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薬
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「……え」
呆然とした私に、玉藻さんは可愛らしい前足を振って少し得意気。
「ほら、先のこと、あったろ? だから妾、そちの飲食物にはの、そこそこ気をつけておったのじゃよ」
「そうだったんですか」
私は半ばぽかんとしながら頭を下げた。
「ありがとうございます」
とりあえずお礼。色々混乱しているけれど……!
「うむ。苦しゅうない」
「苦しゅうない、はいいんだけれど」
憂炎様は少し低い声で言う。
「それってつまり、俺付きの女官、宮女の中に嫦娥を狙ってる誰かがいるってこと?」
もっと言えば、と憂炎様は言う。
「女官長が、嫦娥を狙っている、とでも」
「……そんな」
私は首を振った。
「考えられません、そんな。女官長さん、良い人ですし」
「良い人、良い人なぁ」
玉藻さんは鼻を鳴らした。
「やや独善的過ぎるかの? いや、やはり現実主義者なのやもしれぬ」
玉藻さんの言葉に、憂炎様は眉をひそめた。
「どういうこと、九尾。薬ってなにが入ってたの」
「ふーむ」
玉藻さんはちら、と私と憂炎様を交互に見遣った。
「そちは何故ここにいる」
「わ、私ですか」
首を傾げた。
なんで、でしょうか。
「俺がいて欲しいからだよ」
「憂炎様」
ふん、となぜか開き直ったように憂炎様は玉藻さんを見た。
「悪いか」
「ふん、ああ小童小童」
玉藻さんはそう言って楽しげに笑った後、続けた。
「いや、一般論じゃ、一般論。一般論として、妃は、後宮は何のためにあるのじゃ」
「……子供を成すため?」
「正解。あの水に入っておったのはじゃなぁ」
くっくっくと玉藻さんは笑った。
「醒要山にの」
「醒要山?」
ここ、蘇京の西にある険しい山だ。
「うむ。そこに、鷂という鳥がおってな。青い羽に赤い瞳と尾をしておる」
「……ああ」
先に答えたのは、林杏だった。
「そーゆーことかぁ」
「そーゆーことじゃ」
「どういうことか分かりません俺には」
「ふむ察しの悪い小童め」
じとりと睨みつけ憂炎様の視線を軽くいなし、玉藻さんは続けた。
「これの肉を煎じたモノをな、食すと」
「食すと?」
「妊娠やすくなるという」
げほっ、と吹き出したのは私が先だったか、憂炎様だったか。
「どういうこと!」
「どういうどういうと煩いのう小童。少しは自分で考えや小童」
「いや、だってほら、でもその」
憂炎様はアタフタと言葉を紡ぐ。ちらちらと私を真っ赤になりながら見遣る。
「でももクソもないわ。あの水には、それが溶かしてあった」
一杯だけだったところを見ると、それしか手に入らなんだであろうな、とは玉藻さん談。
どうやらかなりの珍奇品みたいだ。
……無駄にさせちゃったなぁ。いろんな意味で。
なんだか申し訳ないような。
「あの、それ、副作用みたいなのって」
「妊娠やすくなる以外にはないわ。以外には、な」
少し含みのある言い方に首を傾げた。
「あの、ねー。嫦娥」
林杏が口を開く。
「赤ちゃんできやすくなるっていうのはぁ」
「うん」
「えーと、うん、まぁ、あれ。要は媚薬なのね」
「びっ!?」
私はさすがに頬を赤らめるーー媚薬!?
「だから、効能は、うーんと。嫦娥がなんていうか、めろめろになるの」
「めろめろ!?」
「うん。めろめろとろとろへろへろ」
「ひゃーっ」
私は耳を塞いだ。
(前言撤回!)
申し訳ない、なんて思わなくて良かったよっ!
な、なんてもの飲ませようとしてくれてたんだあの女官長!
「かっかっか。小童が昼間に嫦娥に会いに来ることを見越して飲ませておこうとしておったのじゃろー」
玉藻さんが笑う。
横で言葉を失っていた憂炎様が「あ、あの」と口を開く。
「厳重注意、しておきます。あのその、ほら、あの人、俺と嫦娥がね? もう、そのー、そういう関係だと思ってるからさぁ、だからさぁ……だと思うから」
目線がものすごく泳いでいる。
私が媚薬飲んじゃうとこだったかもしれないの、そんなに嫌なんだろうか。
いやまぁ、普通に考えたら嫌だよね。友達(?)がめろめろとろとろへろへろになったら。
「というか」
ふ、と息を吐いて憂炎様は落ち着いた声に戻る。
「そもそも勝手にそんなモノ飲ませようとしたこと自体が許せない」
「うーん、ごめんね、なの。ウチの母が」
私はきょとんと林杏を見つめた。
なんですって?
