【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

【番外編】秋の日(下)

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 私が嫌だったのは、多分あの男の子じゃないんだろう。
 未だに「ちょろそう」「ヤれそう」「騙せそう」「セカンド扱いしても大丈夫そう」な私が、私自身が、変われてない自分がーー嫌だった。

「変わんなくていいよ」

 自宅、マンションのリビングで、ソファに座って私を膝の間に座らせて抱きしめて、仁は穏やかに言った。

「でもさ、仁はやじゃないの? 私がそんな風な目で見られるの」
「嫌だよ?」

 仁は笑う。

「でもさ、華がそう見られてしまうのは華のせいじゃないじゃん」
「私のせいかもよ」
「違うよ。つーか、変わって欲しくない」

 そんな風に言う仁に、彼の手をいじりながら私は言う。

「変わっちゃったら、もう、私のこと好きじゃない?」
「そんなことない。好き」

 即答だった。

容姿すがたかたちが変わろうと、性格が変わろうと、関係ないかな」
「?」
「本質的に、華は華だから」
「意味わかんない」
「ええと、なぁ」

 仁は思い出すような声で、少し笑った。

「最初さ、前世の記憶が戻った頃」
「うん」
「まだ華が人間で生まれ変わってるとは分かんなくて」
「?」
「でも、それでも。華が鳥とかネコとかになってても、俺、気付けると思ってた」
「……なにそれ」
「イルカとかな」

 思わず身体を揺らす。

「あは、じゃあもし本当にイルカだったらどうしてた?」
「そーだなぁ」

 仁は優しく私の身体を撫でる。

「すっげえ金稼いで、小さい島を買って、お前と暮らそうかな」

 イルカのお前と、と仁は言う。

「1日のんびりして暮らそうぜ」
「……いいねぇ」

 思い浮かべる。
 青い海と白い雲。
 海に張り出したコテージからは仁が私を呼ぶ。
 イルカの私は、その声に思い切り身体を弾ませてーー海からジャンプ。波しぶきを思いっきりかけてあげる。仁は迷惑そうな顔で、それでも笑ってる。

「……でも、人間で良かった」

 するりとその手が私の服に入り込む。

「イルカとはセックスできねーもんな」
「……もう」

 笑いながら見上げると、噛みつかれるみたいにキスされた。
 いつもより荒いキスで、苦しくて喘いでる間にソファに押し倒される。

「……仁?」
「ごめん華、俺さあ、すっげえ嫉妬してるかも」
「なにに?」
「嫉妬っていうか怒ってる。お前をそんな目で見やがってって」
「あの子に?」
「うん」

 仁は私の胸に顔を埋めた。

「お前をあんな扱いしてた、色んなやつと被ってダメだ」

 抑えてたんだけど、と仁は苦しそうに言う。

「……ごめんね?」
「だから、華のせいじゃなくって」

 うー、と仁は顔を上げた。

「ごめん」
「仁、私、いま、幸せだよ」

 唐突な言葉に、仁はきょとんとする。

「今までの、前世含めて嫌だったこともーー仁とこうしてるために必要だったと言われたら、繰り返しても我慢できるくらいに」
「華」
「だから、ありがとう」

 ぎゅうっと抱きしめられる。
 そのまま、唇をもう一度奪われて……ほわほわする意識の中で、私はやっぱり、イルカじゃなくて人間で良かったなぁなんて思った。

 翌朝学校に行くと、なんだかサークル内で私がインテリヤクザのオンナだって噂が立ってる、と友達が教えてくれた。

「ごめんね、あいつが後追ってただなんて」

 苦い顔で友達は言う。

「てか、なにがあったの?」

 私は首を傾げた。

「ええとね、追いかけてこられて、話てたんだけど。そしたら旦那と遭遇して」
「ふんふん旦那さんと、……は?」
「え?」

 私は首を傾げた。

「あれ? 言ってなかったっけ? 私、結婚してる……」
「はー!?」

 友達だけじゃなくて、同じ教室にいた何人かが驚いたように立ち上がった。

「し、しらなかった!」
「あれ?」

 言ってなかったかな?

「家族と暮らしてるって」
「あ、それが旦那」
「普通さ、家族って実家だよ!」
「あ」

 そうか……そりゃそうか。
 なんか入学したてのころ、新婚ってなんか気恥ずかしくてそんな言い方したかもだなぁ。

「ごめん……旦那です」
「いつ結婚したの!?」
「大学入る前に」
「えー」

 なんやかんや問い詰められて、スマホで仁の写真を見せる。

「……っイケメン」
「てか随分歳上だよね!?」
「うん、えへへ」

 イケメンと言われて嬉しくて笑う。

「背ぇ高そう」
「180ちょっと」
「えー! いいな!?」
「でもなんでこんな歳上のひとと?」

 聞かれて首を傾げ、あっちの学校に留学したときに決めた「理由」を話す。

「ええと許婚で」
「許婚!? なにそれいまどき!?」
「うん、まぁ」
「……華ちゃんてお嬢様なの?」

 苦笑いしながら「実はね」と頷く。

「ほえー」
「てか、じゃあ可哀想な男子いっぱいいるわ」
「?」
「ヤクザではない?」
「や、ヤクザじゃないよ!」

 てかなんでそんな!?
 そんな風に見えるかな!?

「昨日の男子の話だと、目がカタギじゃなかったって」
「……えー?」

 カタギじゃないって、すごい言われようだなぁ。

「ちがうよ」
「なにしてるひと?」
「大使館勤務」

 イギリスの、と言いそえた。

「大使館!?」
「うん」
「かしこそー」
「ねえねぇ華ちゃん」

 友達は、首を傾げた。

「幸せ?」

 私は何度か目を瞬かせてから、にっこり笑って頷いた。

「ちょー幸せ」
「ならヨシ!」

 友達はそう言って、元気にサムズアップして笑った。
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