503 / 702
【高校編】分岐・黒田健
狂信
しおりを挟む
簡素なパイプ椅子から立ち上がりながら、黒田くんは笑う。
「どーした? 幽霊でも見たようなカオしてんな?」
「……死んだはずじゃ」
「何の話だよ」
つかつかと歩いて、白井さんと至近距離で睨み合う。少しだけ、黒田くんのほうが背が高い。
「なぁ白井サン、桜澤青花とてめぇ、なに企んでやがる」
「……桜澤? 誰かな」
平静を取り戻したっぽい白井さんが、目を細めた。
「何の話だか」
「へえ」
黒田くんはまだ余裕。
「いや、びっくりしたよ。健くん。無事でよかった」
「そっすか」
白井さんは薄笑いを浮かべる。
「黒田さんも喜んでるだろうね、君が無事に帰ってきて」
なにがあったのかな、なんてワザとらしく言うそのひとに、私はお腹の底に氷を詰め込まれたような感覚に陥る。
(こいつのせいで……っ)
黒田くん、とっても危ない目に遭ったんだ!
ぎゅっと手を握り締めた。
……多分、すごい形相をしていたのかな。黒田くんと目が合う。落ち着け、って顔をされて唇を噛んだ。
「なんで俺が死んだなんて言ったんすか?」
「? それは」
「出てないっすよね、俺の名前」
黒田くんは意識的にだろうか、少し声を低くする。
「報道にも」
「……署で」
「ケーサツは動いてない」
黒田くんは断言するように、言う。
「あれはフェイクニュースなんだから」
「フェイクニュース……?」
戸惑う白井さんに、黒田くんは続ける。
「なぁ」
片頬をあげて、少し挑戦的に。
「白井サン、答えろよ」
「……黒田さんが、異動を」
「君を泳がせるためだよ、白井」
ばっ、と白井さんは振り向く。
取調室の入り口には、黒田くんのお父さんと、仁が立っていた。
「白井、答えてくれ」
黒田くんのお父さんは、きゅ、と眉を潜めている。
信頼してきた仲間が、まさか自分の息子をあんな目にあわせていたなんて、想像もしたくなかったに違いない。
「白井」
「……オレは、知りません」
「じゃあなんで"俺が死んでた"なんてこと口走った? ぁあ!?」
至近距離で、黒田くんは白井さんを睨みつけた。メンチを切る、って多分こんな感じ……。
「答えろよ。白井。俺を殺して、そのあと設楽になにする気だった」
「……知らない。君が死んだなんて口走ってない」
「白井」
黒田くんのお父さんが、悲しそうに。
「全部記録してある……」
白井さんは目を見開いて、それからぐっと唇をかみしめた。
そうして、扉に向かって猛烈に走り出す。獣じみた叫び声を上げてーー。
黒田くんのお父さんはそれを悲しそうに見てーーそうして、白井さんは宙にまった……ように見えた。
「うわぁ」
「あのおっさん、ああ見えて柔道黒帯なんだ」
黒田くんが静かに言う。
柔道の、なんていう技か分からないけれど、倒されて、寝技で白井さんは締め上げられている。
どこに隠れていたのか、わらわらと警察官が出てきてーー白井さんは、観念したように目を閉じた。
警察署を出て、私たちは仁の車で黒田くんの家に向かう。
「あとは桜澤だ」
黒田くんは流れて行く風景を見ながら、小さく言う。
「あいつ、吐くかねぇ」
仁が運転しながら、口を尖らせた。
「どっちが主犯なんだかも微妙なとこだし」
「俺は桜澤だと思う」
仁の言葉に、黒田くんがそう返した。
「鳥、猫、犬、ヒト。あいつは殺しを楽しんでる」
「……先入観ありきで捜査しちゃダメだぜ、刑事さん」
「刑事じゃねーっすよ」
ふうん、と仁は言って少し黙る。黒田くんも、何か考えてるように目を閉じた。……そっと、私の手を握って。
「……けどさ、白井から証言とんの。マジで難しいかもしんねーよ、黒田」
「なんでっすか」
黒田くんは目を開けた。
「気がつかなかったか?」
仁の声が、少し真剣味を帯びる。
「何年か前、変な宗教団体とドンパチやってただろお前ら」
「ドンパチて」
思わず突っ込む。
石宮瑠璃、の件だろうと思う。
千晶ちゃんが「悪役令嬢」するはずだった「ゲーム」の、そのヒロイン。
変な方向に正義感が強すぎて、そのせいで新興宗教に利用された、あの女の子。
「その時のヤツらと、白井。同じ目ェしてたんだけど」
「……目」
黒田くんの、少し低い声。
「そ。狂信的、っつうの?」
仁はそのまま続けた。
「多分、ヤツは普通には吐かない。あいつは、狂信的に、盲目的にーー桜澤を信奉している」
