無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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序章・新たなる邂逅編

エピローグ:覚醒、自動人形

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 時は、ほとんどの者が寝静まった深夜に遡る。

 夜勤に追われるごく一部の人々を除き、ほとんどの人間は寝息をかいて夢の中にその身を投じていた。今日もいつもと同じ、何も変わらない夜が過ぎていくはずだった。

【補助パワーチャージ確認。システム再起動】

 場所は、人気が全くない南ヘルリオン山脈の麓。

 武市もののふしは山脈に囲まれた合衆国。都市は盆地にあり、夏場は高温多湿の熱帯気候となるが、都市から外れた山脈付近は、ほんの少し涼しい代わりに、身体能力の高い魔生物の巣窟である。討伐任務を帯びた任務請負人以外は決して近づくことはない。夜ならば尚更だ。

 太陽光から逃れるため、朝から昼にかけて不活化している夜行性の魔生物が目を覚まし、餌を求めて山中を彷徨い始める。当然、その餌というのは何も野生動物だけではない。人間も、漏れなくその対象なのだ。

 人類が住むのに適した環境を持つヒューマノリア大陸だが、だからといって脅威が何一つないわけではない。むしろ脅威は常に隣に潜んでいる。だが今日は、毛色の違う何かが、湿った土から姿を現した。

 大地より這い出てきたそれは、まるで墓から目覚めたアンデッドであった。体の所々は腐敗し、赤黒い中身が見え隠れしていて、歩き方もぎこちない。酷いところは虫に食われ、骨が見えてしまっていた。

 腐敗が激しいが、そのアンデッドらしきものは女性の姿をしていた。生前はさぞかし世界に名を轟かせた絶世の美女だったのだろうが、その美しさは欠片もない。左側の眼球は腐って朽ちており、右頬は崩れて口腔が透けて見えている。

 もはや見るからにゾンビとしか言いようのない姿だが、指が何本か朽ちてなくなった手で頭に触れたとき、ゾンビならば絶対にあるはずのないものが見え隠れしていた。

 頭髪は元々薄い黄緑色だったのだろうか。土に埋まっていた影響でぐしゃぐしゃになり、ほとんど頭皮ごとごっそり抜け落ちてしまっているが、その頭皮ごと抜け落ちてしまっている部位は頭蓋骨ではなく、金属が脳味噌を覆っていたのだ。

 ゾンビの頭蓋に金属などない。元が生き物なのだから、金属製の頭蓋骨などありえない。本来なら朽ちて中身が丸見えか、頭蓋骨か丸見えかのいずれかだが、何故か頭部だけ、腐敗をもろともしない金属製の頭蓋骨で完全に守られていたのだ。

 その場で石像のように静止し、朽ち果てた自分の身体を無表情で眺めた。

【スキャンディスク完了。メインフレーム損耗率二十五パーセント、正常起動確認、不良セクタなし、複数の身体機能プログラムの起動エラーを検出】

【フィジカルスキャン完了。肉体損耗率七十五パーセント。再生能力機能を起動、失敗。機能復元、失敗。身体機能プログラム起動エラー。再インストール申請】

【霊力機関``霊子化型永久霊力炉``の機能損耗率三十五パーセント。再生能力機能不全、身体損耗による出力維持困難、霊力出力を四十パーセント制限】

【超能力``混沌創生``使用不可。機能復元、失敗。事象操作プログラム起動エラー。再インストール申請】

【人格スキャン完了。記憶損耗率零パーセント、その内八十七パーセント、プロテクト済。解除中、失敗。中央処理装置``竜遺伝変異型移植改造脳殻``の損耗率十五パーセント、思考能力損耗予測、二十パーセント】

【全スキャン完了。総合能力損耗率八十五パーセント、メンテナンス可能拠点を検索中】

 足の筋肉のほとんどが朽ち果てているせいか、動きはとてもぎこちない。むしろ筋肉がほとんど損耗しているというのに何故歩けているのか、という疑問があるが、僅かに見える金属ワイヤーのようなものが、筋肉の代わりに足腰を支えている。

 女性型アンドロイドは辺りをしばらく見渡し、北東方面へ目を向けた。

【霊子コンピュータを一台検出。現在地より北東八百七十キロメト。現在の肉体損耗率から踏破可能確率を算出、二十二パーセント。方針変更、生体組織の交換を優先。最寄りの生命体``人類``を検索中】

 アンドロイドに残された右目の虹彩が、一瞬赤く光った。

 己が何者なのか、純粋に知ろうとしていたアンドロイドから一変、その眼からは言い知れない殺意が漂い、夜風が吹き抜ける山中の空気が張り詰める。朽ち果てた左目の眼窩から、歪な機械音が鳴った。

【半径一キロメトの範囲内に五十七人の生息確認。追加検索、年齢十六から十七、全能度適応可能な雌。八人検出】

 再び自分の体全体を見渡す。自分の身体が、今のスペックを維持して動くか。それを念入りに確かめるように。

【身体能力計測、対応可能範囲内。ターミネートモードへ移行】

 肉体を激しく損耗したアンドロイド。地中から這い出てきた彼女が、日の光を浴びる前にすることは、既に決していた。

 頭上に一瞬だけ魔法陣が現れるやいなや、空間から消滅する。沢山の星々が光り輝く夜空に吹く、静かな夜風の余韻を残して―――。
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