【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・相良仁

【番外編】春の日(続)【小話】

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 ちらりと花びらが、舞う。
 吹いた風が、それをさらに吹き上げて、空に。

「あー」

 小さな娘、1歳になったばかりの凛が俺の腕の中で手を伸ばす。桜色の花びらを欲しがって。
 華が落ちていた、綺麗な花弁を拾って凛に渡す。凛はなんの迷いもなく、それを口に入れた。

「ちょちょちょちょ」
「待って凛ちゃんそれ食べ物じゃない!」

 2人で慌てて、凛の口から桜を取り出す。
 可愛い凛はとてもお怒りだ。むぎゅうと顰めた顔。ふんふんと鼻息荒く、華からそれを取り返そうと必死だ。

「だめだね、今なんでも口に入れちゃうもん」

 華は呆れ顔で凛におもちゃを差し出す。

「はいこれ、はい。こっち食べてて」
「むう!!」
「えー、だめなの? でもこれ、アムするものじゃないんだよ凛」

 穏やかな春の日差し。
 華は凛のよだれでべたべたになった桜の花びらを捨てようか迷ってる。勝手に捨てると凛、更に怒るからなあ。

「お前に似て食欲旺盛だな」
「……!? いや、もう関係ないから!」

 口に入れてるだけじゃん! って華は口を尖らせる。

「いやでももうかなり食べるじゃん」
「……食べるけど!」

 もうパパ意地悪だね、と華は凛を俺の腕から取り上げる。
 凛は嬉しそうに華に抱きつく。……桜を狙ってるけど。

「歯がむずむずするんだよねぇ?」

 抱っこされた凛は、華のショルダーバッグの紐を口に入れてもぐもぐし始める。

「こら、もう。汚いよ凛」
「こっちこい、こっち」

 さりげなく凛を取り返す。
 あー、もうほんと可愛い。ふにふにの頬に頬擦り。

「や!」

 凛は嫌がって身体をくねらせた。え、ショック。
 華はくすくすと笑う。

「ほら、私より大事」
「んなわけねーでしょ」

 華のこめかみに軽くキス。華は柔らかく笑う。

「大事なもの、二倍になっただけ」
「ふーん……」

 華は少し目線を逸らす。

「?」

 拗ねてるとかじゃなさそうだけど、なにか言いたそうな。
 言いあぐねてる感じでもありそうな。

「それってさ」
「うん」
「もう1人増えたら」

 華は小さく微笑んだ。

「それって三倍?」
「……へ?」

 なんか抜けた返答しかできない。なにそれ?

「ええと、華さん。それって」
「男の子かな、女の子かな?」

 どっちでもいいんだけど、って華が目を細めた。

「えーと」
「うん」
「はい、三倍です」

 華は何を照れてるのか、俺に顔を見せないでさくさく歩く。

「こけたら危ないって」
「こけないよ」

 華が振り向く。
 ざあと風が吹いて、桜が舞い上がった。

「大切なもの増えて大変だね」
「いやもう、幸せです」

 華はくすくす笑って……それから目を見開いた。

「あ、ほら凛だめだってぇ!」

 俺の肩に乗っていた花びらをまたもや凛がもぐもぐと。

「油断も隙もない」

 華が呆れて言う。俺はやっぱり笑ってしまうし、凛は不服そうだし、春の日差しは柔らかだし、桜は綺麗だ。
 とりあえず、来年は4人家族になるっぽいのでパパは仕事も育児も頑張ろうと思います。
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