宗教的になーー仁がそう言って、黒田くんは目を細めた。
厳しい目つきで、そのままなにかを考えてる黒田くんに、私は何も言えそうになかった。
ただ、……桜澤青花の一体なにが、彼をそこまでの「信者」にさせたのか。
それが、なんとなく、ひっかかってはいたのだった。
「どーした? 幽霊でも見たようなカオしてんな?」
「……死んだはずじゃ」
「何の話だよ」
つかつかと歩いて、白井さんと至近距離で睨み合う。少しだけ、黒田くんのほうが背が高い。
「なぁ白井サン、桜澤青花とてめぇ、なに企んでやがる」
「……桜澤? 誰かな」
平静を取り戻したっぽい白井さんが、目を細めた。
「何の話だか」
「へえ」
黒田くんはまだ余裕。
「いや、びっくりしたよ。健くん。無事でよかった」
「そっすか」
白井さんは薄笑いを浮かべる。
「黒田さんも喜んでるだろうね、君が無事に帰ってきて」
なにがあったのかな、なんてワザとらしく言うそのひとに、私はお腹の底に氷を詰め込まれたような感覚に陥る。
(こいつのせいで……っ)
黒田くん、とっても危ない目に遭ったんだ!
ぎゅっと手を握り締めた。
……多分、すごい形相をしていたのかな。黒田くんと目が合う。落ち着け、って顔をされて唇を噛んだ。
「なんで俺が死んだなんて言ったんすか?」
「? それは」
「出てないっすよね、俺の名前」
黒田くんは意識的にだろうか、少し声を低くする。
「報道にも」
「……署で」
「ケーサツは動いてない」
黒田くんは断言するように、言う。
「あれはフェイクニュースなんだから」
「フェイクニュース……?」
戸惑う白井さんに、黒田くんは続ける。
「なぁ」
片頬をあげて、少し挑戦的に。
「白井サン、答えろよ」
「……黒田さんが、異動を」
「君を泳がせるためだよ、白井」
ばっ、と白井さんは振り向く。
取調室の入り口には、黒田くんのお父さんと、仁が立っていた。
「白井、答えてくれ」
黒田くんのお父さんは、きゅ、と眉を潜めている。
信頼してきた仲間が、まさか自分の息子をあんな目にあわせていたなんて、想像もしたくなかったに違いない。
「白井」
「……オレは、知りません」
「じゃあなんで"俺が死んでた"なんてこと口走った? ぁあ!?」
至近距離で、黒田くんは白井さんを睨みつけた。メンチを切る、って多分こんな感じ……。
「答えろよ。白井。俺を殺して、そのあと設楽になにする気だった」
「……知らない。君が死んだなんて口走ってない」
「白井」
黒田くんのお父さんが、悲しそうに。
「全部記録してある……」
白井さんは目を見開いて、それからぐっと唇をかみしめた。
そうして、扉に向かって猛烈に走り出す。獣じみた叫び声を上げてーー。
黒田くんのお父さんはそれを悲しそうに見てーーそうして、白井さんは宙にまった……ように見えた。
「うわぁ」
「あのおっさん、ああ見えて柔道黒帯なんだ」
黒田くんが静かに言う。
柔道の、なんていう技か分からないけれど、倒されて、寝技で白井さんは締め上げられている。
どこに隠れていたのか、わらわらと警察官が出てきてーー白井さんは、観念したように目を閉じた。
警察署を出て、私たちは仁の車で黒田くんの家に向かう。
「あとは桜澤だ」
黒田くんは流れて行く風景を見ながら、小さく言う。
「あいつ、吐くかねぇ」
仁が運転しながら、口を尖らせた。
「どっちが主犯なんだかも微妙なとこだし」
「俺は桜澤だと思う」
仁の言葉に、黒田くんがそう返した。
「鳥、猫、犬、ヒト。あいつは殺しを楽しんでる」
「……先入観ありきで捜査しちゃダメだぜ、刑事さん」
「刑事じゃねーっすよ」
ふうん、と仁は言って少し黙る。黒田くんも、何か考えてるように目を閉じた。……そっと、私の手を握って。
「……けどさ、白井から証言とんの。マジで難しいかもしんねーよ、黒田」
「なんでっすか」
黒田くんは目を開けた。
「気がつかなかったか?」
仁の声が、少し真剣味を帯びる。
「何年か前、変な宗教団体とドンパチやってただろお前ら」
「ドンパチて」
思わず突っ込む。
石宮瑠璃、の件だろうと思う。
千晶ちゃんが「悪役令嬢」するはずだった「ゲーム」の、そのヒロイン。
変な方向に正義感が強すぎて、そのせいで新興宗教に利用された、あの女の子。
「その時のヤツらと、白井。同じ目ェしてたんだけど」
「……目」
