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【高校編】分岐・山ノ内瑛

"絶対に離れへん"

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 白井さん(絶対に青花に利用されてる!)に連れてこられたのは、警察署の旧庁舎だった。

「……なぜ新館ではないのです?」
「これでも気を使っているのですよ?」

 護衛さんの質問に、白井さんは鷹揚に構える。

「常盤のお嬢様が、逮捕だなんて。衆目に晒して良いものではないでしょう?」
「……そうですが」
「しかし、驚いた」

 人気のない廊下を、かつんかつんと進みながら白井さんは言う。

「護衛、だとか言うから。要は見張りでしょう? 常盤のお嬢様が、これ以上何かしでかさないように」
「……はぁ?」

 護衛さんは訝しげに低く呟いた。

「なんでも、勘当寸前じゃないそうですか。いやでも、この逮捕で確定かな?」

 白井さんは舌舐めずりをするような、そんな視線で私を見たーー何を企んでるの?
 その視線はすぐに、アキラくんによって遮られる。

「アホ抜かすなよオッサン、華は溺愛されてんのやで。それで俺は苦労してんのに」

 勘当されてたらすぐお持ち帰りやわ、とアキラくんは白井さんを睨む。
 けど、今のでなんとなく分かった。

(青花、そのへんはシナリオ通りだと思ってるんだ)

 だから、その通りをこの人に説明して、……保護者の庇護がない未成年なんか、どうにでもできるとでも踏んだんだろう。

(何をする気かは知らないけれど……)

 ぐっとアキラくんの手を握る。強く握り返してくれて、安心して白井さんに向き直る。

「その、逮捕状」

 私の言葉に、白井さんはぴくりと反応した。

「もう一度、見せてもらえますか?」

 白井さんが青花に利用されてる、とすれば。

(……本物かなぁ?)

 刑事さんとはいえ、ひとりでそんなもの、本物作れるはずがない。
 確か裁判所の承認とかもいるはずで……。

「……また、取り調べ室でな」
「あっやしーわオッサン。そもそもなんで1人やねん。普通、こういうの女性警官同行するやろ」

 JK相手やで!? というアキラくんに、白井さんは「ああ」と頷く。

「それはね、さっきも言った通りに秘密裏にことを進めるためだよ。常盤のお嬢様相手、だしね……というか」

 白井さんは目を細める。

「なんで君もいるのかな」
「いるに決まっとるやろがダボ」

 アキラくんは白井さんを見下すーー背はずいぶん、アキラくんの方が高い。
 威圧されたのか、白井さんは肩を揺らすけれど、そこは警察官。すぐに睨み返す。

「君は無関係だろう」
「無関係なわけあるかい。華は俺の彼女やぞ」
「かの、……え? 彼女?」

 白井さんは眉を寄せた。

「君は桜澤さんが好きなんだろう?」
「好きなわけあるかいあのビッチ」

 言い切って、アキラくんは私を腕に閉じ込めた。

「こーんな可愛い彼女おんねんで? ほかに目移りするかいな」
「……? まぁ、いい」

 私は少し気の毒になりながら白井さんを見つめる。
 青花から聞いてる青花的真実(ゲームシナリオ)と現実は、随分違うと思うから……。

「とにかく離れたまえ。設楽さんだけ付いてきて」
「できません」

 ずい、と護衛さんが前に出る。

「じきに弁護士が参ります」
「……調べ室には、女性警官もいますから」

 白井さんは始まった押し問答に、明らかにイライラし始めた。
 時間がない、みたいな顔をしてる気がする。

(やっぱり、あの逮捕状、偽物なんだ)

 弁護士さんたちが到着する前に、私に何かをしてーー交渉か、脅迫か、なにか……わからないけれど。
 とにかく、それで私に「ことを荒げたくない」とか言わせて事態を収束させて……え、どうするんだろ?

(うーん)

 ぐるぐる考えてると、きゅっと抱きしめる腕が強くなる。

「絶対守るから、華」
「アキラくん?」
「絶対離れへん」

 見上げた先で、ニカッと笑う金色。

「安心しとき」
「……うん」

 にっこりと笑って、私は頷く。
 うん、何も心配してない。
 アキラくんが横にいてくれている。

「と、とにかく、設楽さんを、はやく」
「その逮捕状とやら」

 聞こえてきた、関西なまりの低い声。
 ば、と振り向くと、アキラくんのお父さんがスウェット姿で立っていた。

「遅いでおとん」
「いや、お前、1ヶ月ぶりの休日やのに……ま、ええわ」

 ん、とアキラくんのお父さんは手を差し出す。

「その逮捕状? 見せてもらうてええ?」
「……あんた、誰だ」
「あー、言い遅れました」

 アキラくんのお父さんが差し出したのは、一枚の名刺。

「……山ノ内、検事」
「すんませんなこんな格好で。寝てましてん」
「いや、その」

 明らかに挙動不審な白井さんに、アキラくんのお父さんは詰め寄る。

「俺の知ってる警察の捜査とは、どーも雰囲気ちゃいますね」
「……秘密裏の、捜査なので。常盤の、お嬢様なので」
「ほーん。まぁええわ、さ」

 見せてえなソレ。
 アキラくんのお父さんの目が細くなって、白井さんは目線をウロウロさせたあと、ぐうっと唇をかみしめた。
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