【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

【番外編】冬の日(上)

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 コタツはいい。すごくいい。

「こら、寝るな華」

 お母さんみたいなことを言ってくる仁を、微睡むまぶたの間からなんとか見る。

「……んう」
「んうじゃない」

 呆れたような、優しい声。

「布団いけ」
「寒いんだもん」
「風邪引くぞ」
「んー」

 わかってる。わかってるんですけどね?
 冬の夜のコタツ。
 この魔力から逃れられる人間が、この世に果たしているのでしょうか……。

「そういう奴から風邪ひいていくんだ」
「あれ」

 どうやら言葉に出ていたらしい。うー、半分まどろんでるからなぁ。

「しょうがねーなぁほんと俺のお姫様は」
「お姫様て」

 コタツでクッション枕にゴロゴロしてるお姫様がいるんだろうか。

(あ、ダメだ……)

 また眠気が……、と。

「ひゃあ!」
「まったくお前何歳になったんだよ」

 ひょい、と私をお姫様抱っこした仁が笑う。

「22」
「中身だよナカミ」
「……」

 ノー・コメントで。
 寝室まで運ばれて、ベッドにぽすりと寝かされる。

「ひゃー、やだもー、お布団つめたいー!」
「文句ばっかだなお姫様」
「お姫様にしては扱いが乱雑!」

 ぷうぷう言ってると、仁も布団に入ってくる。

「オラこれで多少は寒くねーだろ」
「あったかー」

 仁にぎゅう、と抱きつく。至近距離に、仁の穏やかに笑ってる顔……あと。

「あのー、おっぱい揉むのやめてもらえます?」
「運び賃」

 なんだそりゃ。
 まぁそのままあったかーくなることされて、そのまま眠って。
 起きたら、一面、雪だった。

「仁! 起きて起きて雪!」
「だからお前は一体何歳に……って、すげえな」

 マンションから望む街の風景。一面、白い。

「あー、クルマ渋滞すんだろな」
「電車動かないよね……」

 ベッドサイドのスマホを見ると、もうゼミの先生から「休講にします」と連絡が回ってきていた。
 諦めがはやいなぁ、とか思うけど、仕方ない。都会のインフラは大雪に向いてないのです。

「俺も休むか」

 私のスマホをひょいと覗き込んだ仁が笑って言う。

「え、ずる休み?」
「有給溜まってんのー」

 飄々と仁は寝室から出て行く。なんとなくつられて一緒にキッチンへ。

「さむー!」
「文句言うならコタツにでも入ってなコタツ姫」
「コタツ姫」

 仁はさっさとコーヒーを淹れ始める。
 ばちりとつくコーヒーサーバーの赤いランプ。

「もー今日はゆっくりしようぜ」
「切り替え早いね」

 私はキッチンを出る仁にまたもやついて歩いて。

「……どしたの?」

 訝しげな仁に抱きついて、ぎゅうと顔を埋める。

「なーんか」
「うん」
「なんかねぇ」

 甘えたい気分です。
 仁の左手が私の背中に回って、それから右手で私の顎をくいっと上げた。

「なぁに、華」
「なんだと思う?」
「まったくお前はずるい奴だよ」

 柔らかなキスが落ちてくる。何度も繰り返されるその軽いキスは、やがて少しずつ深くなって。
 仁のスウェットを強く握る。
 後頭部を支えられて、熱い舌がぬるりと入ってきて。
 相変わらず私はこうなると息継ぎがとても下手くそで、溺れそうになりながら仁にしがみつく。

「……ま、出かける訳にもいかねーしな」

 しがみつく私を仁はひょいとお姫様だっこ。

「今日は一日いちゃついてるかー」
「そうしましょうかー」

 なんだか気楽なノリで答えて、顔を見合わせて笑い合う。

「さっき出てきたところなのになぁ」
「ベッドで朝ごはん食べようよ」
「行儀が悪い奴め」

 ベッドにぽすりと降ろされて、私の頭を撫でながら仁は目を細める。

「あーマジ愛してる」
「なぁに唐突に」

 おでこ、頬、鼻、手を取ってその指に。ひとつひとつ、丁寧にキスを落として行く。本当に、大切なものに印をつけるみたいに。

「唐突?」
「うん」

 さらり、と髪を梳く。

「全然唐突じゃない」
「?」
「常にそう思ってるから」

 思わずその眼を見る。
 日本人にしては少し明るいその瞳が、真剣に私を見て、揺れた。

「仁」
「俺時々、夢じゃないかって思うよ」

 なにが、と答える前に食べられるみたいなキスが降ってきて。
 溺れるように、焦がれるように、私はその行為に蕩けていく。

 目を覚ますと、横で仁はコーヒーを飲んでいた。

「……行儀悪いって言ったくせに」
「飲む?」
「うん」

 身体を起こすと、「服着ろ」ってスウェットを渡される。お揃いの部屋着、チャコールグレーのスウェット。気楽だよね。
 仁がベッドから出て、コーヒーがたっぷり入ったマグカップを持ってきてくれた。

「熱いから気を付けろよ」
「うん。……ねえ、仁」
「ん?」
「夢なんかじゃないよ」

 マグカップをサイトボードに置いて、私は首を傾げた。
 仁はなにも言わずに、ベッドに入って私をぎゅうと抱きしめる。
 なぜだか仁は泣いてる。
 私はぽんぽんとその背中を撫でた。
 窓の外では、静かに雪が降り続いている。
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