無頼少年記 ~最強の戦闘民族の末裔、父親に植えつけられた神話のドラゴンをなんとかしたいので、冒険者ギルドに就職する~

ANGELUS

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抗争東支部編

戦前の早朝

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 朝。それは俺にとって最もやる気のない時間帯だ。

 眠気というのは抗い難いもので、はっきりと意識が覚醒するか、よっぽど腹が減っているか喉が渇いているか小便に行きたいかでもない限り、抗うのは不可能と言っていい。

 他の奴らはなんか気合で乗り切るらしいが、全くもって意味が分からない所業だ。人間の三大欲求の一つである``睡眠欲``に抗うなんて、アホなんじゃないかと思えてならない。

 空腹なのに飯を食わないなんて選択肢があるのかと問われれば、誰もが腹が減ったら当然の如く飯を食うように、眠気が治まるまで寝るのが一番体にも精神衛生的にも良いはずだ。

 いつもなら優しく起こしてくれるはずの御玲みれいがいるのだが、今回はむさくるしい奴が布団を引っぺがしてきやがった。

「おい。おい!」

「あぁ……? おぉい、調子乗ってんなよぉ……さみぃんだけどぉ?」

 布団を引っぺがされ、朝方の冷えた空気が肌を容赦なく舐めまわしてくる。いつもなら耐えられる程度の冷気だが、起きがけにこの冷たさはもはや不快な寒気に等しい。

「早く起きねぇか。寝てんのお前だけだぞ」

「うっせぇ、邪魔!!」

「おがっ!?」

 朝から不快感を与えてくるひんやりとした空気に、むさくるしい男が大声で躊躇なく体を叩いてくる不快感。二重に重ねられた不快感にただでさえか弱い堪忍袋の緒が耐えられるはずもない。気がつけば、布団から飛び出した足で奴の顔面を蹴り飛ばしていた。

 壁やらなにやら、色々なものがぶっ壊れる音が盛大に鳴り響く。割と手加減なしで蹴っちまったから部屋の壁を何枚かブチ抜いてしまったらしい。まあ俺の膂力りょりょくならそれくらい当たり前なので何ら不思議じゃない。

 永眠してないかなと一瞬考えたが、襲いかかる眠気が思考の邪魔をして、すぐにどうでもよくなってしまった。

「うぐぁ……!! いってぇ……!! マジいってぇ……コイツマジで蹴りやがって……もういいよ、だったら寝てろ全く……」

 どうやら生きていたようだ。二度寝をブチかまそうと再び引っぺがされた布団に再びくるまる。

 俺は自慢じゃないが小さい頃から寝起きはクソみたいに悪い。

 基本的に自然起床か御玲みれいみたく優しく起こしてもらうとかでもない限りは、眠気がなくなるまで布団から出ることができないのだ。

 正直ダメ人間だと思われるかもしれないが、思うなら好きにしたらいい。今の俺にとって眠ることが最優先事項であり、それ以外は蛇足だ。眠りの妨げになるものは全部ぶっ壊す。

「青タンできたし、一瞬とはいえ顎外れたし、歯何本か抜けたし……こりゃあとでむーさんに回復魔法かけてもらうか……」

「るせぇなぁ駄犬が……さっさと失せろ」

「はいはい、もうおこさねぇよ。俺飯食いに行ってくっから、後で腹減ったとか文句言うなよ」

 もう返事をするのも億劫だ。とりあえずテキトーに唸っておいてさっさとコイツを部屋から追い出そう。そしてもう一眠りするんだ。

 こうして俺は邪魔者をさっさと無視して、再び睡魔に身を委ねたのだった。 


 部屋を後にしたレクは右目と顎を押さえながら、口の中を泳ぐ鉄の味に不快感を露にしつつも食堂に向かうと、そこには既に別室で寝泊まりしていた御玲みれいとブルー、そして小型化した黒百足が席についていた。

 ブルーもレクが知る限りではかなり寝起きの悪い奴なのだが、まさかブルーすら凌ぐ寝起きの悪い新人がいるとは予想だにしてなかったなどと考えつつ、朝飯を食う二人の席へ近づいた。

「みぎめどしたん」

澄男すみおに顔面蹴られた……悪いが回復魔法をむーさんに頼めねぇか、歯茎も何ヶ所かイカれてて、このままじゃ飯が鉄の味しかしなくなる……」

「は? マジどしたん……?」

 ブルーの着ているポンチョの袖から這い出てきた小さな百足が、レクに向かって澄んだ緑色の魔法陣を展開させ、その魔法陣から発せられた光がレクを優しく包み込む。

 明らかに苦悶の表情をしていたレクだったが、次第に顔色は良くなっていく。

「あー……もしかして寝てる澄男すみおさまを起こしたりしました?」

 ブランチを上品に食べるメイド―――御玲みれいが口元に付いたソースを拭きながら、のほほんとした感じで問いかけてくる。

 治った体の具合を確かめながら御玲みれいに視線を合わせ、今朝被った被害を思い返し、ため息交じりに肩を竦めた。

「そりゃあもう朝だしな……一緒の部屋で寝てるし、起こしもするよ……」

澄男すみおさまを起こすにはコツがいるんです。まずはですね―――」

 ご飯を食べながら、澄男すみおの起こし方なるものをレクチャーしてもらった。これからも今回と似たような任務もあるかもしれないし、聞かないわけにもいかないので知識として覚えておいて損はないだろうという判断である。

 第一に、あの新人は原則、午前九時以降かつ自然起床以外では起きられない。

 目覚ましなどを設置しても翌日には粉々に破壊してしまうため全く意味をなさないからだが、それだと任務をこなせないので、御玲みれいはオリジナルの起こし方を発案したのだ。

 まず彼女は彼の寝起きの悪さに着目し、どういうアプローチで起こせばカチキレないかを数日にわたって試行錯誤を繰り返したらしい。

 もうこの時点で介護か何かかなと思ってしまったが、とりあえず口には出さないでおいた。

 寝起きの澄男すみおはとにかく機嫌が悪い。さっき顔面をダイレクトに蹴られたように、身体を叩いたり、大声で起こそうとしたり、況してや布団を勢い良く引っぺがそうものなら、ブチギレて手に負えなくなってしまうのだ。

 澄男すみおの母親からアドバイスを聞いたそうだが、幼少期の頃から家を何度か半壊させたことがあるほど、寝起きの澄男すみおの暴君っぷりは凄まじいものなのだそうな。

 流石に寝起きで家屋を半壊させられるのは勘弁願いたいし、もはやそこまでくると一種の災害だが、澄男すみお膂力りょりょくを考えると真面目に建物を粉砕しかねないため冗談だと笑って返せないのがこれまた厄介なところだ。

 今回は使ってこなかったが、もしあのとき煉旺焔星れんおうえんせいとかいう周囲全てを焼き尽くすあの火球を撃ってきていたら―――暴閥ぼうばつとギャングスターの連合軍に攻め入られる前に東支部が未曽有の大火災で焼失してしまっていたことだろう。

 そのため、起こすには優しく身体を揺さぶりながら、なるべく小声かつ優しい口調で「朝ですよー、おきてくださーい」と言い続けることで、少しずつ眠気を覚ますのが効果的であるらしい。

 当然すぐにはおきてくれないので根気強く、三十分ないし二十分続ければ、ゆっくりとだがむくりと起きてくれるとのことだ。

 澄男すみおたちは確か昼勤だったはずだが、毎日そんな重労働をしていたのかと、レクは御玲みれいの真面目さと根気強さに手を叩くほど感心したとともに、澄男すみおの株を大きく下げることにしたのだった。

「めんどくせー……なんだアイツ……」

「お前も人のこと言えんだろ……」

「あーしはまだおきれるほーだろ!!」

「いや自力で起きたことねぇだろ、毎回俺が起こしに行ってるの忘れてんのか……」 

 ぶー、と口を尖らせそっぽを向くブルー。

 ブルーも澄男すみおほどではないが中々に寝起きの悪い奴である。彼女の場合、機嫌が悪いというよりも、起こしにいくか金がなくならない限り永遠に寝続ける奴なので、放っておくと部屋の中が埃まみれになってしまう。

 かつて一週間ほど任務に忙しくて構っていられない時期があったのだが、その間ずっと風呂にも入らず、部屋の掃除もせず、飲まず食わずでずっと寝ていたせいで、本人と部屋の中が大変なことになってしまった。

 あのときは部屋の掃除と本人の掃除で一日を費やしてしまったが、ブルーは放っておくと本当に延々と寝続ける奴なので、カチキレる部分を除けば五十歩百歩なのである。

 澄男すみおを悪く言うなら、せめて自分で起きられるようになってから言ってほしい。

「まあいつか長期任務の機会があるときは、試してみるか……」

「ほ、本気ですか。かなり手間ですし、メイドの私がやりますけど……」

「いや、新人の面倒を見るのは請負人監督官の役目だからな。特に出来の悪い奴はちゃんとみなくちゃなんねぇ。責任問題になっちまうからな」

 あー、なるほど、とすんなりと納得してくれる。

 別に澄男すみおだから、という話ではない。請負人監督官とは、その支部の実権を握っているに等しく、その実権に見合った義務というものを背負っている。

 昇進するまでに新人をせめて人並みの請負人にしておかないと、本部から責任追及の通知が後々きて、処分の対象になってしまうのだ。

 澄男すみおの素行はお世辞にも良いとは言えない。むしろ極悪だ。あのまま昇進などさせてしまえば、澄男すみお自身も困るし、請負人監督官である自分も連帯責任を負わされる羽目になりかねない。

 彼のためでもあるが、凄まじい面倒を引き受けるのは、保身の意味も含まれているのである。

「たーへんだよねー」

「他人事みたいに言ってるが、お前も出来の悪い新人の一人であることを忘れるなよ」

「なんでだよ!! あーしけっこーやりてだろーが!!」

「そうだな、むーさんがいたらやり手だな」

「いちおーせかんだりーねーむどなのに……」

「そりゃあむーさん強えしなぁ……」

「もーグレてやる!!」

 はいはい、とぷんすかと怒るブルーの寝言を軽く受け流す。ブルーはヤケになったのか、目の前に置いてあった四人前くらいのサラダの山をドレッシングもつけずにドガ食いする。

「それはそうと話は変わりますが……作戦決行ですね」

 御玲みれいの一声で、食堂の雰囲気は一気に引き締まる。レクからも、そしてさっきまでぷんすかしていたブルーからも、表情からコミカルな雰囲気が一瞬にして消え失せた。

 自慢ではないが、北支部の最古参と言われるくらいにはベテランだ。ただ起きて呑気に朝食を食べているわけではない。朝ベッドから起きて窓を開け、街を軽く眺めただけで、昨日と街の雰囲気が違うことを悟っていた。

 既に出勤時間帯だというのに、街は異様なまでに静かだった。それは、武装した集団が近くに潜んでいて、殺気を感じ取った周辺住民が、家を締め切って立てこもっているからに他ならない。

 武市もののふし民の八割は戦闘民であり、殺気や血の匂いには敏感な者が多い。戦いに巻き込まれるわけにはいくまいと、自衛に入っている証拠である。

 間違いなく今日攻めてくる。朝起きがけに窓から街を眺めた時点で、そう予想していた。

「東支部の方々に伝えます?」

「いや、奴らも敵軍の気配には気づいてるはずだ。食ったら歯を磨いてさっさと執務室に行くぞ」

 ブルーと御玲みれいは真剣な面差しで首を縦に振る。

 よし、と朝食を食べ終えて勢いよく立ち上がったが、未だ客室で呑気に二度寝をかましている澄男すみおの存在を思い出し、一気に肩に重荷を背負わされる感覚に苛まれたのだった。


「腹減った……」

「もう……お弁当作ってきましたから、みんなが来るまでに食べてください」

 ようやく眠気から覚めた俺の視界に入ったのは、困り顔で俺を見つめる御玲みれいたちだった。やんわりとした眠気に苛まれつつも御玲みれいたちに執務室へ強制連行され、東支部の執務室のソファに座り、背伸びしながら欠伸をしているのが今だ。

 いつもなら御玲みれいがその間に服の準備やらなんやら、飯の準備やらを俺がリビングに来るタイミングを見計らって整えてくれるのだが、今回はその御玲みれいとは別室で、隣にいたのは金髪野郎だったから起こしてくれる奴がおらず、結局朝食を食い損ねてしまった。

 いつもと違う日常でどうしたもんかなと思いつつ、眠いし弁当食ったら三度寝でもするかと呑気に考えていたら、隣で金髪野郎が気持ち強めに肘で俺の肩を小突いてくる。

「おい新人。なんか俺に言うことあんじゃねぇの」

 不満気な表情で、ちらちらとこっちを見てくる金髪野郎。

 そんなこと言われても、特に俺から言うことは何もない。少しばかり考えたが、何も浮かばなかった。

「小首傾げてんじゃねぇよ、お前のせいで怪我したんだよ! むーさんに治してもらったけど!」

 金髪野郎が己の顔の右半分を指さす。

 そりゃ大変だ。一体何があったのだろうか。そういえば誰かに叩き起こされたとき、何か蹴ったような蹴らなかったような、朧げな記憶が残っているのだが、はっきりとは思い出せない。

「んぁー……まあ……良かったじゃん、治してもらって……」

「ちげぇよなんでだよ謝れよそこは!!」

「いやだって……記憶にねぇし……」

「えぇ……あんなにダイレクトに顔面蹴り飛ばしといて……?」

「いや知らんよ……どうせ寝ぼけてベッドの角に頭ぶつけたとかだろ……」

「お前に蹴られたんだよ!! 第一それなら話題にせんだろ!! 信じらんねぇな全く……」

 小首を傾げつつ、とりあえず御玲みれいが作ってくれた弁当にありつく。

 金髪野郎は不満で顔が歪んでいるが、見覚えのないことに頭を下げるなど俺のポリシーに反するので絶対しない。証拠があるなら別だが、証拠も何もないんじゃ謝る気にもなれないってもんだ。

 仮に俺が蹴ったのが本当だとしても寝ぼけていた以上、俺の記憶にはないし、やってないも同然である。

 面倒なので、とりあえず無視することにしよう。

 隣で御玲みれいの冷ややかな視線が痛いが、俺も男だ。譲れねぇプライドってもんがある。女には分からないかもしれないが。

「待たせたな、皆の者」

 弁当を半分食い終えた頃、真打は遅れてやってくると言わんばかりに仙獄觀音せんごくかんのん以下、護海竜愛ごうりゅうの五人が部屋に入ってきた。今から十三万の物量と殺り合うってのに、やたら落ち着いている。精神的な意味でも、戦いは慣れているということか。

「さて、戦いの前に軽く打ち合わせを済ませよう。だがその前に」

 護海竜愛ごうりゅうたちの視線が、全て俺に集約する。なんか知らんがガン飛ばされているので、しっかりと全員に飛ばし返す。

 そもそも弁当食っているだけでガン飛ばされる意味が分からない。まさかだが、弁当を食っちゃいけないとかいう意味不明なルールが存在しているとでもいうのだろうか。だとしたら頭がイカれているとしか思えないが。

「今から会議を始める。食事はお控え願いたい」

「別にいいだろ。食いながら聞くし」

「そういう問題ではない。第一、朝食を食べる時間はあったはずだろう」

「その時間寝てたからな」

「それは残念だ。とかく、会議中に食事は認められない。早急にしまっていただけないか」

 苛立たしげに頭を掻きむしる。ただ弁当食っているだけで、なんでこうも面倒な絡まれ方されなきゃならんのか。

 会議中に弁当を食べることの何が悪いのか。妨げになるとも思えんし、誰かが弁当を食べているからといって会議が進められないなんてこともないはずだ。なのになんで俺は今、女五人からガン飛ばされて弁当しまえとか言い詰められているのだろうか。

 意味がわからなすぎてまた腹が立ってきた。せっかく眠気が引いてきて虫の居所も良くなってきたってのに。

「おい新人、ここはしまっとけ」

 金髪野郎が耳打ちしてくる。御玲みれいも無言だが、そっと俺の左腕を掴んでいた。

 金髪野郎の言葉なんぞ知ったことじゃねぇが、俺がここでカチキレれば御玲みれいの負担になりうる。幸い、今の俺は腑が煮え繰り返るほど虫の居所が悪いってわけじゃあない。そもそも弁当がどうのこうのでカチキレるのも、よくよく考えれば狭量に思えてくるし、コイツらにそう思われるのもそれはそれで心外だ。

 仲間以外の奴らの言葉に従うなんざクソもいいところだが、ここは御玲みれいの負担を減らすって口実を盾に、自分を納得させることにしよう。

 しばらく金髪野郎と護海竜愛ごうりゅうにガンを飛ばしていたが、とりあえず圧力に負けて従ったフリをしておいた。

 本来なら全員まとめてブチのめしてやるところを命拾いしたなテメェらと心の中で毒づきつつ、全員が席に座るのを待つ。やはり上座に座るのは、東支部代表の仙獄觀音せんごくかんのんだ。

「では、戦前の会議を始める」

 厳かな号令とともに、長くなりそうな会議が始まった。

 戦い前というだけあって、その内容は手短だ。まず東支部全体に広大な霊壁が展開されており、外部からの侵入は人力ではできなくなっている。

 強度も申し分なく、強行突破するには地上目標を確実に殲滅する地対地ミサイル級の大規模魔法爆撃が必要らしい。パラライズ・ウィッパーとかいうレモン色の女曰く、相手にはそれだけの戦略兵器や魔導師は確保していないとのこと。

 つまり、戦いは自ずと籠城戦ということになる。

 また昨日話していた地下迷宮は既に再配置が完了しており、東支部全体が霊力のバリアで覆われている以上、敵軍は地下迷宮を通らなければ東支部を制圧できない。したがって地下迷宮の各所に護海竜愛ごうりゅうと俺たち、そして猫耳パーカーが戦力として配置されることになる。

「不死性の高い者とそうでない者で配置は異なる。天井の強度が違うから、間違えないようにして欲しい」

 エルシアが配置図を全員に配る。

 俺みたいな、致命傷を受けようが死ぬことがない奴は天井の強度をあえて脆く設定されている。おそらく敵が物量で攻めてきたところを、いざとなれば天井を崩落させて生き埋めにしてしまう戦術を取れるようにするためだ。

 相手は人間ゆえに生き埋めになればいずれ窒息して死ぬが、不死性の高い奴は土砂に埋もれても死ぬことはない。俺はモグラみたく自力で脱出できるから問題ないが、それができなくても戦いが終わった後に掘り返してもらえばいい話なので、どちらにせよ問題はない。

 一方、御玲みれいや金髪野郎みたいな、生半可なことでは死なないが致命傷を受けたら死ぬ連中は、生き埋めになれば敵軍と同じく窒息死するので、死なば諸共戦術は使えない。天井の強度は高く設定し、生半可な攻撃では崩落しないように厚く形成している。

 ただし御玲みれいたちの場合は物量を一人で捌き切る必要があるので、中々骨が折れる作業となる。もしも爆薬とか持っている奴がいたら、ソイツが武器を使う前に屠る必要が出てくる。

 ただ目の前の敵を無心で倒すのは自分の首を絞めうるから見極めが必要だ。

「また、戦いが始まれば各々所定の位置に攻めてきた敵を倒すことに執心することになる。援護は期待できないことを念頭においてくれ」

 エルシアの配置図を改めて見通しながら、全員を見渡してみる。俺以外の奴らも全員異議を唱える奴は一人もいなかった。俺も同じくである。

 迷宮内部は非常に入り組んでおり、まるでアリの巣の進化系みたいな構造をしている。あまりにも複雑すぎて常人の空間把握能力では、一度侵入すると迷路の如きその地形によって撤退はほぼ不可能と言っていい。

 そしてその入り組んだ構造の中に混ぜ込まれているかのように存在する、何ヶ所かのだだっ広い空間。それらこそ、俺たちが配置される空間だ。

 どの道を通っても最終的にはいずれかの空間に敵軍が行き着くようになっており、唯一の東支部との出入口はイラ・バータリーがいる最奥の空間のみとなっている。

 俺たちが配置された後は、どうやら出入口が塞がれるようで、同時に俺らも撤退や支援ができないことを意味する。作戦成功にはまず、押し寄せてくる物量を全員叩きのめす必要があるということだ。

 俺としては御玲みれいがクソ心配だが、相手の数が数。いざとなれば例外だが、基本的に持ち場を離れて御玲みれいを助けに行くのはできないとみて間違いないだろう。

 久三男くみお作の霊子通信で逐一安否確認することを考えたが、それだと万が一俺との会話に気を取られて御玲みれいに隙を作ってしまいかねない。御玲みれいの命は心配だけど、仲間として御玲みれいの危険に陥れるような真似はできないと、ここは御玲みれいの生存率に期待することにした。御玲みれいには託してばかりで嫌だけど、仕方ない。

「以上だ。既に敵軍は目と鼻の先に迫っている。全員所定の配置についてくれ」

 エルシアが立ち上がると同時に全員が立ち上がる。

 パラライズとかいう女の話によると、敵が地下迷宮付近に着くのは後一時間ぐらいらしい。敵も本気なのか、かなり展開が速いなと思いつつも、それだけ東支部をとっとと潰したいんだなという理屈でサクッと納得する。

 敵軍の事情としては、こっちの準備が整う前に物量で押し潰してしまいたいって腹だろう。単純明快すぎてアホでも思いつく作戦に見えるが、相手は十三万という馬鹿げた数だ。それが準備を整う前に、不意打ちに近い形で攻めてきたら、大概の場合はひとたまりもない。俺たちだから、どうということがないだけで。

 こうして俺、御玲みれい澄連すみれん、そして金髪野郎とポンチョ女。猫耳パーカーに護海竜愛ごうりゅうの面々と仙獄觀音せんごくかんのん。敵軍十三万に対して、立ち向かうは十三人と百足一匹。単位が全然違う中で、俺たちはイラ・バータリーとかいう奴が作った地下迷宮の決められた定位置についたのだった。
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