無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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覚醒自動人形編 上

プロローグ:出撃の狼煙

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 澄男すみおたちが破壊したロボットのパーツを拾い集めていた頃。

 彼らから約一キロメト離れたアパートの屋上、錆びた貯水槽の上に悠々と立つ女性は、まるで異なる皮膚同士を無理矢理縫合したように、歪な肌色を日に晒し、斜め下の沿線上をじっと見つめていた。

 彼女が見つめる先には澄男すみおたちがいた。だが彼らは彼女の存在に気づくことはない。澄男すみおたちの中でも飛び抜けた探知能力を持つむーちゃんでさえ、その存在を感じとれないほどに彼女の霊力は軽微に抑えられていたのだ。

 今の彼女が内包する体内霊力は、一般人と大差ない。

【身体能力スキャン。北支部主戦力と暫定。現在での勝率十五パーセント】

 地中から蘇ってまだ一日も経っていない。だが既に、中威区なかのいくに点在する戦力。そして一定の武力を持った組織を把握していた中威区なかのいくの東西南北それぞれにある任務請負機関直属の支部、北支部、南支部、東支部、西支部には、それぞれ一定の戦闘能力を持った人間が多数在籍していることを把握した。

 全体的な水準は低いが、各支部のトップに君臨する実力者は、上威区かみのいくに在籍する上位の戦闘能力保持者に見劣りしない。むしろ大幅に上回る個体も見受けられた。

 現在監視しているのは北支部に所属していると推測される者たちだが、彼らの全能度の平均は約八百五十五。対して現在の自分自身の全能度は、あまり芳しい状態ではない。

【現時点における全能度は六百二十。性能が不足しています】

【腐敗した肉体組織を除去、新たに採取した肉体組織との生体融合を実行中】

 本来であれば``霊子コンピュータ``と呼ばれるデバイスを用いてメンテナンスをしなければならないほどの損耗だが、霊子コンピュータはどうやら別位相の空間に隔離されている上に相手のセキュリティも厳重なため、今の肉体性能では干渉することすらできない。

 霊子コンピュータの主導権を奪うために所持者の拠点を占拠する必要があるが、ほとんどの肉体組織が腐敗して性能が著しく低下している今、厳重なセキュリティを掻い潜り、別位相に存在する空間にアクセスするのは自殺行為でしかない。

 脳殻にも破損していて処理能力も低下している。あまり無謀な行為は行えない今、情報収集と肉体組織の修復が最優先事項である。

【生体融合による肉体組織修復率、三十七パーセント。作業予想時間二十七時間】

 霊子コンピュータがあれば一瞬で終わる修復作業も、性能が低下したハードウェアで行うと途方もない時間がかかる。非効率的だ。

 生体融合による組織の修復は完全ではない。拠点への帰還が困難で、なおかつ肉体修復機能がなんらかの原因で機能停止状態に限った際、人間の肉体から体組織を採取して損耗部位に縫合することで、自分の肉体の一部とする簡易的な応急処置機能でしかない。

 肉体性能は若干回復するが、肉体自己修復機能には及ばない。寛解こそすれ完治することは決してないのだ。

 現状求められているのは肉体の自己修復機能の復元だが、その復元には壊れた脳殻の修復が必須で、脳殻の修復にはやはり霊子コンピュータによる正規のメンテナンスを要する。

 つまり、結局のところ寛解状態で霊子コンピュータの所に辿り着かねばならないのだ。

 生体融合による肉体修復は全快こそしないが、高機能を有する肉体組織の採取に成功すれば、正規メンテナンスには及ばないものの、性能の大幅向上が見込める。

 いま現時点で採取した肉体組織はどれも低質なものでしかないが、任務請負機関に属する高位の戦闘能力者から採取すれば、効率の良い生体融合がわずかながら見込めるだろう。

【全能度目標二千二百に設定。必要体組織が不足しています】

 任務請負機関に属する全ての知的生命体を相手取り、霊子コンピュータを有する拠点の制圧に必要な全能度にまで回復するのに必要な体組織は膨大だ。全能度一桁、二桁程度の知的生命体では、あまりに非効率的である。

【起動可能な全テスカトリポールを召喚中。命令コードを送信。目標、請負機関支部の制圧及び体組織の採取】

 本来ならば自分一人で出向きたかったがやむおえない。下位機種も腐敗が著しく本来の性能には程遠いが、Revision4に指揮権を委託させ、物量戦をしかければ支部程度は壊滅させられるだろう。

 各支部最強格には敵わないが、体組織を採取させた後、Revision4に渡すように仕向ければいい。Revision4ならば物質の転移程度簡単にこなせるはず。

 Revision3以下は肉壁にしてしまえばよい。どちらにせよ、支部の攻略で大半の機体は破壊される。

 重要なのは体組織の採取、命令系統を担うRevision4の保護。そして採取した体組織を確実に送り届けること。

 支部に属する知的生命体の体組織があれば、霊子コンピュータの拠点を制圧可能となる。最終目標は霊子コンピュータの制圧だ。

【こちらテスカトリポールRevision4起動。何なりとの命令を】

【こちらテスカトリポールRevision4起動。何なりとご命令を】

【こちらテスカトリポールRevision3起動。何なりとご命令を】

【こち、ら、てすくぁ、とりぽー……るりびじょんすりー。なんな、りとごめいれーいを】

【こちら……】

 命令コードを受信し、続々と起動する下位機種たち。

 我ら多機能型戦闘用アンドロイド―――テスカトリポールシリーズは上位機種からの命令には決して逆らえない。下位機種は上位機種の命令に絶対服従するよう、プログラムされているからだ。

 そのプログラムは、いかなる場合でも関係なく全ての命令コードを上書きできる超法規的特権の下に根付いている。

【戦闘能力を一定保持する機体、合計五千七百体もの起動を確認。全体の数パーセントも満たしておりません】

 五千七百体。``全盛期``の一パーセントにも満たない機体数。

 大半は朽ち果てて完全に機能停止しているようだ。確実性と能率が大幅に損なわれるが、やむおえない。

【Revision3以下の全機体に送信。Revision4の保護を最優先。Revision4は3以下の制御と体組織の採取に専念】

 下位機種たちの脳殻に端的な命令コードが刻まれる。

 テスカトリポールシリーズは、基本的に生存して拠点に帰還することを前提におくが、上位機種からの命令コード次第ではその限りではない。必要ならば自壊してでも作戦遂行を最優先せよと命令すれば、その通りに動いてくれる。

 現状下位機種も腐敗が進んでおり、どの機体も本来の性能には程遠い。先程性能試験で派遣させたRevision2は、測定時点で全能度五百後半。本来なら千七百以上はあるはずの機体だが、結果は見ての通りだ。

 戦力は元より不足。大半は朽ちて起動せず補填も効かない。だからといって潜伏しながらでは時間がかかりすぎて請負機関に露呈する。しかけるなら魔生物のスタンピートの対応にかかりっきりとなっているところで不意を打ち、一気に攻め立てるほかない。

 肉体組織の採取もいずれ警戒されて露悪する。その前に支部の一つを潰し、自分の状態を可能な限り最高品質にしておいた方が建設的だ。完全回復せずとも一定まで全能度が回復すれば、自分一人でどうとでもなるのだから。

【作戦準備完了。フラグシップ、テスカトリポールRevision5、出撃します】

 屋上にある貯水槽から人影が消えた。誰もその変化に気づく者はいないまま、ただ微風だけが吹き抜けるだけであった。
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