前世記憶有少女中華(風)後宮奮闘記〜悪逆女帝にはなりたくない!〜

にしのムラサキ

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「なるほど、君が皇上おかみお気に入りの娘子だね」
「お気に入りと申しますか」

 私はできるだけ、毅然と胸を張る。
 自分はアナタと対等である、と態度にこめて。

「皇后ですので」
「……皇后、ねぇ」

 目の前にいる男、……成炎様は目を細めた。
 外廷の、執務室。
 本来なら憂炎様が座るその椅子に、私は腰掛けて、黒檀のテーブルのむこうにいる成炎様と対峙していた。
 そばには、磊と女官長さんが控えている。……磊がいるだけで、すこし緊張感が違った。ひとりだったら、とても耐えられてなかった。

(怖い)

 正直なところーーもちろん、それを顔にも態度にも出すわけにはいかない。

(舐められたら終わりだ)

 私には、皇后であるということしか、力はない。
 できるだけ毅然として。
 できるだけ、冷淡なように。
 そう見えるように、化粧メイクも衣装も選んでもらって、施してもらって。
 そんなことお見通し、って感じで私を少し楽しそうに見てる成炎様ーー年の頃、二十代後半のそのひとは、恐ろしいくらいに……憂炎様に似ていて。
 成長したら、こんな人なんだろう、そう思わせるくらいには。

(てことは、お二人とも先帝に似てらっしゃるのね)

 2人はお母様が違うから。

(けれどーー)

 私は内心、訝しむ。
 訝しんでしまう。

(本当に、噂の通りに残虐なかたなの?)

 醸し出す雰囲気も、穏やかな憂炎様そっくりで。……少し、泣きそうになってしまった。
 ぐ、と感情を引き締め直す。

「立后の触れは無かったようだけれど」
「内々には決定していたのです」

 つん、とおとがいを逸らす。できるだけ、冷ややかに。

「ふうん? 本当に?」
「で、なければ皇太后様が反対なされたでしょう」

 言いながら思う。……すっごいアッサリだった。
 憂炎様はいないけれど、でも立后して色んな権利を得たい、っていう真っ直ぐストレートなお願いに、皇太后様は「アラ頑張ってね」の一言で終わらせて、獅子狗シーズーの毛を櫛で梳かす作業に戻っていった。

(あの人は……)

 いや、人ではないのかもしれない。
 玉藻さんの言葉とかから、そう思うようになってきてる。
 玉藻さんは「肉体的には」人間だと、そう言っていたけれど……。

「胡北に、捜索隊を出したのだって?」
「ええ」

 もちろん、今までも全力で捜索していたようだけれど……追加で、部隊を出した。
 追加の部隊は、そんなに人数は多くない。けれど、磊と相談して、精鋭部隊を派遣した。

(どうか、見つかって……)

 せめて、手がかりだけでも。

「見つかるといいね」

 細められた目に、ぞくりと背中が粟立つ。……このひと?

(決め付けは良くない)

 先入観は、道を見誤るーーけれど。この人が「見つからなければいい」、そう思っていることだけは確実のようで。

「皇后陛下」

 ふ、と声がする。
 控えていた女官長さんだ。

「お時間にございます」
「そう」

 その言葉に、立ち上がる。
 ねっとりとした視線に包まれて、私は思わず変に振り向きかけた。

(……厭な視線、だ)

 だけれど、それは無視して。
 成炎様に、軽く礼を取って、執務室を出てーー後宮へ続く門を入ってすぐ、くらりと身体から力が抜けた。

「……っ、こ、怖かったぁあ」
「あらだらしがない、娘子。シャキッとなさい、シャキッと」
「はぁい」

 女官長さんに怒られながら、居室へやへ戻る。
 玉藻さんが眠たげに長椅子で微睡んでいるのを、羨ましく思いながら抱き上げた。

「……決めた。来世は獅子狗シーズーになる。可愛がられて暮らす。他は何もしたくない」

 くく、と玉藻さんが笑う。

「何も好き好んで毛玉にならずとも良かろうに……、ふぁあ」
「うう」

 やる事覚える事しなきゃいけない事が山積みで、寝不足で寝不足で仕方ない私からしたら、本当に羨ましいんだよ玉藻さぁん!
 ふ、と居室の扉を叩く音。

「どうぞ」
「娘子、お疲れ様でした」

 香桐さんが、冷たい果汁ジュース片手に長椅子にくたりとなってる私のところに駆けつけてくれた。

「どうぞ、甘いですよ」
「ありがとう~」

 瑠璃のグラスに入ってるそれ。玉藻さんと目を合わせてから、そうっと、ひとくち。

「わ、美味しい……」

 白いそれに、私は覚えがあった。前世の記憶で、だけれど。……椰子乳ココナッツミルク

「椰子にございます。鳳果様からの贈り物でございまして」
「あ、鳳果様」

 今からお会いする予定の、青龍山の沙門お坊さまの鳳果様。

「椰子なんて、珍しいものを」
「娘子を気遣われておられるのです」

 香桐さんが少し眉を寄せた。

「激務でらっしゃいます。もう少し、ご自分を気遣われては」
「ありがとう」

 私は薄く笑った。

「でも、今やらなきゃだから」

 憂炎様が帰ってこられるまで、ここを守り抜かなきゃいけない。
 私が崩れたら、一気に皇帝の位も、この後宮も……ヒトの命も、あの人のものになってしまう。
 ゾッとした。あの粘っこい視線。

(顔貌も、雰囲気も似てる……けど)

 私は玉藻さんを抱きしめながらおもう。あの視線だけは、絶対に違うーー。

(憂炎様と、似てなんかいない)
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感想 6

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みんなの感想(6件)

コモ
2020.05.31 コモ

大切に読み進めてきましたが、本日とうとう追い付いてしまいました(つД`)
憂炎様の事も気がかりなので、是非ぜひ続きをお待ちしています!

2020.06.06 にしのムラサキ

ありがとうございます!
改稿版を現在別サイトに投稿中でして、追いつき次第こちらの更新も始めますー!よろしくお願いいたします!

解除
TOOOM
2020.04.03 TOOOM

作品一気に読ませていただきましたー!
とても面白いです!シリアスな展開ですが、これからどう奮闘していくのか、そして2人の今後がとても楽しみです!
是非とも続きを読める日を楽しみにしています!

2020.04.12 にしのムラサキ

ありがとうございます!
そろそろ再開予定です、少々お待ちください!

解除
lemon
2020.02.02 lemon
ネタバレ含む
2020.02.02 にしのムラサキ

感想ご指摘ありがとうございます(o^^o)
わーアドバイスありがたいです……!ほんとに!
少しときめき要素?が足りないなぁとは私も。小話という形で(本編に影響ない程度に)途中途中に足そうと思います。足した分は近況になんというタイトルかお知らせしますので、また読んで頂けたら嬉しいです(о´∀`о)
奮闘に関してはここから考えてる部分がありますが、そこまでが冗長だと面白くないですよねー、申し訳ない……。
少し伏線足して不穏な感じ?とか出してみようかなと。
他にも何かあれば教えてください!
今後ともよろしくお願いします(*^^*)

解除

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