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【高校編】分岐・鍋島真
【side真】クリスマス
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きゅうと確かに握り返すその手に、僕は流石に驚愕した。
「ね?」
小野くんの声。
心から、嬉しそうな声。
「ほら、アリサ、鍋島さんいらしてくれたよ」
その声に、反応するようにーー彼女の、骨と皮だけの指が、確かに動いた。
彼女がその身体をアスファルトに叩きつける覚悟をしてから、明日でちょうど一年目のことだった。
「鍋島さんのお陰かもしれません」
病院の中庭、粉雪が舞い落ちるそこで、小野くんはぽつぽつと話す。
「アリサと僕は、二人ぼっちでした」
曇天の空からは、絶え間なく、雪。
「アリサのご家族は……あれ以来、めちゃくちゃで。オレも、……ご存知でしょうけれど、桜澤を殺してやろうとまで思いつめて」
僕は黙ってうながす。
「だから、鍋島さんが来てくれて。少し前向きになれて」
「前向き?」
「前向きな復讐……、変ですか?」
「いや全く」
復讐とはかくあるべきだ。
前を向いて復讐しよう。
「もう少し待ってね」
僕は微笑む。
「いま持ち上げてるところだから」
「持ち上げる?」
ウン、と僕は返事をした。
「あの尿路結石が何考えてるか、僕にはよく分からないんだ。ホラ、僕は人間でアレはシュウ酸の塊だろ?」
はは、と小野くんは乾いた笑いを返す。あれー、受けなかった。まぁいいや。
「でもね、特定の男子に執着してるんだ。恋愛のようで、少し違うみたいなんだけれど」
「執着」
「そー」
僕はサクサク歩く。
「その人たちと上手くいってる、と見せかけて、ばーんと落とす」
「たち、って。複数なんですか?」
「ウン」
苦虫を噛み潰したような顔をするから、僕は小野くんの頭の雪を払ってあげる。
「わ」
「ねぇ小野クン」
「はい」
「メリークリスマス」
「……唐突ですね」
変な顔をしてる小野くんに手を振って、僕は駐車場まで歩く。
「またね」
「はい」
車に乗り込んで、僕はマンションに向かう。
途中できちんと買い物を済ませて、マンションの扉を開けると華は嬉しそうに家中に飾り付けをしている最中だった。
「あ、おかえりなさーい」
「ただいま。……ねえ、そのクリスマスツリーどうしたの?」
この部屋には不釣り合いなくらい、大きなクリスマスツリー……。
「ネットで買ったらサイズ感間違ってました」
「いいけどさ」
僕が買ってくる家電は散々文句つけるくせにさー。どこに収納するつもりなんだろ、なんて思うけれど、嬉しげにツリーにオーナメントを飾り付けしていく華を見てると、文句なんて萎んでいく。
「……留学から帰ってきたら、それ置いても超超余裕なおっきいおウチ買おうね」
「ツリーのためだけに?」
「ツリーのだけに」
そう答えると、華は楽しそうに肩を揺らした。
「楽しみです」
「プレゼントをその下に置いてさ」
飾り付けしてる華を、後ろから抱きしめる。
「僕と君で、置くんだよ」
クリスマスの朝、駆け寄る子ども。……想像でしかない。僕にサンタさんとやらは来たことがない。まったく、仕事をサボっていたなあの紅白ジジイ。
「私もそんなクリスマスはしたことがないですよ」
ウチの親は枕元派でした、と華は少し懐かしい顔をする。
「ふうん」
華をこっちに向かせて、その頬を撫でた。「ウチの親」か。
(記憶)
この子の母親が亡くなる以前の記憶は、この子にない、と昔聞いていた。
けれど、そばにいてぽろぽろ溢れてくるように、そんな思い出話を彼女は話す。
(なんの記憶?)
