
「かしこそー」
「ねえねぇ華ちゃん」
友達は、首を傾げた。
「幸せ?」
私は何度か目を瞬かせてから、にっこり笑って頷いた。
「ちょー幸せ」
「ならヨシ!」
友達はそう言って、元気にサムズアップして笑った。
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