前世記憶有少女中華(風)後宮奮闘記〜悪逆女帝にはなりたくない!〜

にしのムラサキ

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 目を覚ますと、蝋燭の灯で仄暗い居室へやだった。
 なんだか、あったかい……。

「……?」
「お、起きたか」

 玉藻ぎょくそうさんが、私の頬をペロペロ舐めながら言う。

「なかなか起きぬから!」

 大きな獅子狗シーズーの瞳が、蝋燭の灯で潤んで見えた。

「ご、ごめんなさい……」
「まさか後宮でかような攫い方をするとは、……甘かったのはわらわじゃな。すまぬ」

 私はふるふると首を振る。

「付いてきてくれたんですね」
「ふ、ふん。アレにそちを守るように言われておるからの!」

 ぷい、と顔を逸らす玉藻ぎょくそうさんに、つい、笑ってしまう。

「ここは?」

 怒られながら身体を起こす。ぎしり、と寝台ベッドが軋んだ。

「さぁ。蘇京そけい内ではあるが」
「そっか」

 とりあえず、ほっと息を吐く。そんなに遠くではない、ってことでいいのかな。

「あのあと、そち、荷物に詰め込まれてここまで運ばれたのよ」
「えー」

 どうりで、首がなんだか痛い……。

「頭も痛い」
「それはそちに嗅がせた眠り薬のせいであろ。しかし」

 玉藻さんは目を細めた。

「何のためにそちをここまで? あのとき殺して仕舞えば話が早かったろうに」
「怖いこと言わないでくれます!?」

 もう、平気でそんなこと言うんだから。

「なんとか逃げ出せないかな?」
「無理であろうなぁ」

 玉藻さんは少し低い声で言った。

階下したに、随分と屈強なのを見張りに揃えておるようだったぞ」

 ということは、ここは二階以上なの、か……。
 みわたすけれど、窓はない。

「屈強なの、って?」
「無駄に筋肉がついた肉達磨どもかな」
「言い方」
「剣の扱いも慣れておるようだったぞ」
「……ううん」

 正面突破は、無理かなぁ。
 と、玉藻さんの毛が逆立つ。

「……誰か来る」

 言われて、思わず玉藻さんを抱き上げて寝台の隅へ行く。とん、と壁に背中が触れた。
 きい、と扉を押し上けたのは、知らない太った男の人だった。

「やぁお目覚めですか、我らが娘子」
「……誰です?」

 太った男の人は、無遠慮に部屋に入り込んでくる。

「いやぁ、気丈な方だ、皇上おかみのお気に入りなだけある」

 楽しげに、大きなお腹を揺らしてその人は笑った。

「けれど、お可愛そうに。ここで死んでいただく」
「な、なんで」
「邪魔だからですよ、娘子。あなたが邪魔だ」

 昔から、とその人は唇を歪めた。

「邪魔で仕方ない。あの司馬の孫娘めを殺そうとしたときも、邪魔してくれましたのはあなた様でしたかな」
「な、なんの話?」
「おや、覚えておいででない? 別人かな? ま、その確認でこちらまでご足労いただいたのですな」

 男の人は、寝台のすぐ側まで来て、首を傾げる。

「確かに、喬蘭きょうらんの言う通り、そう綺麗というわけでもない」
「……」

 その言葉で、さすがに察した。

(貴太妃の父親!)

 宰相、高宗元!

「……一国の宰相ともあろうお方が、恥ずかしくないのですか?」

 私は彼を睨む。

「後宮から妃をさらうなんて! 死罪ですよ、そんなの!」
「ふっふ、露見すれば。露見すれば、ですよ娘子」

 宗元は肩を揺らす。

「今頃、浩然なる貴女の乳兄弟を儂の手の者が連れに行っております」
「……ちょっ、こ、浩然は関係ないっ」

 私は大きく叫んだ。なに、それ!

「ともに、そうですなぁ、渭河いこうあたりに浮かんでいただきましょうか」
「……それって」
「愛する少女を皇帝に奪われた乳兄弟の暴走。あるいは愛し合う男女の心中。まぁどうとっていただいても構いませんが……」
「馬鹿げてる!」

 私の声を無視して、宗元は寝台に乗ってくる。

「が、その前に……確認せねばならんことがある」

 私は玉藻さんを抱きしめて、立ち上がる。
 なんとか逃げようとするけれど、宗元は私の足を掴み引き寄せた。思わずこける。

「がう!」

 玉藻さんが歯を剥いて宗元に立ち向かう。がぶりとその手に噛み付いて、だけれどぶん! と振り払われてしまった。

「なんじゃこの獅子狗!」

 そう叫んで宗元は玉藻さんを壁に投げつけた。きゅう、と喉から声がして玉藻さんは目を閉じる。

「ぎ、玉藻さんっ! 玉藻さんっ!」

 お腹は動いているから、死んではいないだろうけれど……!
 キッと睨みつけると、宗元は玉藻さんに噛まれて血が出ている手で、私の頬を強く叩く。
 安物の寝台に叩きつけられて、仰向けにされる。
 宗元は私の上にそのまま馬乗りになった。

「確認せねばならんのよ」

 そう言って、私の着物の腰紐を緩めた。短衣上の服を肩からずらす。

「……っ、やめて! やめて!」
「ふっふ、暴れるな、暴れるな。ほれ」

 うつ伏せにされて、短衣を腰まで脱がされた。涙がぽろぽろと溢れる。何をされているの!?

「やはりな」

 小さく、宗元は呟いた。そうして、私の背中に触れる。ざわりと全身が泡立った。

「この火傷。やはり貴様、あの時の娘か……まったく、邪魔ばかり」

 ふ、と笑う気配がした。

「まぁこれで儂の邪魔者はいなくなるのかな……さて、確認もとれました。あとはあなた様を殺すだけなのですが」

 そう言って、宗元はまさぐるように私の身体に触れてくる。

「せっかくですので、死ぬ前に教えていただきましょうかなぁ。皇帝が夢中になるあなた様の身体というものを」
「やだ、やだ、やめて」

 泣いて暴れる私を、宗元は笑いながら仰向けにした。なんとか肌を隠そうとする私を楽しげに見下す。

「よほど、なのでしょうな。喬蘭にも靡かぬというくらいなのだから」
「何か言い訳はあるか? 宗元」

 ふと、そんな声がした。
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