普通に考えれば、小学五年生より前の記憶が戻ってきているんだろう。
けれど、何か違うような。……ま、なんでもいいさ。
ほんの少しだけ唇を重ねて、離れた。物足りなさそうな視線とぶつかる。
「……なんだか」
「ハイ?」
「僕、君のことすっかり調教しちゃったみたいだね」
「調教!?」
なんですかそれ、と素っ頓狂な声で言うから、僕は吹き出す。
そうか、無自覚か。
こんな煽るような潤んだ目も、物欲しげにうっすら開いた唇も。
「調教じゃないか」
「だから、何が……んっ」
欲しいなら全部あげる。
唇にねじ込んだ舌で、華のをつつく。それだけで力が抜けていく華を、抱き上げてそっとソファに座らせた。
「……もっと」
とろとろの華チャンはとっても素直。
「言っておくけれど、僕、ヤる気なかったんだからね」
「嘘」
華はそう言いながら、挑発的に僕を見る。その嫋やかな腕が、僕に巻き付く。
「こんなにやる気あるのに?」
「まぁね」
僕らは沈んで行く。ずぶずぶと。
それが僕らは心地良くて仕方ない。
そのあと、華の作ってくれてたゴハンと、僕の買ってきたケーキとシャンパン(華はうらやましそうに見ていた)でクリスマスパーティー、をした。
「去年はドイツでしたね」
華はやっぱり羨ましそうに僕のアルコールを見てる。
「お子様にはあげられません……ま、華にもあるよ」
はいこれー、とシャンメリー(アニメイラスト付)を渡す。華はブツブツ言いながらもなんだかんだで、それを飲んでくれた。
なんだか可愛くて、僕はそのまま華を寝室に連れ込む。
お風呂、シャワー、食器の片付け、と抵抗する華チャンをぐずぐずにしてとろとろにして、僕は大満足で、華チャンは爆睡。
食器だけは食洗機に、いれておいた。
それからベッドに潜り込む。温かな体温。規則的に上下する寝息。
(すき)
そう思いながら、華を抱きしめる。
目を開けると、枕元に包みがあった。
「……?」
「夜中にね~」
隣で裸のまま寝てる華は、僕に背を向けている。
「サンタさん、来てましたよー」
「……わーお」
僕の反応に、華は笑いながらこちらに寝返りを打つ。
「もう、なんですかその棒読み」
僕は答えないで、ただ華にキスをする。もう、キスしまくりだ。
「わ、もう、くすぐったい」
文句言ってる華が、愛おしくて仕方なくて、ただ僕は僕の大事な奥さんを抱きしめた。
「メリークリスマス」
そっと華が僕に言う。僕は頷いたんだか、何か答えたんだか、……その辺は少し曖昧だ。
「ね?」
小野くんの声。
心から、嬉しそうな声。
「ほら、アリサ、鍋島さんいらしてくれたよ」
その声に、反応するようにーー彼女の、骨と皮だけの指が、確かに動いた。
彼女がその身体をアスファルトに叩きつける覚悟をしてから、明日でちょうど一年目のことだった。
「鍋島さんのお陰かもしれません」
病院の中庭、粉雪が舞い落ちるそこで、小野くんはぽつぽつと話す。
「アリサと僕は、二人ぼっちでした」
曇天の空からは、絶え間なく、雪。
「アリサのご家族は……あれ以来、めちゃくちゃで。オレも、……ご存知でしょうけれど、桜澤を殺してやろうとまで思いつめて」
僕は黙ってうながす。
「だから、鍋島さんが来てくれて。少し前向きになれて」
「前向き?」
「前向きな復讐……、変ですか?」
「いや全く」
復讐とはかくあるべきだ。
前を向いて復讐しよう。
「もう少し待ってね」
僕は微笑む。
「いま持ち上げてるところだから」
「持ち上げる?」
ウン、と僕は返事をした。
「あの尿路結石が何考えてるか、僕にはよく分からないんだ。ホラ、僕は人間でアレはシュウ酸の塊だろ?」
はは、と小野くんは乾いた笑いを返す。あれー、受けなかった。まぁいいや。
「でもね、特定の男子に執着してるんだ。恋愛のようで、少し違うみたいなんだけれど」
「執着」
「そー」
僕はサクサク歩く。
「その人たちと上手くいってる、と見せかけて、ばーんと落とす」
「たち、って。複数なんですか?」
「ウン」
苦虫を噛み潰したような顔をするから、僕は小野くんの頭の雪を払ってあげる。
「わ」
「ねぇ小野クン」
「はい」
「メリークリスマス」
「……唐突ですね」
変な顔をしてる小野くんに手を振って、僕は駐車場まで歩く。
