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手紙

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アタシも食べる」
「どーぞ」

 干果ドライフルーツをすすめて、茶海ピッチャーから茶杯ゆのみにお茶を注ぐ。
 今日は茉莉花茶ジャスミンティー

「おいしー、なの」
「良かった」
「あさごはん~」
「ちゃんとしたの食べよ?」
「? 家でも妾はこんな感じ」

 きょとん、と林杏りんしん
 まぁ、糖分がとれるからいい、のかな……? どうなんだ。成長期にそれは。

「あ、そうそう……なの。浩然から」

 どーぞ、と割と大雑把に差し出されたそれを、私は丁寧に受け取った。

「ありがとう」

 えへへ、と嬉しくて笑う。
 最近、浩然と文通(?)しているのです。
 と言っても、まだ長い文章は書けないし読めないし、文法よく分からないし、短い文なんだけれど。
 実際、開いた手紙は「去年の夏に渭河いこうで遊んだの楽しかったね」みたいな、短い一文だ。

「文章の練習にいいんじゃない」

 一応憂炎様にも、許可はもらってる。なんか渋い顔してたけど……。

(まぁ、妃が他の男のひとと文のやりとり、って外聞が良くないよねぇ)

 でも林杏が間にいてくれるので、変な噂が立つこともない。
 そんなわけで、一緒に住んでる林杏が手紙を運んでくれてる。

(どんな風に暮らしてるのかな……)

 ちらりと林杏をみると、不思議そうに首を傾げた。
 さらりと揺れる髪の毛の隙間から、綺麗な金の瞳が覗く。

(綺麗なだよなあ)

 少し変わってるけど、頭も良い。もちろん文字だってスラスラ読めるし。
 ……浩然はしっかりしてるから、こういう娘と合うのかな、なんて、ちょっと思ったり思わなかったり。

「ふーん挑戦的」

 ふ、と背後から憂炎様の声。

「あれ? サボってるなの憂炎」
「少しだけ休憩! ほんとにもう」

 そう言いながら私の横にどかりと座る。憂炎様、私(膝には玉藻ぎょくそうさん)、林杏さん、の順でひとつの長椅子に……。
 狭くないですか?

「あの、椅子、持ってきましょうか?」
「ううんこれでいいよ」

 にっこりと微笑まれた。そうかなぁ。

「むしろこれがいいよ」
「そうですか?」

 狭いのがお好き?
 とりあえず憂炎様にもお茶を淹れた。

「……嫦娥じょうがが淹れてくれたお茶」
「や、茶海から注いだだけですが」

 正確には淹れてくれたのは宮女さん。

「いいの。俺が嬉しいからいいの」
「? ですか」

 ほこほこ嬉しそうだから、まぁそれはいいか。

「なにが挑戦的、なの? 憂炎」
「べっつにぃ?」
「手紙の文章、頭文字繋げたら去接你迎えに行くになるのがムカつくなの?」

 私は林杏の言葉に、まじまじと手紙をみつめた。本当だ。

(たまたま?)

 本当に?
 じっと手紙を見てる私に、憂炎様はなにも言わずに目を細めた。

「あのさ」

 憂炎様はゆったりと微笑む。

「相談してもいい?」
「え、あ、はい」

 変わった声の調子トーンに、私は手紙を畳んで円卓テーブルに置いた。

貴太妃きたいひの宮女たち問題なんだけど」

 はい、と私はうなずいた。
 喉を潰されて、意志の疎通もままならない宮女さんたち。

「どうしたものかなーと。ある意味被害者だし」
「まぁ……」

 彼女がそばに置いていたのは、いろいろ理由わけありの人ばかり、らしい。

(なにされても、実家に頼れないっていうか)

 そういうを集めて、騙してかどうなのか、喉を潰して声が出ないようにして。
 自分を裏切れないように、たとえ何を聞いてもされても、決して話せないように。

(……私だって、それほど、正義感があふれるって性格タイプじゃないけれど)

 それでも、彼女のやり方が間違ってることくらいは分かる。
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