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【高校編】分岐・黒田健

【side青花/華】

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【side青花】

 どうやら黒田健は死んだらしい。
 白井は困った顔をしていた。

「詳しい情報が、オレのとこまで降りてこないんだけど」

 でも、どうやら黒田さんの息子さんで間違いないみたいだよ。
 その言葉に、ガッカリしながらもまぁ、そこそこ及第点かなってうなずいた。

「ま、目標である"設楽華のそばから黒田健を排除する"は達成できたから良しとしようか?」

 あたしの言葉に、白井は頷く。

「あー、でも観察したかったな!」

 黒田健がどんどん弱っていくところ。
 黒田健が、どんどん冷たくなっていくところ。

「それは設楽華で観察したら?」

 白井の言葉に、にんまりあたしは笑いかえす。

「えらい。いい子いい子」

 あたしは白井を褒めてあげる。よしよし。あたしの足に頭を撫でられて、白井はとっても嬉しそう。
 白井の家。
 ソファに座ってるあたしと、床にうずくまってる白井。あは。

「分かってきてるね、白井さん? あたしのこと」
「ほんとうに」
「えらーい。だから」

 あたしは口を歪めた。

「つぎも、頑張ろうね?」
「うん」

 次は、設楽華に手を出す番。

「だって白井、溜まってるもんね」
「本当は、青花ちゃんにシてもらいたい」
「だめよ、まだまだ。ご褒美はまだ」

 白井の勃ってるソレを、あたしは斜めに見る。

「設楽華を捕まえて、"とってもひどいこと"をしてーーあたしに逆らえないように、して」

 そうすれば、余計に鹿王院樹に頼るだろう。依存。そしてあたしに対する敵意。

(そう!)

 あたしは思う。
 あのフンワリした性格になっちゃってる「悪役令嬢」設楽華に必要なのは、敵意!
 世界に対する憎悪! 積怨、怒り、苦しみ!
 あたしが感じているような!

「だから、設楽華には酷い目にあってもらわなきゃ」
「色々していいの」
「色々しなきゃだめなの」

 あたしは笑う。

「そろそろ辛い?」
「はい、辛い」

 白井は苦しそう。
 自分自身から、だらだらと先走りを溢れさせながら。

「じゃあいいよ、自分でしてーー」

 あたしは笑ってあげる。

「見ててあげるから」

 嬉しそうに、ほんとうに嬉しそうに、白井はにんまりと笑った。


※※※

【side華】

 学校へ行くな、とは言われたものの。

「委員会とか今更投げ出せないよ!」

 委員長さんなのです。委員長。責任ある立場で、投げ出せないのはそれこそ敦子さんの仕事と同じ! と主張して、おやすみしがちだけれど学校へ向かうようになってーー。

(それと、まぁ)

 黒田くんいわく、「そろそろあいつら動く」。
 敦子さんに根拠聞かれて、「勘ッス」とは言ってたけれどーーなにかしら理由はあるんだろう、とは思う。

「もし罠みたいのがあれば乗っていい」

 黒田くんはハッキリ言った。

「絶対に守る。……俺じゃないかもしれないけど、信用していい」

 黒田くんがそう言うならそうなのかな、と私は頷く。

「俺もすぐに行くから」

 お前を守る。
 黒田くんは、そう断言した。
 そして、その日の帰り道。
 目の前に停まった車から、知ってる人がーー白井さん、が降りてきて私は息を飲む。

(ついに、きた)

 ぎゅ、と手を握りしめる。
 すう、と息を吸った。

(大丈夫、大丈夫)

 黒田くんが信用していい、って言ったんだ。大丈夫。

「設楽華さん」
「はい」

 私を見る白井の目は、なんだかどろり。……私じゃない、誰かを夢見ているような。

「桜澤青花さんに対する、傷害の容疑で、少しお話を聞かせてもらえませんか?」

 薄らと笑った唇。
 すくみそうになる足に、ぐっと力を込めた。

「……はい」
「僕もご同行させていただきましょうか」

 ふ、と聞こえた声は知ってる声。

「仁!? じゃなくって、相良先生」
「や、設楽さん」

 ニコニコと、私の横に仁は並ぶ。
 黒田くんが「俺じゃないかも」って言ってたの、仁のこと!?

「誰です」
「この子の担任ですよ、令状もないもないオマワリサン」

 仁が睨みつける。
 白井さんは肩をすくめた。

「あの常盤敦子のお孫さんですよ? ことを荒立てないことを、むしろ感謝していただきたい」
「へーえ」
「……できれば、設楽華さんひとりで来ていただきたいのですが?」
「それは難しいですね」

 仁はヘラヘラと、けどハッキリ答えて白井さんをにらむ。
 しばらく2人は睨み合うようにしてーー人目を気にしてか、白井さんは「外で待機してもらいますよ?」と何度も念押ししながら仁の同行を許可した。

「こちらの建物なのですか」

 なんだか偉そうに仁は言う。

「ええ、あちらではなく」

 白井さんが指差すのは、新しい建物。なんでも、老朽化で耐震基準を満たさなくて、旧本庁舎を取り壊すことが決まった、とのこと。

「こちらの建物は、いま無人です。常盤のお嬢様が取り調べだなんて、人目につくとえらいことですから」

 言い繕うように、白井は言って、仁に一階のロビーで待つように言う。

「いいですか、絶対に、動かないでくださいね」
「取り調べは、あんたが?」
「……女性警官が当たりますよ」

 ふん、と踵を返す白井に、私は促される。
 ちら、と仁を見ると、こくりと頷かれた。ついていって、いいらしい。
 白井について、ホコリだらけの階段を上がる。
 こつん、こつん、と足音だけが響いた。

「ここです」

 そう言われて通された部屋、殺風景なスチールデスクと簡易的な椅子。

「……なっ」

 白井は、絶句していた。

「よお白井サン」

 スチールデスクの椅子に、どかりと腰掛け、片頬を上げて笑っていたのは。

「地獄から帰ってきてやったぜ、……なんてな」

 余裕たっぷりに笑って、黒田くんはそう言った。
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