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学
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「……でも、宮女さんとしての仕事ぶりは、問題ないんですよね?」
「それはもう」
憂炎様は頷く。
「どんなかたちであれ、宰相の家で雇われて働いていたんだから。儀礼も知り尽くしてる。相応の仕事はできるよ」
「では」
「まぁ、それぞれ見合った家で雇ってもらうのが1番だろうね」
憂炎様は肩をすくめた。
「けれど、問題はあの親子の元で働いていた、って事実だ」
「……」
「働き口が、あるかどうか」
私は頷く。それで、随分と経つのに宮廷内に留め置かれているんだろう。
(まぁ、どういう形でか取り調べもあったのだろうけれど)
やっぱりこの人は優しいんだ、と私は憂炎様の顔を伺い見た。
そうじゃなければ、あの宮女さんたちは、とっくの昔に放り出されてると思う。
喉を潰されて、話もできない。
なにも、伝えられないのに。
(……手話とか)
前世の記憶が浮かぶけれど、ほとんど知らない。いくつか、なんとなく知っている程度。
使えれば、それを教えさせてもらったのに……と、ふと気がつく。
「なんで思いつかなかったんだろう!」
思わず手を叩いて、憂炎様と林杏がびくりと肩を揺らした。玉藻さんが飛び起きる。
「なんじゃ!」
「な、なになの?」
「どうしたのなの、嫦娥」
私はにっこりと笑う。
「憂炎様、以前、欲しいものはないか、って仰ってましたね」
「うん」
「欲しいもの、できました」
「いいよ」
憂炎様は即答した。
「では」
私はじっと憂炎様の大きな目を見る。
「あの宮女さんたち、私付きにしてください」
「それはダメ」
即答だった。
すごくいい笑顔で却下された。
「なんで! さっきはいいって!」
「それはダメ、嫦娥。君は主筋の仇だと思われてるかもしれない」
「ええっでも、彼女たちは被害者で」
恨んでいこそすれ、あの親子を慕っていたなんて、あまり考えられないけれど。
「人間の感情なんて分からないよ? 嫦娥。それでも主として慕っていたかもしれない」
だからまた内廷で働いてもらうとかは絶対無理、と憂炎様は断言した。
「嫦娥に何か起きるかもしれない可能性は、でき得る限り排除しておきたい」
「……でしたら」
私は視線を上げた。
「せめて、文字を学ばせてあげてください。その間に、それぞれの身の振り方を考えさせてやってもらえませんか」
なにも伝えられないなんて、苦しすぎる。
私は憂炎様に頭を下げた。
ふ、と小さく笑う声に、顔を上げる。
「わかった。……いいよ」
「あ、ありがとうございます」
憂炎様の手を取り、もう一度頭を下げる。
「じゃあ教師なんかを考えなきゃねぇ……」
考える憂炎様に、林杏か手を上げた。
「妾、しようかぁ? 家に戻って、ひまー、だったから」
「それは有難いけど。でも、暇なら山に戻りなよ」
憂炎様は呆れたように言う。
「せっかく才能もあるんだろうに」
「でもー? 妾、あんまり信心ないし? それに易とか祓いとかねぇ~カラキシ、だったんだよねぇ~あは」
「? そうなの?」
つい、聞き返した。だってこの子は「才能がありすぎて」修行の最高峰である青龍山に入っていたと聞いたのに。
「妾の才能、呪に全振りなっちゃってて~」
あはは、と林杏は笑った。
「人を呪うしかできないの~」
「えげつないね」
憂炎様も笑顔でそう返す。
うーん、なんだかすごい才能の割り振られ方……。
(なんにもない私からすれば、羨ましくもあり、って感じではあるけれど)
とにかく、これで宮女さんたちは少しくらいは生きやすくなるんじゃないかな、と思う。
なってくれれば良いな、って願望がほとんどだとは、思うけれどね。
「……ふぁ」
膝の上で、ふと玉藻さんが欠伸した。そうださっき私の声で起きてーーって!
