【本編完結】セカンド彼女になりがちアラサー、悪役令嬢に転生する

にしのムラサキ

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【高校編】分岐・黒田健

狂信

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 簡素なパイプ椅子から立ち上がりながら、黒田くんは笑う。

「どーした? 幽霊でも見たようなカオしてんな?」
「……死んだはずじゃ」
「何の話だよ」

 つかつかと歩いて、白井さんと至近距離で睨み合う。少しだけ、黒田くんのほうが背が高い。

「なぁ白井サン、桜澤青花とてめぇ、なに企んでやがる」
「……桜澤? 誰かな」

 平静を取り戻したっぽい白井さんが、目を細めた。

「何の話だか」
「へえ」

 黒田くんはまだ余裕。

「いや、びっくりしたよ。健くん。無事でよかった」
「そっすか」

 白井さんは薄笑いを浮かべる。

「黒田さんも喜んでるだろうね、君が無事に帰ってきて」

 なにがあったのかな、なんてワザとらしく言うそのひとに、私はお腹の底に氷を詰め込まれたような感覚に陥る。

(こいつのせいで……っ)

 黒田くん、とっても危ない目に遭ったんだ!
 ぎゅっと手を握り締めた。
 ……多分、すごい形相をしていたのかな。黒田くんと目が合う。落ち着け、って顔をされて唇を噛んだ。

「なんで俺が死んだなんて言ったんすか?」
「? それは」
「出てないっすよね、俺の名前」

 黒田くんは意識的にだろうか、少し声を低くする。

「報道にも」
「……署で」
「ケーサツは動いてない」

 黒田くんは断言するように、言う。

「あれはフェイクニュースなんだから」
「フェイクニュース……?」

 戸惑う白井さんに、黒田くんは続ける。

「なぁ」

 片頬をあげて、少し挑戦的に。

「白井サン、答えろよ」
「……黒田さんが、異動を」
「君を泳がせるためだよ、白井」

 ばっ、と白井さんは振り向く。
 取調室の入り口には、黒田くんのお父さんと、仁が立っていた。

「白井、答えてくれ」

 黒田くんのお父さんは、きゅ、と眉を潜めている。
 信頼してきた仲間が、まさか自分の息子をあんな目にあわせていたなんて、想像もしたくなかったに違いない。

「白井」
「……オレは、知りません」
「じゃあなんで"俺が死んでた"なんてこと口走った? ぁあ!?」

 至近距離で、黒田くんは白井さんを睨みつけた。メンチを切る、って多分こんな感じ……。

「答えろよ。白井。俺を殺して、そのあと設楽になにする気だった」
「……知らない。君が死んだなんて口走ってない」
「白井」

 黒田くんのお父さんが、悲しそうに。

「全部記録してある……」

 白井さんは目を見開いて、それからぐっと唇をかみしめた。
 そうして、扉に向かって猛烈に走り出す。獣じみた叫び声を上げてーー。
 黒田くんのお父さんはそれを悲しそうに見てーーそうして、白井さんは宙にまった……ように見えた。

「うわぁ」
「あのおっさん、ああ見えて柔道黒帯なんだ」

 黒田くんが静かに言う。
 柔道の、なんていう技か分からないけれど、倒されて、寝技で白井さんは締め上げられている。
 どこに隠れていたのか、わらわらと警察官が出てきてーー白井さんは、観念したように目を閉じた。

 警察署を出て、私たちは仁の車で黒田くんの家に向かう。

「あとは桜澤だ」

 黒田くんは流れて行く風景を見ながら、小さく言う。

「あいつ、吐くかねぇ」

 仁が運転しながら、口を尖らせた。

「どっちが主犯なんだかも微妙なとこだし」
「俺は桜澤だと思う」

 仁の言葉に、黒田くんがそう返した。

「鳥、猫、犬、ヒト。あいつは殺しを楽しんでる」
「……先入観ありきで捜査しちゃダメだぜ、刑事さん」
「刑事じゃねーっすよ」

 ふうん、と仁は言って少し黙る。黒田くんも、何か考えてるように目を閉じた。……そっと、私の手を握って。

「……けどさ、白井から証言とんの。マジで難しいかもしんねーよ、黒田」
「なんでっすか」

 黒田くんは目を開けた。

「気がつかなかったか?」

 仁の声が、少し真剣味を帯びる。

「何年か前、変な宗教団体とドンパチやってただろお前ら」
「ドンパチて」

 思わず突っ込む。
 石宮瑠璃、の件だろうと思う。
 千晶ちゃんが「悪役令嬢」するはずだった「ゲーム」の、そのヒロイン。
 変な方向に正義感が強すぎて、そのせいで新興宗教に利用された、あの女の子。

「その時のヤツらと、白井。同じ目ェしてたんだけど」
「……目」

 黒田くんの、少し低い声。

「そ。狂信的、っつうの?」

 仁はそのまま続けた。

「多分、ヤツは普通には吐かない。あいつは、狂信的に、盲目的にーー桜澤を信奉している」

 宗教的になーー仁がそう言って、黒田くんは目を細めた。
 厳しい目つきで、そのままなにかを考えてる黒田くんに、私は何も言えそうになかった。
 ただ、……桜澤青花の一体なにが、彼をそこまでの「信者」にさせたのか。
 それが、なんとなく、ひっかかってはいたのだった。
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