黒田くんの、少し低い声。
「そ。狂信的、っつうの?」
仁はそのまま続けた。
「多分、ヤツは普通には吐かない。あいつは、狂信的に、盲目的にーー桜澤を信奉している」
宗教的になーー仁がそう言って、黒田くんは目を細めた。
厳しい目つきで、そのままなにかを考えてる黒田くんに、私は何も言えそうになかった。
ただ、……桜澤青花の一体なにが、彼をそこまでの「信者」にさせたのか。
それが、なんとなく、ひっかかってはいたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
ふたりの愛は「真実」らしいので、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしました
もるだ
恋愛
伯爵夫人になるために魔術の道を諦め厳しい教育を受けていたエリーゼに告げられたのは婚約破棄でした。「アシュリーと僕は真実の愛で結ばれてるんだ」というので、元婚約者たちには、心の声が聞こえる魔道具をプレゼントしてあげます。
彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~
プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。
※完結済。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ
朝霞 花純@電子書籍発売中
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。
理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。
逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。
エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
私は貴方を許さない
白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。
前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。
【完結】悪役令嬢はおねぇ執事の溺愛に気付かない
As-me.com
恋愛
完結しました。
自分が乙女ゲームの悪役令嬢に転生したと気付いたセリィナは悪役令嬢の悲惨なエンディングを思い出し、絶望して人間不信に陥った。
そんな中で、家族すらも信じられなくなっていたセリィナが唯一信じられるのは専属執事のライルだけだった。
ゲームには存在しないはずのライルは“おねぇ”だけど優しくて強くて……いつしかセリィナの特別な人になるのだった。
そしてセリィナは、いつしかライルに振り向いて欲しいと想いを募らせるようになるのだが……。
周りから見れば一目瞭然でも、セリィナだけが気付かないのである。
※こちらは「悪役令嬢とおねぇ執事」のリメイク版になります。基本の話はほとんど同じですが、所々変える予定です。
こちらが完結したら前の作品は消すかもしれませんのでご注意下さい。
ゆっくり亀更新です。
【完結】転生したらラスボスの毒継母でした!
白雨 音
恋愛
妹シャルリーヌに裕福な辺境伯から結婚の打診があったと知り、アマンディーヌはシャルリーヌと入れ替わろうと画策する。
辺境伯からは「息子の為の白い結婚、いずれ解消する」と宣言されるが、アマンディーヌにとっても都合が良かった。「辺境伯の財で派手に遊び暮らせるなんて最高!」義理の息子など放置して遊び歩く気満々だったが、義理の息子に会った瞬間、卒倒した。
夢の中、前世で読んだ小説を思い出し、義理の息子は将来世界を破滅させようとするラスボスで、自分はその一因を作った毒継母だと知った。破滅もだが、何より自分の死の回避の為に、義理の息子を真っ当な人間に育てようと誓ったアマンディーヌの奮闘☆
異世界転生、家族愛、恋愛☆ 短めの長編(全二十一話です)
《完結しました》 お読み下さり、お気に入り、エール、いいね、ありがとうございます☆
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる