無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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抗争東支部編

戦前の祝杯

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 所変わって、東支部からさらに東。

 中小暴閥ぼうばつ自治区の中でも指折りの勢力を誇る中小暴閥ぼうばつ支配区域において、有数勢力を誇る暴閥ぼうばつ凪上なぎうえ家があった。

 今から四ヶ月前に執り行われた性奴隷競売会が正体不明の何者かによって破綻し、危うく家格を落としそうになっていたが、持ち前の兵力で反乱分子を次々に鎮圧。揺らぎかけた中威区なかのいくでの立場を再び盤石なものにした。

 彼らとて一枚岩の戦闘民族ではない。中威区なかのいく東部のほとんどを手中に収め、上威区かみのいくの支配権を有する上位暴閥ぼうばつともパイプを持つ、中威区なかのいく内では三本指を争う大暴閥ぼうばつである。

 大暴閥ぼうばつゆえにその邸宅も大きく、その敷地面積の広さと武家屋敷の荘厳さは、中威区なかのいく内での威勢を誇示するかのように、中威区なかのいく東部の夜景の中でも異様な存在感を放っていた。

 そんな凪上なぎうえ家の当主―――凪上なぎうえ雅和まさかずは、家臣たちを集め、全面畳敷き、豪華絢爛な壁画と装色に囲まれたその部屋で、酒を片手に夜な夜な密談を開いていた。

雅和まさかず様、いよいよですね」

「ああ。憎き東支部を遂に打倒できるのだ。奴らを消し去れば、この中威区なかのいく東部一帯の利権は我らのものよ」

 上機嫌に酒を煽る、上座にふんぞりかえっている短髪の男はタバコを一本カートンから引き出すと、左横隣にいた女中が火をつける。女中の服装は何故だか半裸であったが、それを気にする者は誰一人いない。

「思えば長き我慢の日々。仙獄觀音せんごくかんのんなる者が東支部に台頭し、我らの兵力は一時半分以下に下がりましたからな……」

「回復するにも時間がかかり、そうこうしているうちに東支部は体制を整えてしまったが……此度の戦に負けはあり得ぬ」

 雅和まさかずは寂れた服装のみを着た、半裸の女中を抱きしめた。

 女中の顔は強く引き攣っていたが、悲鳴一つ出すことはない。なされるがまま、一方的に抱きしめられるのみである。

「此度の戦、尊き``あの方``が後押ししてくれておる。今宵、十三万の手勢が集まったのも、``あの方``の賜物というものよ」

「まさに、私もそう思います。まさか、``あの方``が力を授けてくださるとは」

「``あの方``は我ら中小暴閥ぼうばつに光をもたらして下さった偉大なる御方。その恩、この戦で返さねばなるまい」

 雅和まさかずはのそりと立ち上がると、抱きしめていた女中を床へ投げ飛ばした。抵抗することなく「きゃあ!」と叫び床に叩きつけられた女中は、逃げようともせず、その場で身を小刻みに震わせて、雅和まさかずを見上げた。その表情は強く引き攣っている。

「東支部の連中はどうしている?」

「どうやら他支部から応援を要請した模様。``霊星``と``閃光``、``百足使い``が出動しているようです」

「ふん、護海竜愛ごうりゅうの腰抜けどもめ。どれも名の知れた厄介な連中だが、こちらには数の利もあるし、秘策もある。敗北はあり得ぬ」

「密偵として走らせたギャングスターの情報によりますと、どうやら我らの戦力を把握したようで、地下迷宮を造っているとの連絡も入っております」

「妥当であろうよ。十三万の数を捌くには、籠城するしかあるまい。イラ・バータリーの所業であろうが、その程度の戦略は既に折り込み済みよ」

 半裸の女中の服を破り捨てる。寂れつつも、自分の大事なところを隠していたボロの衣服を躊躇なく破り捨てられ「か、堪忍してくださいませ!」と泣き叫ぶ女中だったが、その声に耳を傾ける者は誰一人いない。

「迷宮は外からの攻めには確かに強い。こちらは十三万の手駒を控えさせているとはいえ、向こうも戦力を増強した今、外から攻め入り数で押し潰すのは困難であろう。しかし、内側から瓦解させればどうなると思う?」

「なるほど。既に忍ばせておられたのですね」

「``あの方``から拝領していただいた貴重な戦力よ。縦令たとい防衛に成功したとて、我らの目標は達成される。奴らが再び絶望に沈む顔が目に浮かぶわ」

「ならば栄誉を求め、我らの前に集まった手勢に感謝せねばなりませんな」

「褒美褒美と耳障りな連中だったが、望み通り戦が終われば、英兵として祀るくらいはしてやるさ」

 雅和まさかずは唇を吊り上げ、不気味な笑みを溢した。その目には光はなく、顔も醜悪に歪んでいる。もはや全裸に等しいあられもない姿を晒している女中を尻目に、雅和まさかずは身につけていた下着を脱ぎ去った。 

「今宵は勝利の前の祝杯といこう。お前もどうだ?」

「いえ。私は``おこぼれ``を頂戴する程度で十分でございます。何卒、英気を養いくださいませ」

「そうか? 良かろう良かろう、今宵の酒は妙に美味い。本来なら全て食い尽くしてやるところだが、特別だ。お前にも分けてやろうではないか」

「ありがたき幸せ。では、また後ほど」

 うむ、と家臣と思わしき男は無駄のない所作で部屋を去り、静かに戸を閉める。

 その夜、女中の悲鳴に似た喘ぎ声が日の出まで屋敷内に響いていたが、その声音に耳を傾ける者は、誰一人としていなかった。
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