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ガールズトーク
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「しかし、まだ分からないことはある」
鹿王院さんは言う。
「ここまでどう登ったのか? それから、外側から、どう換気扇を戻したのか」
「そもそも、そのサイズ、人が出れるんすかね」
健が見上げながら言った。
「少なくとも俺や鹿王院さんにはムリじゃないっすか」
「……そのようだな」
脚立から、僕たちを見下ろしながら鹿王院さんは言う。
「あの」
僕は口を開いた。
「多分、ここにいるーー食堂に残っている男性も含めて、ですけど。男の人の中で、僕が1番小柄です」
「そうだな」
「出られるか、やってみます」
鹿王院さんは、黙って脚立を降りた。
代わりに上がる。
(あ、なんか悔しい)
180以上身長がありそうな鹿王院さんと違って、ギリギリ160の僕は脚立に登っても換気扇の穴は少し上にある。そんなに高くない脚立だから。
自分の体重を持ち上げなきゃいけないのって、結構キツイんだよな……。
「おい圭、手伝おうか」
「うっ」
健に言われて逡巡する。悔しい。しかし、できないものは仕方ない。
健に押されるように、僕は換気扇の穴に身体を入れようとするけれど、……キツかった。
「これ、ムリです。僕でもダメだ」
「男ではムリということか?」
「皆さま、それは一度戻ってから考えましょう……雨が」
大橋さんが言う。
「強い雨になりそうです」
ざあああ、と唐突なほどに降り始めた雨。鹿王院さんが換気扇を戻して、僕らは事務室を後にした。
食堂に戻ると、皆ホッとした顔をした。
「これで、昨日の朝くらいまでの映像見てたけど」
翔がタブレットを片手に言う。
「なーんも、変なモンは映ってなかったで」
山ノ内さんが続けた。
「とりあえず、お昼にいたしましょうか」
大橋さんがほんの少し微笑んだ。
たしかに正午を過ぎていて、(食欲の有無はともかく)昼餐の時間ではある。
「……お肉は遠慮したいです」
華がぽつりと言って、大橋さんは神妙に頷いた。
多分、大橋さんもお肉の調理はしたくないだろう。
食事は和風パスタとサラダだった。
もぐもぐ、と食べながら、華たちは少しでも事件のことを忘れようとしているのか、それとも、この年頃の女の子はどうあってもそうなるのか、話が盛り上がっていた。
「え、ミチル、新体操してたの?」
「そうだよ」
「日和ちゃんもしてなかったっけ」
華が言うと、日和は「体操のほう」と言った。
「それも小学生の時だけだよ。翔くんも通ってた」
「あ、そうだった。でも鉄棒とかカッコよかったよ、2人とも」
「あは! 結構痛くなるんだよ、ここ」
日和は二の腕に触れた。
「あと、指ー」
「分かる」
ミチルは言う。
「わたしも、体操のほうもちょっとしてたから。ヒカルも」
「ヒカルも?」
「まぁヒカルは野球もしてたから。小学校低学年ですぐに辞めちゃってるけど」
ヒカルは苦笑した。
「野球のほうが面白かったもん」
「ヒカルはなんで野球してるの?」
「なんで? なんで、ええっとね」
ヒカルは少し考えてから「誘われて始めたら性に合ってた」と笑った。
「いいな、みんなスポーツしてるもんね」
華は少し羨ましそうに言った。
「私、運動音痴だからなぁ」
「華ちゃん、運動だけ?」
「う」
華は「むう」って顔をして半目になった。
「リズム感もないし、"画伯"だし」
からかうように言う日和。この場合の画伯、はもちろん絵が上手って意味ではない。
「ひ、日和ちゃんだってその辺は同レベルじゃん! 運動神経に能力全フリなくせにっ」
「う、それは言わないで」
「仲いいんだね」
ミチルは少し羨ましそうに言う。
「うん、幼稚園から一緒だからね」
「健たちも?」
「そだよー。ね!」
話を振られた健と翔はパスタを食べる口と手を止めずにうなずく。
「圭は?」
ミチルに聞かれる。
「華の弟枠だな」
健が先に答えた。言い返す。
「いとこです」
「圭くんは」
華が全く悪気なく言う。
「いとこだけど、家族だよ。大事な弟」
そう言われることは、嬉しいような、悲しいような。
(……少なくとも男には見られてないよなぁ)
これからだ、と思うけれど、これからどうすればそう見てもらえるかなんて、全く想像がついていない。
(もっとも)
ちらり、と健を見る。
きちんと「おとこのひと」らしく育ってる健すら、そう見られていないのだから、……華のほうがまだまだオコサマだって考え方もある。
整ってる顔立ちのくせに、今まで色恋沙汰なんて聞いたことない。
(まぁ、それも含めてこれから、ってことで)
食べ終わったタイミングで、鹿王院さんが地下階の捜索のことを話した。換気扇については(あえてだろうか?)触れていない。
「まぁ、望み薄やけど」
山ノ内さんは言う。
「やっぱ、荷物検査したほうがええんちゃうかな」
「なぜ望み薄?」
牟田さんが聞く。山ノ内さんは肩をすくめた。
「そんなもん、海に捨てたらええだけや」
「でもそもそも、雑餉隈さんが殺害されたと思われる時間に地下に行った人間はいないのよ?」
「正確には、"その時間に防犯カメラに映った人間はおらん"、です。せやけど透明人間やあるまいし。どっかから抜け出したんやろ……」