「媽媽?」
「うん」
さらり、と長い前髪が揺れた。
「ウチの媽媽が、いま女官長してる、んだよー……なの」
呆然とした私に、玉藻さんは可愛らしい前足を振って少し得意気。
「ほら、先のこと、あったろ? だから妾、そちの飲食物にはの、そこそこ気をつけておったのじゃよ」
「そうだったんですか」
私は半ばぽかんとしながら頭を下げた。
「ありがとうございます」
とりあえずお礼。色々混乱しているけれど……!
「うむ。苦しゅうない」
「苦しゅうない、はいいんだけれど」
憂炎様は少し低い声で言う。
「それってつまり、俺付きの女官、宮女の中に嫦娥を狙ってる誰かがいるってこと?」
もっと言えば、と憂炎様は言う。
「女官長が、嫦娥を狙っている、とでも」
「……そんな」
私は首を振った。
「考えられません、そんな。女官長さん、良い人ですし」
「良い人、良い人なぁ」
玉藻さんは鼻を鳴らした。
「やや独善的過ぎるかの? いや、やはり現実主義者なのやもしれぬ」
玉藻さんの言葉に、憂炎様は眉をひそめた。
「どういうこと、九尾。薬ってなにが入ってたの」
「ふーむ」
玉藻さんはちら、と私と憂炎様を交互に見遣った。
「そちは何故ここにいる」
「わ、私ですか」
首を傾げた。
なんで、でしょうか。
「俺がいて欲しいからだよ」
「憂炎様」
ふん、となぜか開き直ったように憂炎様は玉藻さんを見た。
「悪いか」
「ふん、ああ小童小童」
玉藻さんはそう言って楽しげに笑った後、続けた。
「いや、一般論じゃ、一般論。一般論として、妃は、後宮は何のためにあるのじゃ」
「……子供を成すため?」
「正解。あの水に入っておったのはじゃなぁ」
くっくっくと玉藻さんは笑った。
「醒要山にの」
「醒要山?」
ここ、蘇京の西にある険しい山だ。
「うむ。そこに、鷂という鳥がおってな。青い羽に赤い瞳と尾をしておる」
「……ああ」
先に答えたのは、林杏だった。
「そーゆーことかぁ」
「そーゆーことじゃ」
「どういうことか分かりません俺には」
「ふむ察しの悪い小童め」
じとりと睨みつけ憂炎様の視線を軽くいなし、玉藻さんは続けた。
「これの肉を煎じたモノをな、食すと」
「食すと?」
「妊娠やすくなるという」
げほっ、と吹き出したのは私が先だったか、憂炎様だったか。
「どういうこと!」
「どういうどういうと煩いのう小童。少しは自分で考えや小童」
「いや、だってほら、でもその」
憂炎様はアタフタと言葉を紡ぐ。ちらちらと私を真っ赤になりながら見遣る。
「でももクソもないわ。あの水には、それが溶かしてあった」
一杯だけだったところを見ると、それしか手に入らなんだであろうな、とは玉藻さん談。
どうやらかなりの珍奇品みたいだ。
……無駄にさせちゃったなぁ。いろんな意味で。
なんだか申し訳ないような。
「あの、それ、副作用みたいなのって」
「妊娠やすくなる以外にはないわ。以外には、な」
少し含みのある言い方に首を傾げた。
「あの、ねー。嫦娥」
林杏が口を開く。
「赤ちゃんできやすくなるっていうのはぁ」
「うん」
「えーと、うん、まぁ、あれ。要は媚薬なのね」
「びっ!?」
私はさすがに頬を赤らめるーー媚薬!?
「だから、効能は、うーんと。嫦娥がなんていうか、めろめろになるの」
「めろめろ!?」
「うん。めろめろとろとろへろへろ」
「ひゃーっ」
私は耳を塞いだ。
(前言撤回!)
申し訳ない、なんて思わなくて良かったよっ!
な、なんてもの飲ませようとしてくれてたんだあの女官長!
「かっかっか。小童が昼間に嫦娥に会いに来ることを見越して飲ませておこうとしておったのじゃろー」
玉藻さんが笑う。
横で言葉を失っていた憂炎様が「あ、あの」と口を開く。
「厳重注意、しておきます。あのその、ほら、あの人、俺と嫦娥がね? もう、そのー、そういう関係だと思ってるからさぁ、だからさぁ……だと思うから」
目線がものすごく泳いでいる。
私が媚薬飲んじゃうとこだったかもしれないの、そんなに嫌なんだろうか。
いやまぁ、普通に考えたら嫌だよね。友達(?)がめろめろとろとろへろへろになったら。
「というか」
ふ、と息を吐いて憂炎様は落ち着いた声に戻る。
「そもそも勝手にそんなモノ飲ませようとしたこと自体が許せない」
「うーん、ごめんね、なの。ウチの母が」
私はきょとんと林杏を見つめた。
なんですって?
「媽媽?」
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