「こら、玉藻さん。さっき何でお水を頭で飛ばしたの?」
「ん? んー、親切じゃよ。親切」
「親切?」
首を傾げる私に、憂炎様が尋ねる。
「どうしたの? 水って、……ああ春水か。俺もさっき飲んだ。効くのかなアレ」
「女官長さんはまぁ縁起物だから飲んでおけって感じでしたよ」
「ああ、あの人はそんな感じだよね。現実主義者というか……」
「筋金入りの現実主義者、じゃな」
くくく、と玉藻さんは笑う。
「そうでなければ、あんなモノ水に混ぜ込まぬ、よ」
玉藻さんの言葉に、憂炎様の目がすっと細くなった。
「なに? どういうこと、聞かせて九尾」
「ふん、腹の立つ呼び方を、小童。まあ、教えてやらんでもないわ」
玉藻さんはふん、と鼻をひとつ、偉そうに鳴らしてから口を開いた。
「最初の杯には、とある薬が入っておったと、そう言っておるだけよ」
「それはもう」
憂炎様は頷く。
「どんなかたちであれ、宰相の家で雇われて働いていたんだから。儀礼も知り尽くしてる。相応の仕事はできるよ」
「では」
「まぁ、それぞれ見合った家で雇ってもらうのが1番だろうね」
憂炎様は肩をすくめた。
「けれど、問題はあの親子の元で働いていた、って事実だ」
「……」
「働き口が、あるかどうか」
私は頷く。それで、随分と経つのに宮廷内に留め置かれているんだろう。
(まぁ、どういう形でか取り調べもあったのだろうけれど)
やっぱりこの人は優しいんだ、と私は憂炎様の顔を伺い見た。
そうじゃなければ、あの宮女さんたちは、とっくの昔に放り出されてると思う。
喉を潰されて、話もできない。
なにも、伝えられないのに。
(……手話とか)
前世の記憶が浮かぶけれど、ほとんど知らない。いくつか、なんとなく知っている程度。
使えれば、それを教えさせてもらったのに……と、ふと気がつく。
「なんで思いつかなかったんだろう!」
思わず手を叩いて、憂炎様と林杏がびくりと肩を揺らした。玉藻さんが飛び起きる。
「なんじゃ!」
「な、なになの?」
「どうしたのなの、嫦娥」
私はにっこりと笑う。
「憂炎様、以前、欲しいものはないか、って仰ってましたね」
「うん」
「欲しいもの、できました」
「いいよ」
憂炎様は即答した。
「では」
私はじっと憂炎様の大きな目を見る。
「あの宮女さんたち、私付きにしてください」
「それはダメ」
即答だった。
すごくいい笑顔で却下された。
「なんで! さっきはいいって!」
「それはダメ、嫦娥。君は主筋の仇だと思われてるかもしれない」
「ええっでも、彼女たちは被害者で」
恨んでいこそすれ、あの親子を慕っていたなんて、あまり考えられないけれど。
「人間の感情なんて分からないよ? 嫦娥。それでも主として慕っていたかもしれない」
だからまた内廷で働いてもらうとかは絶対無理、と憂炎様は断言した。
「嫦娥に何か起きるかもしれない可能性は、でき得る限り排除しておきたい」
「……でしたら」
私は視線を上げた。
「せめて、文字を学ばせてあげてください。その間に、それぞれの身の振り方を考えさせてやってもらえませんか」
なにも伝えられないなんて、苦しすぎる。
私は憂炎様に頭を下げた。
ふ、と小さく笑う声に、顔を上げる。
「わかった。……いいよ」
「あ、ありがとうございます」
憂炎様の手を取り、もう一度頭を下げる。
「じゃあ教師なんかを考えなきゃねぇ……」
考える憂炎様に、林杏か手を上げた。
「妾、しようかぁ? 家に戻って、ひまー、だったから」
「それは有難いけど。でも、暇なら山に戻りなよ」
憂炎様は呆れたように言う。
「せっかく才能もあるんだろうに」
「でもー? 妾、あんまり信心ないし? それに易とか祓いとかねぇ~カラキシ、だったんだよねぇ~あは」
「? そうなの?」
つい、聞き返した。だってこの子は「才能がありすぎて」修行の最高峰である青龍山に入っていたと聞いたのに。
「妾の才能、呪に全振りなっちゃってて~」
あはは、と林杏は笑った。
「人を呪うしかできないの~」
「えげつないね」
憂炎様も笑顔でそう返す。
うーん、なんだかすごい才能の割り振られ方……。
(なんにもない私からすれば、羨ましくもあり、って感じではあるけれど)
とにかく、これで宮女さんたちは少しくらいは生きやすくなるんじゃないかな、と思う。
なってくれれば良いな、って願望がほとんどだとは、思うけれどね。
「……ふぁ」
膝の上で、ふと玉藻さんが欠伸した。そうださっき私の声で起きてーーって!
「こら、玉藻さん。さっき何でお水を頭で飛ばしたの?」
「ん? んー、親切じゃよ。親切」
「親切?」
首を傾げる私に、憂炎様が尋ねる。
「どうしたの? 水って、……ああ春水か。俺もさっき飲んだ。効くのかなアレ」
「女官長さんはまぁ縁起物だから飲んでおけって感じでしたよ」
「ああ、あの人はそんな感じだよね。現実主義者というか……」
「筋金入りの現実主義者、じゃな」
くくく、と玉藻さんは笑う。
「そうでなければ、あんなモノ水に混ぜ込まぬ、よ」
玉藻さんの言葉に、憂炎様の目がすっと細くなった。
「なに? どういうこと、聞かせて九尾」
「ふん、腹の立つ呼び方を、小童。まあ、教えてやらんでもないわ」
玉藻さんはふん、と鼻をひとつ、偉そうに鳴らしてから口を開いた。
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