鹿王院さんはじっと腕を組み、周りを見渡していた。少しの挙措も、見逃すまいというように。
鹿王院さんは言う。
「ここまでどう登ったのか? それから、外側から、どう換気扇を戻したのか」
「そもそも、そのサイズ、人が出れるんすかね」
健が見上げながら言った。
「少なくとも俺や鹿王院さんにはムリじゃないっすか」
「……そのようだな」
脚立から、僕たちを見下ろしながら鹿王院さんは言う。
「あの」
僕は口を開いた。
「多分、ここにいるーー食堂に残っている男性も含めて、ですけど。男の人の中で、僕が1番小柄です」
「そうだな」
「出られるか、やってみます」
鹿王院さんは、黙って脚立を降りた。
代わりに上がる。
(あ、なんか悔しい)
180以上身長がありそうな鹿王院さんと違って、ギリギリ160の僕は脚立に登っても換気扇の穴は少し上にある。そんなに高くない脚立だから。
自分の体重を持ち上げなきゃいけないのって、結構キツイんだよな……。
「おい圭、手伝おうか」
「うっ」
健に言われて逡巡する。悔しい。しかし、できないものは仕方ない。
健に押されるように、僕は換気扇の穴に身体を入れようとするけれど、……キツかった。
「これ、ムリです。僕でもダメだ」
「男ではムリということか?」
「皆さま、それは一度戻ってから考えましょう……雨が」
大橋さんが言う。
「強い雨になりそうです」
ざあああ、と唐突なほどに降り始めた雨。鹿王院さんが換気扇を戻して、僕らは事務室を後にした。
食堂に戻ると、皆ホッとした顔をした。
「これで、昨日の朝くらいまでの映像見てたけど」
翔がタブレットを片手に言う。
「なーんも、変なモンは映ってなかったで」
山ノ内さんが続けた。
「とりあえず、お昼にいたしましょうか」
大橋さんがほんの少し微笑んだ。
たしかに正午を過ぎていて、(食欲の有無はともかく)昼餐の時間ではある。
「……お肉は遠慮したいです」
華がぽつりと言って、大橋さんは神妙に頷いた。
多分、大橋さんもお肉の調理はしたくないだろう。
食事は和風パスタとサラダだった。
もぐもぐ、と食べながら、華たちは少しでも事件のことを忘れようとしているのか、それとも、この年頃の女の子はどうあってもそうなるのか、話が盛り上がっていた。
「え、ミチル、新体操してたの?」
「そうだよ」
「日和ちゃんもしてなかったっけ」
華が言うと、日和は「体操のほう」と言った。
「それも小学生の時だけだよ。翔くんも通ってた」
「あ、そうだった。でも鉄棒とかカッコよかったよ、2人とも」
「あは! 結構痛くなるんだよ、ここ」
日和は二の腕に触れた。
「あと、指ー」
「分かる」
ミチルは言う。
「わたしも、体操のほうもちょっとしてたから。ヒカルも」
「ヒカルも?」
「まぁヒカルは野球もしてたから。小学校低学年ですぐに辞めちゃってるけど」
ヒカルは苦笑した。
「野球のほうが面白かったもん」
「ヒカルはなんで野球してるの?」
「なんで? なんで、ええっとね」
ヒカルは少し考えてから「誘われて始めたら性に合ってた」と笑った。
「いいな、みんなスポーツしてるもんね」
華は少し羨ましそうに言った。
「私、運動音痴だからなぁ」
「華ちゃん、運動だけ?」
「う」
華は「むう」って顔をして半目になった。
「リズム感もないし、"画伯"だし」
からかうように言う日和。この場合の画伯、はもちろん絵が上手って意味ではない。
「ひ、日和ちゃんだってその辺は同レベルじゃん! 運動神経に能力全フリなくせにっ」
「う、それは言わないで」
「仲いいんだね」
ミチルは少し羨ましそうに言う。
「うん、幼稚園から一緒だからね」
「健たちも?」
「そだよー。ね!」
話を振られた健と翔はパスタを食べる口と手を止めずにうなずく。
「圭は?」
ミチルに聞かれる。
「華の弟枠だな」
健が先に答えた。言い返す。
「いとこです」
「圭くんは」
華が全く悪気なく言う。
「いとこだけど、家族だよ。大事な弟」
そう言われることは、嬉しいような、悲しいような。
(……少なくとも男には見られてないよなぁ)
これからだ、と思うけれど、これからどうすればそう見てもらえるかなんて、全く想像がついていない。
(もっとも)
ちらり、と健を見る。
きちんと「おとこのひと」らしく育ってる健すら、そう見られていないのだから、……華のほうがまだまだオコサマだって考え方もある。
整ってる顔立ちのくせに、今まで色恋沙汰なんて聞いたことない。
(まぁ、それも含めてこれから、ってことで)
食べ終わったタイミングで、鹿王院さんが地下階の捜索のことを話した。換気扇については(あえてだろうか?)触れていない。
「まぁ、望み薄やけど」
山ノ内さんは言う。
「やっぱ、荷物検査したほうがええんちゃうかな」
「なぜ望み薄?」
牟田さんが聞く。山ノ内さんは肩をすくめた。
「そんなもん、海に捨てたらええだけや」
「でもそもそも、雑餉隈さんが殺害されたと思われる時間に地下に行った人間はいないのよ?」
「正確には、"その時間に防犯カメラに映った人間はおらん"、です。せやけど透明人間やあるまいし。どっかから抜け出したんやろ……」
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