「またね」
「はい」
車に乗り込んで、僕はマンションに向かう。
途中できちんと買い物を済ませて、マンションの扉を開けると華は嬉しそうに家中に飾り付けをしている最中だった。
「あ、おかえりなさーい」
「ただいま。……ねえ、そのクリスマスツリーどうしたの?」
この部屋には不釣り合いなくらい、大きなクリスマスツリー……。
「ネットで買ったらサイズ感間違ってました」
「いいけどさ」
僕が買ってくる家電は散々文句つけるくせにさー。どこに収納するつもりなんだろ、なんて思うけれど、嬉しげにツリーにオーナメントを飾り付けしていく華を見てると、文句なんて萎んでいく。
「……留学から帰ってきたら、それ置いても超超余裕なおっきいおウチ買おうね」
「ツリーのためだけに?」
「ツリーのだけに」
そう答えると、華は楽しそうに肩を揺らした。
「楽しみです」
「プレゼントをその下に置いてさ」
飾り付けしてる華を、後ろから抱きしめる。
「僕と君で、置くんだよ」
クリスマスの朝、駆け寄る子ども。……想像でしかない。僕にサンタさんとやらは来たことがない。まったく、仕事をサボっていたなあの紅白ジジイ。
「私もそんなクリスマスはしたことがないですよ」
ウチの親は枕元派でした、と華は少し懐かしい顔をする。
「ふうん」
華をこっちに向かせて、その頬を撫でた。「ウチの親」か。
(記憶)
この子の母親が亡くなる以前の記憶は、この子にない、と昔聞いていた。
けれど、そばにいてぽろぽろ溢れてくるように、そんな思い出話を彼女は話す。
(なんの記憶?)
普通に考えれば、小学五年生より前の記憶が戻ってきているんだろう。
けれど、何か違うような。……ま、なんでもいいさ。
ほんの少しだけ唇を重ねて、離れた。物足りなさそうな視線とぶつかる。
「……なんだか」
「ハイ?」
「僕、君のことすっかり調教しちゃったみたいだね」
「調教!?」
なんですかそれ、と素っ頓狂な声で言うから、僕は吹き出す。
そうか、無自覚か。
こんな煽るような潤んだ目も、物欲しげにうっすら開いた唇も。
「調教じゃないか」
「だから、何が……んっ」
欲しいなら全部あげる。
唇にねじ込んだ舌で、華のをつつく。それだけで力が抜けていく華を、抱き上げてそっとソファに座らせた。
「……もっと」
とろとろの華チャンはとっても素直。
「言っておくけれど、僕、ヤる気なかったんだからね」
「嘘」
華はそう言いながら、挑発的に僕を見る。その嫋やかな腕が、僕に巻き付く。
「こんなにやる気あるのに?」
「まぁね」
僕らは沈んで行く。ずぶずぶと。
それが僕らは心地良くて仕方ない。
そのあと、華の作ってくれてたゴハンと、僕の買ってきたケーキとシャンパン(華はうらやましそうに見ていた)でクリスマスパーティー、をした。
「去年はドイツでしたね」
華はやっぱり羨ましそうに僕のアルコールを見てる。
「お子様にはあげられません……ま、華にもあるよ」
はいこれー、とシャンメリー(アニメイラスト付)を渡す。華はブツブツ言いながらもなんだかんだで、それを飲んでくれた。
なんだか可愛くて、僕はそのまま華を寝室に連れ込む。
お風呂、シャワー、食器の片付け、と抵抗する華チャンをぐずぐずにしてとろとろにして、僕は大満足で、華チャンは爆睡。
食器だけは食洗機に、いれておいた。
それからベッドに潜り込む。温かな体温。規則的に上下する寝息。
(すき)
そう思いながら、華を抱きしめる。
目を開けると、枕元に包みがあった。
「……?」
「夜中にね~」
隣で裸のまま寝てる華は、僕に背を向けている。
「サンタさん、来てましたよー」
「……わーお」
僕の反応に、華は笑いながらこちらに寝返りを打つ。
「もう、なんですかその棒読み」
僕は答えないで、ただ華にキスをする。もう、キスしまくりだ。
「わ、もう、くすぐったい」
文句言ってる華が、愛おしくて仕方なくて、ただ僕は僕の大事な奥さんを抱きしめた。
「メリークリスマス」
そっと華が僕に言う。僕は頷いたんだか、何か答えたんだか、……その辺は少し曖昧だ。
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